私って

L-eye

怪物(脚本)

私って

L-eye

今すぐ読む

私って
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇大きい研究施設
由加「ここの・・・2階か」

〇綺麗な図書館
由加「あ、ここか・・・」
由加「写真によると・・・」
由加「この本の147ページから・・・」
由加「これか」
由加「『それを拝む為にはその重たい扉を越えねばならなかった。この時代ともなれば──』」

〇実験ルーム
  それを拝む為にはその重たい扉を越えねばならなかった。
  この時代ともなれば最早自動で開かぬ扉など余程の奥地でなければ見る事はない。
  都心で生涯の半世紀ほどを過ごした者であれば、
  例え未来しか知らぬ若者でなくとも、「これは稀代な門扉である」と誰もが口を揃えて言う事だろう。
  そのような世にも珍しい扉にそれは衞られているというのだから、
  奥にはさぞ立派な物を祀っているのだと推測する事はごく自然の行動だが、
  実際にある物は小さな『赤ん坊』のようなものが、その施設の中央部にいるのみであった。
  赤ん坊は透明な培養液のような物に浸かっており、時折その短身の鼻に当る部分から泡をぶくぶくとさせている。
  その赤ん坊が明確に成長を始めてからは、長らくこの研究所に訪れる者は現れていなかった。
  誰が立寄る事も無く、いつしか皆の記憶から、赤ん坊ごと存在すら忘れ去られていた。
  しかしここ最近では、
  この場所を知る者からは「静寂地獄」なる仇名を付けられ、この地の都市伝説の一つとして伝承付けられていた。
  静寂地獄というやや物騒な名前を巷で付けられただけの事はあり、
  よくよく耳を傾けぬ限り、無音と言っても差支えないほどの静かな空間であった。
  その静寂は半年ほど続いた。しかし今こそ、その静寂が破られようとしている瞬間だった。
  一人の男が走っていた。
  男はお世辞にも若いとは言えぬ見た目で、スーツ姿に赤色のネクタイ、さながら仕事帰りの父親のような風貌であった。
  しかし今駆けている男の走りは、その年齢に似つかわしくないような全力疾走であった。
  尤も、そのような走りになってしまうのは、男にとって、まあこう言ってしまえばデリカシーがないが、
  やれ誕生日、やれ結婚記念日といった、1年越しの恒例行事よりも余程優先したかった事項であった。
  男はその全力疾走のまま、例の赤ん坊のいる扉の前へと立った。と同時に、歩みを止める事なく、その扉を勢い良く押した。
  「生まれるっ!生まれるぞっ!」
  男は我を忘れたかの如く大声で叫んだ。
  本来大声とはいきなり出すものではなく、遠くの相手へ伝えたい時であったり、電話越しで声が通らない時であったり、
  そういった場面で使うものだ。何も知らない赤の他人が仮にその場に居合わせていたら、
  「ああ、何ておかしな人なんだ」と思わず口に出してしまうだろう。
  しかし、ひとたびこの男とこの赤ん坊に纏る背景を知ってしまえば、
  これがただ奇声を荒げるおかしな人、といった先程までの第一印象はすぐさま忘れてしまう筈だ。

〇大きい研究施設
  男には女房がおり、平日には会社に勤めていた。
  これが半世紀ほど前であれば、ごくごく一般的な家庭として、特に珍しがられる事もなかっただろうが、
  ここ最近の風潮では、『共働き』が一般的な夫婦生活なのだという風に、徐々に移り変りつつある。
  その昨今の夫婦事情から見れば、この片働き生活を知った者が総じて不思議そうに見ていたのも、
  今となっては「ああそうか」と頷ける事だろう。

〇魔法陣のある研究室
  そんな片働き夫にも趣味があった。
  毎晩夜遅くに会社勤めを終えると、足早に研究室へ向かい、『それ』の進捗を眺めた。
  「うん、上出来だ」男は満足そうに言った。
  「この調子だと、来年だな。『モンスタリア遺伝子』の投与も概ね順調。後は・・・」
  「ふん、まあ良い。これが出来上がる頃には、私は世界的な科学者として名を馳せている。そうしたらこの世界ともおさらばだ──」

〇綺麗な図書館
由加「これが・・・導入?」
由加「な、長い・・・眠くなってきた」
由加「次は・・・」
由加「4階か」

〇謎の部屋の扉
由加「・・・」
由加「どうやら、『手動ドア』みたいだね」
由加「こういう施設にしては珍しいかも」

〇実験ルーム
由加「・・・あ」

〇謎の部屋の扉
  それを拝む為にはその重たい扉を越えねばならなかった。

〇実験ルーム
  赤ん坊は透明な培養液のような物に浸かっており、時折その短身の鼻に当る部分から泡をぶくぶくとさせている。

〇実験ルーム
由加「やっぱり、実話・・・?」
由加「LINEにも、場所は書かれてるけど『どこを見るか』は書かれてない・・・」
由加「・・・しらみつぶしに探すしかないね」
由加「情報が載ってるものといえば・・・」
由加「まあ、これだよね」
由加「・・・・・・・・・」
由加「『人間1』・・・このファイルかな?」
由加「うわ、凄い」
由加「これがきっと、ここで造られた『人間』のパラメータなんだろうね」
由加「次が・・・『人間2』のファイル」
  以下の結果を記す。
  残虐性・・・8(10段階評価)
  凶暴性・・・10(10段階評価)
  危険度・・・10(10段階評価)
  制御困難。行動に常に監視が必要。
  定期的な破壊衝動あり。
  追記:破壊衝動の緩和条件確認済。
  1.精神薬の投与。
  2.衝動対象の誘導(破壊規模の縮小)。
  3.特定人物による愛情の供給。
由加「・・・これがきっと、生まれた時の『人間』のデータ」
由加「次のファイルが・・・」
由加「・・・『怪物』?」
由加「『パスワードを入力してください』・・・か」
由加「まあ、流石に見れる訳ないよね」
由加「でも・・・なんだろう」
由加「何か、心を揺さぶられる」
由加「・・・」
由加「これ以降のデータは、全て人間じゃなく『怪物』として処理されてる」
由加「鍵の付いてないファイルはあるかな」
由加「・・・・・・・・・」
由加「・・・・・・・・・・・・」
由加「・・・ダメだ、全部パスワードを要求される」
由加「最後のファイル・・・」
由加「開いた!」
  『怪物 結論』
  怪物(現:人間)の最終評価を此処に下す。
  残虐性・・・1(10段階評価)
  凶暴性・・・2(10段階評価)
  危険度・・・2(10段階評価)
  中間評価と比較すると全ての項目において大幅に低下。破壊衝動も現時点で皆無。監視の必要性無し。
  反面、究極人間としての役割は失墜。
  誕生時点での初期評価から中間評価にかけては数値が殆ど変わらなかった事から、
  この変化は中間評価以降の新たな育て手が及ぼした影響によるものである可能性大。
  以上の結果から、私はこの『人間』の未来を現段階での育て手に完全に譲渡する事を決定する。
  また、私は研究を完全に放棄し、今後は自由に生きようと思う。
  『怪物』が不在の今、最早私が為せる事など何一つない。
  願わくば、長らくこの『人間』の育て手となっていた『奴』にも幸せになってもらいたいものだ──
由加「・・・」
由加「この結論も、『情報』のヒントになるかな?」

次のエピソード:油断してると

成分キーワード

ページTOPへ