1話(脚本)
〇汚い一人部屋
ゲーミングチェアを占有している一人の少女
少女に向かって男は片膝をついて物申す
鈴木「パンドラさん。この仕様書通りに薬を作って欲しいんです!」
パンドラ「・・・・・・」
鈴木「お願いします! 今日はパンドラさんの大好きなラーメンにしますからっ」
パンドラ「・・・・・・」
パンドラ「まったく、ぴーちくぱーちく五月蠅いのう鈴木よ。ワシがラーメンにつられるとでも?」
鈴木「いやぁまさかそんな事思ってるわけないじゃないですか」
鈴木(よっしゃー! てかやっぱり反応したよ。単純すぎるなこの子)
パンドラ「どれどれ仕方ない。またその珍妙な書物か」
パンドラ「ふむふむ・・・・・・」
パンドラ「あー、この前食べたスシといったか。それも追加なら考えよう」
鈴木「いやいやそれは無理ですって。いいですかパンドラさん」
鈴木「僕の言う事を聞いてくれれば、あなたはきっとこの国で自由に暮らせます!」
パンドラ「自由なぁ・・・ワシはアイリスヴァッハでも自由じゃったが?」
鈴木「えーっと・・・・・・ほら! その国にはない目新しい物が買い放題食べ放題、実験もし放題です!」
パンドラ「おお。それなら人間を買って人間を使った実」
鈴木「──言わせませんよ!」
鈴木「それはさすがに駄目です。というかあなたの国ではそれ・・・OKだったんですか?」
パンドラ「多分だめじゃろ」
鈴木「多分って・・・冗談でもそんな事言わないでください」
鈴木「ただでさえあなたは、僕の常識の範疇を超えてるんですから・・・・・・」
パンドラ「そりゃそうじゃ。国も学院も家族でさえもワシの面倒はみれんと見放しおったからな」
パンドラ「お前程度に扱えるわけなかろう?」
鈴木(またツッコミ辛い事を言うなぁ)
鈴木(パンドラさん。僕より明らかに子どもな見た目なのに・・・・・・)
鈴木(でもまぁ、この無駄に大きな態度の裏付けはもう出来てる)
鈴木「それでも薬は作ってもらいますよ。約束ですから」
鈴木「僕が世界一の配信者になって」
パンドラ「ワシがこの世に名を轟かせ、私腹を肥やし、最終的にすべてをわが物とする計画じゃな」
鈴木「いやいやそこまでは言ってないでしょ。いいですか?」
鈴木「僕の望みを叶えてくれたらお金が手に入る」
鈴木「お金が入ればこの狭い家も、設備も、食事ももっといい物に出来ます」
鈴木「でも今のままじゃあなたは生きていけない!」
パンドラ「うぐっ・・・」
鈴木「外に出たら捕まってしまうんです・・・だから協力しようって話だったじゃないですか?」
パンドラ「ワシの力をもってすればこの国の人間なぞ。消し炭」
鈴木「──だから物騒な話はやめてください! ここはあなたの国じゃないんですから」
パンドラ「はぁ・・・・・・わかっておるわ」
パンドラ「まったくお前は世間話の一つも出来んのか?」
鈴木「今は世間話より、人気配信者になる方が大事なんです!」
鈴木「だから・・・お願いします!!」
鈴木はそう言って土下座をする
パンドラはまんざらでもない様子で鈴木を見下ろしていた
〇汚い一人部屋
パンドラ「で今日はどんな薬を作る気なんじゃ?」
鈴木「それは・・・」
鈴木「ドラゴンブレスです!」
パンドラ「ほう、なんだそれは?」
鈴木「だからドラゴンブレスですって。RPGの世界ならいるでしょドラゴン?」
鈴木「ドラゴンってRPGの中では象徴とされるモンスターなんですけど」
鈴木「基本は敵で登場するんです。でも敵でありながらその存在に憧れる人は後を絶たない」
鈴木「ドラゴンブレス・・・それはドラゴンの口から出る力強い炎の息」
鈴木「何千何万の兵士が襲って来たって、ドラゴンの一息で一網打尽ですよ」
鈴木「はぁ・・・最高です」
パンドラ「いや、そんな魔物聞いたことないが」
鈴木「・・・はい?」
パンドラ「お前の言うそのドラ・・・ゴン? とやらはな」
鈴木「いやいやそんなだって僕がやってたゲームには確かにっ・・・それにパンドラさんあなたは」
パンドラ「──うだうだ五月蠅いぞ鈴木。要は炎が出せる薬が欲しいんじゃろ?」
鈴木「は・・・はい」
鈴木「材料は唐辛子50g、キムチ30g、七味20gにあとはカレー100gで考えてます」
パンドラ「ふむ・・・まぁよい。調達はお前に任せた。さっさと準備をせい」
鈴木「わかりました!」
パンドラ「相変わらず威勢だけはいいの・・・・・・」
〇黒
鈴木(僕は自分の仕様書を片手にスーパーに走った)
鈴木(材料はいつも通り少し多めに買って帰る)
鈴木(計算には自信がないけど、想像力なら自信がある)
鈴木(RPGは数十作以上プレイしてきたんだ)
鈴木(ドラゴンブレスはインパクトがとても強い)
鈴木(ゲーム実況主体の僕でもドラゴンの技が出せるなら、きっと注目される筈だ)
鈴木(今はいい意味でも悪い意味でも、インパクトを残せた人が生き残る世界)
鈴木(僕は無限の可能性を手に入れたんだ。きっと勝てる)
〇汚い一人部屋
鈴木「うおおおぉぉぉーーうぇーーーー」
その夜
パンドラは鈴木の材料を使い薬を完成させたが、その出来は散々だった
パンドラ「ふーむ。炎は出んか・・・おかしいのー?」
鈴木「いやパンドラさんこれ・・・ヤバいですよ。罰ゲームで出されたら、リアクションする前に卒倒するレベルです」
鈴木「辛さだけじゃくて苦味が凄くて。。近づけるだけで異臭で全身鳥肌が・・・・・・」
パンドラ「近づけるなバカ者。ワシは何があっても飲まんぞ。薬は飲まん!」
鈴木「うぅ・・・・・・あんたそれでどうやって薬作って来たんだよ」
パンドラ「しかしなぜじゃ・・・・・・わからん」
鈴木「それは・・・・・・まぁきっと僕の仕様書が良くなかったんですね」
鈴木「仕様は、プログラマーと何度もやり取りして作り上げていくんです」
パンドラ「鈴木・・・お前材料はどんな基準で選んだ?」
鈴木「辛い物を選んだんです」
鈴木「僕が炎を吐く事を想像したら、辛い物が浮かんで来たんです」
鈴木「作品ではよくあるんですよ。ほら、辛い物を食べると体温が上がるじゃないですか」
鈴木「そのイメージが膨らむと、みるみるうちに顔が赤くなって・・・」
鈴木「最後に炎を吐き出すんです!」
パンドラ「はぁ・・・分かっておらんな鈴木よ」
鈴木「えー仕様の方向性は合ってたと思ったんですけど」
パンドラ「しよう? だかなんだか知らんが、辛さでお前は炎を吐いた事はあるのか?」
鈴木「やだなぁ。そんな事あるわけないでしょ・・・でもほら、それはパンドラさんの力で」
パンドラ「──お前が作りたい薬はなんじゃ? もう一度言うてみい」
鈴木「炎を・・・吐ける薬です」
パンドラ「そうじゃ。炎には炎が起きる原理が存在する」
パンドラ「ワシの国にも炎魔術が得意な奴はごまんといた」
パンドラ「だが奴らは誰一人、炎をゼロから発生させる事は出来ない」
パンドラ「炎魔術の強さは、あらかじめある小さい火種をどれだけ大きく出来るかで決まるんじゃ」
鈴木「つまり最初から炎を発生させるものを使う必要があるってことですか!」
パンドラ「分かったならさっさと持って来んか!」
鈴木「はい!」
パンドラ「まったく・・・あいつはまだまだじゃな」
〇汚い一人部屋
鈴木「で・・・・・・これを僕が飲むと?」
パンドラ「うむ」
鈴木「ちょっと待ってください!」
鈴木「だってコレ灯油に! 着火剤に! 花火が入ってるんですよっ!!」
鈴木「飲んだら死んじゃいますって!」
パンドラ「お前・・・ワシが信用できないと? だから辛い食材ばかり選んだのか!」
鈴木「そ・・・それは、でも! さすがにこれはちょっと」
パンドラ「お前の野望の価値とやらはその程度か?」
パンドラ「鈴木よ。お前は死に対して臆病すぎるぞ」
鈴木「いやいやパンドラさん! 僕を殺す気じゃないですよね!?」
パンドラ「ワシはお前の覚悟を見ておるんじゃ」
パンドラ「だから死に際は潔く・・・な」
鈴木「──パンドラさん!」
パンドラ「冗談じゃ。だが決断にはそれ相応のリスクが必要になる・・・それはお前も分かってるはずじゃ」
鈴木「うっ・・・・・・」
鈴木(そう、僕はもう身をもって体験している)
鈴木(それにあの生活には二度と戻りたくない。だから・・・)
鈴木「ゲームの主人公っていつもこんな怖い思いをしてきたのか」
鈴木「まだまだ僕は想像力が足りないな」
鈴木「・・・・・・いただきます」
〇汚い一人部屋
その薬は一口飲めば常人に異能の力を宿す
それは治療薬にもなれば毒にもなる可能性の塊
だからこそ
彼女はここに召喚された
これは・・・人気配信者を目指す青年と最強の錬金術師が織り成す
ゲームのような不思議で幸福な日々の物語
パンドラさんの口調と容赦ない毒舌、クセになりますね。鈴木さんのヘタレ具合とのコンビネーションが最高です。配信者としての人気を爆発させる前に部屋を爆発させてどうするんですか…。目標達成まで前途多難な二人の試行錯誤の様子、見守っていきたいです。
2人の掛け合いが面白いです!2人とも欲や本音が剥き出しでww
この場面の前(召喚に至る経緯)や、これから2人が向かう方向など、興味をそそられる第1話ですね!