the gossiper

山本律磨

the gossiper(脚本)

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山本律磨

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〇田舎の役場

〇音楽室
向井「~♪」

〇音楽室
みひろ「~♪」
みひろ「・・・!」
みひろ「~♪」

〇音楽室
向井「いかんいかん」
向井「ははっ。つい娘ばっか撮っちまう」
向井「お仕事お仕事」

〇音楽室

〇田舎の役場
子供「せんせいさようなら~」
麻美「は~い。気をつけて帰ってね~」
みひろ「パパ~」
向井「おう。帰るぞ~」
向井「今日はどうも有難うございました」
麻美「いえいえ。みひろちゃんのお父さんの取材なんて光栄です」
向井「地方紙ですけど一応県内全域で発売されるんで、楽しみにしていて下さい」
麻美「生徒さん増えたらどうしようかしら?」
向井「忙しくなりますよ~」
みひろ「なりますよ~」
麻美「あははは!」

〇土手
向井「取材終わりました。はい、娘と一緒です」
向井「あ、はい。そうですかすいません。じゃあお言葉に甘えて」
向井「お疲れ様でした」
向井「一緒に帰っていいって」
みひろ「やった!」
向井「からの~」
向井「ダッーシュ!」
みひろ「うわっ!ズルっ!」
みひろ「待てーっ!」
加藤「・・・」
加藤「変われば変わるもんだな」
加藤「・・・つって」

〇街中の道路

〇役所のオフィス
加藤「どーもー。こんにちはー」
村西「はい。何か?」
加藤「向井さんいらっしゃいますか?アポはもう取ってんすけど」
向井「おう!こっちこっち!」
向井「もうすぐ飯休だから下で時間潰しててくれ」
村西「君のお客さんならぞんざいに扱えないな。応接室使っていいよ」
向井「な、なんかすいません。編集長」
加藤「さすが向井先輩。特別枠っすね」
村西「こちらへどうぞ。ええと・・・」
加藤「週刊チャンスの加藤です」
加藤「汚れ仕事の後継者。なんつって」
村西「ははっ。いやいや大したお仕事ですよ」
向井「・・・」

〇応接室
村西「どうぞ」
加藤「なんかスイマセン。編集長直々に」
村西「東京と違ってこっちは暇だからね」
加藤「そうなんすか?羨ましいな」
向井「今だけだ。入稿前はそれなりに忙しい」
加藤「へーそうなんすかー」
向井「・・・」
村西「・・・」
村西「じゃ、じゃあごゆっくり」
加藤「あ、これ。先輩が撮った雑誌っすか?」
加藤「ふ~ん」

〇湖畔

〇丘の上

〇幼稚園

〇応接室
加藤「・・・」
加藤「全部、没」
向井「・・・」
加藤「五年前、東京にいた頃の先輩だったらきっとそう言うだろうな~つって」
向井「もう、あの頃とは違うんだ」
向井「俺も、俺の周りの世界もな」
加藤「・・・」

〇散らかった職員室
「没」
「没」
「没」
「没、没、没、没、没、没、没、没!」
向井「お前さ。何だよコレ?」
加藤「す、すみません」
向井「パンチ弱いよ。不倫会見だぞ」

〇会見場

〇散らかった職員室
向井「こんなポスターみたいな写真撮ってんじゃねえ」
向井「三文女優のペラい芝居ばっか映しやがって」
向井「没」
向井「没」
向井「ダメ」
向井「ダメ」
向井「ダメだダメだダメだバカヤロウ!」
加藤「すみません」
向井「すいませんじゃねーよ。声ちっちぇーな」
向井「むいてねーんじゃねえ?この仕事」
加藤「すいません・・・」
向井「・・・うん?」

〇会見場

〇散らかった職員室
向井「おい、これ・・・」
加藤「あ、それは会見が終わって帰る時の」
向井「コイツ、笑ってるよ」
加藤「無事終わって安心したんですかね?」
向井「いいじゃねえか」
加藤「え?」
向井「不倫女優、黒石ルイの無反省。無事に質問攻撃をかわして安堵の笑顔」
向井「これでいくぞ。加藤、よくやった」
加藤「・・・」
向井「これだよ加藤。こういうの撮れ」
向井「俺らは人間のこういうツラを暴くんだ!」
向井「ひゃはははは!」
  『いやー、当時はぶっちゃけ引きましたけどねー』

〇応接室
加藤「でもよく考えるとあの笑顔からあれだけのストーリーを作り出せるなんて。ほとんどクリエイターじゃんって思いましたよ」
向井「ただのでっち上げだ」
向井「人として恥ずべき仕事ぶりだった」
加藤「そうっすかね?」
加藤「俺は向井さんの書いた記事こそが真実だったと思ってますよ」
加藤「あの無反省不倫女優は、心底世間をせせら笑ってたって」
向井「だとしても・・・」
加藤「まあそりゃ最終的にはやりすぎだっつって本社の逆鱗に触れちゃいましたけど、俺は先輩のそんなやりすぎなとここそが」
向井「で、本当は何の用だ?」
加藤「はい?」
向井「まさかわざわざ東京からここまで、飛ばされた俺を笑いにきた訳じゃないだろう?」
加藤「・・・」
加藤「じつは、この写真なんすけどね」
向井「・・・これは」

〇大きいマンション

〇おしゃれなリビングダイニング
向井「・・・」
愛「珍しいね。食べてくるなんて」
向井「ああ、悪いな連絡しそびれて」
愛「まあ、こんな田舎街で浮気の心配なんかしてないけどさ」
向井「ああ」
愛「今度の記事、楽しみにしてるから。みひろの通ってる音楽教室の特集」
向井「ああ」
向井「・・・」
愛「私、今のあなたの書く記事好きだな」
愛「東京にいた頃よりもずっと」
向井「・・・」
向井「そっか」
愛「うん」
向井「飲めよ。たまには」
愛「うん」

〇大きいマンション

〇おしゃれなリビングダイニング
向井「・・・」

〇ビジネスホテル
  『この女・・・』
  『ははっ、よくご存じのはずですよ』

〇応接室
加藤「3年前の写真でちょっと写り悪いですが。男のほうは大手芸能事務所キングプロ社長真柴吉秀です」
加藤「そして隣に映ってるのが、白木カヲルっていうアイドルで真柴の愛人だった女です」
加藤「ま、アイドルっつーのは結構気をつかった言い方でして」
加藤「ようはソッチ関係のアイドルさんっすね。俺も随分お世話になりまして・・・」
加藤「・・・つって」
加藤「で、まあ早々に捨てられたんだか捨てたんだか知らねーけど手切れ金たんまり貰って芸能界から消えてなくなったそうです」
向井「だ、だから何だ。その話と俺に何の関係が」
加藤「え?さっき自分が言ったじゃないっすか?この女って」
向井「そ、それは・・・」
向井「この女・・・は誰だよ?って意味」
加藤「・・・」
加藤「それに俺も言いましたよね」
加藤「よくご存じのはずでしょ?って」
向井「・・・」
加藤「あ~!」
加藤「もうさー。そういう三文芝居やめてもらえないっすかー。マジ、キメチ悪ィんすけど」
向井「『どこかの町』に消えた『この女』・・・」
加藤「『この町』の『あの女』まで辿りつくのに一年かかりましたよ」
向井「そうか・・・」
向井「で、そんな事調べてどうする気だ?」
向井「まさか、元アダルト女優ってだけで一般人吊るし上げる気じゃないだろうな」
加藤「あーあ」
加藤「随分と勘の方も鈍っちゃいましたねー」
加藤「わざわざ訪ねた俺がアホすぎた、ってか?」
向井「ああ?」
加藤「俺が狙ってんのは真柴の方っすよ」
向井「なに?」

〇ホストクラブ
  『あの男、影でヤクザと通じて芸能界中にクスリ撒き散らしてるらしいんすよ』
  『で、裏取りたいんすけど何十年も裏街道にドップリ浸かってるだけあって中々浮き上がってこねえっつーか』
  『だからここは一発、三年前に見せた唯一の隙をほじくり返して・・・』

〇応接室
向井「ふざけるな!」
向井「手前の都合で関係ない人を巻き込むんじゃねえ!」
「おーい!向井君、どうしたー大声出して」
向井「ああいえ、何でもありません。すみません」
向井「・・・ここは静かな街なんだ」
向井「お前や昔の俺みたいな人間が引っ掻き回していい場所じゃない」
加藤「声」
向井「え?」
加藤「声ちっちゃくて聞こえねーよ」
加藤「むいてねーんじゃね?この仕事」
向井「・・・」
加藤「先輩、ずっとこのままでいいんすか?」
加藤「ネットだのリテラシーだのの影響で先細っていくこの業界。これ逃したら、返り咲くチャンスなんてもうねえぞ」
向井「か、返り咲くなんて」
加藤「は?」
加藤「今、雌伏の時だったんじゃないっすか?」
向井「・・・え?」
加藤「一生ここで骨になる気だったんすか?」
向井「・・・」
加藤「ははっ・・・ははははっ!」
加藤「あはははははははは!そうだったんすか!そりゃスイマセンでした!ははははは!」
向井「・・・」
加藤「今の先輩がやってることって、事実をなぞってるだけっすよね」
向井「そうだ。何が悪い」
加藤「つまりは『オシゴト』だ」
加藤「昔の先輩がやってたのは『使命』なんすよ」
向井「使命・・・」
加藤「俺はそれを引き継いだつもりだったんです」
加藤「そして一人前になった今、向井先輩と一緒に使命を果たそうと思ってここに来たんですよ」
向井「何だよ・・・使命って」
加藤「事実程度じゃない。真実を伝える使命だ」
加藤「俺らは真実を紡ぐって使命があるんだよ!才能ある人間だけに許された使命が!」
加藤「人の心を看破し、過ちを晒し、芯を食い、これが正解だと大衆に知らしめ導くんだ!」
加藤「仕事じゃねえぞ!天から授かった役割だ!才能のある者だけがやらなきゃないんねえ天命なんだよ!」
向井「・・・」
向井「馬鹿なことを・・・」
加藤「まあ、あれっすわ。昔の先輩なら分かってくれただろうけど」
加藤「今のアンタにゃ理解できねーか」
加藤「じゃあな、馬の骨」
向井「・・・!」

〇おしゃれなリビングダイニング
向井「使命・・・天命・・・」
向井「はは・・・ははははは・・・」
向井「馬鹿じゃねえの?アイツ」
向井「あははははは!」
「ちょっと~何もう~まだ酔っ払ってんの?」
「何時だと思ってんのよ。みひろ起きちゃうでしょ~」
向井「・・・」
  『じゃあな、馬の骨』
向井「・・・」
向井「馬の骨か・・・」
向井「・・・ふふっ」
向井「くくくく・・・」
向井「このまま・・・ずっとここでこのまま」
向井「馬の骨」
向井「ははは・・・ははは・・・ひゃはは・・・」

〇骸骨

〇広い公園
「いや~度々すみませんねえ~」
向井「こないだはレコーダーの調子が悪くって、取材内容全部飛んじゃったんですよ~」
麻美「いいですよ。いくらでもお話ししますわ。何たってみひろちゃんのお父様の取材ですもの」
向井「いやいや申し訳ない。じゃあいいですか?」
麻美「なんだか今日はちょっと雰囲気違いますね」
向井「はははっ。取材は私の天命なので、今日は本気で行きますよ~」
向井「・・・つって」
麻美「はい。お手柔らかに」
麻美「あ、あとそちらの方は?」
向井「カメラ担当です。ただの助手なんで、気にしないで下さい」
加藤「どうも」
加藤「今日は勉強させて頂きます」
麻美「なんだか緊張しちゃうな」
向井「それでは早速」
向井「まずは東京に住んでた頃のお話からお伺いして宜しいですか?」
麻美「・・・え?」

〇広い公園
  『白木カヲルさん』

コメント

  • 前半で地方生活のほのぼの感がしっかりと描かれていただけに、後半からラストにかけての後味の悪さが今作でも冴え渡っていました。情報化社会の現代では、どんなに生活の場所を変えても時間が経っても、追いかけてくる過去の自分からは逃げられないんですね。…つって。

  • 最後の最後にドキッとさせられました。人の過去って特に隠したいものほど完璧にけしされないものなんですね。向井さんがどんな処置をしていくのか楽しみです。

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