先生と呼ぶ女(脚本)
〇古びた神社
暁鈴(そろそろ日も暮れるな)
暁鈴(参拝客も、もう来ないだろ)
暁鈴(あやつも・・・)
暁鈴(まあ、どうでも良いが)
あの賽銭泥棒の未遂事件後、
皇樹は寺に訪れてこなくなった
なぜ真夜中に軒下で待機していたのか
理由は知らないまま数日経過している
参拝者F「はっ──」
暁鈴「?」
参拝者F「やっとよ、やっと見つけたわ〜〜」
参拝者F「先生!」
暁鈴(せっ先生?)
参拝者F「あーよかった!ここで祈れば、 きっと先生に気持ちが届くかもって──」
参拝者F「こういう聖地巡礼ってのもアリよね」
参拝者F「いや~探した探した・・・」
参拝者F「あら?」
参拝者F「こんにちは、巫女さん?」
暁鈴(・・・今気づいたのか、我の存在を)
参拝者F「もしかして、聞かれてた?」
暁鈴は、しぶしぶコクンとうなずいた
参拝者F「いや恥ずかしっ」
参拝者F「実は、"暁月美空"っていう小説家がいてね」
参拝者F「その人が、大病を患って入院したの」
参拝者F「先生について調べてたら、同じ苗字の 寺があるってことが分かって」
参拝者F「だから、聖地巡礼っていうか、暁月先生と 同じ名前の寺に来てみたかったの」
参拝者F「けど、わたし極度の方向音痴でさ」
参拝者F「ここにたどり着くまで3日かかっちった」
暁鈴(っ! ?)
参拝者F「まあここに来れたとしても、わたしたち 読者には、何もしてあげられないけどね」
参拝者F「でもせめて、お礼は伝えたいかな」
参拝者F「はじめてこんなに、小説の面白さを 暁月先生から学べたし」
参拝者F「感謝を伝えたい・・・」
暁鈴「・・・」
暁鈴は、どこからか持ってきた
短冊と筆を使い、参拝者に見せた
参拝者F「なになに "暁月寺は 人々の願いを 叶えるための寺だ"」
参拝者F「そうなんだあ!」
参拝者F「じゃあ、この寺で祈れば何かあるかも しれない、ってことね!」
参拝者F「分かったわ!巫女さん」
参拝者F「どうか、暁月先生の病気が 良くなりますように」
暁鈴(えっ)
暁鈴(良いのか?自身のことを願わなくて)
暁鈴(これから自宅へ帰るのすら危ぶまれる)
参拝者F「おみくじ、引いてこうっと」
〇古びた神社
暁鈴「おみくじの結果は大吉」
暁鈴「ラッキーアイテムは万年筆だ」
参拝者F「やった大吉!」
参拝者F「あ、忘れるところだった」
参拝者F「写真いいですか?」
暁鈴「構わない」
参拝者F「ありがとう〜♪」
参拝者F「巫女さんも撮ってあげましょうか?」
暁鈴「いらぬ」
参拝者F「え〜巫女さん可愛いし、美人だから 写真映え間違いないって!」
参拝者F「ほらほら♪」
暁鈴「よせ」
〇赤(ライト)
こうして、しばらく暁鈴と戯れたあと
参拝者はなんとか自宅までたどり着いた
参拝者F「ああ〜〜疲れたな〜」
参拝者F「帰省本能でもあるのか、帰るのは 意外と早かったな」
参拝者F「お、おみくじ」
参拝者F「大吉が嬉しくって、結ばずに 持ち帰ってきたんだった」
参拝者F「・・・万年筆、か」
参拝者F「うちに無いから、代用で シャーペンでもいいかな」
参拝者F「先生に、手紙でも書こうかな」
参拝者F「届かないかもしれないけど、 やってみても損はしないし」
参拝者F「わたしの感謝を、 少しでも伝わってくれれば──」
その後、暁月美空は懸命な治療を行ったが
大病は治まらず、惜しまれながらこの世を去った──
ラッキーアイテムを使っていたら、
この結末は、変わっていたかもしれない
〇古びた神社
暁鈴(ひと雨振りそうな雲行きだ)
暁鈴(ん?客か)
〇古びた神社
暁鈴「っ!」
暁鈴の視線の先には、
数日ぶりにやってきた
皇樹の姿だった
皇樹「・・・・・・」
暁鈴(ん?)
暁鈴(なんだか何時になく、悲しげなような)
皇樹「・・・・・・・・・・・・めん」
皇樹「ごめんな・・・・・・暁鈴・・・っ」
暁鈴(???)
今回はラッキーアイテムを信じなかったがためのホロ苦展開ですね……暁鈴様の心中たるや……
そして参拝者Fさんの体力、半端ナイ……