voice【4】感情パニック! 私と役とマリオネット(脚本)
〇説明会場(モニター無し)
小鳥遊 真緒「なーんかわざとらしいんだよね」
〇女性の部屋
──時は少し前に戻る
15歳の少女と18歳の青年。
二人ははじめての恋に落ちる。
石動 凛子「ここのアクセントは・・・」
石動 凛子「感情は・・・こうかな? 書いておこう」
石動 凛子「出会って間もない私が、あなたを想うのは変かしら?」
石動 凛子「私にとってあなたはそれだけ特別な人」
〇小劇場の舞台
ローズマリー「出会って間もない私が、あなたを想うのは変かしら?」
ローズマリー「私にとってあなたはそれだけ特別な人」
「あぁ、会いたいな。 どうしてあなたじゃないとダメなのだろう」
ブラック「あぁ、なんて愛らしい娘なんだ。 まるで救済の天使のように美しい」
ブラック「この呪わしい我が身を忘れてしまうほどに、君を思うと心が踊ってしまう」
ブラック「ただ・・・会いたい」
ローズマリー「ブラック様!」
ブラック「ローズマリー!」
ローズマリー「あぁ、どうして・・・。 ここはあなたにとって危険な場所だというのに」
ブラック「世界がこんなに光り輝いていたなんて知らなかった」
ローズマリー「この手はあなたと重ねるためにあるのです」
ブラック「・・・敵対する我らが種族。 君はその高貴な身分を捨てるのか?」
ローズマリー「あなたとなら地平線のその先までも輝く日々を送れるでしょう」
ローズマリー「私はもう、あなたの妻なのですから」
ブラック「行こう、誰も知らない世界へ」
〇黒背景
〇小劇場の舞台
〇女性の部屋
石動 凛子「・・・悲しい結末ね」
石動 凛子(私はローズマリー)
〇黒背景
〇説明会場(モニター無し)
石動 凛子「出会って間もない私が、あなたを想うのは変かしら?」
石動 凛子「私にとってあなたはそれだけ特別な人」
石動 凛子「あぁ、会いたいな。 どうしてあなたじゃないとダメなのだろう」
近藤 悠太「あぁ、なんて愛らしい娘なんだ。 まるで救済の天使のように美しい」
近藤 悠太「この呪わしい我が身を忘れてしまうほどに、君を思うと心が踊ってしまう」
近藤 悠太「ただ・・・会いたい」
小鳥遊 真緒「どうしてそういう演技になったの?」
石動 凛子「え?」
小鳥遊 真緒「結末が悲劇だから? イメージが悲しいものと思った?」
石動 凛子「とても・・・苦しい恋愛だと思いました。 許されない恋で・・・」
小鳥遊 真緒「それは観てる側の解釈であり、この役にとって悲劇の恋だったのかしら?」
小鳥遊 真緒「なーんかわざとらしいんだよね」
小鳥遊 真緒「近藤くんは全然愛情が伝わってこない」
小鳥遊 真緒「ローズマリーを愛してるのに、そんな険しい顔してたらむしろバチバチよ」
小鳥遊 真緒「あとセリフ待ちしないで。 セリフがなくてもそこは舞台なんだから」
石動 凛子「・・・はい」
〇配信部屋
こいなり きょうこ「『今日も声に恋して』 現役声優でボイストレーナー・こいなり きょうこです!」
こいなり きょうこ「本日のテーマはこちら」
こいなり きょうこ「台本を見たとき、感情がぶわっと動くポイントが・・・」
こいなり きょうこ「というわけで、今回は台本を読む時のテクニックをお伝えしました!」
こいなり きょうこ「それでは皆さんの声優人生がより良いものでありますように」
こいなり きょうこ「『今日も声に恋して』 こいなり きょうこでした!」
〇女性の部屋
石動 凛子「・・・初見で読んだときと、何度も読んだときだと、読み方が変わる」
石動 凛子(どうしてだろう)
石動 凛子(セリフを読めば読むほど私が消えていく。 録音して聞けば良くなっていくのもわかる)
(なのに感情が・・・)
そこに私はいない。
〇仮想空間
サーシャ(石動 凛子)「1位・・・。 ありがたい、ありがたいけど・・・」
サーシャ(石動 凛子)(もし私が少しでも・・・)
アナスタシア「サー・・・シャッ!!」
アナスタシア「ボイス聞いたから来ちゃった」
サーシャ(石動 凛子)「アナって本当に私のこと好きだよね」
アナスタシア「うん、好きだよ」
サーシャ(石動 凛子)「き、君のハートにロイヤルストレートフラッシュ?」
アナスタシア「それだよ、それ。 サーシャの愛に貫かれる」
サーシャ(石動 凛子)「・・・サーシャは、生きてるんだね」
アナスタシア「どういうことー?」
サーシャ(石動 凛子)「役になるってどういうことなんだろうね」
サーシャ(石動 凛子)「私は役の気持ちがわからない。 びっくりするくらい感情移入出来ないの」
アナスタシア「どうして? だってサーシャが原稿読んでくれるとキャラクターが生まれるよ」
サーシャ(石動 凛子)「それは・・・」
サーシャ(石動 凛子)(それは私の気持ちであって、キャラクターの言葉じゃない)
アナスタシア「サーシャは役に憑依したいの?」
サーシャ(石動 凛子)「え?」
アナスタシア「役に触れる。 サーシャと役が一つになって生きたキャラクターになるんじゃないの?」
サーシャ(石動 凛子)「・・・」
アナスタシア「サーシャは真面目だよ。 良くも悪くもね」
サーシャ(石動 凛子)「当たり前のことを・・・」
アナスタシア「たしかにサーシャの成長は感じる。 でもつまらない読みをするくらいなら読まないで」
サーシャ(石動 凛子)「アナッ・・・!!」
まもりん☆両声類「サーシャさんだああ!!」
サーシャ(石動 凛子)「ほあっ!?」
まもりん☆両声類「はじめましてー! 最近、登録した新人ボイスアクターのまもりんです!!」
サーシャ(石動 凛子)「ま、まもりん!?」
まもりん☆両声類「ボクも声優目指してて、 このボイス帝国に声優目指してるランキング覇者がいると聞き登録しましたー!!」
サーシャ(石動 凛子)「そんな大層なものでは・・・」
まもりん☆両声類「事実! サーシャさんは1位に君臨!」
まもりん☆両声類「サーシャさんのお声、 とても凛としてて、色気もあり素敵です!」
サーシャ(石動 凛子)「ありがとう・・・えっと。 ごめんなさい、私まだあなたのボイス聞いたことなくて」
まもりん☆両声類「大丈夫ですっ☆ これからバリバリ活動していくので!」
サーシャ(石動 凛子)「そっか、よろしくね!」
まもりん☆両声類「サーシャさんの出せる声とは違いますが、 僕にも得意なキャラクターはあるんで」
サーシャ(石動 凛子)「声?」
まもりん☆両声類「僕は両声類ボイスでやってます。 どっちの声も出せるんで」
サーシャ(石動 凛子)「声、変えてるの?」
まもりん☆両声類「役によってですかね。 やっぱり得意キャラは作っておいた方がいいですから!」
まもりん☆両声類「えーっ!? サーシャさん!?」
まもりん☆両声類「あれぇ?」
サーシャ(石動 凛子)「キャラクターによって出る声って違う? たしかに老人と若い子では声が・・・」
サーシャ(石動 凛子)「ローズマリーは・・・私よりもずっと若い女の子なんだ!!」
〇説明会場(モニター無し)
廻 心春「出会って間もない私が、あなたを想うのは変かしら?」
廻 心春「私にとってあなたはそれだけ特別な人」
廻 心春「あぁ、会いたいな。 どうしてあなたじゃないとダメなのだろう」
九条 大志「あぁ、なんて愛らししし・・・娘なんだ。 まるで救しゃいの天使のように美しい」
九条 大志「この呪わしい我が身を忘れてしゅまうほどに、君を思うと心が踊ってしゃう」
九条 大志「ただ・・・会いたい」
小鳥遊 真緒「最後、どうして泣くことにしたの?」
廻 心春「ブラック様を想うと感情が溢れて、 涙になってこぼれました」
小鳥遊 真緒「原作読んでその解釈?」
廻 心春「・・・原作に泣くとはありません。 でも、女の子って感情が溢れると涙になるから」
廻 心春「泣くのがいいかなと判断しました」
小鳥遊 真緒「・・・そっか」
小鳥遊 真緒「九条さんは・・・滑舌だね。 練習してる?」
九条 大志「は、はい。 でも箸を使ったトレーニングとかしてますが」
九条 大志「どうしても言葉がつつ、詰まったり。 特定の行が難しかったりします」
小鳥遊 真緒「そっかー。 悩ましいね。あとで少し話そうか」
九条 大志「はい!!」
石動 凛子(感情が溢れている。 大人は抑えるばかりで、キラキラさは失われていく)
小鳥遊 真緒「じゃあ次、石動さんと・・・宇野さんで」
石動 凛子「はいっ!!」
石動 凛子「よろしくお願いします」
宇野 聖羅「ょ・・・しくお願ぃしますぅ・・・」
石動 凛子(声ちっさ!? 何故!?)
石動 凛子(私は”ローズマリー” 恋したばかりの15歳の少女)
石動 凛子「出会って間もない私が、あなたを想うのは変かしら?」
石動 凛子「私にとってあなたはそれだけ特別な人」
「あぁ、会いたいな。 どうしてあなたじゃないとダメなのだろう」
宇野 聖羅「あぁ、なんて愛らしい娘なんだ。 まるで救済の天使のように美しい──」
小鳥遊 真緒「宇野さんは前に出るとなんでそんな声が小さくなるの?」
宇野 聖羅「き、緊張して」
小鳥遊 真緒「普段とのギャップがねぇ。 あ、そうだ」
小鳥遊 真緒「宇野さんの好きな声優の●●さん、 今度新作アニメの主役なんだってね」
宇野 聖羅「そうなんですよ、●●さんはイマジネーション・アイドルの●●役と、銃刀革命ミラの●●役が有名なんですけどー」
宇野 聖羅「あー、もうやばいんですよ! ●●さんは人生の推し! 結婚したい!」
小鳥遊 真緒「舞台でもそれくらいは出そうね」
小鳥遊 真緒「で、石動さんはー」
小鳥遊 真緒「声、作らないで」
石動 凛子「・・・声を?」
小鳥遊 真緒「わかるのよ。 作った声っていうのは」
小鳥遊 真緒「みんな声優は声を変えられる人が演技してるって思ってるけど、違うからね」
小鳥遊 真緒「とにかく、作らないで。 わざとらしい演技に見えるから」
「ありがとうございました!!」
石動 凛子(声を・・・作ってた? そんなつもりはなかったのに)
石動 凛子(ローズマリーは15歳の少女。 ローズマリーになろうとしてあの演技になった)
石動 凛子「だってローズマリーははじめての恋に浮かれてる。結末は悲劇だけど、ローズマリーはブラック様と愛し合えて幸せだったはず・・・」
石動 凛子「私は・・・その喜びと浮かれを表現したにすぎない。ローズマリーの気持ちを考えて・・・」
石動 凛子(これは・・・なに? 私は、ローズマリーとは・・・)
分かり合えない?
私はローズマリーにはなれない。
演じることの難しさが伝わってきます💦
これを乗り越えた上位数パーセントと思うと、本当に厳しい世界なんですね。
技法があってそれを真似ると自分が失われていくような感じはありますね。自分を出し過ぎると、自分が動かしたい為に、キャラクターを行動させたり、セリフを言わせたりとさせてしまう……
キャラクターがどう生き、どう感じているかをありありと思い浮かべ、自分という出力装置を使用して、キャラクターを表現していく。ここには通ずるモノがあるのかなと思います。
演技の世界の奥深さ厳しさを感じる話しでした。
今回のお話、役者のみならず絵画・造形など様々な分野に共通するエッセンスが込められているなーと感じました😀
凛子さん、頑張って😊