エピソード1(脚本)
〇教室
俺は今渋谷で税理士事務所の所長をやっている。ガラじゃねーなぁ、と思いながら。
この女は女神なのか悪魔なのか。
20年ほど前。俺の大学時代に遡る。
簿記のボの字も知らん若造だった。
酒井税(さかいおさむ)「俺は今、渋谷の専門学校で簿記の勉強をしているんだ」
酒井税(さかいおさむ)「なんでこんなことになったかというと・・・彼女のススメ」
須磨シロ子(すましろこ)「おさむ!一緒に簿記の資格取ろうよ。 簿記の資格あると就職にも有利だよ。 おさむは、ホラ、ハンディあるし」
ハンディというのは、浪人あり大学でのダブリありってことだ。
須磨シロ子(すましろこ)「専門学校の授業料出してあげるから一緒に日商簿記3級目指そ!」
酒井税(さかいおさむ)「お、何、金出してくれるの?じゃやるか、とりあえず」
酒井税(さかいおさむ)「で、簿記ってさぁ、借方とか貸方とか訳分かんねーヤツ?」
須磨シロ子(すましろこ)「すごいじゃん、分かってんじゃん。(おだてとかなきゃ)」
須磨シロ子(すましろこ)「ちなみに、借方は左側にくる勘定科目で、貸方は右側にくる勘定科目ね」
須磨シロ子(すましろこ)「「かりかた」の「り」の字は左にはらうでしょ。だから左側。「かしかた」の「し」は右にはらうでしょ。だから右側」
酒井税(さかいおさむ)「ほー、なるほどね」
シロ子は高校時代からの彼女。俺と違い優秀で、現役で渋谷の大学に受かり、そのままダブリもせずに卒業。
今年から会計事務所で就職している。会計事務所から簿記の資格を取るように言われたらしい。で、俺も一緒にやる羽目に。
シロ子は税理士だか会計士だかに憧れているらしい。税理士は俺も知ってるけど。超難関で俺には縁がないな。
須磨シロ子(すましろこ)「会社の財務諸表をチェックするのよ。財務諸表っていうのは、会社のお小遣い帳ね。家計簿みたいなヤツよ」
「へーへーそうでござんすか。そいつは良かったね。(興味ねーんだよ、マジで。)」
須磨シロ子(すましろこ)「で、税理士っていうのは・・・」
「わーったよ。もういい。(興味なさすぎ、マジで。)」
シロ子と俺は元同級生だし同い年だし、シロ子が知っていることを俺が知らねーの腹立つし
とりあえず、その専門学校とやらに一緒に通ってみることにした。どうせタダだし、暇っちゃあ暇だし
〇大学の広場
3級の試験日がやってきた。会場は何と俺の大学。おかげでめっちゃリラックス出来た。シロ子も同じ会場だった。
須磨シロ子(すましろこ)「どうだった?私昨夜寝れなくて全然頭回らなかったの。もう最悪!」
酒井税(さかいおさむ)「いやぁ、俺も分かんねーな。まぁ、ダメならもっかい挑戦してみよっかな。何となく興味出てきたし」
〇教室
結局俺は3級をギリギリ突破し、シロ子はギリギリでダメだったらしい。
シロ子はもう一度3級にチャレンジ、俺は2級にチャレンジする為、一緒に講座に申し込みに行くことになった。デートも兼ねて。
〇教室
日商簿記2級の講義が始まった。俺は一人で受講を始めている。シロ子とは音信不通になっている。
俺に3級先を越されたのが相当悔しかったようだ。俺も気まずくて連絡を取っていない。
2回目の講義が終了した時だった。
女の子が声をかけてきたんだ。
石井由紀「酒井税さんですね?初めまして。石井由紀と申します」
酒井税(さかいおさむ)「はぁ・・・」
石井由紀「須磨さんのことなんですが・・・最近ご一緒じゃないんですか」
石井由紀「須磨さんと私、職場の同期なんですが、欠勤が続いていて・・・何かご存知じゃないですか?」
酒井税(さかいおさむ)「いや、俺も気になっていたんですけど・・・最近連絡してないし、会ってもいないし・・・」
事実だった。最近シロ子とは連絡が取れていない。次第に俺はこの由紀という子と一緒に2級の勉強をすることになった。
〇大学の広場
そして受験日が来た。
由紀は手ごたえがあったようだが、俺は全く・・・・・・
だが蓋を開けてみると、俺は合格、由紀は不合格だった。
〇渋谷駅前
由紀が合格祝をしてくれるらしい。自分は不合格だったのにいい子だな、と思った。渋谷駅のハチ公前で待ち合わせしたんだ。
突然着信があった。由紀からだった。
石井由紀「おさむ、ゴメンね。今日急用が出来て行けなくなったんだ。また連絡するね」
酒井税(さかいおさむ)「あ、ああ、分かった。た、大変だな。またな」
今度はシロ子から着信があった。
須磨シロ子(すましろこ)「おさむ、久しぶり!元気? 今日由紀と会えなくて残念だったわね」
酒井税(さかいおさむ)「え、あ、なんでそんなこと・・・・・・ お前今どうしてるの?」
須磨シロ子(すましろこ)「あの女、私の彼氏に手エ出しやがって。だからこんな目に遭うのよ。ざまあみろ!」
須磨シロ子(すましろこ)「おさむ、税理士になって頑張るのよ。おさむならきっといい税理士になれるわ。5科目合格しなきゃならないけど応援するわ」
そう言い残すと電話は切れた。俺はかけ直してみたが二度と電話がつながることはなかった。二度と会うことも・・・・・・
〇個別オフィス
あれから20年以上経ち、俺は相続税の相談をメインにした税理士事務所の所長をしている。
あの時の由紀とシロ子の電話は今でも頭から離れないでいる。
シロ子とはたまに会った。
夢の中で・・・
税理士試験の前日になると、必ず夢の中に現れるのだ。
夢の中で俺達は会話した。
「シロ子、お前が由紀を殺したのか」
「そうよ、おさむを横取りしたんだから当然の報いよ。おさむは試験に受かることだけを考えればいいの」
「・・・」
「おさむ、永遠に一緒にいてあげるからね。離さないからね・・・」
事務所の電話が鳴る。
須磨シロ子(すましろこ)「所長、鈴木様が相続税のご相談の為、10時にいらっしゃるとのことです。よろしくお願いします」
酒井税「はい」
とんでもない彼女ですね。怖かったです。
最後のオチで、まだ一緒にいたんだ!と驚きました。
ていうか恐ろしくて離れられませんよね。
何されるかわかりませんし。
女は恐ろしや!シロ子は悪魔か女神かと題名通り悩みました。女が嫉妬に狂うと人殺しまでやりかねないのかな?彼はこれからシロ子とどのように付き合って良いのか恐ろしくなりました。
読んだ後ふと思ったのが、初めの試験にシロ子が合格できなかったのも、なにか仕組まれたものなのかと思いました。それだけ彼を好きだったのかもと。嫉妬というのは、人を狂わせますね。