オズワルドの裁定

シュウ

最終話 アイザックの秘跡(脚本)

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〇コンピュータールーム
アメリア・コールマン「キャーッ!」
アメリア・コールマン「ちょっと! 話が違うじゃない!」
ブラッド・ラッセル「トラップが生きてるとは」
ブラッド・ラッセル「ロマン・・・だねェ」
アメリア・コールマン「呑気なこと言ってないで何とかしてよ!」
ブラッド・ラッセル「ワガママなお姫様だぜェ」
アメリア・コールマン「いたいっ!」

〇ダクト内
ブラッド・ラッセル「──よっと」
「ちょっと! 踏み台にしないでよ!」
「キャー! 水位が顔の高さまで!」
「早く引き上げてー!」
ブラッド・ラッセル「こんな時こそ淑女でありなァ、お姫様?」
ブラッド・ラッセル「あらよっと!」
  ん?
ブラッド・ラッセル「うおおおおおおおおっ!!」
ブラッド・ラッセル「短い付き合いだったな」
「薄情者ー!」
ブラッド・ラッセル「わかったよ、お嬢」
ブラッド・ラッセル「俺ァ、腹をくくった」
ブラッド・ラッセル「腕がもげても引き上げるッ!」
「貴方、覚悟しておきなさいよ!?」

〇謎の施設の中枢
アメリア・コールマン「これが──古代パラディス人の遺物」
ブラッド・ラッセル「こ、こいつは──!」
アメリア・コールマン「何!? お宝!?」
ブラッド・ラッセル「見ろよ、お嬢!」
ブラッド・ラッセル「おさかな!」
アメリア・コールマン「焼いて食べるわよ!?」
ブラッド・ラッセル「かわいいのに・・・」
アメリア・コールマン「貴方、何しに来たのよ!?」
ブラッド・ラッセル「ん~、宝探し?」
アメリア・コールマン「わかってるじゃない」
ブラッド・ラッセル「だがなァ──」
ブラッド・ラッセル「こりゃもう駄目だ」
ブラッド・ラッセル「回路がイカれてやがる」
ブラッド・ラッセル「ひと目でいいから拝んでおきたかったんだがなァ」
アメリア・コールマン「ガラクタなんて興味ないわ」
アメリア・コールマン「これだけの貴金属があれば」
アメリア・コールマン「一生遊んで暮らせるわ!」
ブラッド・ラッセル「ロマンがねェなァ」
アメリア・コールマン「女は現実に生きるものなのよ」
ブラッド・ラッセル「男とは生きる次元が違うねェ」
アメリア・コールマン「堅実なだけよ」

〇牢獄
  夢見がちなボスと違って、ね

〇刑務所の牢屋
ハロルド・ムーア少尉「スペンサー中将、お時間です」
ケイレブ・スペンサー中将「元、だ・・・嫌味な奴め」

〇薄暗い廊下
ハロルド・ムーア少尉「【アイゼイヤ】で記憶を植え付けたとして」
ハロルド・ムーア少尉「それは本物になり得るのでしょうか?」
ケイレブ・スペンサー中将「人形遊びと変わらぬ、と?」
ハロルド・ムーア少尉「恐れながら」
ケイレブ・スペンサー中将「肝が据わったな」
ケイレブ・スペンサー中将「それとも調教師の気分か?」
ハロルド・ムーア少尉「いえ──裏切られた気分です」
ケイレブ・スペンサー中将「愚かなことを」
ケイレブ・スペンサー中将「私は誰も信用していない」
ケイレブ・スペンサー中将「貴様も、あの男も、己でさえも」
ハロルド・ムーア少尉「ですが、遺物を信じておりました」
ケイレブ・スペンサー中将「信じていたわけではない」
ケイレブ・スペンサー中将「何も信じていなかったからこそ」
ケイレブ・スペンサー中将「何でもできた」
ケイレブ・スペンサー中将「欲望に忠実に生きられた」
ハロルド・ムーア少尉「私欲で軍を動かした挙げ句」
ハロルド・ムーア少尉「民間人に被害を及ぼしたことは 紛れもない事実」
ハロルド・ムーア少尉「日の目を見られるのはもうしばらく 先になるでしょう」
ケイレブ・スペンサー中将「構わん」
ケイレブ・スペンサー中将「夢も希望もない世界だ」
ケイレブ・スペンサー中将「思い残すことは──ない」
ハロルド・ムーア少尉「思い残すことがなくても未来はやって来ます」
ケイレブ・スペンサー中将「生きよ、と?」
ハロルド・ムーア少尉「貴方にはその責務があります」
ハロルド・ムーア少尉「生きることを諦めた人間は」
ハロルド・ムーア少尉「死んではならないのです」
ケイレブ・スペンサー中将「至言のつもりか?」
ハロルド・ムーア少尉「受け売りです」
ケイレブ・スペンサー中将「寒いな」
ケイレブ・スペンサー中将「そんなことを抜かす奴は──」

〇荒野
  きっと憎しみを知らぬのであろうな
霧生華清(きりゅうかせい)「っくしゅん!」
霧生華清(きりゅうかせい)「風が吹いてきましたね」
  ロブ・テイラー
  ここに眠る
霧生華清(きりゅうかせい)「ロブさん、今さらですが」
霧生華清(きりゅうかせい)「車を貸していただきありがとうございました」
霧生華清(きりゅうかせい)「壊してしまいましたので」
霧生華清(きりゅうかせい)「こちらでなんとか埋め合わせを」
霧生華清(きりゅうかせい)「こうして盃(さかずき)を交わせなかったこと」
霧生華清(きりゅうかせい)「後悔しています」
霧生華清(きりゅうかせい)「為すべきことに気を取られて」
霧生華清(きりゅうかせい)「大切なことを忘れていました」
霧生華清(きりゅうかせい)「今度は3人で思い出話に身を咲かせましょう」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんは嫌がるでしょうが」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん、は・・・」

〇牢獄
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・どうして、目が覚めないんですか?」
アドルフ・フォスター大佐「【ヒューゴ】は他人の記憶を持っている」
アドルフ・フォスター大佐「そいつを取り込めば脳は二人分の処理容量を必要とされる」
アドルフ・フォスター大佐「そいつが追いつかなけりゃ、新たな記憶の蓄積を拒絶するだろう」
霧生華清(きりゅうかせい)「記憶を整理するための昏睡・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「目覚めさせる方法はないんですか?」
アドルフ・フォスター大佐「【アイゼイヤ】さえあれば」
アドルフ・フォスター大佐「脳内の記憶と【ヒューゴ】の記憶を分離できる」
アドルフ・フォスター大佐「そうすりゃ脳への負荷を低減できるだろう」
霧生華清(きりゅうかせい)「【アイゼイヤ】はもうありません」
アドルフ・フォスター大佐「なら脳内の整理がつくまで辛抱するこった」
アドルフ・フォスター大佐「【ヒューゴ】で増えた分のスペースさえ 確保できれば」
アドルフ・フォスター大佐「意識を取り戻すかもしれねェ」
アドルフ・フォスター大佐「Mr.カーターの受け売りだがねェ」
霧生華清(きりゅうかせい)「かも、ですか」
アドルフ・フォスター大佐「【ヒューゴ】自体、未知の代物なんだ」
アドルフ・フォスター大佐「あとはアイツの根性次第だな」

〇西洋の街並み
ルディ・メイヤーズ医師「Mr.キリュー」
霧生華清(きりゅうかせい)「ドクター、ただいま戻りました」
ルディ・メイヤーズ医師「丁度良いところに」
霧生華清(きりゅうかせい)「何か用事でも?」
ルディ・メイヤーズ医師「Mr.フォスターが──目覚めました」
霧生華清(きりゅうかせい)「え──?」
ルディ・メイヤーズ医師「ですが──」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん!」
ルディ・メイヤーズ医師「Mr.キリュー!」

〇黒

〇田舎の病院の病室
霧生華清(きりゅうかせい)「──キースさんッ!」
キース・フォスター「あんたは・・・?」
霧生華清(きりゅうかせい)「目が、覚めたんですね」
キース・フォスター「ああ」
キース・フォスター「どうやら居眠りが過ぎたらしい」
霧生華清(きりゅうかせい)「具合はどうですか?」
キース・フォスター「そうだね」
キース・フォスター「少し身体が重いな」
霧生華清(きりゅうかせい)「仕方ないでしょう」
霧生華清(きりゅうかせい)「1年も寝たきりだったんですから」
キース・フォスター「1年・・・だと?」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい」
霧生華清(きりゅうかせい)「【マヤ】で倒れてから、ずっと」
キース・フォスター「【マヤ】?」
霧生華清(きりゅうかせい)「憶えて・・・ないですか?」
キース・フォスター「・・・ああ」
キース・フォスター「なあ」
キース・フォスター「あんたも──ここの先生か?」
霧生華清(きりゅうかせい)「え・・・?」

〇病院の診察室
ルディ・メイヤーズ医師「脳の負荷過多による記憶障害」
ルディ・メイヤーズ医師「解離性健忘の一種ですな」
霧生華清(きりゅうかせい)「やはり【ヒューゴ】の影響でしょうか?」
ルディ・メイヤーズ医師「何とも言えませんな」
ルディ・メイヤーズ医師「しかし、昨年検査した時には」
ルディ・メイヤーズ医師「大した負荷がかかっていなかったのも また事実」
ルディ・メイヤーズ医師「あの時、無理にでも入院させていれば──」
ルディ・メイヤーズ医師「申し訳ない」
霧生華清(きりゅうかせい)「ルディ先生が謝ることではありません!」
霧生華清(きりゅうかせい)「本人が選んだことです」
ルディ・メイヤーズ医師「Mr.キリュー」
霧生華清(きりゅうかせい)「記憶が戻る見込みはありますか?」
ルディ・メイヤーズ医師「記憶の引き出しが見つからないのではなく」
ルディ・メイヤーズ医師「引き出しの中身が溢れ出した状態です」
ルディ・メイヤーズ医師「失った記憶は──取り戻せないでしょうな」
霧生華清(きりゅうかせい)「そう・・・ですか」
霧生華清(きりゅうかせい)「わかりました」
霧生華清(きりゅうかせい)「まずはリハビリからでしょうか?」
ルディ・メイヤーズ医師「ええ」
ルディ・メイヤーズ医師「筋力が衰えていますから歩く訓練から 始めましょう」
ルディ・メイヤーズ医師「お願いできますかな?」
霧生華清(きりゅうかせい)「無論、いくらでも」

〇田舎の病院の病室
霧生華清(きりゅうかせい)「──というわけで」
霧生華清(きりゅうかせい)「今日からリハビリ担当になった霧生華清です」
霧生華清(きりゅうかせい)「介助も務めますので困ったことがあれば 何なりとお申し付けください」
キース・フォスター「世話になる」
霧生華清(きりゅうかせい)「まずは立ち上がる訓練から始めましょう」
キース・フォスター「ああ」
「いでででででででッ!!」
霧生華清(きりゅうかせい)「なんて、ひ弱な・・・」
キース・フォスター「スパルタが過ぎるぞ」
キース・フォスター「こちらは生まれたての子鹿なんだ」
キース・フォスター「優しく教えてもらいたいものだね──先生」
霧生華清(きりゅうかせい)「せん、せい・・・!?」
キース・フォスター「ん? どうかしたのかい?」
キース・フォスター「俺に歩き方を教えてくれるお医者様なんだろう?」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・ええ」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい、そうですね」
霧生華清(きりゅうかせい)「少し、気が急いていたかもしれません」
霧生華清(きりゅうかせい)「ゆっくりと、できることを増やしていきましょう」
霧生華清(きりゅうかせい)「そう、ゆっくりと」
「いでででででででッ!!」

〇田舎の病院の廊下
ルディ・メイヤーズ医師「おや、Mr.フォスター」
ルディ・メイヤーズ医師「一人で歩けるようになったのですな」
ルディ・メイヤーズ医師「経過がよろしいようで何より」
キース・フォスター「両先生のおかげさ」
ルディ・メイヤーズ医師「記憶のほうはどうですかな?」
キース・フォスター「残念ながらさっぱりだ」
キース・フォスター「親の顔すら思い出せない」
霧生華清(きりゅうかせい)「何か憶えていることはありますか?」
キース・フォスター「そうだね・・・」
キース・フォスター「思い出せるものはないが──」
キース・フォスター「あんたの顔を見ていると何故だか安心する」
キース・フォスター「俺は余程あんたの世話になったんだな」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分は、むしろ貴方に・・・」
ルディ・メイヤーズ医師「それは重畳」
ルディ・メイヤーズ医師「きっとMr.キリューが記憶を取り戻す『鍵』になりますな」
ルディ・メイヤーズ医師「ここでゆっくりと過ごすといいでしょう」
キース・フォスター「嬉しい申し出だが」
キース・フォスター「世話になるばかりじゃ申し訳ない」
キース・フォスター「何か手伝えることはあるかい?」
ルディ・メイヤーズ医師「それなら──」

〇西洋の街並み
キース・フォスター「ビート、キャロット、牛肉、ソーセージ」
キース・フォスター「今日はボルシチかね」
霧生華清(きりゅうかせい)「ついでにペチカの燃料も補充しましょう」
キース・フォスター「了解だ」

〇西洋の市場
霧生華清(きりゅうかせい)「こんにちは」
店主「お、キリュー先生!」
店主「この間は薪を運んでくれて助かったよ!」
霧生華清(きりゅうかせい)「困った時はお互いさまです」
霧生華清(きりゅうかせい)「身体が鈍っていましたので丁度良い運動になりました」
店主「先生は力持ちで頼りになるねぇ!」
霧生華清(きりゅうかせい)「鍛練の賜物です」
店主「お、そちらさんは──」
キース・フォスター「キース・フォスターだ」
キース・フォスター「先生のところで世話になっている」
店主「あんたが先生が言っていた人か!」
店主「こんな屈強なタフガイだったとはね!」
店主「ほら! 快気祝いだ! 持ってきな!」
霧生華清(きりゅうかせい)「そんな! お金を──」
店主「困った時はお互いさまなんだろう?」
店主「だったら、嬉しい時にも共有しないとね!」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・そうですね」
霧生華清(きりゅうかせい)「では、ありがたく頂きます」
キース・フォスター「恩に着るよ」
店主「そうだ、トゥゾーリから珍しい果物を 仕入れたんだ!」
店主「こいつも持っていってくれ!」
霧生華清(きりゅうかせい)「ありがとうございます」
  あいにく辛味も酸味も苦手で
キース・フォスター「すまないが、先生は酸っぱいものが苦手でね」
店主「お、そうだったのか」
店主「そいつは気づかなくてすまない」
店主「じゃあ、こっちを持って行ってくれ!」
キース・フォスター「恩に着るよ」
霧生華清(きりゅうかせい)(今のは・・・)

〇雪山の森の中
キース・フォスター「薪集めも・・・なかなか、骨が折れるね」
キース・フォスター「さすが先生だ、丸太を軽々と・・・!」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん、先ほどの発言は・・・?」
キース・フォスター「ん? ああ、何かが脳裏を過ってね」
キース・フォスター「余計な真似をしたかい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ、とんでもありません」
霧生華清(きりゅうかせい)「何か思い出しましたか?」
キース・フォスター「いや、それ以外はさっぱりだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「そう、ですか」
霧生華清(きりゅうかせい)「失礼しました」
霧生華清(きりゅうかせい)「薪はもう十分でしょう」
霧生華清(きりゅうかせい)「ルディ先生のもとへと戻りましょう」
キース・フォスター「ああ」
キース・フォスター「・・・なぁ、先生」
キース・フォスター「ずっと気になっていたんだが──」
霧生華清(きりゅうかせい)「腕のことですか?」
キース・フォスター「察しが良くて助かる」
霧生華清(きりゅうかせい)「視線には気づいていましたから」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・腕は交換条件に差し出しました」
キース・フォスター「物騒だね」
キース・フォスター「東洋では『オトシマエ』として」
キース・フォスター「指を詰めるって聞いたことがあるが」
キース・フォスター「本当だったとは」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ、自分は──」
霧生華清(きりゅうかせい)「腕よりも大切なものを選び取っただけです」
キース・フォスター「そうか」
キース・フォスター「腕を犠牲にしてまで成し遂げたんだ」
キース・フォスター「きっと報われるだろう」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい、きっと──」

〇田舎の病院の廊下
ルディ・メイヤーズ医師「二人とも、おかえり」
ルディ・メイヤーズ医師「外の空気はどうでしたかな?」
キース・フォスター「生きている実感が湧いてきたよ」
キース・フォスター「連れ出してくれた先生方に感謝だね」
ルディ・メイヤーズ医師「こちらこそ、ありがとうございました」
キース・フォスター「なに、これしきのことお安い御用さ」
キース・フォスター「ときに先生」
キース・フォスター「俺の治療費のことなんだが──」
ルディ・メイヤーズ医師「心配無用です」
キース・フォスター「いや、そういうわけにはいかない」
キース・フォスター「病院だって慈善事業じゃない」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ、キースさんの治療費は国が支払います」
キース・フォスター「国が・・・!?」
ルディ・メイヤーズ医師「ええ」
ルディ・メイヤーズ医師「ですから好きなだけここにいるといいでしょう」
ルディ・メイヤーズ医師「私としても、助手が増えてくれるのは とても嬉しい」
キース・フォスター「助手、ね」
キース・フォスター「それなら、もう少し厄介になろうかね」

〇雪洞
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん、こんなところにいたんですか」
キース・フォスター「ああ、先生か」
キース・フォスター「すまない、少し歩きたくなってね」
霧生華清(きりゅうかせい)「今度から遠慮なく声をかけてください」
霧生華清(きりゅうかせい)「まだ本調子ではないんですから」
キース・フォスター「そうさせてもらうよ」
キース・フォスター「こんなところに雪洞があったんだな」
霧生華清(きりゅうかせい)「ヒュプノス雪洞」
霧生華清(きりゅうかせい)「今は立ち入り禁止区域になっています」
キース・フォスター「今は、ね」
キース・フォスター「何か事故でもあったのかい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「1年前、『人災』があったんです」
霧生華清(きりゅうかせい)「そのせいで内部は崩れ、危険区域に指定されました」
キース・フォスター「1年前、か」
キース・フォスター「なぁ、俺は一体何を仕出かしちまったんだ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「仕出かす、とは?」
キース・フォスター「ごまかさなくていい」
キース・フォスター「何故、国が治療費を補填するのか」
キース・フォスター「何故、こんな極寒の地で療養するのか」
キース・フォスター「そして何故、あんたが俺に付きっきりになっているのか」
キース・フォスター「見たところ、あんたはこの国の人間じゃない」
キース・フォスター「答えは──俺が何か仕出かしちまったからだろう?」
キース・フォスター「俺は悪人で、あんたは監視役」
キース・フォスター「違うかい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「違います」
霧生華清(きりゅうかせい)「もう二度と、そんなこと言わないでください」
キース・フォスター「すまない」
キース・フォスター「礼を欠いちまったみたいだ」
キース・フォスター「イヤだね、知らない自分がいるってのは」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・キースさんは、記憶を取り戻したいですか?」
キース・フォスター「そうだね」
キース・フォスター「正直のところ不安な気持ちはあるんだが──」
キース・フォスター「何故かな、思い出すことを躊躇う俺がいる」
キース・フォスター「だから、悪いことを仕出かしちまったと 勘繰っちまったワケさ」
霧生華清(きりゅうかせい)「躊躇い、ですか」
キース・フォスター「あんたはどうだい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分?」
キース・フォスター「ああ」
キース・フォスター「俺の監視役じゃないってことは」
キース・フォスター「俺たちは以前から親交があったんだろう?」
キース・フォスター「思い出してもらいたいかい?」
キース・フォスター「思い出を、さ」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分は・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「辛いことなら、忘れていたほうが幸せなんじゃないか、と思います」
キース・フォスター「違うよ、先生」
霧生華清(きりゅうかせい)「え?」
キース・フォスター「俺はね、あんたの気持ちを訊いているんだよ」
キース・フォスター「思い出を共有したいか」
キース・フォスター「そいつを、さ」
霧生華清(きりゅうかせい)「思い出・・・」
キース・フォスター「お医者の先生はあんたが『鍵』になると 言った」
キース・フォスター「だから、俺はあんたに委ねるよ」
「これから先のことを──」

〇田舎の病院の病室
キース・フォスター「世話になった」
ルディ・メイヤーズ医師「もっとゆっくりしていても良かったのですが」
キース・フォスター「あいにくジッとしているのは柄じゃなくてね」
ルディ・メイヤーズ医師「近くに来た時には寄ってください」
キース・フォスター「お、もてなしてくれるのかい?」
ルディ・メイヤーズ医師「精密検査をしましょう」
キース・フォスター「先生らしいよ」
キース・フォスター「なぁ、先生」
キース・フォスター「あんたはこの先どうするんだ?」
キース・フォスター「国に帰るのかい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ、自分は──」
霧生華清(きりゅうかせい)「パラディス島を巡るつもりです」
キース・フォスター「ほう、そいつはイイね」
キース・フォスター「エスコートしようか?」
キース・フォスター「恩返しに、さ」
霧生華清(きりゅうかせい)「ありがとうございます」
霧生華清(きりゅうかせい)「ですが、気持ちだけ受け取っておきます」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんはこれから忙しくなるでしょうし」
キース・フォスター「つれないね」
キース・フォスター「島巡りは恋人と、って?」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ、そういうわけでは・・・」
キース・フォスター「独り身同士、気楽でいいだろう?」
キース・フォスター「こんな状況じゃなきゃ島なんて回れないしね」
霧生華清(きりゅうかせい)「ですが──」
キース・フォスター「何度も言わせないでくれ」
キース・フォスター「俺はね、先生」
キース・フォスター「ひとりは不安だ、って言っているんだよ」
キース・フォスター「記憶もなければ、家族もやって来ない」
キース・フォスター「家は教えてもらったが」
キース・フォスター「『トレジャーハンター』なんてピンとこない」
キース・フォスター「片田舎で農園を営むほうが肌に合っていると思うのさ」
霧生華清(きりゅうかせい)「農園・・・」
キース・フォスター「俺は過去を失った」
キース・フォスター「だが──未来はある」
キース・フォスター「そいつをあんたと探しに行きたいのさ」
キース・フォスター「ダメかな?」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・いえ」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分も、貴方と一緒に巡りたい」
キース・フォスター「決まりだね」

〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
キース・フォスター「さて、まずはどこへ行こうか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「アーチェに行きましょう」
キース・フォスター「俺の故郷だった場所、か」
キース・フォスター「興味深いね、決まりだ」
キース・フォスター「イイところに来たね」
キース・フォスター「乗ろう」

〇走る列車
キース・フォスター「悩み事かい?」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい」
霧生華清(きりゅうかせい)「この1年、自分はキースさんが目覚めるのを待っていました」
霧生華清(きりゅうかせい)「ですが、いざ目覚めたというのに」
霧生華清(きりゅうかせい)「素直に喜べないんです」
キース・フォスター「俺に記憶が無かったから?」
霧生華清(きりゅうかせい)「貴方が──全て失ってしまったから」
霧生華清(きりゅうかせい)「これから先、記憶を失ったことで」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんは大変な思いをするでしょう」
霧生華清(きりゅうかせい)「なのに記憶を取り戻してほしいと思えない」
霧生華清(きりゅうかせい)「辛い記憶を、乗り越えたはずの出来事を」
霧生華清(きりゅうかせい)「再び味わってしまうから」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分はもう二度と貴方が苦しむ姿を見たくない」
キース・フォスター「そいつがあんたの気持ち、か」
キース・フォスター「損な性格してるよ、先生」
キース・フォスター「そんな先生にはとっておきの話を聞かせよう」
霧生華清(きりゅうかせい)「とっておきの話、ですか?」
キース・フォスター「ああ」
キース・フォスター「とは言え、夢物語みたいなものなんだが」
キース・フォスター「不意によぎるんだ」
キース・フォスター「覚えのない記憶が」
霧生華清(きりゅうかせい)「どんな話なんですか?」
キース・フォスター「おとぎ話だよ」
キース・フォスター「超古代文明の遺物を巡る冒険譚」
キース・フォスター「あんたによく似た人物も出てくる」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分によく似た・・・」
霧生華清(きりゅうかせい)「それは・・・楽しいお話ですか?」
キース・フォスター「いや、楽しいばかりじゃない」
キース・フォスター「辛いことや悲しいことも起きる」
霧生華清(きりゅうかせい)「そう・・・ですか」
キース・フォスター「だがね」
キース・フォスター「──イイ話だ」
キース・フォスター「俺の『標(しるべ)』になってくれた」
キース・フォスター「先生も気に入ると思うよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「それは・・・楽しみです」
霧生華清(きりゅうかせい)「ぜひ聞かせてください」
キース・フォスター「はいよ」

〇黒
  さて、どこから話そうか
  全てはあの男の依頼から始まったんだ

〇白
  過去を取り戻してほしい──ってな

次のエピソード:番外編③ キースの遺志

コメント

  • 第一話から古き良きトレジャーハント&バディーモノ、詩的な台詞回しと作り込まれた世界観に引き込まれてここまで読んできました
    キャラクター一人一人の過去や心情など本当に実在していたのではないかと思うほどで、夢中になりました
    キースとキリューは今後も困難が待ち受けているでしょうが、この二人なら大丈夫だろうと希望を持てる最終話でした☺️

  • シュウさん、完結おつかれ様でした!
    私が「オズワルドの裁定」にハマったキッカケはキースの会話が好きだったからです。最終話までいつもクールなキースと熱いキリューの喜怒哀楽全てが詰まった冒険に加え、二人の友情が素敵でした🥹
    主人公だけでなくケイレブやアドルフ一人一人の苦悩も細かく書かれ世界観が増して楽しめました!毎回地図を見せてくれる優しさもありがたかったです。素敵な作品ありがとうございました😊

  • 完結おめでとうございます🎉(番外編がまだありますが、物語はここで閉幕とありましたので)
    自作立ち絵のメイン二人を含め素敵なキャラクターたち、重厚な冒険物語やアクションの演出、個人的にはセリフ回しがカッコいいなと、一番好きでした👍
    孤独な二人が数々の試練を経てバディになり、最後まで読み応え抜群で楽しく拝読させていただきました✨

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