黒猫アンティーク

おけの

風景画(脚本)

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〇メリーゴーランド
女性「絶対に離れないでね」
  離れることなんてないさ──

〇宝石店
黒猫「・・・夢、か」
黒猫「・・・体でも舐めて、落ち着こう」
魔女「どうだい、客人は来たか?」
黒猫「いえ。今のところ、お店まで たどり着いたお客さんはいません」
黒猫「それよりも、その手に持っているのは 何でしょう?」
魔女「これはね、あの恋人達のものだよ」
魔女「ほら、よく見てごらん。 この二人、幸せそうだろう」
黒猫「あの恋人たちですね」
黒猫「上手くいったようでよかったです」

〇湖畔の自然公園
悟「すみれの誕生日までもう少し・・・」
悟「風景画を完成させないと・・・」
悟「喜んでくれるかな」
悟「今、何時だ?」
悟「そろそろすみれが来る頃か・・・」
悟「誕生日プレゼントの絵は隠さないと」
悟「売り物の絵でも描くか」
すみれ「お待たせ~」
悟「久しぶり」
すみれ「そうね。 一カ月ぶりになるかしら」
悟「相変わらず、すみれは忙しいもんな」
すみれ「やりがいがあるから、楽しいんだけどね」
悟「じゃ、絵を片づけるから待ってて」
すみれ「うん、手伝うよ」
  1ヶ月に2回会えればいい方だった。
  
  それでも、悟はすみれとの時間が
  
  何よりも大事になっていた──
  三か月後──
悟「今回はいつも以上に会えなかったな・・・ やっとすみれに会える」
悟「やっと来たな・・・今日は寝坊でも──」
悟「すみれ・・・痩せてないか?」
すみれ「悟・・・ごめん」
すみれ「私・・・」
すみれ「これ以上、悟と一緒にいられない・・・」
悟「何で、急にそんなこと・・・」
悟「それに、泣いて・・・ 収入が気になるなら、俺、 ちゃんとした会社に勤める覚悟はあるぞ!」
すみれ「そうじゃないの・・・」
すみれ「私・・・悪性のガンだって」
悟「え?」
すみれ「ずっと、言えなかったの。 あなたと会って、 すぐのことだったから・・・・・・」
すみれ「寂しくて、怖くて・・・・・・」
すみれ「でも、やっと決心出来たの。 もう、あなたに会わない決心を」
すみれ「だから、お別れを言いに来たの」
悟「何でそんな勝手なことを言うんだ!!」
悟「君を・・・愛しているんだ」
悟「どうして・・・別れなきゃならない?!」
すみれ「私・・・あと3ヶ月の命なの」
悟「そ、そんな・・・」
すみれ「せっかく、悟の絵が売れてきたのに」
すみれ「私のせいで描けなくなってほしくないの」
すみれ「そういうことだから・・・」
すみれ「これだけは伝えたくて・・・」
すみれ「さよなら・・・」
すみれ「今まで私を愛してくれて ありがとう──」
悟「わ、別れるなんて・・・・・・言うなよ」
悟「お前が居なくなるなんて、 俺には耐えられない」
  ましてや、最期を見届けることも
  出来ないなんて、苦痛だ。
すみれ「でも・・・」
すみれ「今の私は・・・」
すみれ「あなたの重荷になるわ」
悟「お前の側に居させてくれ ・・・頼む」
すみれ「う・・・うん・・・」
すみれ「ありがとう・・・悟」

〇病室
  やがて、すみれは入院した。
悟「今日は、すみれが好きだって言ってた 絵が売れたんだ」
すみれ「本当? どんな人が買ってくれたんだろうね」
悟「ネット販売だったから、よくわからないけれど、丁寧な文章を書く人だったよ」
すみれ「その絵、私の好きな花が 描かれていたでしょう?」
悟「すみれが好きだって言ってたから、 よく描いてたからね」
すみれ「いつか、あのホビーの花畑に行きたいな」
悟「いいな。 今度退院したら、ホビーの花畑に行こう」
悟「近くにないか探しておくからな」
すみれ「ありがとう・・・」
悟「すみれ?」
すみれ「ごめんなさい・・・ ちょっと疲れちゃったみたい」
悟「そっか。 そうだよな」
悟「身体に合うか試してる 抗がん剤なんだもんな」
悟「俺のことはいいから、 よく眠るといいよ」
  すみれは、抗がん剤が
  合わなくなってきていた。
  
  抗がん剤の種類を変えてみるものの、
  次第に効果が薄くなっている──

〇湖畔の自然公園
悟「くそっ!!」
悟「欲しい色がでない──!!」
悟「すみれの誕生日に喜ばせたいのにっ!」
悟「どうして・・・」
悟「なんで・・・」
悟「すみれが苦しまなきゃいけないんだ」
悟「・・・」
悟「誕生日までには間に合わせる──!」

〇草原の道
悟「すみれ・・・」
悟「何か俺に出来ることはないのだろうか」

〇街の宝石店
悟「あれ?」
悟「ここはどこだ?」
悟「考えごとをしすぎてしまったか」

〇街の宝石店
悟「うわっ」
悟「土砂降りか!」
悟「近くの店に入らせてもらおう」

〇宝石店
悟「ついてないなぁ」
「お客様、ついてますよ」
悟「あれ、どこから声が?」
黒猫「お客様の足元ですよ」
悟「なんだ、猫か。 猫がしゃべるわけ──」
黒猫「ぼくがしゃべってますよ」
悟「えっ!?」
悟「猫がしゃべった・・・ 俺、疲れてるのかな」
黒猫「確かに、あなたは疲れてますね」
黒猫「あなたは恋人のために、 ずっと背景画を描いてる」
悟「なぜ、それを・・・」
黒猫「あなたを見ていましたから・・・」
黒猫「恋人の好きな花の色が 作れないのでしょう?」
悟「あぁ、その通りだ。 色を作っても、作っても」
悟「色を重ね合わせても──」
悟「すみれの好きだったホビーの色には ならない」
黒猫「あなたの求めている色を 作れるようにできますよ」
悟「本当か?」
黒猫「ええ。 ぼくがしゃべれるくらいだもの」
黒猫「これを持って行くといいですよ」
悟「これは・・・」
黒猫「あなたの望む色を作ることができる パレットです」
悟「そんな調色版があるなんて・・・」
黒猫「ただ、このパレットで風景画を描くと」
黒猫「その中に取り込まれてしまいます」
悟「どういう意味だ」
黒猫「そのままの意味ですよ」
黒猫「そのパレットで描かれた風景画に 取り込まれ、永遠に出て来られない」
黒猫「その風景画を見た相手も一緒に」
黒猫「時が止まったまま、 永遠に出てくることは出来ません」
悟「それを売ってくれ」
黒猫「本当にいいんですか?」
悟「あぁ、願ったり叶ったりだ」
悟「きっと、すみれの命はもう少ない」
悟「それだったら、俺は──」
黒猫「わかりました」
黒猫「これはお金がかからない物ですので どうぞ、そのまま持ち帰ってください」

〇草原の道
悟「不思議だ・・・」
悟「この色調版を持っているだけなのに 色が作れる気がする・・・」

〇簡素な一人部屋
悟「あぁ、すごい・・・」
悟「黒猫の言っていた通り、作れる!」
悟「この色調版のおかげだ・・・」
悟「はは・・・これで完成するぞ」
悟「あぁ、良い色だ。 すみれの好きなホビーの色」
悟「これで、すみれとずっと一緒だ」
悟「ははっ・・・ははははははははははは」

〇病室
悟「すみれ、起きているか?」
すみれ「どうしたの? 今日はもう、来ないと思ってた」
悟「結婚しよう」
すみれ「・・・・・・」
すみれ「嬉しい・・・ありがとう、悟」
すみれ「頑張って、長生きするわ」
悟「何も心配するな、すみれ」
悟「俺達は、永遠の夫婦になれる」
すみれ「永遠だなんて──夢みたいなこと」
悟「本当だ」
悟「そして、誕生日おめでとう、すみれ」
すみれ「わぁ! きれい!!」
すみれ「私の好きなホビーの花ね。 以前よりも色が本物にそっくり」
悟「永遠に、夫婦でいてくれるか?」
すみれ「もちろんよ」
すみれ「例え、私が命を落としても──」
悟「あぁ・・・その言葉を待ってたよ」
看護師「失礼します」
看護師「検温に来ました──」
看護師「え? 誰もいない──?」
看護師「え、ここの患者さんは 遠くまで動けなくなってたはず!」
看護師「ええ!! ちょっとナースコール!」
看護師「ここの患者さんが見当たりません!! 捜してきます!!」
看護師「今、笑い声が聞こえた?」
看護師「あれ──?」
看護師「彼氏さんからの贈り物かしら・・・」
看護師「顔はよく見えないけれど、 患者さんとその彼氏さんに 雰囲気が似てるわね・・・」
看護師「って、それより、 辺りを確認もしなくちゃね!」
魔女「さ、風景画を回収、回収〜」
魔女「2人の邪魔をするものが いないところへ行きましょ」

コメント

  • とっても切なく、そして考えさせられる物語ですね!誰もが認めるハッピーエンドではないですが、悟さんとすみれさん的には幸せなのかもですね。この絶妙に悩ましい具合に胸をくすぐられます!

  • 今回は黒猫ちゃん的には成功、ということでいいのかな。幸せといえば幸せですが、両手を上げてといかない複雑さがあって面白いです。

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