祭り(脚本)
〇田舎町の通り
ヒーラーの国の人々には、喉に進化した臓器がある
声の使い分けで自分や他人、自然を癒やすことを生きがいにしている
この国の人々には、何かをわかってもらおうとして声を使うという概念がない
家出少女「ここがヒーラーの国ね フフッ ネガティブオーラで 荒してやろっと」
町人「♪〜」
町人「♪〜」
家出少女「は?」
住人たちが謎の手付きとともにハミングしている
家出少女「ん・・・? なんで自分とかいう一時記憶に纏わりついた恐怖や不安にとらわれていたんだろう・・・?」
家出少女「人生記憶の感情がキャッシュクリアされた・・・ これがヒーリングか」
家出少女「嬉しいことも悲しいことも、それら記憶にくっついた感情を忘れることがヒーリングと聞いたことがある」
家出少女「感情で動揺しなくなり、フラットだと、何を動機にして生きるんだ・・・?」
家出少女「住人を観察しよう」
町人「こんにちは! 家出ですか?」
家出少女「なぜわかった」
町人「うしろに書いてますよ」
家出少女「え?!」
町人「この国は、苦しみがわかる人しか入ることができないんだよ」
家出少女「私の苦しみにも価値があったのか」
家出少女「ここに移住したい・・・ 私も進化した喉になりたい」
家出少女「役場で申請したら住めますか」
町人「この国には役場はありません どうぞすきなだけ暮らしてください」
家出少女「どこかやすいゲストハウスとかありますか?」
町人「この国にはホテルの類がないんだ」
家出少女「えっ どうしよ テント買うか・・・」
町人「泊めてって言ったらいいのに」
家出少女「泊めてください お願いします」
町人「いいですよ! 私も家出少女でした」
家出少女「ええっ」
町人「国外から移り住んできた人もかなりいるのさ」
家出少女「そうだったのか・・・」
町人「さっそく、家で喉の探検をしましょうか」
家出少女「やったー! お願いします」
〇豪華な客間
町人「声が出辛い音程目がけてヒーリングをします」
町人「ヒーリングで頭が柔軟になると、意図した声が即座に出せるようになります」
町人「このキーの音が苦手な人が多いです 私に続いて出してみて」
町人「♪〜」
家出少女「♪、ンッ 顔の筋肉ひきつる」
町人「やはり、、、 今度はヒーリングで緩めながら出してみて」
町人「♪〜」
不思議な手なりと音で頭がゆるむ
町人「ではもう一度・・・ ♪〜」
家出少女「♪〜」
家出少女「出た!」
町人「上手です! その感覚、思い出しましたね」
家出少女「ほあ 生まれ変わった気分」
家出少女「これまでくよくよ悩んでたのが嘘だったみたい」
町人「うん 嘘だよーん」
町人「植え付けられた思考とその結果の感情には客観性がありません」
家出少女「感情なくなったら生き物じゃなくなるのでは? と思っていたが、逆だった」
家出少女「これから、人間らしく生きられる・・・」
家出少女「この国の人々はどうやって生活しているんですか」
町人「芸術と農芸です どちらにも癒やし合う意図があります」
町人「虚栄心からなる産業はこの国にはないよ」
町人「5時の鐘の音だ」
町人「ちょうど今日はお祭りの日です」
町人「広場が歌と踊りで満ち溢れますよ!」
〇噴水広場
家出少女(特にプログラムもなく、みな思い思いに歌い踊っている・・・うらやましい)
家出少女(体も声もうごかない・・・みんなみたいに自然に・・・ なんで・・・)
家出少女(ここにいたくない・・・)
町人「私も混ぜてって言ったらいいのに」
家出少女「そんなこと言ったら ま、負けた気がする」
町人「? 勝ち負けも幻想ですよ?」
町人「どこかに見えないレフェリーでもいるのかい?」
家出少女「バカにしないで・・・」
町人「そうやって自分をいじめて泣いてたらいいですよ 気が済むまで」
家出少女「・・・!!」
家出少女「ンアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
町人「いいシャウトだね!」
家出少女「初めて肚から声出したかも」
町人「忘れてただけですよ」
家出少女「そっか!」
家出少女「ねえ! 一緒にパンクな踊りをやって! 私は叫ぶから! ボーカルやるから!」
町人「いいですよ!」
町人「OK!」
家出少女「アッハッハッハッハッハッ!!! たのしい!! ありがとう!!」
「どういたしまして!」
〇田舎町の通り
町人「帰るんだね」
家出少女「ここに来てよかった! 自分を表現する楽しさを思い出せたよ」
家出少女「私は、旅をしながら、出会った人々と即興でコラボしながら自分を表現してみたい そう、昨日みたいな」
家出少女「あんな愉快な日々を過ごしてみたい」
町人「応援していますね!」
家出少女「ありがとう!」
家出少女「またね!」
町人「ええ!」
町人「うん!」
〇女性の部屋
家出少女「この世はただの意識工場」
家出少女「形になっていない思いを現象として繰り返し出力しているだけ」
家出少女「ならば超意識工場にしちゃおう」
家出少女「旅より自由な意識を作っちゃおう」
家出少女「我先に早く何かを得ねばとせかせかするより 全体の意識と協力した方がよりよいものを得るのではないか?」
家出少女「そもそも全体だ・・・?」
家出少女「何かからの自由は自由ではない」
家出少女「私を縛るものはなにもなかった! 外の何かなんてなかった」
家出少女「無知ってなんだ・・・?」
家出少女「なにかそれらしい理由があれば知ったことになるわけでもないような?」
家出少女「外側でものを知ることはない」
家出少女「へっ・・・?」
家出少女「「知りたい」に感情がくっついていないとき・・・」
家出少女「・・・・・・」
家出少女「どこへ・・・?」
家出少女「遊ぼ」
整体ホストからヒーラーの国に夢内ワープしたんですね。ヒーラーの臓器が出す音って、イルカが出す超音波が人間の脳内のアルファ波を増幅させるヒーリング効果みたいなものだろうか。高周波の波動が体と脳に影響した結果、家出少女がなぜかしらパンクに覚醒するのが人間の不思議なところですね。
素敵な自己考察を感じさせられるお話でした。悩むことは辛いことという固定観念を持ちがちですが、それに価値を見出すとは良い発想だと思います。なんだか良い力がみなぎってきます。