エピソード10 私情異常、それが二乗(脚本)
〇河川敷
ボランティア団体代表「ああ、それはきっと戦林くんだねぇ」
来栖 誠司「知ってるんですか?」
ボランティア団体代表「うん、戦林 隼田くん。商店街じゃ有名人だよ」
来栖 誠司「それはどういう意味で?」
常世 零「手に負えない、とかですか?」
ボランティア団体代表「うーん・・・」
ボランティア団体代表「手に負えないと言えば、負えないんだけどねぇ」
ボランティア団体代表「何と言えばいいのかな・・・」
常世 零「どういう男なんです?」
ボランティア団体代表「君たちも見た通り、悪いことした人に容赦なくてね」
ボランティア団体代表「何度も傷害事件を起こしてるんだ」
来栖 誠司「しょ、傷害事件って・・・」
ボランティア団体代表「誇張じゃないよ」
ボランティア団体代表「何回か警察のお世話になってるんだけど、本人は全く反省しない」
ボランティア団体代表「というか、悪いことをしている自覚がないみたいなんだよねぇ」
ボランティア団体代表「だから手に負えないというか、手を焼いているというか」
来栖 誠司「確かに、そんな感じでしたね」
常世 零「だけど、おそらくいいことしてるって自覚もない感じでした」
ボランティア団体代表「そうなんだよねぇ」
ボランティア団体代表「善行のつもりで行動してるなら、まだ説得の方法もあるんだけど、」
ボランティア団体代表「いまいち目的がわからないんだよ」
来栖 誠司「単純に悪が許せない、とか?」
ボランティア団体代表「うーん、そうなのかもねぇ」
常世 零「何にせよ、厄介ですね」
ボランティア団体代表「そうなんだよねぇ」
ボランティア団体代表「これでさらに厄介なのが、商店街の人たちの中でも彼を支持する人がいることなんだよ」
「え!」
ボランティア団体代表「恐怖政治じゃないけどさ、やっぱり抑止力にはなっているみたいで」
ボランティア団体代表「現に商店街での迷惑行為が減ってるんだよ」
ボランティア団体代表「下手に実績があるからか、商店街の人たちも意見が割れててね」
ボランティア団体代表「膠着状態だから、放置されているみたいだよ」
来栖 誠司「そんなことある?」
ボランティア団体代表「若い人に商店街を守らせるなんて、大人からしてみれば何とも情けない話なんだけどねぇ」
常世 零「代表はどう思いますか、彼のこと」
常世 零「やはり辞めさせるべきだと?」
ボランティア団体代表「そうだねぇ。良し悪しは別として」
ボランティア団体代表「彼のためにならないよね」
来栖 誠司「彼の為?」
ボランティア団体代表「うん」
ボランティア団体代表「このままだと彼、暴力しか知らない人間になっちゃうかもしれないじゃない」
ボランティア団体代表「それを大人として見過ごすのは、なんかね」
〇電車の座席
女子高生「~♪」
女子高生(気のせいか)
女子高生(気のせいじゃない!)
女子高生(でも、どうしたら・・・)
女子高生(うぅ、怖い・・・)
痴漢(ひひ、役得役得)
痴漢(ガキなんざ、簡単にビビって声出さないんだから)
痴漢(楽ったらありゃしないぜ)
戦林 隼田「おい、てめぇ」
痴漢「な、なんだいきなり」
痴漢「いきなり、てめぇだなんてちょっと失礼なんじゃ──」
戦林 隼田「ああ? ならはっきり言ってやろうか?」
戦林 隼田「この痴漢野郎が!」
痴漢「痴漢・・・痴漢? この僕が?」
痴漢「いいがかりをつけるのは止めてくれよ」
痴漢「第一、証拠があるのか?」
戦林 隼田「はぁ? グダグダうるせぇ奴だな」
戦林 隼田「いいから次の駅で──」
女子高生「この人、確かに痴漢しました!」
女子高生「確かに、私のこと・・・」
痴漢「わかった! 君ら二人グルなんだろ!」
痴漢「そうして僕のことハメようとしてるんだ!」
戦林 隼田「はぁ?」
女子高生「ひどい・・・」
痴漢「もう付き合いきれない。僕は行くからな」
戦林 隼田「逃げんじゃねぇ!」
痴漢「は、離せ! 離せよ!」
戦林 隼田「次の駅で降りてもらうからな」
〇駅のホーム
痴漢「うわぁ!」
痴漢「押すなよ!」
戦林 隼田「ああ? 何その程度のことでうだうだ言ってんだ?」
戦林 隼田「そんなんじゃ、この先持たないぞ?」
痴漢「はぁ?」
痴漢「な、何言って──」
戦林 隼田「おらぁ!」
痴漢「痛っ!」
痴漢「いきなり何を──」
戦林 隼田「もういっちょ!」
痴漢「や、止め!」
痴漢「や、やめろぉ!」
車掌「ちょっと! 何をして──」
戦林 隼田「おらぁ!」
車掌「やめっ!」
車掌「やめなさい!」
痴漢「うっ・・・うっ・・・」
車掌「大丈夫ですか? 立てますか?」
戦林 隼田「おい、そいつ痴漢魔だぜ」
車掌「え?」
車掌「いや、だとしてもこれはやり過ぎだ」
車掌「そういうことは我々に任せて──」
「なっ!」
戦林 隼田「往生際のわりぃ奴だな!」
車掌「あ、ちょっとま──」
車掌「行っちゃった・・・」
車掌「何なんだよ、全く・・・」
〇ゆるやかな坂道
痴漢「はぁ、はぁ」
痴漢(掴まって堪るか、捕まって堪るか、捕まって堪るか!)
戦林 隼田「待てや、おらぁ!」
痴漢「ひぃ!」
痴漢(もうきやがった!)
痴漢(足、はっや!)
戦林 隼田「逃がすかよ!」
戦林は、飛び蹴りをくらわす。
痴漢「うわっ!」
流れるように馬乗りとなり、その状態で暴行を加えた。
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