読切(脚本)
〇中庭
「キン・コーン☆カン・コーン」
良太(ああ、もう終わっちゃったよ昼休み。もっと遊びたいな)
健司「良太、早くしないと遅れるぞ!」
良太「おお」
良太(友達の健司と教室から遠く離れたところで遊んでいた僕は、足の速い健司には到底追いつかない)
良太(同じように校庭で遊んでいた生徒たちも次々に校舎に入っていった)
良太「ねえ、待ってよ~」
良太「ほぼほぼドンべ」
〇教室
いつもの教室に戻ると今日はいつもと違っていた。そう、今日は授業参観日で教室の後ろや横の空いた所に大勢の大人が立っている。
これから始まる僕たちの授業を生徒の家族が見に来たのだ
もうひとつ、いつもの光景と違うことがある。それは・・・
健司「どうなの、あれ」
良太「んん、なんか違和感」
健司「まあ、頑張ったってところじゃないの?」
良太「そうともいうかな~」
先生の普段とは違う服装と化粧が・・・怖かった
陽菜「ねえねえ、ちょっと聞こえるよ」
健司「だって~」
良太「ねえ」
健司「プ~(笑いが噴き出す音)」
良太「プ~」
我慢できなかった
女性教師「こら、そこの二人。真面目にやるよ」
良太「は~い」
健司「は~い2」
健司(皆も分かってるくせに我慢しちゃって)
女性教師「はい、じゃ今日は皆のご家族がたくさん来てくれました。まずは来ていただいたことに感謝して拍手しましょう、はい拍手~」
良太(自分の子供から拍手を送られて皆笑顔)
女性教師「じゃ、せ~の」
陽菜「はい!」
良太「えっ?なに立ち上がってんの、陽菜」
健司「大丈夫かお前」
女性教師「ああ、ゴメンゴメン。瀬能さんじゃなくて・・・」
良太「はははは・・・・この雰囲気はなんなんだ。まあ咄嗟に云われると勘違いしちゃうかもな」
女性教師「じゃ、仕切り直しで。皆立ちましょう。はいご家族の方を向いて。一緒に」
ありがとう~
皆は一斉に自分の家族へお辞儀した。
でも僕はいないから、だから先生にお辞儀した。先生はちょっと困ってたけど
女性教師「じゃ誰から行こうかな」
健司「ああ、はい」
女性教師「はい中本健司君。トップバッター偉いね」
良太「あ、陽菜が足踏んだのね」
健司「ちぇ、ハメやがったな」
良太(はいはい、陽菜、ベーしない)
友達の健ちゃんは後ろを向いて、お父さんとお母さんを見て少し恥ずかしがっていた。
僕と健ちゃんは1年生から一緒で、なぜか馬が合った。遊びたい事も一緒で勉強が苦手なのも一緒
いつも帰りは途中まで一緒で、日が暮れそうになるまで遠回りする冒険の時間。いつも健ちゃんの家の前で別れるけど、
帰る時の声はいつも楽しそう。
家族団らんって感じ
だから今日僕が作文に書いた事を云ったらどうなるか心配・・・
女性教師「はい、ありがとう、よかったよ」
女性教師「じゃ、次は?」
良太「はい!」
僕は手を挙げた。健ちゃんの次に発表したかったから
良太「石狩良太。僕は健ちゃんが大好きです。羨ましいと思う時もあります。お父さんお母さん、カワイイ妹。凄く良い家族って感じです」
良太「僕にはお父さんも妹もいません。また本当のお母さんではないです。それに僕は日本ではありません」
その時、空気が変わった感じがした
良太「お母さんは僕の為に働いています。今日もココには来れません。本当の子供じゃないのに一生懸命僕の為にいろいろやってくれます」
良太「こんな事を云うと健ちゃんが、皆が僕の事を嫌いになっちゃうかもしれないって思ったけど、嘘や隠し事はしたくありません」
良太「またそれが隠し通せたとしても、いつかそれが知られた時の方が僕には怖いです。少し前まではまだ云えなかったけど、」
良太「いつか云いたかった。今日はそのチャンスだと思った。そして聞きたかった、皆にも先生にも。本当の家族ってなんですか?」
良太「本当のお父さんとお母さんってなんですか?いつも健ちゃんと一緒に帰っていつも健ちゃんの家で別れます」
良太「中に入っていく健ちゃんはいつも楽しそうです。だからすぐにバイバイできます。でもそのあとが少し辛いです」
良太「お母さんが帰ってくるまでの時間が辛いです。僕はそれまで家の中を片します。食事の用意もします」
良太「帰って来たお母さんは(おいしい、おいしい)って毎回云ってくれます。僕はお母さんで良かったです」
良太「本当のお母さんじゃないけどお母さんで良かったです。皆は今のお家、楽しいですか?僕は楽しいです」
良太「一緒に居られる時間は短いけど休みの日は一日一緒に過ごせます。公園で遊んだり、買い物したり、レストランで食事したり」
良太「本当のお母さんでも、本当でないお母さんでも何も違いはありません」
良太(ダメかなこの作文。なんかシーンとしちゃって、つまんない?)
良太「先生、止めますか?」
女性教師「・・・・・」
健司「いいから、最後まで読めよ」
良太「うん。最近分かってきました。この先はどうにか自分で努力して変えられる事が沢山あると思います」
良太「でもどうしても変えられない事があると思います」
良太「それは生まれた時代。性別。両親。生まれる時、もしかしたら自分で時代や親や性別を選んだかもしれません」
良太「でも僕はそれを覚えてません。そして決して変わりません。この先も大好きなお母さんといつまでも一緒に居たいと思います。おわり」
良太「うわ~、凄い拍手だし長い。健ちゃんもいっぱい拍手してくれて。陽菜も。良かった発表して」
〇通学路
瀬能正「陽菜、今日は良かったよ」
瀬能果歩「そうね、頑張ったね」
瀬能正「しかし、ある意味カミングアウトだよな良太君」
瀬能果歩「この位の歳から急にいろんな事が理解できるのかな」
陽菜「ねえ、陽菜は本当の子供?」
瀬能正「えっ?」
瀬能果歩「えっ?2」
瀬能正「何云ってんの。本当の子供に決まってるじゃない」
陽菜「本当の子供って?」
瀬能果歩「ちゃんとママのお腹から出てきたでしょ。写真もあるし動画もあるし」
陽菜「じゃパパは関係ないの?」
瀬能正「えっ?それは・・どう説明したら・・」
陽菜「どうしたらお父さんなの?どうしたら本当の子供なの?」
瀬能果歩「そ、それは・・・」
瀬能正「はははは・・・」
瀬能果歩「はははは・・・」
陽菜「ねえ、どうして?」
〇狭い畳部屋
良太「ただいま~」
良太の母親「お帰りなさい。今日はいけなくてゴメンね」
良太「作文発表したら、皆大きな拍手くれた」
良太の母親「そう、良かったね~。どんな作文か聞かせてくれる?」
良太(僕はお母さんに発表した。いっぱい泣いた。僕をいっぱい抱きしめてくれた)
良太(本当の親子なんて関係ない。僕はお母さんが大好きだし、これからもこうして一緒に暮らしたい)
ありがとうママ
良太くん、これはまた事理分別のつく賢い子ですね。挙動や言葉などは小3のソレながら、作文の内容には心打たれます。そして、陽菜ちゃんのお父さんの動揺する姿には笑ってしまいました!
学校では友人に恵まれ、家庭では自分を愛してくれる母親がいて、それは幸せなことなんだとはっきり自覚して口に出せる良太は賢くて強い子ですね。彼の作文が発表される場が授業参観なのが良かった。それぞれの親と子が同じ場所で同じ時間に勉強よりも大切な何かを心に刻み付ける絶好の機会になったと思いたいです。