エピソード2(脚本)
〇住宅街
1番目の事件が起こったのは今から2年前のこと・・・・・・
周防花菜(すおうはな)。当時17歳の女子高生がある日、行方不明になった。
当初は家出の可能性もあったが、捜索願が出された10日後。
彼女は隣市で血塗れの状態で発見された。
〇空き地
周防花菜が発見されたのは隣市。
彼女の家から25km程離れた住宅地の空き地だった。
発見者は少年で、血塗れだったこともあり、すぐに救急車と警察を呼びに行ったという。
救急車と警察がその空き地に到着したのは少年の通報から10分後。
だが、彼女は空き地から忽然と姿を消してしまっていたという。
少年A「本当にここに人が倒れていたんです」
最初は少年の悪戯による通報だったのではと言われたが、
周防花菜が倒れていたとされる場所には夥しい程の血痕があり、
少年が通報している時に何者かに遺体が運ばれたのではないかという結論に至った。
「なぁ、本当にこの子だったか?」
少年A「はい、触ったりはしていないけど、大丈夫ですかって声をかける時に服や髪を見たので」
少年A「それにニュースとかでもよく見ていたから間違いないと思います」
野原春優「そうか・・・・・・ありがとう。すまないな、引き留めて」
少年A「あ、いえ・・・・・・じゃあ、僕はこれで」
野原春優「・・・・・・」
〇個別オフィス
青柳蒼護「当時、野原春優は19歳。蓮田大学の1回生でした」
青柳蒼護「被害者の周防花菜が発見され、再び消えた現場から彼女の家は20km以上も離れていて、」
青柳蒼護「彼女の学校や塾、行きつけの店があるような生活圏ではありません」
青柳蒼護「一方、野原春優の生活圏も周防花菜と殆ど同じで、」
青柳蒼護「彼が現場周辺で目撃されているのは当時、争点にもなりました」
青柳蒼護「野原春優が事件に関与しているか否かの争点に・・・・・・」
布袋理人「元々、野原春優と周防花菜は家が向かい同士だったみたいだしね」
布袋理人「周防花菜が野原春優に好意を抱いていて、」
布袋理人「野原はそれを持て余していたって話もあったらしい。それで、野原は彼女を・・・・・・」
青柳蒼護「でも、殺害動機や遺体消失方法等は結局、はっきりしたことは解明できず」
青柳蒼護「野原春優が隣市に来ていたのもたまたま花屋の配達の仕事があったから」
青柳蒼護「ということで、野原春優が隣市にいたのは偶然だったということになりました」
布袋理人「偶然・・・・・・ね。君はどう思う?」
青柳蒼護「私・・・・・・としては「偶然」なんて言葉はナンセンスですね」
布袋理人「と言うと?」
青柳蒼護「物事は何かしらそうなるような理由があると思っているんです」
青柳蒼護「野原春優を好意的に見るのなら、確かに配達があったからと理由をつけることはできます」
青柳蒼護「あとは、失踪した彼女を探していたから・・・・・・とかでしょうか」
青柳蒼護「で、悪意的に見れば、彼女を殺したり、遺棄したのが野原春優だったから」
青柳蒼護「でも、それならあまりに野原春優は迂闊すぎますがね」
布袋理人「まぁ、現場近くで目撃されてるし・・・・・・ちょっと間抜けだよね」
青柳蒼護「ただ、例外はあります」
布袋理人「例外か・・・・・・確かに、誰かに仕向けられたりすればあり得るかもね」
青柳蒼護「そういうことです。例えば、その日、野原春優に花を届けさせた人間」
青柳蒼護「周防花菜が隣市にいると野原春優に言った人間」
青柳蒼護「そんな人物がいるのならその人物が周防花菜殺害犯なんていうのも十分考えられるのです」
布袋理人「でも、御崎くんは野原春優が怪しいと思っているんだ」
青柳蒼護「まぁ、似たような事件が続きましたしね」
布袋理人「姉歯萌音(あねはもね)と朝野咲恵(あさのさかえ)の事件だよね」
青柳蒼護「えぇ、失踪して、遺体が一時的に見つかり、また消える」
青柳蒼護「3人はそれぞれ、野原春優と接点がある」
布袋理人「確か、姉歯くんの姉さんが野原春優の両親がやっている花屋さんのアルバイト」
布袋理人「朝野咲恵さんがその花屋の常連客だったかな?」
青柳蒼護「えぇ、疑わしすぎますが、これ以上の容疑者もいないでしょう」
布袋理人「・・・・・・」
青柳蒼護「失礼。御崎からです。そろそろ、我々も準備しましょう」
布袋理人「そうだね。少し話すぎたみたいだ。色々と」
青柳蒼護「えぇ、まぁ、遅れても御崎や葛城さんは何も言わないでしょうが、」
青柳蒼護「藤谷は若干、面倒くさいですからね。自分も遅れて来るくせに」
布袋理人「うん、違いない。じゃあ、寿司、受け取ってくるね」
青柳蒼護「えぇ、では、こちらは飲み物とかの準備を。ピザもそろそろ届くでしょうからね」
〇オフィスビル
「御崎くん」
御崎紫苑「あ、葛城さん・・・・・・それに珍しいですね。ヒロさんも時間前に来るなんて」
藤谷洋近「別に? 次の仕事に取り掛かるには時間も半端だったし?」
御崎紫苑「成程。じゃあ、行きましょうか」
葛城弓月「御崎くん、荷物、私も持つよ」
御崎紫苑「ありがとうございます。葛城さん」
葛城弓月「いえいえ、この袋は藤谷くんの手作りケーキかな?」
藤谷洋近「えぇ、まぁ・・・・・・」
葛城弓月「それは楽しみだ。藤谷くんのケーキは完成されているからね」
葛城弓月「もし、叶うのなら藤谷洋近美術館を建立して、そこに収めていきたいくらいだ」
藤谷洋近「いや、ケーキなんで食べてくださいよ・・・・・・」
葛城弓月「ハハハ。勿論、ありがたく食べさせていただくよ」
葛城弓月「以前、いただいた苺のショートケーキも実に完成されていた」
葛城弓月「五感を一瞬にして魅せていく。まるで、作り主である君そのもののように、ね」
藤谷洋近「はぁ・・・・・・そりゃ、どうも」
御崎紫苑「まぁ、立ち話もなんですから事務所に向かいましょう」
御崎紫苑「おそらく、所長が首を長くしてお待ちでしょう」
葛城弓月「そうだね。所長は時間にとても正確だからね」
葛城弓月「もし、「時の神」なんて存在がいれば彼に近しい存在なのかも知れない」
葛城弓月「また後ほどゆっくりと語らうことにしよう。藤谷くん」
藤谷洋近「・・・・・・紫苑、やったな」
御崎紫苑「え、何か?」
藤谷洋近「・・・・・・」
藤谷洋近(はぁ、面倒なのと食えないんだよな。こいつら・・・・・・)
〇オフィスビル
〇おしゃれなリビング
青柳蒼護「それでは、これより20XX年度第2回定例会を行います」
藤谷洋近(まぁ、定例会なんて言っても、青柳がそう言ってるだけなところはあるけど)
藤谷洋近(タダ飯にありつけるし、俺としてはタダ飯会に過ぎない)
青柳蒼護「この青柳探偵事務所が発足してから1年。今日に至るまで様々なことがありましたが」
青柳蒼護「皆さんの能力で良き成果を積み重ねていけたように思います」
青柳蒼護「本日は束の間、日頃の業務から離れ、心身を癒す機会となれば幸いです」
青柳蒼護「それでは、乾杯」
「乾杯」
青柳蒼護「どうしたんですか。貴方らしくなく箸が止まっているみたいですが・・・・・・」
御崎紫苑「あぁ、所長」
御崎紫苑「えぇ、少し考えごとをしてました」
青柳蒼護「それは彼、野原春優のことですか?」
御崎紫苑「・・・・・・」
御崎紫苑「はい。まるで、恋をしたみたいに」
青柳蒼護「・・・・・・今の貴方は少し彼に拘りすぎている気がします」
青柳蒼護「確かに納得いくまで調べる。それは悪いことではありません」
青柳蒼護「しかも、貴方は他の仕事は完遂していますし、本来なら口を出すようなことはない」
青柳蒼護「何1つ、ね」
御崎紫苑「そんな・・・・・・」
御崎紫苑「買い被りですよ。僕だって人間です」
御崎紫苑「ミスもしますし、恋もしますよ?」
青柳蒼護「・・・・・・彼が殺人者であっても?」
御崎紫苑「・・・・・・さぁ、でも、もしかしたら、どんな理由だって関係ないかも知れない」
御崎紫苑「いや、そもそも、理由なんてなくって誰かを愛せるのかも知れない」
御崎紫苑「愛おしいような、腹立たしいような気分ですけどね」