ムゲンの街(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
カチカチカチカチカチカチカチカチ
「と、京王井の頭線の終着駅にまだ改札鋏の音が響き渡っていた」
「交差点を行き交う人の波を見て『あ、今日は祭りなんだ』と思った」
亜蘭「そんな私はそんな時代に、女優を目指してやってきた」
亜蘭「無限の可能性を追いかける勇者達の街に」
亜蘭「なんちゃって」
〇古いアパート
亜蘭「まだこういうアパートも街の一角に存在し私もまた夢追い人の例にもれず昼はバイトに明け夜は劇団の稽古に暮れる日々」
亜蘭「さてここで唐突に私の恋人平井三郎を紹介します」
亜蘭「理由は演劇関係とは関係ない会社員のお隣さんと付き合っていた私の女性としての堅実さを評価してほしいのと」
亜蘭「そしてもう一つ、次のシーンは彼が主役だから」
亜蘭「じゃあ一旦ハケます」
三郎「ひゃああああっ!」
〇アパートの玄関前
三郎「亜蘭ちゃん亜蘭ちゃん亜蘭ちゃん!」
亜蘭「なに?寝てたんだけど・・・」
三郎「シミ!」
亜蘭「悪かったわねノーメイクで」
三郎「ち、違うの!部屋にシミが・・・」
亜蘭「?」
〇本棚のある部屋
亜蘭「・・・気のせい」
亜蘭「以上」
亜蘭「おやすみ」
三郎「待って待って待って!」
亜蘭「私、明日早いんだけど」
三郎「気のせいなんかじゃない」
〇本棚のある部屋
ぴちょん。ぴちょん。ぴちょん。
三郎「壁一面からしたたり落ちる水滴」
〇本棚のある部屋
亜蘭「結露じゃん」
〇本棚のある部屋
ぺちゃ。ぺちゃ。ぺちゃ。
三郎「窓一面がじっとりと濡れている」
〇本棚のある部屋
亜蘭「だから結露じゃん」
〇本棚のある部屋
三郎「ふと気づくとあたり一面火の海に」
亜蘭「話を盛るな!」
〇本棚のある部屋
三郎「でも本当なんだよ」
三郎「その水滴がシミになって・・・」
三郎「そのシミが人の影になって・・・」
三郎「その影が僕の体を締め付けて・・・」
三郎「そして・・・」
亜蘭「まあ確かにここ、訳アリ物件とは聞いてたけど」
三郎「え?訳アリって?」
亜蘭「ちょっとした欠陥住宅。みたいな?」
三郎「欠陥住宅か。何だ。だから結露が酷いんだ」
亜蘭「あとお祓いもちゃんと済んでるみたいだし」
三郎「やっぱそっちじゃん!霊的な方じゃん!」
三郎「ねえ泊まってってよ!一緒に寝てよ!」
亜蘭「凄い誘い方するわね」
三郎「そ、そういう意味じゃなくて」
亜蘭「そういう意味だったらコロス」
〇稽古場
猪苗代「あはははは!」
亜蘭「もう、笑いごとじゃないわよ。あいつ思い込みが激しいくせに気が弱いのよね。典型的なオタクね」
亜蘭「マジ別れようかな」
猪苗代「そんな勿体ない。堅実なサラリーマンなんでしょ」
亜蘭「冗談よ」
亜蘭「そっちこそどうなの?座長とは?」
猪苗代「ラブラブどす」
亜蘭「じゃあ夢は諦めな」
猪苗代「へ?」
亜蘭「夢を見続けたいならこの街に居続ける」
亜蘭「その為には時間とお金がいる」
亜蘭「夢見る男は女から金と時間を奪うものよ」
猪苗代「べ、勉強になります!」
亜蘭「じゃあ授業料といっちゃ何だけど、ちょっと協力してくんない?」
猪苗代「ほへ?」
座長「よーしみんな集まれ!アップから始めるぞー!」
猪苗代「あ、座長。別れて下さい」
座長「えええええ?」
〇本棚のある部屋
亜蘭「紹介します」
亜蘭「私の遠い親戚で陰陽師のアベノカワハルアキさん」
三郎「おんみょうじって?」
亜蘭「お祓いとかする人」
安倍川晴明「蠢いています」
三郎「な、何がですか?」
安倍川晴明「人の思念の成れの果て。報われず諦めきれない怨念が」
安倍川晴明「今からそれを浄化します」
安倍川晴明「オンアラカワクノソバヤ・・・オンアラカワクノソバヤ・・・」
三郎「今、荒川区の蕎麦屋って・・・」
亜蘭「静かに!」
安倍川晴明「オンアレキサンダーソワカ・・・オンアレキサンダーソワカ・・・」
三郎「今アレキサンダーって・・・」
亜蘭「うるさいわね。除霊失敗していいの?」
三郎「ひっ!」
安倍川晴明「喝だーっ!」
安倍川晴明「・・・」
安倍川晴明「怨念は取り除かれました。仮にこれから何か起こっても、それは良い霊に変わったという証です。気になさらず暮らして下さい」
三郎「いい霊に?」
亜蘭「良かったじゃん!」
三郎「あ、有難うございます!」
安倍川晴明「南無!」
〇古いアパート
亜蘭「サンキュ。あいつ思い込み激しいからさ」
猪苗代「どういたしましてん」
亜蘭「でもさすが即興芝居の達人ね」
亜蘭「人の思念の成れの果て。報われず諦めきれない怨念が蠢いているか」
猪苗代「へへへ。それっぽかったでしょ?」
〇渋谷のスクランブル交差点
「人の思念・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
「諦めきれない怨念・・・」
〇女の子の一人部屋
亜蘭「!?」
亜蘭「・・・」
亜蘭「変な夢・・・」
亜蘭「・・・」
〇劇場の舞台
亜蘭「ロミオ。どうか私に最後の勇気を・・・」
亜蘭「ああ・・・お休みロミオ」
〇女の子の一人部屋
亜蘭「!?」
亜蘭「何なのよ一体・・・」
ぴちょん。
亜蘭「結露・・・」
亜蘭「早く寝ないと。バイト早いし・・・」
〇コンサートホールの全景
亜蘭「ずっと小さな舞台に立ってきたけど、今日この日が来てよかった!」
亜蘭「みんなありがとう!」
〇女の子の一人部屋
亜蘭「!?」
亜蘭「なんなのよ・・・もう・・・」
ぴちょん。ぴちょん。
亜蘭「・・・」
〇稽古場
猪苗代「あはははは!」
亜蘭「笑いごとじゃないわよ」
亜蘭「変な夢ばっか見て全然寝れなかったんだから」
猪苗代「本当、いつまで変な夢ばっか見てるの?」
亜蘭「え?」
猪苗代「あはははは」
猪苗代「夢?芸能界?馬鹿じゃないの?あははは」
猪苗代「あはははははははははははははははははは」
〇女の子の一人部屋
亜蘭「!?」
亜蘭「・・・」
ぴちょん。ぴちょん。ぴちょん。
〇本棚のある部屋
三郎「凄い誘い方するね」
亜蘭「う、うるさい」
亜蘭「朝まで一緒にいたげるんだから感謝しなさい」
三郎「はい。感謝します」
亜蘭「・・・」
〇古いアパート
ぴちょん。
〇本棚のある部屋
ぴちょん。
ぴちょん。ぴちょん。
亜蘭「ねえ、起きてよ」
三郎「ううん・・・」
亜蘭「結露が・・・」
ぴちょん。ぴちょん。ぴちょん。
亜蘭「す、水滴が影に・・・」
三郎「もう大丈夫だよ・・・いい霊に変わったんだから・・・」
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
〇本棚のある部屋
ぴちょぴちょぴちょぴちょぴちょぴちょ
ぴちょぴちょぴちょぴちょぴちょぴちょ
亜蘭「起きて!ねえ起きてったら!」
ぴちょぴちょぴちょぴちょぴちょぴちょ
亜蘭「引きずり込ま・・・」
三郎「大丈夫だって・・・」
三郎「亜蘭ちゃんには夢があるんだから・・・」
三郎「ZZZ・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
亜蘭「あれから随分経って、街も変わったわね」
亜蘭「最初に来たとき思ったわ」
亜蘭「ここは私の街だって」
亜蘭「私の家だって」
〇渋谷のスクランブル交差点
亜蘭「だから私は今もここに居続けてる」
亜蘭「そしてどこにでも、誰にでも会いにいける」
亜蘭「だってここは私の・・・」
亜蘭「私達の街でしょ?」
亜蘭「さあ、一緒にここで暮らしましょう」
亜蘭「夢幻(ゆめまぼろし)に取り憑かれた亡者達の街で」
〇渋谷のスクランブル交差点
あ…ら…ん「ナンチャッテ」
ほらぁ、ホラーじゃないですかぁ、押すなよ押すなよって、やっぱり押すんじゃないですかー。ダチョウ好きより。
「ぴちょん」という文字が見えるたびに
少し身構えてしまいました😂笑
結露だと思いたかった…笑
自分のいる部屋が少し怖く感じました(笑)どの場所にも何かしらの気持ちはあると聞いたことがありますが、改めてお話にして読むと怖くなりました。