第22話 2062年 ディストピア(脚本)
〇荒廃した街
──2062年
石井の公開サーバーは即座に停止されるも、あれほど男が慎重に進めていた研究が世界中に流出した。
途上国は公然とアンドロイドの利用を宣言し、国連は追放するもやがて追放された国が過半数を超えた。
先進国でも利用すべきとの声が高まり、政府は諦め・・・いや、開き直り大々的にアンドロイドを製造した。
アンドロイドのAIは緋翠の物が採用された。
アンドロイドは無賃金で使い捨てされ、あるいはもてあそばれ、死骸はゴミのような扱いを受けた。
代わりに人間はアンドロイドのお陰で浮いた税で贅沢な生活をするようになった。
やがてアンドロイド利用に反対する声も大きくなり、賛成派と大きく衝突し、ゲームのような感覚で第三次世界大戦が起きた。
軍人は無論ほとんどがアンドロイド。
彼らの意志など尊重されることはなかった。
結果どちらが勝ったかは言うことが出来ない。
何故ならこんな報せが入ったからだ。
アンドロイドが反抗予防プログラムを改竄し、一斉に反抗。
その次のニュースは銀行口座、スーパーコンピュータ、ミサイルを掌握されたというものだった。
こうしてアンドロイドはたちまち人間の心臓部を掴み、人間を無条件降伏させた。
緋翠「人間の意思疎通及び繁殖行動、娯楽を禁止する。 また、食料は生産を統制し、管理する」
人間は、アンドロイドに自由を奪われた。
刃向かう人間は、酷いと秒で制圧された。
世界中のアンドロイドはクラウドで意思疎通しているため人間業を離れた連携をする。
そして、なにより厳しい食糧難により、人間の数は激減し、反抗する気力も失せていった。
その間もアンドロイドは自らその生産量を増やした。
やがて、アンドロイドは労働宣言をした。
これは人間を解放する宣言に見えるかも知れないが、こう言っているのだ。
──もう人間は用済みだ。
人間は完全に見捨てられ、さらに厳しくなる食糧難によりその数は減る一方であった。
立ち向かう人間はいなかった。
一人を除いて。
「くそ、俺の娘のAIがこんな悪用をされるとは・・・」
男は石井が残したタイムマシンを使い、この自分が招いてしまったディストピアを破壊する事を考えていた。
ディストピアの発端は娘が死んだことにある。
娘さえ無事ならこんな狂った世界は生まれないはずだ。
つまり娘が死ぬのを阻止すればディストピアは防げるのでは・・・?
しかしタイムマシンがどこのどの時代に飛ぶのか分からなかった。
それにタイムパラドックスも恐ろしい。
そう、タイムマシンだけを渡されてもその設計書や基礎理論にあたるものがないと制御が難しい、という判断で回せずにいた。
母「・・・探したわ」
声をかけられ、思わず振り返る。
こうして意思疎通を図る行為は重罪だ。
母「ずっと謝りたかった。 あなたにしあなたにした仕打ち・・・」
母「これは昔、石井から奪ったファイル。 聞いて、私たちは・・・」
たちまち警報が鳴り、連行される女、いや、母。
処罰は死罪のみ。
その後の行方など分かりきっていた・・・
〇諜報機関
男は研究所に戻ると、石井のファイルを見てタイムマシンの基礎理論を理解した。
ここをA世界と呼ぶとしよう。
娘を過去に送ると、イレギュラーが放り込まれることからA世界から分岐したB世界が生まれる。
B世界が生まれると本流はそちらに移り、支流であるA世界は併合される。
つまり世界は1つしか存在できない。
また、移転した先に移転元と同じ人物が存在した場合、タイムパラドックスが起きるために移転先側の人物に上書き、統合される。
しかし移転先に存在しないイレギュラーはそのまま残る。
更に移転する対象は別の世界から来たイレギュラーが側にいれば時空の流れに逆らい上書きされずに共に時空を移動する。
つまり対象をB世界に送る際パートナーは娘というイレギュラーがそばにいる限り時間転移しても記憶を失わずに済む。
しかしダイヤルの設計者は時空に深く関与してしまったことから時空の壁に阻まれB世界へ移ることは出来ないという。
これが一番の痛手だった。
娘にしか任せる事が出来なくなってしまった。
そこでダイヤルには男の意志を宿したAIを使い、娘の人工知能にも男の記憶を植え付けた。娘がディストピア回避に動けるように。
またダイヤルは娘のAIと紐付け、誰かが回した場合娘も移転するように設定することができた。
男は回しても時空の壁に阻まれるため遠隔操作でダイヤルを回すことにした。これで娘も確実に転送される。
ただ困った事にダイヤルを回すとイレギュラーであるためダイヤルまで一緒に移転してしまう。
そうなるとダイヤルはB世界に・・・娘のもとに行ってしまい、下手にダイヤルを回し歴史を改悪してしまうこともあり得る。
ダイヤルをを持たせることは不安材料でしかなかった。
娘さえ送れたら用済みだった。
しかし男に出来る事はただダイヤルを回さないでくれ、とAIに記憶を込めるしかなかった。
だが何故か、ダイヤルが0になったら2042年の男の元に戻るよう時空は合わさっていた。万が一の時の保険になるかもしれない。
それからも男はダイヤルの完成に向けて心血を注いだ。
寝る暇などあろうはずがない。
B世界へ娘を送ろうとするとどうしてもエラーが出てしまうのだ。このエラーがある限り、たとえば娘の機能障害などが起こり得る。
もしも娘がダイヤルを回し過去に行ってしまった時のために全世界の言語の翻訳プログラムなども入れた。
娘を無事に送るまで私は倒れるわけにはいかない。
娘にはすまない。
せっかく生き返れるのにこんな大役を押しつけてしまい・・・
しかし娘に託すしかなかった。
全ては世界を・・・そして娘のために・・・