29話「本当の名前」(脚本)
〇田舎の病院の病室
アレックス・ワトソン「後数時間か・・・」
それがアレックスに残された余命。
幸い体は動く。ならやる事は一つだ。
アレックス・ワトソン「サラース。最後にもう一度契約を結ばないか?」
アバドン・サルース「内容次第だ。言っておくが余命を伸ばす事はできない」
アバドン・サルース「どうしてもと言うならそれに似合った対価としてお前の娘の魂を奪うことになるからな」
アバドン・サルース「お前はそんな事望まないだろ?」
アレックス・ワトソン「ああ。俺が望むのは──」
アバドン・サルース「・・・了解した。だが」
アバドン・サルース「悪魔として契約するのでは無く友人として約束したい。それでも良いか?」
アレックス・ワトソン「助かる」
数カ月の短い付き合いだったがそれなりに楽しく過ごせたのはサルースのサポートがあってのものだ。
アレックス・ワトソン「世話になったな」
アバドン・サルース「お互いにな」
時間は有限だ。寂しさを感じたからと言って足を止めるわけにはいかない。
病院を後にして何故か迷いなくある場所へ走り始めた。
あそこに行けばあの子が待っているはずだ。
〇田舎の病院の廊下
アレックスは目を覚ましてミカの元へ向う。私はただそれを見つからないように見届けた。
石白 星華「・・・」
クロ「最後に話さなくてよかったのか?」
石白 星華「いいんですよ。これで」
クロ「そうか・・・お前らやっぱり不器用なコンビだよ」
〇桜並木
アレックス・ワトソン「やっぱりここにいたか・・・」
いつかまた一緒に見に行こうと約束していた桜の木下で彼女は──
ミカ「待ってたよ」
ミカ「・・・・」
ミカ「──父さん」
──涙を流しながらずっと父親との再会を待ち望んでいた。
アレックス・ワトソン「気づいていたのか?」
ミカ「うん。ただ確信が持てなかったから」
ミカ「それにもし、私に正体がバレた父さんがいなくなったら私は──」
アレックス・ワトソン「・・・・・・」
アレックス・ワトソン「お互い不器用だったらしいな!!」
ミカ「ッ・・・」
ミカ「そうだね。とんだバカ親子だよ!!」
父親のバレバレの演技を娘は気付かないふりを続けていた。そんなバカバカしい事実を親子は笑った。
今の親子にはかつて英雄と呼ばれた面影はなくただのどこにでもいる仲良し親子の姿があった。
アレックス・ワトソン「ぐっ!?・・・」
ミカ「父さん!!」
アレックス・ワトソン「悪い。傷が開いちまったようだ」
──残された時間がなくなる。少しずつ体の感覚がなくなっている事からそれを悟ったアレックスは桜の木の根元に腰を下ろした。
アレックス・ワトソン「これを受け取って欲しい」
ミカ「これは?」
アレックス・ワトソン「お守りだ。軍人時代に何度もそれに救われた」
アレックス・ワトソン「一番下のAekkusu「アレックス」は俺の名前。 その上のMiharu「魅遙」は妻の名前」
アレックス・ワトソン「一番上のArisu「アリス」は──」
ミカ「私の名前」
アレックス・ワトソン「無理して名のる必要はない。 ただ覚えていて欲しい。魅遙が・・・母親が考えてつけた名前だから」
ミカ「うん・・・わかったよ・・・」
アレックス・ワトソン「ありがとな。立派に育ってくれて・・・生きていてくれて。また──」
アレックス・ワトソン「一緒に桜を見る約束を覚えいてくれて・・・」
ミカ「うん──」
ミカ「・・・・・・さようなら」
アリス・ワトソン「・・・お父さん」
〇桜の見える丘
石白 星華「アリス・・・いい名前だね」
〇田舎の病院の廊下
クロ「父親として過ごして欲しいか・・・お前らバディはどうも不器用なバカらしいな」
石白 星華「悔いはないですよ」
クロ「まぁいい。お前らの問題だ。俺が首を突っ込むのも野暮だな。・・・」
クロ「これ。アレックスがお前に渡せとよ」
石白 星華「アレックスが私に?」
〇桜の見える丘
封筒には手紙が入っていた。
手紙にはミカの本当の名前は「アリス・ワトソン」である事とアリスを頼む。とだけ書かれていた。
これたで別れだと言うのにあまりにも短く、娘の事しか書いてないのはアレックスらしいが少し寂しく思ってしまう。
石白 星華「馬鹿野郎・・・さよならくらいかけよ・・・」
石白 星華「ん?これは?」
手紙一枚だけにしては少し重いと思っていたがどうやらもう一つ何が入れられていたらしい。
石白 星華「ッ・・・・・・」
金色に輝くブレスレットが入っていた。
ブレスレットには「Psycho buddy」(最高の相棒)と掘られている。
アレックスなりに感謝の気持ちを表したのだろう
石白 星華「この・・・」
石白 星華「大バカ野郎ぁおおおおおおおお!!!」
桜が満開なのもあり周囲には多数の人間がいるが今はそんなことどうでも良かった。
石白 星華「アリスは任せろ!ただし責任持って最後までそっから見届けろよ!!」
思いを全て叫んだおかげで少しだけ気分は晴れた。
今回の戦いで愛弟子と思いを寄せていた相棒を失った。
だが悲壮感に囚われていては死んで行った二人に笑われてしまう。
仕事は山ほどある。
守るべきもののために私はこれからも陰で戦い続ける。
この身が朽ちるまで──