意識低い系転校生、琥珀(脚本)
〇明るいリビング
暦「おはよう、母さん」
母「相変わらず早起きね」
暦「あぁ、健康は個人の役割をハイ・クォリティで保つためにマストな費用対効果が高いソリューションだからね」
母「相変わらず難しいこと言って・・・ 学校行ってらっしゃい」
〇教室
暦「おはよう、みんな! 起床してから2〜3時間は脳が最も活性化するゴールデン・タイムだから有意義に使おう!」
矢坂「暦、そろそろ夏だってのにスーツ暑くねえのか?」
暦はスーツを着ているが教職ではなく単なる学生だった。
暦「あぁ、これはね、投資なんだ」
矢坂「投資?」
暦「歴史のコンテキストを紐解くと今はクール・ビズと言われてるが今後スーツ着用は市場価値が高まる可能性があるからね」
暦「だからリターンを得る確実性を高めるためにスーツを今のうちに着こなして、クライアントにアピールするんだ」
矢坂「はは、相変わらず何言ってるか分かんねえや!」
暦「おっと、投資といえば株式市場をチェックしないと。 ファンドに委託しているとはいえオポチューニティーは見逃せないからね」
桃子「暦君は将来経済学部行くんでしょ?」
暦「法学部も検討しているけど、僕という商品の付与価値・・・利益を高めるのは経済学部だろうね」
教師「みんな、席につきなさい」
教師「今日は転校生を紹介する」
桃子「転校生?」
暦「新たなビジネスモデルでアキュジションを生み出すチャンスになるな」
教師「入りたまえ」
桃子「いったいどんな人なんだろう?」
琥珀「・・・琥珀、です。 よろしく」
それは暦の恋愛的価値観にイノベーションを巻き起こした。
暦「僕はこういうものだ! 君は僕のトレンドにぴったりマッチした人材だ! 是非贔屓にしてほしい!」
そう言い暦は名刺を手渡す。
琥珀「え? 名刺なんてどうしろと・・・ それよりなんでスーツ?」
桃子「暦君なりの挨拶よ。彼、不器用なの」
琥珀「は、はぁ、よろしく・・・」
教師「じゃあ授業を始めるぞ。 席は彼の隣で頼む」
暦「よろしく! 成功者だけが知ってる8つの秘密ならいつでも聞いてくれ」
琥珀(よりによって彼の隣・・・)
〇教室
桃子「琥珀さんは部活とか興味ない?」
琥珀「私なんかが入ったら足を引っ張るから・・・」
桃子「そ、そう・・・」
琥珀は見た目に反して暗い性格で、当初はクラスメイトに囲まれていたが次第に話しかける人は減っていた。
暦「部活に入ると人生が豊かになり、将来に活きるよ」
琥珀「でも、私本当に何もできないから・・・」
暦「君も生徒会に入らないか? 君の市場価値を高め、人生を実りあるものにすることをコミットするよ」
桃子「暦君、すぐ勧誘するんだから。 でも私も生徒会に入ってるの。琥珀さんもどう?」
琥珀「でも・・・」
暦「ピンチはチャンスって言葉を知ってるかい? コンフィデンスが無いからこそスキルを磨いた方がいいよ」
琥珀「・・・そうね、せっかくだし。 えぇと、暦さん、もしかしてあなたが生徒会長?」
桃子「いえ、私。 彼は庶務」
琥珀「そ、そう・・・」
〇生徒会室
桃子「ふぅ、ここまで。 みんなお疲れ様。 琥珀さんもありがとう」
琥珀「でも、私ミスばかり・・・」
暦「現実の業界に確実性なんてないから気にしないでくれ」
桃子「暦君はちょっとは反省してね。 また明日!」
暦「彼女はああ言ったけどセルフ・マネジメントは業務時間外にまで行う必要はないよ。残業しないでこそモダンなビジネス・パーソンだ」
琥珀「・・・やっぱり、私辞めるわ」
暦「そんな、君はようやく脱皮しようとしているんだ。 「なりたい自分」を捨てようと言うのか?」
琥珀「私ね、やっぱりダメなの」
暦「ダメだって? 日本という先進国に生まれた時点で世界をリードする逸材だ。 ネガティヴになることはない」
琥珀「私、前の学校でいじめられてたの」
暦「いじめだって? なんて非クリエイティブ的な・・・」
琥珀「私、頭も運動神経も悪いし、とろくて人付き合いも苦手だから、それで・・・」
暦「・・・実は僕もそうだったんだ」
琥珀「・・・え?」
暦「僕も暗い性格でいつもからかわれてたんだ。 炭酸苦手なのに麦茶と偽ってコーラ飲まされた事もあったな」
琥珀「・・・なんて、酷い・・・」
実に胸糞の悪い、吐き気を催す所業である。
琥珀は自分が受けた、魚肉ソーセージを栄養のあるカロリーメイトにされるという嫌がらせが子供の悪戯に見えるレベルだった。
琥珀「あなたの苦しみ、よく分かるわ」
暦「それから僕は独学でビジネスを学んだ。 成功して僕を嘲笑った人たちを見返すために」
暦「そしてMITでMBAを取得するという夢ができたんだ。 世界トップクラスの人材になるためにね」
琥珀「・・・それはよくわからない」
暦「僕も本当はコミュニケーションが苦手なんだ。 ビジネス用語を交えないと何を言えば良いかわからないんだ」
暦「でも、産まれてきたからには自分という会社を起業して、出来うる限り投資したい。そう思ったんだ」
琥珀「・・・ねえ、気づいてる?」
暦「何にだい?」
琥珀「さっきからあまりビジネス用語つかってないこと」
暦「!? 確かに・・・」
琥珀「それが素のあなたなのね。 素のあなたも素敵よ」
暦「・・・ありがとう。 僕自身自分のポテンシャルに・・・あれ、こんな時に限ってビジネス用語出てこないな・・・」
琥珀「それでいいのよ」
こうして意識高い系の暦と意識低い系の琥珀は仲良くなった。
〇教室
琥珀「みんな、おはよう!」
桃子「琥珀さん、大変なの! 暦君が・・・!」
琥珀「どうかしたの?」
暦「・・・」
琥珀「嘘・・・! 制服着てる!?」
暦「あぁ、おはよう琥珀さん。 僕は学生だから制服を着てるだけなのにみんなおかしいんだ」
桃子「ビジネス用語も急に言わなくなったのよ・・・ ねぇ、なにか知らない?」
琥珀「さ、さぁ・・・」
暦は意識高い系をやめ、素の自分で振る舞う事にしたのだ。
だって自分は商品じゃない、人間だから。
桃子「ちゃんとしてると意外とかっこいいよね」
琥珀「あ、あはは・・・」
琥珀(でも今のあなたの方が魅力的よ)
ここから暦の青春は本当の意味ではじまる。
ラムさんこんばんは
お邪魔します🙇♀️暦めちゃくちゃ不器用で良かったです
確かに身につけた知識を披露することで本当の弱い自分を隠せた気になりますね
スーツから制服へ本当なら逆だけど、高校生らしくなって良かった👍
ビジネス用語をそれっぽく使って空回りする人、社会人ではそれなりに見かけますが高校生でww 微笑ましいラストが心地良いですね!