晴れた都市(脚本)
〇らせん階段
水止 ヨウ「・・・・・・」
水止 ヨウ「雨の匂いがする・・・」
水止 ヨウ「ん・・・あれ? 私、何してたんだっけ?」
水止 ヨウ「ここどこ?」
?「ここは渋谷ですよ」
水止 ヨウ「だ、誰ですか!?」
谷「すいません。 私は谷といいます」
谷「普段この辺りは誰もいないので気になって声をかけましたが・・・迷惑でしたか?」
水止 ヨウ「あっ、いえ。 えと、ちょっと道に迷ったみたいなんですけど」
水止 ヨウ「渋谷にこんな場所ありましたっけ?」
谷「・・・・・・・・・」
谷「上を見てください」
水止 ヨウ「上? ────えっ」
水止 ヨウ「階段の終わりが・・・・・・ない」
谷「ここは渋谷です」
谷「何重もの構造が無限遠点まで連なる塔。 それが渋谷です」
谷「あなたは、何のために渋谷へ来たのですか?」
水止 ヨウ「わ、わかりません・・・」
谷「だから、ここにいるのですね」
谷「であれば、登ってみるしかありません」
水止 ヨウ「登るって、何をですか?」
谷「もちろん、この渋谷をですよ」
〇ハチ公前
水止 ヨウ「あれ、外に出た?」
谷「いいえ、ここは塔の中ですよ」
水止 ヨウ「でもあれ、ハチ公ですよね。 雨も降ってるし・・・」
谷「そうですね、ここはハチ公の前です。 誰もが誰かを待つためにここにいます」
水止 ヨウ「雨の中、傘もささずに?」
谷「降っていますか、雨」
水止 ヨウ「え、はい」
谷「では、あなたは誰かを待ちに来たわけではない、ということです」
水止 ヨウ「そう、なんでしょうか」
谷「雨に濡れないうちに、また登りましょう」
〇らせん階段
水止 ヨウ「この階段、どこまで続いてるんですか?」
谷「続く先まで続いています」
水止 ヨウ「・・・・・・さっきの人たち、この塔の中で誰を待っているのでしょうか?」
谷「待つ、ということ自体が必要な人たちもいる、ということです」
水止 ヨウ「待つ、ですか」
谷「さて、そろそろ次の層です」
〇地下街
水止 ヨウ「ここはショッピングモール、ですよね」
谷「買える物なら大抵ここにあるでしょう」
谷「雨は降っていますか?」
水止 ヨウ「降ってます、室内なのに・・・」
谷「あなたの目的は、買い物でもないのですね」
水止 ヨウ「買い物に来たとしても、こんなに広いと惑わされちゃいますね」
谷「それも醍醐味の一つでは?」
水止 ヨウ「他により良いものがあるかもって考えると、何も買えなくなっちゃって」
谷「何かを選ぶことは何かを捨てること──とは、誰の言葉でしたかね」
谷「ともかく、次に行きましょう」
〇らせん階段
水止 ヨウ「この漂ってる光は、オーロラですか?」
谷「これは塔の狭間でしか漂えないものです」
水止 ヨウ「何が光ってるんでしょうか?」
谷「・・・人から発せられるもの、と言えるかもしれません」
水止 ヨウ「人から?」
谷「この光は、人から生じる希望や欲求から産まれています」
谷「人から生じた希望や欲求が摩擦を起こし、産まれた火花が漂うのです」
水止 ヨウ「人は強欲ってことですか?」
谷「いいえ。 希望の強さ、とも言えますから」
水止 ヨウ「強い希望、ですか」
谷「次の層に着きますよ」
谷「次の層は、特に強い希望で満ちています」
〇オフィスのフロア
水止 ヨウ「ここは、オフィス?」
谷「いわゆるベンチャー企業の集合体です」
谷「ここの誰かから次の時代を作る成功が産まれ、ここの多くから次の時代を作れなかった挫折が産まれます」
谷「未来を探す場所、と言えるかもしれません」
水止 ヨウ「必ず成功するわけじゃない、ですよね」
谷「もちろんです。 だからみんな、少しでも前へ進もうと奮闘するのです」
谷「それで。 雨は、降っていますか?」
水止 ヨウ「少し・・・弱まった気がします」
谷「それはよかった」
谷「次の層はこことよく関係するので、すぐそこです」
〇ナイトクラブ
水止 ヨウ「ここは?」
谷「ここは──展示場、とでも言えばいいでしょうか」
水止 ヨウ「・・・・・・雨、止みました」
谷「それはよかった」
谷「渋谷で産まれたすべての創作物が、ここに集まります」
谷「ここで多くの目に触れ、称賛や批判に晒されます」
水止 ヨウ「・・・作った物が叩かれる場所、ですか」
谷「そういう時もないわけではありません」
谷「作った物を衆目に晒すことが、恐ろしいですか?」
水止 ヨウ「・・・・・・はい」
水止 ヨウ「雨は止みました。 でも、色がないんです」
水止 ヨウ「それで、思い出しました」
水止 ヨウ「私は・・・私が創造する物に自信がなくなった」
水止 ヨウ「この配色は誤っていないか? この表現で誤解されないか?」
水止 ヨウ「この行動は見咎められないか? この意見は攻撃されないか?」
水止 ヨウ「私は──炎上しないか?」
水止 ヨウ「考えれば考えるほど、後戻りできない」
水止 ヨウ「思えば思うほど、やらない、という結論にしか辿り着けない」
水止 ヨウ「でも、それでは何にもならない」
水止 ヨウ「この塔を登るにつれ、そう思えてきました」
〇SHIBUYA SKY
水止 ヨウ「えっ!?」
谷「私は最初に、この塔は無限遠点まで続くと言いました」
谷「それは終わらないという意味ではなく、遠くで交わる、という意味です」
谷「その交点に、あなたは辿り着いた」
水止 ヨウ「でも私、まだ何かしたわけじゃ・・・」
谷「晴れていますか?」
水止 ヨウ「え、えぇ。 清々しいほどに」
谷「晴れた頂上へ至るだけの理由を得た、ということです」
谷「継続する忍耐、取捨選択の決断、成否への挑戦、批判に晒される覚悟」
谷「そして、火花を散らすほどの強い望み」
谷「前へ進むには、それで十分すぎる」
水止 ヨウ「・・・・・・」
谷「さらに勇気を得るためにここから飛び降りる、という提案もありますが──」
水止 ヨウ「それは無理ですっ!!」
谷「それなら、目を瞑るだけでいい」
谷「目を開けたら、あなたは見知った場所にいます」
谷「どうか、よい人生を」
水止 ヨウ「ま、待って──!!」
〇ハチ公前
水止 ヨウ「ハチ公だ・・・」
水止 ヨウ「そうだ。 私、友達の展覧会に行くんだった」
水止 ヨウ「成果を出す友達が羨ましくて、妬ましくて、それで──」
水止 ヨウ「・・・なんか、バカらしくなったな」
水止 ヨウ「目一杯羨ましがって、目一杯悔しがればいいや」
水止 ヨウ「それから自分もまた始めれば、いいや」
水止 ヨウ「もうこんな時間! 行かなきゃ!」
〇らせん階段
谷「発展途中のこの都市で、私にとっての無限遠点はまだ先」
谷「これからも見続けなければなりません」
谷「塔の長として」
なんだか考えさせられる物語でした。人を妬んで、逃げてしまうことってありますよね。逃げずに自分の感情と向き合うって大変だけど、自分が成長するためにはすごく大事なことなんじゃないかと思いました。
街も人も、成長するためには上を向いて歩み続けるしかないのでしょうね。クリエイターと渋谷の近似を確認できる、素敵な物語ですね。
人生もこんな螺旋階段のような感じもします。
渋谷問わず、自分の目的を見失いながら生きていくほど勿体ないことはないと改めて気付かさせていただきました!