神様になんてなれない

アマリモノ

エピソード1(脚本)

神様になんてなれない

アマリモノ

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〇白

〇オタクの部屋
  私は、水野透(25)
  渋谷の神様である!
透「なんちて」

〇渋谷駅前
  今日も渋谷の交差点は
  たくさんの人々が
  せわしなく行き交っている

〇オタクの部屋
  動画サイトでライブ中継されているそれを
  自室のパソコンから眺めるのが
  引きこもり生活の暇つぶしなのだ

〇黒
  大学卒業までは順調だった
  両親や先生に言われたまま進学し
  卒業後、サプリを売る営業職へ
  しかし

〇SHIBUYA109
  そこでつまずいた

〇オフィスのフロア
上司「ノルマがこなせないことに 何か理由はあるのかな」
透「すみません」
上司「いいかい 仕事に必要なのは「想像力」だ」
上司「データから顧客の欲求を読み取り」
上司「先回りしてニーズに応える」
上司「効率よくスピード感をもってそれを実行するんだ」
透「・・・はい」
上司「難しいことはない」
上司「君は誰より速く出社して 深夜遅くまで残業してるみたいだが」
上司「そういう無駄の多いやり方も必要ない」
上司「スマートにいこうよ」
透「・・・」
上司「笑顔忘れてるぞ〜?」
透「・・・あ、あはは」

〇黒
  ある日
  ふと身体が動かなくなった
  食べ物が喉を通らず
  携帯電話の音、電車の発着メロディを聞くと動悸が止まらなくなり
  1歩足を踏み出す度に、地面が揺れている気がした
  やがて欠勤が続き
  仕事はクビになった

〇オタクの部屋
  そして今に至る

〇渋谷駅前
  ライブカメラから見下ろす人々は、とても小さい

〇渋谷駅前
  渋谷は仕事でいつも通った場所だったから
  なんとなく覗いてみたのがはじまりだった
  仕事を辞める直前には、人と接することが怖くなりはじめていたけど
  カメラ越しに見た彼らはちっぽけで
  規則正しく歩く姿が滑稽で、なんだか可笑しかったから
  自分が神様にでもなった気分だった

〇オタクの部屋
透「・・・まるで人がありんこのようだ」
透「ふははは」

〇渋谷駅前
  そして私は想像した

〇赤(ダーク)
  巨人になって渋谷に立ち
  彼らを踏み潰して歩く自分を

〇オタクの部屋
透「って! 私の趣味暗すぎ!?」
透「まあ、おかげで少しはメンタルが立ち直ってきたんだけど」
透「貯金がつきそうだからそろそろ働かないとなあ」
透「・・・でも」

〇黒
  どんな仕事を選べばいいのか
  想像もつかない

〇渋谷駅前
  ライブカメラを眺めていると
  たまに酷く虚しくなる
  本当は、私なんかいなくても世界は回っていくのだ
  すごいスピードで
  効率的に

〇オタクの部屋
透「・・・」
透「ん?」

〇渋谷駅前
HN:ひこぼし「渋谷は今日も平和ですね」

〇オタクの部屋
透「チャットに誰か来た」

〇渋谷駅前
  私は、慌てて返信した
透「そうですね 今日も渋谷では、なにも起こってません」
  もちろん誰も
  踏み潰されてなんかいない
HN:ひこぼし「ボク、いま病院にいます」
透「そうなんですか」
HN:ひこぼし「身体が弱くて ずっと入院しています 学校にも全然いけてません」
透「・・・大変ですね」
HN:ひこぼし「だから」
HN:ひこぼし「こうやってたくさんの人を眺めるのが好きなんです」
HN:ひこぼし「病院だと一人で寂しいから」
HN:ひこぼし「いつか渋谷にも行ってみたいけど」
HN:ひこぼし「多分難しいだろうなあ」
透「どうしてですか?」
HN:ひこぼし「僕、車椅子でしか動けないから、きっと迷惑かけちゃうんです」
HN:ひこぼし「みんな忙しそうだし、邪魔になるんじゃないかな」
透「そんな!」
  子供の諦めのコトバ
  なんとか否定したいと
  私は思わず続きを打ち込んでいた
透「そんなことないと思いますよ」
透「渋谷はひこぼしさんを受け入れてくれると思います」
HN:ひこぼし「ありがとう」
HN:ひこぼし「だったら嬉しいなあ」

〇オタクの部屋
  ひこぼしさんは、そのあとすぐにログアウトした
透「・・・」
  屈託ないひこぼしさんを見て
  卑屈な自分が少し恥ずかしくなった
  今日はもう定点観測をやめにした

〇黒
  そしてその夜・・・

〇渋谷駅前
透「さぁ皆さん! 私の誘導にしたがって下さい!」
  巨大な私をたくさんの人々が見上げた
「はーい!」
透「車椅子のひこぼしさんがきます! 道を空けてください!」
「おー!」
HN:ひこぼし「皆さんありがとう!」
透「次は、腰の曲がったおじいちゃんです! 力のある人は荷物を持ってあげてください!」
「まかせて〜!」
透「あっ! 次はベビーカー!」
「こっちへどうぞ!」
透「皆さんご協力ありがとうございました! もう大丈夫です!」
透「それぞれの人生へもどりましょ〜」
「りょーかい!」
「神様もお疲れさま〜」
透「いえいえ」

〇オタクの部屋
透「・・・ぷはっ」
透「・・・夢?」
透「ホントに神様になっちゃってたな」
透「なれるわけないのにね」
透「でも」

〇SHIBUYA109
  やりたいことが見つかったかも

〇SHIBUYA109
  数ヶ月後
  渋谷現地
步「とおるたそ!お手伝いにきたボラ♡」
ジェフリー「Hello、アユム! 今日はThank you!」
步「ジェフたそもお仕事おっつ!! とおるたそは!?」
ジェフリー「ミズノサンなら向こうにいますヨ!」
步「おけ〜☆ じゃ、凸してきま〜っ!」

〇ハチ公前
步「とおるたそ! アユだよ!」
透「わっぷ!」
透「・・・步さんこんにちは!」
步「今日は何をすればよいボラ?」

〇SHIBUYA109
  私は、渋谷区のNPOに所属していた
  ジェフリーはその先輩で
  步さんは近くの男子校に通うボランティア部員だ

〇ハチ公前
透「渋谷へ車椅子で来られる方のサポートをします」
透「街の障害物もまた見つかるだろうから、帰ったら追加で共有しましょう」
步「デバッグみたいで楽しいね♡」
ジェフリー「ワタシ、これから行くビルのバリアフリー化にアドバイスしたヨ」
步「さすが元建築士さんボラ☆」

〇オフィスのフロア
  上司にかつて言われたことを思い出す
  想像力、スピード、効率化

〇渋谷駅前
  どれも社会に必要なことだ
  だけど、渋谷は
  世界は、速すぎる
  私だって、一度つまずいたら最後、置いてけぼりで、二度と歩けないかと思った

〇ハチ公前
  だから、私は想像する
  前への進み方が
  他人と少しだけ違う人の気持ちを
  そしてジェフさん達と力を合わせて
  渋谷を、どんな人でも過ごしやすいような
  スマートで効率的な街へちょっとずつ改造してやろうと思った

〇空
  神様にはなれなくても

〇ハチ公前
少年「今日はよろしくお願いします!」
透「了解しました!」

〇SHIBUYA109
  ようこそ、渋谷へ

〇黒
  おわり

コメント

  • 透が見た夢のシーンが愛に溢れていてとても素敵でした
    タイトルは「神様になんてなれない」と否定形ですが、神様になれなくても世界を良くすることができると気付かせてくれるお話で、優しい気持ちになれました
    歩くんの語尾を見て「ボラ…?ああ、ボランティアか」と気付いた瞬間、吹きました 笑

  • ライブカメラのチャット欄、たまに謎の一体感があったり、まれに優しい会話が見れたり…なんてこともありますよね。昔眺めてたことがあるのでわかります。笑
    アマリモノさんの他作品を読んだ時も思ったのですが、夢を使った主人公の心の表現が好きです。
    物語前半では、物騒な想像をしていた主人公ですが、元々は心優しい人なんだろうなぁ。
    短いながらも読み応えのある作品でした。素敵…!

  • 途中からどんな結末になるのだろう と思ったけど、最後はいいエンディングでした。
    素敵なお話でした

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