ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第26話 1791年年 更なる絶望(脚本)

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〇貴族の応接間
  眼前に広がるのは広い洋室に随分と豪勢なドレスを着飾ったブロンドの女性。
  どうやら帰って来れたようだ。
アントワネット「どこから入ってきたと言うの! フェルセン!」
  すかさずフェルセンが駆け付けてくる。そして俺はフェルセンに連行される。前と全く同じ状況だ。
  ただ今回はヒスイが体調を崩すことはないし彼女の助けもない。
  俺が一人で歴史を正さなければならないのだ。

〇城の客室
フェルセン「ふぅ、乱暴な真似をしてすまなかった。僕はフェルセン。スウェーデンの生まれだがアントワネット様が気がかりでね」
フェルセン「君が何かしらの理由で宮殿に忍び込んだのは察している。 ただ僕の協力者になって欲しいんだ」
  俺の返事は決まっていた。
鳥居「断る」
フェルセン「そんな、どうしてだ? お礼ならなんだってしよう」
鳥居「いや、報酬なんていいんだ。逃亡して王家がまた力を持つためだろう?」
鳥居「そんなのあんたがアントワネットに首っ丈なだけじゃないか! 逃亡しなきゃ滅びる王なんて知ったことか」
  つい興奮して口調が強くなってしまった。フェルセンはたちまち銃を手に取り俺に向ける。
フェルセン「・・・君が言うことももっともだ。だがアントワネット様は僕の心に唯一咲いてくれた一輪の花・・・!」
  銃を突きつけられ流石に焦る。
  冷や汗がダラダラ垂れ、足は震えている。しかし俺は思考を止めず強気なまま言った。
鳥居「い、いや、撃てないのは分かってる。ここテュイルリー宮殿は国王の見張りも多い。だ、だから撃てば騒ぎになり逃亡は絶望的になる」
  情けなく声まで震えるが俺は言い切った。
フェルセン「・・・君はなんでも知ってるな。なら頼む、アントワネット様を救う方法を教えてくれ、後生だ・・・」
  そういいフェルセンは銃を下ろし、膝を折る。
  それは文字通り挫折を表していた。
フェルセン「・・・なあ、君に頼みがある。せめてアントワネット様に会ってくれないか。 そうすれば考えが変わるかもしれない」
  ここでアントワネットに会い6月20日までは逃げないようにした方がいいかもしれない。そう判断し、俺は頼みを受け入れた。ら

〇貴族の応接間
フェルセン「アントワネット様、失礼致します。 先ほどのものはアジアから来た交易商なのですが迷ってしまったみたいで・・・」
アントワネット「あら、そうでしたの。でもごめんなさいね、今は非常に勿体無いことだけれどあなたの期待に応えるのは難しいわ」
鳥居「・・・」
アントワネット「ねぇ、フェルセン、悪いけど彼と二人きりにさせて貰える?」
フェルセン「かしこまりました」
  相手は歴史に名を残す王妃 。
  嫌でも緊張する。
アントワネット「・・・そうね、試すようで申し訳ないけれどどのような品目を扱っているのかしら?」
鳥居「あっ・・・えっと、その」
  言い淀んでいるとアントワネットは鋭い目つきで言う。
アントワネット「あなたは東洋から来た交易商と言いましたね。 あれはフェルセンの嘘でしょう?」
鳥居「っ・・・!」
  いきなり嘘を見破られ動揺する。
アントワネット「あぁ、やっぱり・・・私は取引に応じそれを口実にフェルセンと共に逃げ出してしまおうと一瞬思いました・・・」
アントワネット「・・・しかし気づいてしまった。 ・・・やはりそうはいかないみたいです」
アントワネット「陛下は国民が権利を縛る事に我慢ならず、逃亡しオーストリアの力を借りようとしています」
アントワネット「しかし逃亡が成功したらオーストリア軍によりフランス人の命が失われる。 それで逃げるべきか迷い時間を稼いでいたのです」
  意外だった。あのマリー・アントワネットがここまで聡明だったなんて。
  浪費癖の絶えない悪女のイメージを持っていたがそれは間違いだった。
アントワネット「・・・私に残された使命は逃げないで革命を立憲君主制という形で終わらせること、そう考えています」
アントワネット「このまま革命が続けばフランスはどうなるか・・・」
  立憲君主制。つまり絶対王政のもとで法に縛られなかった王が法に敷かれるようになることを意味する。
  アントワネットも流石に自分が処刑されるとまでは思っていないだろう。それに立憲君主制になっても革命は終わらない。
  しかし見通しの甘い部分もあるが優れた先見の明の持ち主と言える。
鳥居「革命が続けば・・・戦争になる、と思います。革命の波及を恐れプロイセン、オーストリアは戦争をしかけてくるはずです」
アントワネット「そうですか・・・民を守るためにはやはり逃げないべきなのですね」
鳥居「逃げたく、ないんですか」
アントワネット「もちろん逃げたい。金の首飾りを口実に逃げ延びる道も選んでいたかもしれません」
アントワネット「しかし逃げるわけにはいかない。あなたの話を聞きそう思いました」
  俺の言葉により、逃亡に揺らいでいたアントワネットの心が逃げない方向に向かった。
アントワネット「ただここまでしてくれたフェルセンには申し訳ないです・・・彼は私の身を案じて・・・」
  アントワネットとフェルセンは相思相愛だと習った。
  前回フェルセンの言葉を受けて逃げたことから事実に近いのかもしれない。
アントワネット「ですが今となってはもう終わった話なのかもしれません・・・」
  そう言い遠くを見つめるアントワネット。何か言葉をかけたい、しかし思いつかなか
  った。
  少しして、アントワネットは目元を拭うと落ち着き払った様子でこう言う。
アントワネット「ありがとう、話を聞いていただいて。 ヴェルサイユ宮殿に比べれば小さな宮殿ですが友人を歓迎しますわ」
  究極の選択を迫られているというのに気高く振る舞い、俺のことを友人と言ってくれた。
  胸にくるものがあり、思わず喋る。
鳥居「俺は、さ、上手く言えないけど、アントワネットさんより高貴な王妃はいないと思います。 だから友人というのは光栄です」
  そう言うとアントワネットは美しく微笑み、思わず見惚れる。
  フェルセンが好意を寄せるのも無理はないと思った。

〇城の客室
鳥居「はぁ、あえて振らせてもらうわ、ごめんなさい、か。 でも俺は頑張ったよ、緋翠・・・」
  そしてしまおうとする時違和感を抱く。
  よく見ると2枚目がある事に気づいた。今まで気が動転して気付かなかったのだろうか。
  内容はなんだろう。
緋翠「ここでわたしの話を思い出してほしいの」
緋翠「移転先に移転元と同じ人物が存在した場合、記憶はイレギュラーが側にいない限り移転先側の人物に上書き、統合される」
緋翠「つまり鳥居、あなたが2023年に戻ったらわたしというイレギュラーが存在しないため記憶は消去される」
緋翠「最初のディストピアの時も、それに二回目、三回目、四回目もわたしが隣にいたからそれは阻止できた。でも五回目は違う」
緋翠「さらにダイヤルは0になると2043年のA世界のお父さんの元に戻るようになってる・・・」
緋翠「そしたらお父さんはまたダイヤルを直して回して、ダイヤルというイレギュラーの存在によりB世界が生み出される」
緋翠「これが意味することは歴史を変えない限りループから抜けられないということよ。 わたしというイレギュラーを忘れないで」
緋翠「緋翠より」
  それを見て俺は絶句した。
  最後の最後になんてとんでもない爆弾を用意してくれたんだ。
  ・・・いや、思い返すと確かにA世界のことを語る時緋翠は言った。
  でもこれじゃこれまでの冒険が無駄じゃないか。
  ダイヤルを回せばA世界の男の時代になり、男がダイヤルを回す。すると記憶を無くしたB世界の俺の前にダイヤルと石井が現れる。
  そして俺は石井に脅されまたダイヤルを回し・・・やがてB世界を旅し0になる。そしてまたA世界の男の時代になり・・・
  仮に回さなくても2043年に緋翠は石井に殺され、A世界の男が蘇生に向けて動き、またしてもディストピアは築かれる。
  そしてA世界の男はダイヤルを回し・・・
  歴史は繰り返す。まったくなんて的確な格言だ。
  俺たちは無限ループに陥っているのかもしれない・・・
  なんだったんだ・・・俺たちの旅は・・・何度も挫折し、足掻き、そして成長出来てこれで大団円だと思った。
  しかし最後に待っているのは絶望だった。
  文句のないバッドエンド。
  それが俺たちの行き着く場所だった。

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