〇ビルの裏通り
太陽「あんたは──」

〇黒
　　俺は、あの時のことを忘れない

〇通学路
「もう、だいじょうぶだよ」

〇黒
　　たすけてくれた、あのヒーローを
　　俺は忘れない

〇ビルの裏通り
「もう、だいじょうぶだよ」
？？？「怖かったよね。 安心して、すぐに忘れられるから」
太陽「――見つけた!!」
？？？「え？」
太陽「俺のこと覚えてませんか!?」
？？？「ぇえっ？」
太陽「小さい頃、助けてもらって！ それからずっと憧れてたんだ！ でも全然会えなくて、ずっと捜してて──」
？？？「ちょ、ちょっと──」
太陽「お願いします！ オレもあんたみたいなヒーローになりたいんだ!!」
？？？「・・・ヒーロー、か」
太陽「人を襲う怪物と戦ってんだから ヒーローでしょ!?」
？？？「いや、僕たちは・・・」
？？？「いかないと！」
太陽「まって！」
？？？「ここへおいで」
？？？「僕たちと同じ―― マジカルパフォーマーになりたいなら、ね」

〇黒

〇高層ビルのエントランス
太陽「緊張するぜ！」
太陽「すみません！ ヒーローに会いにきました！」
受付嬢「大変申し訳ございません。 お約束のないお客様のお取次ぎは できかねます」
太陽「えぇ!? でも、オレ、名刺っ」
受付嬢「っ！」
受付嬢「大変失礼致しました。 取締役がお待ちです。 会議室にご案内いたします」
太陽「ほんと!?」

〇黒

〇小さい会議室
太陽（誰だ、この人たち・・・）
いかついおっさん「こいつが、翆が言ってたヤツかぁ？ まだガキじゃねぇか」
渋顔のおっさん「素質はあるそうだが・・・どうだか」
太陽「んだよ、おっさんたちはっ！」
いかついおっさん「はっはー！ 俺たちを知らないときたか！」
渋顔のおっさん「本当にマジカルパフォーマーに なりたいのかね？」
太陽「なりたいからここにいるんだ！ 俺はずっと捜してたんだ、ヒーローを！」
いかついおっさん「ひ、ヒーロー！ ぶっ、わはははは！」
太陽「わ、笑うなっ！」
渋顔のおっさん「そいつは放っておけ。 話は私が聞く」
太陽「は、はい！」
渋顔のおっさん「まずは問おう。 お前がなりたいヒーロー像とは？」
太陽「そりゃあ、弱い人を助ける強くて かっこいいヒーローに決まってんじゃん！」
渋顔のおっさん「よろしい。 ならば、今すぐ見合う実力があるか 試させてもらおう」
太陽「いいぜ、俺の心意気を見せてやるっ！」

〇稽古場（椅子無し）
太陽「いくぜっ！」
太陽「ガッ！」
渋顔のおっさん「立ちなさい」

〇黒

〇稽古場（椅子無し）
太陽（だ、だめだっ。 全然、相手の動きが見えない）
太陽（捕まえようとしても もう次の攻撃がくるっ）

〇黒

〇稽古場（椅子無し）
太陽「ぐあっ！」
いかついおっさん「おいおい、ちったぁ手加減してやれよ」
渋顔のおっさん「殺さないように気をつけはしたさ」
太陽「うっ・・・・・・」
渋顔のおっさん「さあ、わかっただろう？ お前に夢と見合う実力はない ということを」
渋顔のおっさん「全部忘れて、家に帰れ」
太陽「ぐっ、イヤ、だっ！ 諦め、ないっ」
いかついおっさん「おうおう、根性だけは一人前だな。 嫌いじゃないぜ」
いかついおっさん「でもな、オレも帰ったほうがいいと思うぜ」
太陽「ぐぅっ」
いかついおっさん「なにせお前は本質が見えてねぇんだからな」
太陽「ほ、本質？ ヒーローは、人の、ためにっ」
渋顔のおっさん「まるでわかっていないな。それで？ ヒーローになって人のために働いて 見返りは何がほしい？」
渋顔のおっさん「称賛か？　感謝か？ 自分の強さを承認してもらうことか？」
太陽「お、オレは何も・・・」
渋顔のおっさん「マジカルパフォーマーのことはな 誰の記憶にも残らない」
太陽「え？」
渋顔のおっさん「助けても、助けた事実は消える」
太陽「嘘だ！ オレはっ、覚えて――！」
渋顔のおっさん「お前は何故か覚えているようだが 特殊な例だ」
渋顔のおっさん「デメリットを理解しろ。 助けても何も得られない」
渋顔のおっさん「自分の命を危険に晒すリスクがある。 怪物ギッシュに負けて死んだのなら・・・」
渋顔のおっさん「日常で関わったすべての人の記憶から お前の存在が消える」
太陽「なっ」
渋顔のおっさん「マジカルパフォーマーになりたいのなら 人間を辞める覚悟がいるということだ」
いかついおっさん「そういうこった。 さ、治療はしてやっからよ。 お帰りはこちらだぜ」

〇学生の一人部屋
太陽「あいててっ・・・くっそ～！」
太陽「すぐ言い返せばよかった！ リスクなんかしらねー！　って!!」
太陽「やっと、やっと見つけたチャンスなんだっ」
太陽「絶対諦めねぇぞっ！」

〇小さい会議室
いかついおっさん「あいつ、記憶がなくなんねぇのな」
渋顔のおっさん「ぐ、面倒くさいな。 しかも、あれから毎日来訪するし・・・」
いかついおっさん「クククッ、ほだされちまいそうか？」
渋顔のおっさん「まさか。 そういうのに弱いのはお前の方だろう？」
いかついおっさん「ちげぇねぇ。 でもよ、覚えてるのは危険じゃねぇか？」
渋顔のおっさん「だとしても、だ。 力のない一般人に何もできるはずがない」
渋顔のおっさん「憧れを夢見たまま日常という天国にいるほうが幸せだろう」
いかついおっさん「天国ねぇ。 じゃあ、さしずめオレたちゃぁ、 地獄にいるってわけか、うまいねぇ」
渋顔のおっさん「フンッ、こんなもんは早く 終わらせないとな」

〇テーブル席
太陽「はぁ・・・」
太陽（ヒーローの本質ってなんだ？ 誰かを助ける気持ちじゃねーの？ それともシブ顔おっさん並みの力、とか？）
太陽「やっぱ力かなぁ」
茜「なに物騒なこと呟いてんの？」
太陽「いや、ヒーローの本質考えててさ！」
茜「力は必要かも知れないけど 絶対違うでしょ」
太陽「茜もそう思う？」
茜「まあ・・・ 太陽が憧れてるヒーローは違うでしょ」
太陽「おう！　さっすが茜。 オレのことよくわかってる！」
茜「わかりたくもないけど 付き合い長いからね」
太陽「幼馴染だもんな！」
茜「うれしくないことにね。 それより、何で急にヒーロー＝力とか いい出したの」
太陽「ヒーローになるチャンスもらったんだけど 何かがわかってないから不合格！ って言われちまってさ」
茜「へ、へぇ？」
太陽「あ！　夢とかじゃないからな！ 後、茜だからこういう話するんだからな！」
茜「はいはい、で・・・太陽は合格したいってことでいいんだよね？」
太陽「そう！　でも考えても、わかんないし！ 毎日ヒントだけでも！ って押しかけてもつまみ出されるし」
茜「それは所謂、自分で気づけないと意味がないってやつじゃない？」
太陽「あー、そうかも。 でもなーんもわっかんねぇんだよなぁ」
茜「んー、立場が違うと見えないこと ってあるしね」
太陽「オレまだヒーローじゃねぇもんな・・・ あっ！」
茜「なにか思いついたの？」
太陽「茜、俺ちょっと怪物退治してくる！」
茜「はっ!?」
茜「何考えてんの、あいつ・・・」

〇開けた交差点
太陽（へへへ、ヒーローと同じ立場！ つまり、怪物退治を実際してみれば いいんだよな！）
太陽（そしたらきっと答えが見えるはずっ！）

〇ゆるやかな坂道
太陽（ヒーローに会えたのは 人が消えるって噂があった場所だ）
太陽（だから、怪物が出るなら 同じような噂がある場所──）
太陽「ビンゴ！」
太陽「――っ」
太陽「こええ」
太陽（手が震える。 でも、幼い俺じゃない。 いけるはずだっ）
太陽「はああ！」
太陽「いけるっ！」
子供「いやーーっ！」
太陽「子ども!?」
太陽「っ」
太陽（ぐっ！）
太陽「やべぇ、意識が・・・」
子供「あ、あ・・・！」

〇黒
太陽（ああ、俺、子どもすら守れないで死ぬのか）
太陽（あの人みたくなりたいって思ってたのに、情けないな・・・）
太陽「あの人たちの言った通りだったな。 俺には力不足で・・・」
太陽「ここで諦めたら楽かな？ でも、このままじゃあの子が・・・ あの子供が、泣いたまま・・・」
太陽「そんなの──」
太陽「ダメだっ！」

〇ゆるやかな坂道
太陽「――俺は死んでも諦めないっ！」
太陽「吹っ飛ばせた！？︎」
太陽「でも、まだ──」
青いヒーロー「まさか、自力でなっちまうとはな」
赤いヒーロー「やるねぇ」
太陽「え？　あんたたちはっ」
赤いヒーロー「誰だか、わかんだろ？ へへ、いい気分だ！」
赤いヒーロー「新しい仲間の目覚めに 全力だしてやらぁ！」
青いヒーロー「いつも出しとけ」
太陽「新しい仲間？」
青いヒーロー「お前のことだ。 だが、今は後ろで子どもと一緒にいろ。 ヒーローなんだろ」
太陽（・・・すごい、あっという間に 怪物が消し飛んでく）
太陽「もう、大丈夫だ」
子供「うんっ、かっこいい・・・」
太陽「あぁ」

〇小さい会議室
渋顔のおっさん「まったく、何を考えてるんだ。 危険にもほどがある」
太陽「いや、ヒーローの立場になれば、 なんかわかると思って・・・」
渋顔のおっさん「だからって、ギッシュの前に突っ込むやつがあるか！」
いかついおっさん「まあ、結果的に目覚めたんだからいいじゃねぇか」
いかついおっさん「さあ、お前さんも今日から マジカルパフォーマーだ！ なげぇからマジパフォでいいぜ」
太陽「って、ことは・・・ ヒーローになれるってことか!?」
渋顔のおっさん「マジカルパフォーマーだ」
渋顔のおっさん「マジカルパフォーマーになるには一度死に マジカルパフォーマーに対応する体に 作り変えなければならない」
渋顔のおっさん「で、お前はギッシュにやられて死んだからその力を得ることができたわけだ」
太陽「はっ？　オレ、死んだの!?」
渋顔のおっさん「人間を辞める覚悟がいる、と言っただろ？」
太陽「あれ、物理なの!?」
いかついおっさん「なんだよなぁ！　ハハハッ！ ま、こうなっちまったら嫌になっても 後戻りはできねぇぜ」
渋顔のおっさん「これからマジカルパフォーマーとしてお前を鍛えていく」
太陽「マジで!?　やったー！」
渋顔のおっさん「まず最初にお前がするべきことは・・・」
太陽「ことは？」
渋顔のおっさん「アイドルデビューだ」