渋谷の構内はややこしい!

ブルークレヨン

読切(脚本)

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〇ガラス調
  2024年。
  「人類はコロナに打ち勝った」と言われるようになった。
  ところが・・・!
  2030年秋。恐怖の新型ウイルスが発生した。
  このウイルスに感染すると激しい腹痛に見舞われ最悪死に至る。
  ただ、検査しなくても陽性だとわかる。
  突然、顔にウニのようなトゲが生えてくるのだ。
  ウイルスの脅威に負けないよう、日本の研究者達は頑張り、ある予防方法を見つけた。
  その方法を利用する条例が出来た。
  『ウニウイルス感染防止為、外出時には必ず、ウニの天敵、活き伊勢海老を手に持つように。』

〇地下鉄のホーム
駅のサラリーマン「チッ、邪魔!伊勢海老落とす所だった!」
遠藤町子「ご、ごめんなさい」
  私は、慣れない都心で、慣れない伊勢海老を持って、オタオタしていた。
  私は遠藤町子。関西の田舎から、就職の為に関東の端っこに引越してきたのは3年前。
  渋谷に来るのは今回で二回目。
通行人「モタモタするな!クソ、伊勢海老落とす所だった!」

〇SHIBUYA109
  初めて渋谷に来たのは2年前の春だった。
  方向音痴で、一人では歩けないから、友達に連れて来てもらった。
  何だか人混みの中を、わけがわからないうちに駅から出て、わけがわからないうちに『109』という有名なビルの前に来た。
遠藤町子「わぁ〜✨ ここがマルキューなんだ!」

〇渋谷スクランブルスクエア
  渋谷スクランブルスクエアにも連れて来てもらった。
  スペイン坂や他のお店にも・・・。

〇地下街
  話をもとにもどすと、現在2031年初夏。
  私は渋谷に、仕事のクレーム処理のために来た。
  全然、楽しくない。
  そして私は渋谷の地下で完全に迷った。
遠藤町子「銀座線・・・半蔵門線・・・副都心線・・・えっと・・・あれ?私が来る前に使った東急東横線ってどこいった?」
遠藤町子「・・・いや、そうじゃなくて忠犬ハチ公ってどこ!?」
  迷って、焦っていると何だか段々お腹が痛くなってきた。
  トイレの場所を探す。

〇空港のエスカレーター
  頭上の看板には、トイレのマークがある。
  急いで歩いて行くと、今度の看板にはトイレのマークの横にUターンの印が。
  少し戻るが見当たらない。
  周りの人達は、皆急ぎ足だから声をかけられない。
  半泣きになりながら何となくそばにあった上りエスカレーターに乗る。
  するとエスカレーターの先、上の階にトイレが見えた。
  トイレに行くために、あわあわと人並みをかき分けた。
通行人「きゃっ、こっちに来ないで!」
通行人「わっ、横切るなよ!」

〇女子トイレ
  やっとトイレに入れた。
  どうなる事かと思った。
  伊勢海老のビー助を海老置き場に置く。
遠藤町子「ここを動かないでね」
  手を洗ってからお客様に電話をする。
遠藤町子「遅くなってすみません。渋谷駅で迷ってしまいまして・・・」
  お客様はカンカンで、電話をプツンと切られた。
  私って、なんでこうもドジでいつまでも垢抜けないんだろう・・・と鏡を見ながら思った。
  そして、トイレルームの中には、こんなに沢山の人と海老が居るのに、真っ暗で静かな洞窟に入っている気分になった。

〇改札口
  やっと地下鉄の改札口に来た。
  駅員さんに「ハチ公の裏のバス停に行きたいのですが・・・」と言うと
  駅員さんは、小さい車掌帽を被る伊勢海老を振りながら、優しく教えてくれた。
  駅員さんの親切な案内に救われた。

〇地下街
  教えてもらった通り地下通路を歩いて行くと、視線の先にひとりのおばさんが立っていた。なんだか苦しそうだ。
おばさん「ううう・・・」
遠藤町子「大変!大丈夫ですか!?」
  おばさんは、倒れてしまった。
  私はバッグとビー助を床に置き、おばさんの肩を揺するがピクリともしない。
通行人「あっ!ウニウイルスだ!」
  横を通ったおじさんが、こちらを指さした。
  おばさんの顔を見ると、ニョキニョキとトゲが生えてきていた。
  人がどんどん集まって来るけど、遠巻きだ。
  逃げたくなったけど、おばさんを放っておけない。
  直ぐに携帯で救急車を呼ぶ。
遠藤町子「おばさん!直ぐに救急車がくるから、頑張って!」
  私と野次馬達の間にできた空間に、ああ、ここにも洞窟があったんだと思った。

〇地下街
  ふと小さな声がした。
  ランドセルを背負った女の子が伊勢海老を抱きながら周りを見ている。
小学生「か、看護師さんかお医者さんは、いませんか?」
  数人がハッとして「そうだ、看護師さん!」と言った。
通行人「心臓マッサージした方が良くないか?」
通行人「俺、AED持ってくる!」
  青年が近寄ってきておばさんの呼吸を確かめ、脈を計り出した。
おばさん「あなた、伊勢海老持ってる?」
  私はビー助を手に持ち直そうとしたが、床に見当たらない。
通行人「伊勢海老が僕の杖に掴まってるみたいだ。この子は誰の子かな?」
  白杖を持った視覚障害者のおじさんが、白杖を持ち上げると、その先にビー助がいた。
遠藤町子「私の海老です!ありがとうございます!」

〇渋谷駅前
救急隊員「皆さん、お疲れ様でした」
遠藤町子「おばさん、早く元気になるといいな」
  久しぶりに来た渋谷は、人が多いのに寂しい所だと思ったけれど、そんな事なかった。
  自分が忙しくても、他の人を気にかけてくれる、助けてくれる、そんな人達が沢山いた。
  クレーム処理の仕事は嫌だけど、渋谷に来て良かった。
  これからはもっと気軽に遊びに来よう。
  迷ったら誰かに聞いてみよう。
  そして渋谷に慣れたら、私も誰かの役に立てるかもしれない。
遠藤町子「渋谷、好きかも❤」

コメント

  • あなたとの間にある溝は、私が作った幻想なのだと、海老を頭に巻きながら、海鮮丼に思いを馳せました。感謝。

  • 新たなウイルスにコメディ感溢れる作品かと思いきや、最後はハートフルなお話で幸せな気持ちになりました。
    他人と人との助け合い、大切ですよね。
    読みながら、困っている人には手を差しのべたいなと思いました!

  • 新たなウイルスがかなり特徴的で
    その発想がとてもユニークだなと思いました😂
    何においても人と人との助け合いは大切ですね🥲

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