〇森の中の小屋

〇怪しいロッジ
クロエ「・・・うぅん」
クロエ「ここは・・・」
ヒースリング「目が覚めた？」
クロエ「ヒースリングさん・・・」
ヒースリング「さっきは手荒な真似をしてごめんね」
ヒースリング「ああでもしないと きみを連れ出せないと思ったから」
クロエ「私を連れ出してどうなさるおつもり？」
ヒースリング「手伝って貰いたいことがあるんだ」
クロエ「言っておきますけれど、 パソコンは使えませんからね？」
クロエ「デジタル作画のお手伝いはできませんよ？」
ヒースリング「何の話？」
クロエ「アシスタントが欲しかった訳ではないの？」
クロエ「なら家事手伝いですか？ 一通りのことはできますけれど」
ヒースリング「僕が欲しいのは、きみの魔力だ」
クロエ「魔力・・・？」
ヒースリング「きみの魔力の保有量は、一般的なホムンクルスのそれをはるかに超えている」
ヒースリング「その力があれば、 魔王にさえ勝てるかもしれない」
クロエ「・・・それで？」
クロエ「人間であるあなたが、どうして この魔力を必要としているのです？」
ヒースリング「目の前であんな力を見せつけられたら、 誰だって欲しくなるに決まってる！」
ヒースリング「そうだな・・・僕と組んで 魔界を手中に収めるのはどう？」
ヒースリング「そして人間界に戦いを挑む」
クロエ「あなたは人間でしょう？ どうしてそんなことを・・・」
ヒースリング「どうしてって・・・」
ヒースリング「面白そうだから」
クロエ「なっ──」
ヒースリング「1000年ほど昔、人間界と魔界が対立していたのは知ってるだろ？」
クロエ「え、ええ・・・」
ヒースリング「歴史書の中にしか残っていない双界の戦争を、僕は身を以て体験してみたいんだ！」
クロエ「・・・・・・・・・」
クロエ「戦争が終わったのは、 私が９歳の頃だったわ」
ヒースリング「・・・え？」
クロエ「玉音放送を聞いて流れた涙が、悔しいからなのかホッとしたからなのかも分からなかった」
クロエ「お国のためにと従った父と兄は 帰って来なかった」
クロエ「食べる物も着る物も何もかもない中で、 ずっとずっと必死に生きてきたの──」
クロエ「戦争を体験してみたい？」
クロエ「ふざけないで・・・!!」

〇黒背景

〇養護施設の庭
レイヴィダス「婚約解消・・・」
ルミリエ「リディアから聞きましてよ」
ルミリエ「宮廷画家のホムンクルスなどに 骨抜きにされたのですってね？」
レイヴィダス「いや、違──わなくもないが・・・」
レイヴィダス「そもそもお前との婚約は とっくに解消されたものだと──」
ルミリエ「私は魔王の妃という座を諦めてなくてよ!!」
レイヴィダス「お前がなりたいのは『魔王の妃』であって『私の嫁』ではないではないか!!」
ルミリエ「当たり前じゃない」
レイヴィダス「そんなハッキリと・・・」
ルミリエ「いいからそのホムンクルスに会わせなさい」
レイヴィダス「だからその彼女がいなくなって──」
ルミリエ「・・・ッ」
ルミリエ「何よ、この力──」
ルミリエ「レイ！ 私と話すのが嫌だからといって 無駄に魔力を放出しないで！」
レイヴィダス「私ではない」
レイヴィダス「この魔力は先生の──」
ルミリエ「レイ・・・？」
ストラスール「レイヴィダス様!!」
ストラスール「そのお姿は──」
ストラスール「おめでとうございます」
ストラスール「魔力を取り戻されたのですね」
ルミリエ「どういうこと？」
レイヴィダス「このような急回復はありえない」
レイヴィダス「先生の身に何か────」
ストラスール「アルフォルによると、東の森から 狼人族の咆哮が聞こえたそうです」
ストラスール「異常事態を報せる遠吠えとのこと。 先に現地に向かわせております」
レイヴィダス「私も行く」

〇黒背景

〇森の中の小屋
クロエ「──うぅっ」
クロエ（魔力が溢れて止まらない・・・ どうしたらいいの!?）
ヒースリング「はは・・・ははははっ！」
ヒースリング「想像以上の魔力じゃないか!!」
ヒースリング「きみは本当に何者なんだ？」
クロエ「ただの漫画家・・・」
クロエ「いえ、『わたアル』が未完のうちは 漫画家だなんて偉そうに名乗れないわね」
クロエ「ただのマンガ好きの後期高齢者よ!!」
クロエ「きゃっ・・・」
クロエ（制御できない・・・!!）
クロエ「ヒースさん、離れてっ!!」
クロエ（いけない、このままでは周囲に被害が──）
クロエ「・・・っ」
クロエ（イメージするのよ・・・）
クロエ（集中して、魔力を一点に集めて・・・）
クロエ（結局また、『わたアル』を 仕上げることができなかったわ）
クロエ（ごめんなさい、レイさん・・・）
ヒースリング「なっ・・・」
ヒースリング「自爆──!?」
アルフォル「ヒース!!」
アルフォル「てめえっ！ 今の爆発は何だ!?」
ヒースリング「その声・・・アルフォルか？」
ヒースリング「くっ、離せ・・・ッ!!」
アルフォル「クロエちゃんはどこだ!?」
ヒースリング「・・・・・・」
アルフォル「答えろ!!」
アルフォル「レイ!!」
ヒースリング「魔王、レイヴィダス・・・」
レイヴィダス「先生はどこにいる？」
ヒースリング「・・・・・・」
レイヴィダス「どこにいるのかと聞いている」
ヒースリング「彼女なら────」
レイヴィダス「そんな・・・まさか・・・」

〇黒背景
レイヴィダス「先生ーーーーッ!!」