廃ホテルの怪異

月暈シボ

とある寂れた山の中(脚本)

廃ホテルの怪異

月暈シボ

今すぐ読む

廃ホテルの怪異
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇田舎の空き地
マコト「・・・やっぱり、こっちはまだ肌寒いな」
  車から降りたマコトは前を開けていたパーカーのジッパーを首元まで上げると、友人のユウヤに呼び掛けた。
  季節は初夏を迎えたばかりであったが、顔に当たる空気は随分と冷たい。
  また、近くを流れる川のせせらぎの音が水を連想させるためか、より気温の低さを強調しているようだった。
ユウヤ「まあ、山の中だからな・・・」
  後から降りたユウヤは肌寒さなどお構いなしに、月明かりを頼りにカメラの準備を始める。
  それを待ちながらマコトは携帯端末で高校時代からの恋人、アヤカにコミュニケーションアプリのリプライを送る。
  通信状況は最高感度5の内、2の値を示していたが何の問題もなく使用出来た。
ユウヤ「おし、準備完了! これでさっき教えたとおりにしてくれれば、撮影できるはずだ」
  ユウヤは気合を入れるように掛け声を上げると、手にしている小型ビデオカメラをマコトに差し出した。
マコト「・・・カメラマンなんて、やったことないんだけどな」
ユウヤ「大丈夫、大丈夫! 今回は慣れていない方が、臨場感出て逆にリアルになると思う」
ユウヤ「それに後から編集するからあんまり気にしないでくれ、早速始めるから撮ってくれよ!」
マコト「まあ、なんとかやってみるよ」
  カメラを受け取ったマコトは苦笑を浮かべながらも、事前に教わった通りにボタンを押すと撮影を開始した。
ユウヤ「んっん!あっあ・・・。ハロ~、皆さん! いつも見てくれてありがとう!」
ユウヤ「今、私ナカゴッチは某県某市の廃ホテルにやって来ております!」
ユウヤ「ここはネットでもまだ殆ど知られていない穴場的オカルトスポットです!」
ユウヤ「一部のマニアの間では、白い人型の怪物を見たと話題になっているそうです!今回はそれを実際に確認してやろうと思います!」
ユウヤ「果たして化物は実在するのでしょうか? そして私は生きて帰れるのか?!」
ユウヤ「・・・と散々煽っておいてどんなをオチを迎えるのか?!」
  懐中電灯で下から自分の顔を照らしながらユウヤはレポートを開始する。
  演出過剰とも思えるが、長台詞を澱むことなく言い放った彼の姿にマコトは感心した。さすがはプロを名乗る動画配信者である。
  回初めて長年の友人であるユウヤの付き合いで撮影に参加したが、思っていた以上に本格的であると認めるしかなかった。
  ユウヤはレポーター、演出家、プロデューサー等の役を一人で熟しているのだ
ユウヤ「・・・どうぞ、最後までご覧ください! そんなわけで早速向かいましょう!」
  この台詞とともに歩き出したユウヤの姿をカメラのフレームに収めながら、マコトもその後に続いた。

〇森の中
ユウヤ「そういえば、例の遊園地はどうだった?」
マコト「面白かったよ! ただ、目当てのジェットコースターがメンテナンスで乗れなかったのが残念だったな」
ユウヤ「なんだ、あのジェットコースターに乗れなかったのか。お前の彼女、ああいうの大好きだろ?!」
マコト「ああ、確かに最初は文句を言っていたな。けど、その後はすぐに他のアトラクションをノリノリで遊びまくったよ」
マコト「バスツアーで行ったから、帰り道は二人でバスの中で寝てしまったよ!」
ユウヤ「まじか!それは、はしゃぎ過ぎだろ!」
  車を停めた場所から目的地のホテルまではしばらく細い道を歩く必要があるため、
  マコトはユウヤからの問い掛けに応じて雑談を始めた。
  辺りは僅かな月明かりを除くと夜の闇に包まれており、灯りらしい灯りはユウヤの懐中電灯とカメラの照明だけだ。
  特別怖いというわけではないが、何か喋っている方がお互いに気が紛れると思われた。
  撮影中ではあるが、こういった何気ない雑談シーンも動画配信では〝味〟になるのかもしれないし、
  邪魔となれば後から編集すれば良いのだろう。
ユウヤ「おっと、問題のホテルが見えて来ました。更に近づいてみましょう!」
  こちらを振り返りながら、ユウヤは声色を変えて語り掛ける。
  マコトもこれが自分ではなく視聴者への問い掛けと判断し、
  最初にユウヤの顔を拡大表示させながら、徐々にホテルが映るように倍率を低下させる。
  目的のホテルは特に変哲もない四階建ての建物だが、ユウヤと比較させることでより大きく不気味に見えるはずだった。
  マコトもこの頃になるとこれくらいメリハリをつけた方が良いのだろうと理解するようになっていた。
  演出を終えたユウヤが再び背中を向けて歩き出したのでマコトもそれに続く。
  かつては整理されていたに違いないが、今では雑草が生え放題の荒れた庭を横目に二人は歩き続ける。
ユウヤ「裏口らしき場所を見つけました。いよいよ侵入です!・・・よし、中に入ろう」
  芝居掛かった台詞を終えると、ユウヤは預かっている鍵で閉まっていた従業員用の通用口を開けた。
  当たり前だが、こういった廃墟に許可なく侵入するのは立派な犯罪である。
  なので、事前にこの廃墟を管理する不動産管理会社に撮影許可を申請していた。
  何しろネットで配信するための動画だ。無許可では全世界に犯罪の証拠をばら撒くことになる。
  もっとも、再開発の予定もなく価値のありそうな内部の設備品は既に持ち出されている廃ホテルなので、
  ちょっとした袖の下と最低限の念書にサインすることで撮影許可は特に障害もなく認められていた。
  だが、動画撮影ではライブ感を出すために、そのあたりの事情は表に出さない。
  視聴者は今回の動画でスリルを味わいたいのであるから、配信者は無鉄砲である方が望ましい。
  扉を正規の鍵で開けたシーンは編集でカットされるはずだった。
ユウヤ「うわ、・・・中は埃臭く、ねっとりするような嫌な気配を感じます!」
  ホテル内に入るとユウヤは再びテンションを上げた声で呟いた。
  内部はマコトが思っていたよりも整然としており、特に変な匂いを感じさせなかったが、
  演出のためであろうユウヤは誇張気味にレポートを口にしていた。

〇荒れた倉庫
ユウヤ「・・・奥から何を擦るような音が聞えないか?」
  しばらく内部を探索していたユウヤだったが、
  従業員用の休憩室か控室だったと思われる質素なテーブルが置かれた部屋に入ると驚いたように呟いた。
  これも盛り上げるための演技だと思っていたマコトだったが、声のトーンにこれまでのような芝居臭さはない。
マコト「俺には何も聞こえないけど・・・」
ユウヤ「いや・・・、今なんか鐘を鳴らすような音がしただろ! マコト、お前には聞こえてないのか?!」
マコト「聞こえないな・・・。緊張による幻聴じゃないか?」
  困惑しながらも、マコトは素直に答える。。
  そもそも、この廃ホテルに出るとされる白い化物自体がユウヤの創作であったし、
  マコトは大学で電子工学を学ぶエンジニアの卵でもあった。
  暗闇に対する本能的な恐怖心はあるが、それで客観的な視点を失うことなかった
ユウヤ「いや、間違いなく聞こえるって! つか、近づいて来てるぞ!!」
マコト「・・・とりあえず、一旦外に出ようか?!」
ユウヤ「もうそこまで・・・う、うわぁぁ!!」
  顔を引き攣らせながら狼狽するユウヤにマコトは最善と思われる提案を行うが、
  ユウヤは突如叫び声を上げて走り出した。
マコト「お、おい! 待て! 走るなよ、危ない!」
  想定外のことに驚きながらもマコトも部屋を飛び出したユウヤの後を追う。
  急いで廊下に出た彼だが、照明を消したユウヤが奥に向かって走る足音が廊下に響くだけだった。
マコト「何をやってるんだ! 早くこっちに戻って来いよ! 危ないだろう!」
  腹立たしさを堪えながらマコトは廊下に向かって呼び掛けるが足音は徐々に遠のいていき、やがて辺りは静寂に包まれた。
マコト「クソ!」
  何回か呼び掛けを繰り返したマコトだが、効果がないことを知ると悪態を吐いた。
  先に車に戻って待っていようかとも思うが、頭でも打って倒れていたら大事になる可能性がある。
  パニックを起こした友人を見捨てるわけにはいかなかった。
  マコトはカメラの照明を最大光度に設定するとユウヤの後を追って歩き始める。
  警察への連絡も考えるが、この程度で通報しても逆に説教させるだけだろうと考えを保留する。
  この時マコトは闇に消えたユウヤを直ぐに見つけられるだろうと考えていた。

〇廃墟の廊下
  壁から崩れ落ちたモルタルを靴で踏みつける音が寂れた廊下に響く。
  昼間なら気にするまでもない些細な音かもしれなかったが、
  カメラの照明を頼りに廃ホテルを孤独に探索するマコトの耳には不気味な嫌悪感のある音として届いた。
  ユウヤはかなりの距離を駆け抜けたと思われたので、
  マコトは左右の扉には目もくれず廊下を真っ直ぐに進み、終点となるホールの前にやって来ていた。
  現在では開けっ放しにされているものの、ホールに繋がる扉は鋼鉄製と思われる防火扉で区切られている。
  建築関連はマコトの専門ではなかったが、おそらくはこのホールは厨房と繋がるレストランか食堂にあたる場所だと思われた。

〇廃ビルのフロア
マコト「・・・ユウヤ!大丈夫か?! 返事をしてくれ!」
  開けた空間に入ることに一瞬だけ躊躇するも、マコトは友人の名前を呼びながらホールに足を踏み入れる。
  足元には、元は赤色だっと思われる擦れたカーペットが敷かれているが、
  テーブルや椅子のような丁度品は一切なく、時折現れる四角い柱がまるで墓標のように思えた。
  照明代わりのカメラを左右に向けてユウヤを探していたマコトの視線にうつ伏せになって倒れる人影が映る。
  やっと錯乱した友人見つけたと思い、近づこうとした彼は背後から迫る足音に気付くと慌てて振り向いた。
マコト「うわ!」
  こちらに迫る人型のシルエットを見つけたマコトは、本能的に頭部を守るために右手に持ったカメラごと腕を突き出した。
  激しい痛みと衝撃を感じ、彼はカメラを取り落しながらも後ろに逃れる。
  次の瞬間、顔の目の前を棒のような物が激しく振り下ろされた。
  激しい恐怖に苛まれながらもマコトは、床に落ちたビデオカメラの僅かな光の中で自分に身に起きた状況を把握しようとしていた。
  振り下ろされた棒は斧であり、今自分は白いと思われる服を着た人物に殺されかけたのだと。
マコト「な、何なんだよ!!」
  心理的ストレスの捌け口としてマコトは斧で襲い掛かった人型の存在に罵声を浴びせるが、
  人型は再攻撃に備えるように凶器を降り上げようとしていた。それを見たマコトはじりじりと後ろへ退く。
  今直ぐにでも全速力で逃げ出したかったが、それをすれば無防備となった背中に斧を叩きこまれるだけだろう。
  まずは柱の一つを障害物に利用してから出口に向かうべきだと、彼は直感的に思い描いた。
  だが、謎の人型はマコトの意図を見抜いたように躊躇のない動きで彼の頭部を狙って再び斧を振るう。
  横に飛びながら辛うじてその攻撃を躱したマコトは、
  予定を変更して今が逃げ出す機会だと捉えると、そのまま身体を捻って出口に向かって走り出す。
  おそらくはアレドナリンといった脳内物質の効果なのだろう。
  自分の動きが酷くゆっくり感じられ、十メートルもない距離が何倍の距離に感じられた。
  先程の防火扉を潜り抜けた後もマコトは全速力で駆け抜ける。
  照明を失っていたので廊下の壁に身体をぶつけることもあったが、
  転倒することなく従業員用の出入り口に辿り着くと、這い出るように外に逃げ出した。
  直ぐ後ろに迫っていると思われた謎の人型だったが、
  あまりにもマコトの逃げ足が早かったのか、もしくは諦めたのか、既に姿はなかった。

〇荒廃したビル
マコト「はあ・・・はあ・・・」
  荒い呼吸を整えながらマコトは携帯端末を取り出す。
  あの白い人型の正体がなんであれ、斧で襲われたのは間違いない事実である。
  ユウヤのことは心配だが、助けるにしても警察の協力が必要だと思われた。
  それ故にマコトは警察へ通報しようとするが、電波の感度は最低であり、緊急番号が繋がることはなかった。
マコト「クソ!!」
  悪態を吐き捨てながら、マコトは再び走り出した。この場で繋がらないのなら、繋がる場所に移動するしかない。
  それに警察に通報出来たとしても、警官がこの場に来るまでにはいくらかの時間が掛かる。
  廃ホテルから距離を取って、車に向かうのが正解だと思われた。

〇田舎の空き地
  身体中から汗を吹き出す思いで車に辿り着いたマコトは、
  警察への通報を終えるとオペレーターの薦めもあり、
  車を発進させて人気のある県道沿いのコンビニエンスストアを目指した。
  その後のことをマコトはよく覚えていない。
  コンビニの駐車場で警官達と合流した後は、廃ホテルで味わった恐怖体験のショックにより、
  彼らの指示に淡々と従うだけで精一杯だったからだ。
  彼は右手に負っていた怪我を指摘させると病院に運ばれ。
  治療を受けた後は所轄と思われる警察署に連れて行かれて、詳しい事情を聞かれることになった。
  形式には通報者の任意同行であったが、実質的には限りなく容疑者の確保に近いと思われた。
  何しろ、警官達の捜索によって廃ホテルでユウヤの首つり死体が発見されたのだ。
  これにより、警察はマコトの通報は狂言であり、彼がユウヤを自殺に見立て殺したと疑ったのである。

〇応接室
刑事「ご足労頂いてありがとうございます」
マコト「いえ、元々は私達が遊び半分で危険な場所に足を踏み入れてしまったのが原因ですから」
マコト「・・・、それで犯人を捕まえたということでしょうか?」
  あの廃ホテルの恐怖から一週間が経ち、マコトは事件の捜査を担当する刑事から呼び出しを受けていた。
  当初は容疑者として疑われた彼だったが、直ぐに幾つかの矛盾点が見つかり嫌疑は晴れている。
  マコトとしては自分を襲った白い斧使いがユウヤを自殺に偽装して殺したと信じていたので、
  犯人が警察に逮捕されたのだと推測していた。
刑事「・・・ええ、まだ細かいところはまだ詰める必要はあると思いますが、全容は掴めたと思っております」
刑事「・・・それで、これ以上、踏み込むとなると・・・被害者であるマコトさん、あなたの同意が必要かと思われましてね」
刑事「それから、ご報告しようというわけなのです」
マコト「そうですか・・・」
  マコトは小さな応接室で相対する刑事の顔を不思議に思いながら見つめる。歳は四十代前後だろう。
  自分の父親と同世代と思われた。頭には白髪が目立ち始めているが、
  顔付きは強面で背筋もしっかりしており肉付きもかなり良い。
  そんな成熟した男が言葉を選ぶように自分に気を使っているのが、奇妙に思えたのだ。
  犯罪の被害者になるのは初めてだったが、ここまで配慮をするのか? という思いだ。
刑事「・・・結果からお伝えしますと、マコトさん、あなたを襲った斧の人影は自殺したユウヤ氏と思われます」
刑事「彼は・・・かなり前からあなたに殺意を抱いていたようですね」
刑事「消去された彼のパソコンのデータを復元したところ、あなたへの恨み・・・客観的に見ると逆恨みのようですが、」
刑事「激しい憎悪を込めた日記や今回の事件・・・あなたの殺害計画の準備をした形跡が残されていました」
刑事「彼は表向きには友人であったあなたを、人気のない廃ホテルに誘い出して殺害しようと計画していたのです」
刑事「一旦離れてから、予め用意していた殺害用の斧や白色の目出し帽、身体を覆うジャンパースーツを使って変装し、」
刑事「背後からあなたに襲い掛かったというわけです」
刑事「まあ、これは比較的に優しい表現でして・・・データには色々と口に出来ないようなことも残されていました・・・」

〇応接室
マコト「口にできないこと! いや・・・ユウヤが俺を憎んでいた?!」
  マコトは刑事の言葉を映画かテレビドラマの人物の台詞のように感じた。
  ユウヤとは過去に、ちょっとした意見の食い違いで口喧嘩したこともあったが、
  それはその場でお互いに謝罪して水に流したはずだったし、
  そんなことで人殺しをするようでは一体何人殺せば良いかという程度の出来事だったはずだ。
刑事「・・・マコトさん。あなたはアヤカさんという女性と交際されていますね?」
マコト「ええ、アヤカは高校時代から付き合っている彼女ですが、それが何か?」
刑事「復元したデータからすると、ユウヤ氏は彼女に横恋慕していたようです」
刑事「彼とアヤカさんは小学生時代からの幼馴染でした」
刑事「中学は別だったものの、高校でまた一緒になり再会したようですが、」
刑事「その頃にはアヤカさんはあなたと付き合っていた。・・・彼からすると初恋の相手を奪ったということのようです」
マコト「え、そんな! だってアヤカはユウヤのことは何も・・・」
刑事「そう、我々もそれについても調べました」
刑事「アヤカさんがユウヤ氏についてあなたに何かしら伝えていたのではないかと」
刑事「そうしたらですね、ユウヤ氏は中学時代に親の離婚で苗字を変えていたのです」
刑事「おそらくはそれで、アヤカさんは再会したユウヤ氏を小学生時代の友人だと気付けなかったのでしょう」
刑事「本人からその事実を言い出さなかったのは謎ですがね・・・」
マコト「そんなことが・・・」
刑事「ええ、横恋慕を拗らせた彼はあなたを殺そうと廃ホテルでの撮影として呼び出しましたが、」
刑事「失敗したことで、我々警察を始めとする法の執行者に捕まることを恐れて自殺したのでしょう」
刑事「首を吊ったロープも本来はあなたを拘束するために彼が購入したものです」
  友人だと信じていたユウヤが自分にそのような負の感情を抱き、
  実行に移したという事実はマコトの心にかつてないほどの暗い影を落とした。

〇応接室
マコト「・・・真相を突き止めて頂いてありがとうございました」
  しばらく俯いて、感情が収まるのを待ったマコトはとりあえずにしても刑事に礼を告げる。
  ついでに被疑者死亡により、傷害罪での起訴を取り下げ、捜査の終了にも了解した。
刑事「・・・それで最後の確認なのですが、」
刑事「廃ホテルでユウヤ氏に襲われる前にうつ伏せに倒れる人影を発見したのでしたね?」
刑事「ビデオカメラの照明を使っていたということで、現場に残されたカメラのデータを解析したのですが、」
刑事「撮影角度によるものなのか、確認出来ませんでした」
刑事「・・・この証言が正しいとすると現場には、もう一人何らかの人物がいたことになるのですが、どうでしょう?」
マコト「ええ、最初はそれを倒れたユウヤだと思っていました」
マコト「・・・でもビデオに残っていないのでは・・・私の見間違いだったのでしょうね・・・」
刑事「そうですか・・・ありがとうございます」
刑事「私も非常事態におけるストレスでの見間違いだとは思いましたが、念のために確認させて頂きました」
  事件についての話はこれを最後に、マコトは担当刑事に見送られながら警察署を出た。

〇警察署の入口
  刑事には自分の見間違いと伝えたが、マコトにとって倒れる人影を目撃したのは紛れもない現実のはずだった。
  もし、あれが本物のユウヤだとしたら、自分を襲った白い人影は他に存在することになる。
マコト「ははは・・・」
  マコトは一瞬だけ、皮膚が泡立つような恐ろしさを感じるが、直ぐに乾いた笑みを浮かべた。
  長い間、親友だと思っていた人物は心の中で自分を深く憎んでいたのである。
  その心の闇に比べれば、多少の怪奇など気にしても意味がないと思われたのだった。

コメント

  • 古いホテルであったり、古くからある場所というのは、やはりなにかが住み着いていそうですね。果たして真相はわからず、襲ったのが友人だったのか、それとも友人の逆恨みの気持ちを利用してそこにいたなにかに利用されたのか。謎が残るエンディングがより怖さをひきたてていました。

  • シチュエーションの表現がうまくされていて、イメージしながら読み進めることが出来ました。言葉の選びも作者さまのセンスの良さがうかがえました。ホテル、、、昔から何かと題材にされますが、きっと何か沢山のことがあるんでしょうね。

  • 緊張感のあるストーリー展開で、心霊現象も人間も恐ろしく感じてしまう作品ですね。ラストの余韻も含めて充実感のある作品に満足です。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ