第24話 2023年 4度目の誤ち(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
俺は日本に、現代に帰ってきた。はずなのに。
飛び交う言葉はジークハイル、ハイルヒットラー。ヒットラーってあのヒトラー・・・?
第二次世界大戦の発端にして元凶・・・とされている。しかし戦争に負けて自殺して・・・何より独裁者の代名詞として有名だ
鳥居「もしかして第二次世界大戦前のドイツに飛んだんじゃないか?」
緋翠「いえ、ダイヤルは正確なはず。ここは2023年の日本だと思うわ」
話していると突如湧き上がる大歓声。
歓声の方向を見ると空中に巨大な映像が映し出される。
ホログラムの一種だろうか。
歓声に包まれて登場するのは──ヒトラー、だった。
何を語るのだろうか・・・ヒトラーは壇上に上がるとおもむろに語り始めた。
「我々は力を、知略を、勇気を駆使し先の戦に勝利しあらゆる物を手に入れた!」
「これまで我々は敵と戦うばかりであった。 だが我々は次の段階へ歩む時がきた! アーリア人の生活に革命をもたらす時が!」
どよめく民衆。革命の時?
「我々はクローン人間の開発に乗り込むことに決めた! 我々アーリア人が労働などするに相応しいか・・・? いや、相応しくない!」
「我々はより高尚なことに時間を費やすべきなのだ! 労働などクローンにやらせればよい!」
馬鹿な・・・クローン人間だと?
まるでヒスイが語った未来を辿るみたいじゃないか・・・
だが民衆は沸き立つばかりだった。
ハイルヒットラー! ハイルヒットラー! ハイルヒットラー!
ヒトラーの演説には辟易する物があった。俺たちがダイヤルのパーセンテージを確めると、老人が話しかけてきた。
???「あの戦争は勝つべきではなかった・・・」
緋翠「あの戦争って?」
???「第二次世界大戦・・・アメリカ、ソ連、イギリスにナチスは核兵器を投下して勝利してしまった・・・」
どうやらここは第二次世界大戦にドイツが勝ってしまった世界のようだった。
男に尋ね、フランス革命がどうなったか聞いた。
国王の逃亡が成功した事でオーストリア軍を巻き込んだ大戦争に発展。
フランスの国土は荒廃し革命の成果は失われそうになった。
アメリカは独立革命時にフランスに援助された縁から協力しフランスはなんとか立て直す。
しかしオーストリアとプロイセンは酷く反発、両国は合併しドイツとなりたちまちフランスへ侵略。
資源の豊富なルール地方を得た事でドイツはヨーロッパ・・・いや、世界一の工業国となった。
アメリカはドイツと戦争になりかけるもフランスへの多額の援助による財政難からフランスへの救援を打ち切る。その地位は落ちた。
そして起きる第一次世界大戦。これはほぼドイツ対全世界の構図となった。
ドイツは負けるも世界中が大打撃を受けた。
そして全世界に過酷な賠償金支払いをしなければならずに混乱したドイツで一人の野望家が現れた。
男の名はアドルフ・ヒトラー。
いつしか彼は独裁者として第二次世界大戦を起こした。
老人はナチスより先にアメリカ大統領に核を開発するよう手紙を送ったが経済的に弱っているため無視されたという。
そうしているうちにナチスは核を投下し勝利してしまう。
世界はナチス支配のディストピアとなった・・・
???「ナチスはその後も暴走が止まらず非人道的な実験を繰り返し延命技術を発展させた・・・」
???「ヒトラーは132歳になるのにあの若々しさだ・・・ この私も・・・悍ましい・・・」
どうやら歪んだ方向に技術が発展しているらしい。
技術的には俺の住む2023年よりも発達していると言えるが。
???「そのダイヤル・・・時代をよりよくするために、私の考えた歴史の転換点に物資の搬送をするために時空は合わさっている・・・」
なぜダイヤルのことを?
この男は一体・・・尋ねようと思ったが・・・
「見つけたぞ! ここにいる!」
そこに表れたのは秘密国家警察・・・ナチスの、ヒトラーの犬。
ゲシュタポは瞬く間に男を連行していく・・・
ヒトラーの演説はなお続く。
「我々アーリア人は労働から解放されるという生産革命、産業革命に次ぐ・・・」
「いや、これまでを超えた偉大な革命を成し遂げようとしているのだ! これがいかにドイツの繁栄に貢献することか・・・」
拳を震えるほど握りしめて眼前に掲げるヒトラー。
そして拳を振り下ろし叫ぶ。
「いや! ドイツのみではない! 我々アーリア人が豊かになることこそが世界の豊かさに繋がるのだ! 世界に栄光あれ!」
連行される男の一方でナチスの勝利と繁栄を高笑いするヒトラー・・・
鳥居「全く、酷い世界だ。 緋翠、ダイヤルは回せるか?」
緋翠「30%・・・駄目ね・・・とりあえずダイヤルを復旧させましょう」
鳥居「そうか・・・復旧にはどれくらいかかる?」
緋翠「一晩あれば。 どこか休めるところがあるといいんだけど」
鳥居「ここが東京なら俺の家が空いてたりしないかな・・・それよりホテルでも借りた方がいいか」
そう言い久し振りに財布を取り出し、中を漁るとへそくりの2万円が出てきた。
〇ホテルの部屋
元の世界の通貨が使えるか不安だったが奇跡的に使うことができ、それなりに小綺麗なホテルの一室を借りる事が出来た。
緋翠は机にダイヤルを置き、向き合う。
緋翠「明日の朝には終わると思うわ、鳥居は先に眠ってて」
鳥居「いや、終わるまで待ってるよ」
緋翠「いいから眠ってて! 万全の状態でフランスに戻るんだから」
一緒に旅をしてて分かっているがヒスイはこう言うと聞かない。
鳥居「そうか。そうだな、俺は休ませてもらうよ」
しかし俺はなんだか寝るのが名残惜しく、緋翠に話しかける。
鳥居「なあ緋翠。無事平和な現代に帰れたらさ・・・俺と一緒に暮らさないか?」
緋翠「へ?」
鳥居「その、俺バイトもするからさ。 それで緋翠も一緒の高校に通おう。 謎の美少女転校生ってことで話題になること間違いなしだ」
緋翠「もー、なによそれ」
鳥居「いや、俺は本気だ。 緋翠・・・その・・・好きだ。ずっと俺の隣にいてほしい」
世界の時が止まる。
緋翠「・・・ねぇ、鳥居。これまでの旅、楽しかった?」
突然そう質問された。
俺は率直に答えた。
鳥居「楽しかったわけあるか。 こんな地獄みたいな思い二度としたくない」
緋翠「そう。じゃ、また明日。おやすみ」
鳥居「え、返事は?」
緋翠「そうね、明日教えてあげる! だから今日は早く寝て!」
そう言われても寝付くか不安だったが俺は疲れからすぐに眠りについた。
──それが俺と緋翠の最後のやり取りになるとは思わずに。