ハートに火をつけて(脚本)
〇森の中の小屋
遠藤「う~ん」
遠藤「む~ん」
白柳「どうだ?上手くいきそうか?」
白柳「振り回すんじゃないぞ。ちゃんと板に押し付けて、グリグリ~っとだな」
白柳「知らんけど」
遠藤「ちょっと黙ってて下さい。集中してるんで」
遠藤「もっとこう、ドリル感だして擦ってみます」
遠藤「むむむ~」
遠藤「むむむむむ~」
遠藤「・・・よし」
遠藤「できない!」
白柳「胸張って言う台詞か」
遠藤「だって火おこしなんてした事ないし・・・」
白柳「いいか遠藤。よく聞け」
白柳「人類がマッチなるものを発明したのはいつだと思う?」
遠藤「は?」
白柳「1800年代だ」
遠藤「それが何か?」
白柳「1800年代になるまで人類はマッチを必要としてなかった。これが意味する所を考えてみろ」
遠藤「・・・?」
白柳「わざわざ労力を使って発火機など発明せずとも人々は容易に火を起こせていたんだ」
白柳「発火が人類の生活、いや文明の進化に必要不可欠な行為でありながら、何故その装置を18世紀近くまで開発しなかったか」
白柳「『火を起こす能力』それは地球に済む人間全てに備わっていたスキルだったんだよ」
白柳「火打ち石、いや木切れ程度で十分人は炎を我が手中に収められたんだ」
白柳「だが!」
白柳「発火機の発明によってわずか100年の間に人々はみずから火を起こす能力を失ってしまったという!」
白柳「全人類、老若男女誰しもが身に着けていたはずの力を現在は一人として行使しない。いや、出来ない!」
白柳「これを退化と言わずして何と言おう!」
白柳「さあ遠藤!失われし力を取り戻せ!」
白柳「お前なら出来る!お前が人であるならば!」
白柳「・・・そうだろ?ヒーロー!」
遠藤「し、白柳さんだって・・・」
白柳「あ、俺は今無理だから。手が痛い」
白柳「畜生。昨日、深爪しなければ・・・」
遠藤「もういいぜ」
〇劇場の舞台
「どうもありがとうございました」
遠藤「じゃねーよ」
〇森の中の小屋
遠藤「ところで春菜さんは?」
白柳「疲れて寝ちまったよ。それが何?」
遠藤「いや、二人とも中々小屋から出てこなかったから」
白柳「だから?」
白柳「それってお前が心配すること?」
遠藤「・・・」
遠藤「いえ。すいません」
白柳「でも考えてみりゃ無理だよな~、火おこしなんて」
遠藤「もうフィクションですよねフィクション」
白柳「腹、ヤバイな」
遠藤「ヤバイですね」
遠藤「釣りとかできます?罠でも可」
白柳「出来る訳ないじゃん。魚串刺しにしたり、豚回転させたり」
白柳「フィクションだよ。漫画とかアニメの世界だよ」
遠藤「ああいうの、炭にもならず上手く焼けますよね」
白柳「火、見た事あるみたいな言い方だな」
遠藤「・・・」
白柳「え?見たことあるの?火!」
遠藤「ちょ、ちょっとだけですよ!子供のころにちょっとだけ!」
〇タワーマンション
忠彦「・・・」
消防用特殊車両「下がりなさい!火を見てはいけません!」
消防用特殊車両「繰り返します!火を見てはいけません! 下がりなさい!下がりなさい!」
〇黒
『2×××年・禁炎法成立』
〇森の中の小屋
白柳「ど、どうだった?」
遠藤「どうって?」
白柳「やっぱ、禁断って感じ?」
白柳「法律で禁止されたくらいだからさ」
白柳「火が、人間の心を凶暴にする。個人による火の発生を禁止すれば犯罪の5割から7割強の抑止に繋がる」
白柳「国連発表。小6、世界史」
遠藤「まあ、偉い人の考えた事なんて分からないですけど。僕の場合は・・・」
〇炎
〇森の中の小屋
遠藤「・・・」
遠藤「ははっ。なんてことなかったです」
遠藤「テレビとか映画で見るCGと同じですね。赤くて。煙出てて。あと・・・」
遠藤「・・・」
遠藤「それだけです」
白柳「そういうもんか。つまんねえな」
白柳「あ~寒いな~」
遠藤「山の風ってこんなに冷たいんですね~」
白柳「誰だハイキングなんて行こうって言ったのは俺かそりゃすまなかったな」
遠藤「いえ、大丈夫です」
白柳「しかし、いよいよヤバくなってきたな~。本格的に日が暮れるぞ」
白柳「救助隊、暗くなるまでに到着するかな?」
遠藤「小型化、ドローン文化も良し悪しですね」
白柳「通信と安否確認が出来りゃ、万事先送りときた」
遠藤「どこもかしこも人手不足なんですよ。いつからでしょうね?『少々お待ちください』が挨拶代わりになったの」
白柳「知るか」
遠藤「・・・あの」
白柳「何だ?」
遠藤「驚かないで下さいね」
白柳「だから何?」
白柳「え・・・遠藤君。それって・・・」
遠藤「白柳さ~~~ん!マッチで~~~~~す!」
白柳「キャーーーーー!マッチーーーーーーー!」
白柳「って、発火機の携帯は犯罪だぞ!どこで手に入れたんだ?こえーよ」
遠藤「祖父の形見です。もう湿気てるんで骨董品扱いなんです」
白柳「なんだ。期待させやがって」
「・・・」
白柳「火って。赤くて煙出て。あと何だっけ」
遠藤「熱い」
白柳「だよな」
白柳「その形見・・・使っちゃまずいよね」
遠藤「湿気てるんで」
白柳「そうじゃなくて。思い出的な方向で。大事にしたいだろ?」
遠藤「いえ。そういうのは特に・・・」
白柳「じゃあ・・・」
白柳「誰にも言わないからさ。使わない?マジで寒いんだよ」
遠藤「いいですけど。湿気てますよ」
白柳「擦るだけ擦ってみれば。一本だけ」
遠藤「じゃあ」
「・・・!」
〇炎
遠藤「うわあああああ!ついたあああああ!」
白柳「どうにかしろどうにかしろどうにかしろ!」
〇森の中の小屋
遠藤「ひゃあっ!」
白柳「放り投げるな!」
白柳「消せ―っ!吹けーっ!仰げーっ!」
遠藤「うおおおおおおお!」
遠藤「燃え広がったあああああああああああ!」
白柳「なんでだあああああああああああああ!」
遠藤「風、ダメなんじゃないですか?」
白柳「みたいだな」
〇空
『現在先進国の8割が禁炎法を施行しておりその全ての国に凶悪犯罪の減少が見られている』
『この国の大半の人間もまた一度も火に触れること無く、一生を送る』
『国際社会の流れに乗り制定された法律だが犯罪の低下と禁炎法の因果関係は未だ議論の余地が残されている』
〇森の中の小屋
白柳「・・・」
白柳「すげえな」
白柳「全然違うよ。テレビとも動画とも映画とも」
白柳「これが、火ってヤツか」
遠藤「そんなに凄いですかね?」
白柳「・・・」
白柳「まあ、お前は一回見てるからな」
白柳「何て事ないよな~冷静さアピールってか?」
白柳「カ~ッコイイ♪」
遠藤「べ、別にそういうつもりは・・・」
白柳「でもヤバいよ、火。あったかいし」
遠藤「暖房とかもあったかいじゃないですか」
白柳「こうヒリヒリくる感じ。わかんね?」
遠藤「そうですかね?」
白柳「わかんねーか。ま、若いもんね」
遠藤「別に感じ方って、年関係なくないですか?」
白柳「ん~確かに」
白柳「ただそういう返し方するかね?」
白柳「大学の先輩である前に、今は上司なんだけどさ。俺・・・」
遠藤「・・・」
遠藤「申し訳ありません」
白柳「しかし、腹減ったな」
遠藤「で、ですね」
白柳「遠藤君は出来るの?釣りとか罠とか」
遠藤「まさか」
白柳「出来ないんだ」
白柳「自分、出来ないのに人に聞いたんだ?」
遠藤「・・・」
白柳「え?俺のこと弄ったの?」
遠藤「と、とんでもないです!」
白柳「何笑ってんだよ。あ?」
遠藤「申し訳ありません」
白柳「・・・」
白柳「別にいいけど・・・」
遠藤「・・・」
白柳「なんかいいな。火って」
遠藤「いいですね」
「・・・」
白柳「おお・・・」
遠藤「・・・」
〇森の中の小屋
白柳「ヒリヒリするな」
遠藤「ヒリヒリしますね」
白柳「腹減ってヒリヒリするな」
遠藤「ヒリヒリして腹減りましたね」
白柳「うるせーよ。そんな同意いらねーよ」
白柳「え?まだ弄る?いい加減にしろよ」
遠藤「そういうつもりじゃ・・・」
白柳「次、カマシてきたらボコるからな」
遠藤「・・・」
白柳「なあ、もっと追加しようぜ。火」
白柳「つか、俺にもマッチ擦らせてよ」
遠藤「火に火を追加しても、意味ないと思いますけど」
白柳「でも水に水入れたら増えるだろ」
遠藤「追加するなら焚き木の方ですよ」
白柳「だったら木くらい拾ってこいよ!」
遠藤「自分で拾ってくべればいいでしょ!その辺に落ちてるんだから!」
白柳「何だよさっきからお前はよ!」
遠藤「イラついてんのはそっちじゃないですか!」
白柳「ああ?手前誰に向かってクチきいてんだ!」
遠藤「うわっ!」
遠藤「ああ!火が消える!ヤバい!」
白柳「焚き木くべろ!焚き木!」
「セーフ!」
「・・・」
白柳「う~。また寒くなってきた」
遠藤「はい」
白柳「・・・なんか。悪かったな、イラついてて」
遠藤「いえ。こっちもすみませんでした」
白柳「おーっ!」
遠藤「やっぱ凄いですね」
白柳「すげーな!生き物みたいだぜ!」
遠藤「ははははは!本当、生き物だ!」
白柳「・・・」
白柳「炎を禁じる法律、禁炎法か」
白柳「火を見たら凶暴になる。火を見たら犯罪者になる」
白柳「火を見たら頭がオカシクなる」
白柳「なんか、バカバカしい法律だな」
遠藤「・・・」
遠藤「結婚するんですか?高森さんと」
白柳「まあ、多分な」
遠藤「多分・・・」
遠藤「多分・・・か」
〇黒
〇森の中の小屋
遠藤「まあ、良かったじゃないですか」
遠藤「結婚式盛大でしょうね。なんてったって逆タマですからね」
白柳「おい、焚き木くべすぎだぞ」
遠藤「スイマセンスイマセン。弄ってないです。ただの僻みですよ僻み」
遠藤「次期社長のためならどんどん燃やしちゃいますよ~はははは」
白柳「お、おい!」
白柳「お、おい!もう止めろって!燃え広がりすぎだろ!」
白柳「あちちっ!熱いっって!」
遠藤「賭けみたいなものでした」
白柳「ああ?」
遠藤「本当ですよ。本当にあのマッチ、湿気てるって思ってたんです」
遠藤「火がつくなんて思わなかった」
遠藤「あの時と一緒だ」
白柳「あの時?」
〇タワーマンション
『本当に火が付くなんて』
『本当に燃えるなんて』
〇タワーマンション
『全然、思ってなかったんです』
〇森の中の小屋
白柳「お、お前・・・まさか」
遠藤「白柳さん」
遠藤「僕、ずっとあなたの事が嫌いだったんです」
遠藤「心底、嫌いでした」
遠藤「だからマッチ・・・点かなきゃよかったな」
遠藤「・・・」
〇炎
〇黒
〇森の中の小屋
春菜「おっはよ~遠藤君。なんちゃって」
遠藤「よく寝てたみたいですね」
春菜「ゴメンゴメン」
春菜「・・・って、それまさか、火?」
春菜「焚火ってヤツ?」
遠藤「さすがの社長令嬢さんも初めて見ました?」
春菜「大丈夫なの?捕まらない?」
遠藤「生命の危機に関わるような緊急時はいいんですよ」
春菜「・・・」
春菜「徹夫・・・いや、白柳課長は?」
遠藤「食べ物とってきてくれるみたいです。釣りとか罠とか使って」
遠藤「凄いですね」
春菜「そう・・・」
遠藤「あったかいですよ。こっち来ませんか」
春菜「・・・」
〇黒
春菜「・・・!」
〇森の中の小屋
春菜「きれい・・・」
遠藤「僕、昔一度だけ火を見た事あるんです」
〇タワーマンション
『映画やテレビとは全然違った』
〇森の中の小屋
遠藤「どうです?」
春菜「うん、ドキドキする」
「もっと近くに・・・もっと・・・」
「うん」
END
最初 ファンタジー書くの?と思いましたが SF ですね。
ボケをかまして 漫才みたいなのも新鮮でした!
でもやはり文明の発達が人間を退化させてしまったような、鋭い考察が含まれる!!
SF でもない独自のジャンルかもしれません。不穏な感じから、最後にハートに火をつける急展開は面白いです😆