オネおじと俺の華麗なる日常

純鈍

ある日『ブーケトス』(脚本)

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〇結婚式場のレストラン
  ある天気の良い日のこと
  何故か俺はオネおじと結婚式場に来ていた。
  オネおじの前の上司が結婚するというので仕方なく式に参加することになったらしい
  だが、なんで俺まで巻き込まれた?
  たまには高くて美味い飯を食わせるためか?
  新郎新婦のスピーチを聞きながら、一体何のために参加させられているのか考えてみたが、俺の硬い頭では何も思い付かなかった。
  円卓にて、少し距離を空けて隣に座るオネおじの顔をチラッと覗いてみた。
やこ(おい、自分が結婚したみたいに感動的な雰囲気に浸ってんじゃねぇぞ? 泣きそうじゃねぇか。女々し過ぎるだろうがっ)
やこ「おっと」
  周囲のちょっとした人間からこちらが注目されるように、わざと銀のスプーンを床に落としてみた。
係の女性「大丈夫ですか? こちら新しいスプーンです。どうぞ、お使いください」
やこ(必殺、俺の“外面だけは良い”の攻撃!)
やこ「すみません、ありがとうございます」
  と、言いながら、すかさず奴の表情を確認!
やこ(目、かっ開いてんじゃねぇか! 新郎新婦の横に隕石でも墜落したんか?)
  涙を乾かすために両目を見開いているのだろうが、逆に涙が出てくるだろうし
  周囲から「あの人には一体、何が見えているのだろう?」と思われたに違いない。
  一瞬、ザワついたのはその所為だろう。
  そのザワつきが意味も無く拡がり、式場内の特に端の方は「理由は分からないけど私たちも」という協調性を見せつけた。
  実に素晴らしかった。
  スタンディングオーベーションだ。
結婚式司会「とても素晴らしいスピーチでした」
結婚式司会「途中、不思議なザワつきがありましたが、本日出席することが叶わなかった新婦のお母様が姿を現してくれたのかもしれませんね」
やこ(すげぇ、オネおじが生み出した異様な空気を司会の女の人が良い話に落とし込んだ(※生み出したのはお前である))
結婚式司会「では、中庭の方に移動していただきまして・・・・・・」
  ここからオネおじのメインイベントが始まる。俺は俺の使命に気が付いてしまったのだ。

〇結婚式場の階段
結婚式司会「ご参加される方は階段の下にお集まりください」
  そう、すべては、このために呼ばれたのだ。
  その名もブーケトス。世の未婚女性が憧れるとされる、結婚式、最大の儀式。(※恐らく、間違っている)
あつ子「アタシみたいなとっくに成人してる真面目な男は近付けないけれど」
あつ子「ちょっとやんちゃしてるあんたみたいな男の子なら、ふざけて参加するってこともあり得る・・・。確実に――取りなさい」
やこ「褒美はもらえるんだろうなぁ?」
あつ子「もちろんよ」
  もっと前に行きなさいよ、という威圧的な視線が横の方から飛んでくるが、この覇気に満ちた女性陣の中に入るほどの勇気はない。
  それに、よく見てみろ、あの新婦の腕を
  あの鍛え上げられた腕は確実に後ろの方に飛ばすだろう
  そう思った瞬間だった。
  まるで呪いにでも掛かったように、一瞬ですべてがスローモーションになった。
  いや、俺の目にだけそんな風に映ったのかもしれない。
  強靱な新婦の腕から放たれたブーケというオレンジ色の華やかな弾丸が、真っ直ぐ俺目掛けて飛んでくる。
  ゆっくりと伸びていく俺の両手・・・、そして、その先に見えてくるものがあった。
  狩人の目をした女共がこちらに向かってくる様だ。
  その腕から逃れるために俺はその場に尻餅をついた。いや、本当は誰かに横から肩を押されて転倒した。
  それでも俺に迫り来るオレンジ色の弾丸と血走った目の狩人たち。
やこ(あ、これ死んだな・・・)
  俺は来る衝撃に備えて、両目を静かに閉じた。全世界のチャペルと俺が泣い──
あつ子「やこ、大丈夫か?」
  すげぇ近くから声が聞こえて、パッと目を開けてみると、オネおじが覆い被さるようにして俺を守っていた。
  しかも、あれだけの人数の衝突を受けたにも関わらず、倒れそうになった形跡もない。
  そして、その手には紛れもない、あのブーケがあった。
やこ(は? このイケメン誰だ・・・・・・? 俺の知ってるあつ子じゃねぇ・・・・・・)
あつ子「甥っ子を助けるために偶々割り込んでしまっただけなので、差し上げます」
  俺の腕を掴んで立ち上がったオネおじは、せっかく自分で勝ち取ったブーケを近くに居た見知らぬ女性にあげてしまった。
あつ子「行くぞ、やこ」
  ギュッと手を握られ、心臓が小さく跳ねた。そのまま誰に声を掛けることもなく、外へ出る門に向かっていく。
やこ(し、心臓が・・・・・・なんか、うるせぇ・・・・・・)
  参加者の横を通っていく中で「格好良い」とか「どなたなの?」とか言われていたが、オネおじは勿論嬉しそうではなかった。
あつ子「お前が無事で良かった」
やこ(いつまで手握ってんだよ・・・・・・)
  帰りの電車でも、ずっと俺の心臓は暴れていた。

〇玄関内
やこ「良かったのかよ?」
  家に帰るなり、奴がシクシクうるせぇから訊いてやった。玄関に座り込んで動かねぇから、まじうぜぇ。
  さっきのイケメンどこに食った?
あつ子「や、やこの方が・・・・・・ブーケより、大事だかるらぁ・・・・・・うぅっ」
やこ「泣きながら巻き舌すな。別におめぇが来なくともブーケそっちのけで逃げてたっつうの」
やこ「早く退け、通れねぇ。これからずっと土間に立たされる俺の身にもなれ」
あつ子「うぅ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」
やこ(ブーケがもらえなかったからって泣くほどのことかよ? 自分から他の奴に渡しちまったくせに・・・、外面気にし過ぎなんだよ)
やこ「俺、ちょっと出掛ける」
あつ子「ちょっとぉお、一緒に居てよぉお!」
やこ「失恋並みに泣かれてるところに居られるかっての!」
あつ子「やこぉ!」
  俺は奴を無視して外に出た。夕方の派手な色した空を背に、エレベーターに乗り込む。

〇お花屋さん
やこ(まあ、あのカッコ良さには憧れるっつーか? 助けられたからな、恩は返さねぇと。(※お前を危険に晒した根源はあつ子である))
  街に繰り出した俺は、代わりの花束を探すことにした。取り敢えず、花を渡しとけば治まると思ったのだ。めんどくせぇ。
  まず、立ち寄ったのは商店街にある近所の小さな花屋だった。いや、ここ以外に行く予定はない
  店の前を普通に通り過ぎるフリをしながら、外に並べられた出来合いの花束を見てみたが、馬鹿高けぇ。
  数え方は知らねぇが、一房? 一束? あ、一握りか。一握り2000円くらいだ。
やこ(これが選び抜かれた一握りの値段・・・超高ぇ)
  もう一度、戻ってきて中をチラ見しようとしたら花屋の美人なお姉さんと目が合った。
やこ「は、花一本って、何円ですか?」
  結局聞いた。平均、200円。花束にならねぇ。諦めた。

〇玄関内
やこ(まだ、そんなとこでメソメソしてんのかよ?)
  部屋に戻ると、奴は変わらず玄関に居座っていた。
やこ「あつ子」
あつ子「なぁに・・・・・・?」
やこ「ほらよ」
  顔を上げたあつ子に向かって、俺はさっき手に入れた簡素な花束を放り投げた。
  まるで半円を描くように飛んだその花束は見事、奴の腕の中に収まった。
あつ子「え・・・・・・、花束?」
あつ子「ちゃんとした、花束じゃないのよぅ・・・っ、あんたのことだから、また土手で、花でも、摘んできたのかと思ぶぇぇー」
やこ(きったねぇな、会話の途中で号泣すんなよ)
やこ「まあ、俺だって? 人の気持ちくらい分かるっつうか?」
やこ(人の心くらい俺だって持っている。だが、開始十秒で大号泣決め込んでるから見えてねぇと思うけど、それ・・・)
あつ子「も、もう゛ぅ、やこ・・・・・・えぐっ、あんたはなんて・・・・・・っうぅ、なんて良い子に育ったの・・・・・・ぉお!」
やこ(スーパーで安く売ってた仏花なんだぜ? 菊、多めのな。(※一握り498円税抜き))
  チーン・・・・・・
  次の日、学校から帰ると奴があれを仏花と気づいたのか知らねぇが
  「おすそわけ」というハートのメモと共に一本の白い菊が瓶に挿さって俺の部屋の机のど真ん中に置かれていた。
  自宅に居るのに、学校でイジメられてるやつみてぇになった。
  全世界の俺と仏様が泣いた。

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