第20話 1791年 絶望(脚本)
〇貴族の応接間
アントワネット「これは名前が彫ってあるわ・・・ギリシャ語・・・コンスタンティヌス・・・」
アントワネット「ま、まさかコンスタンティヌス帝が代々身に付けていたという首飾り!?」
なんだ・・・? どういうことだ?
これはミハイルから手渡されたものだし皇帝は関係が・・・まさかミハイルは盗んだのか?
いや、皇帝の信任が厚かったからきっと預けられたのだろう。
俺にはその真意はもはや確認のしようがない。
アントワネットの教養の高さと識別眼を侮っていたかもしれない。
アントワネット「分かりました、使節団として丁重なおもてなしをご用意致しますわ」
このままでは非常にまずい、と緋翠に取引を無しにするよう言って貰おうとした。俺には直接伝えられる会話能力がない。
しかしヒスイは顔を蒼白にして頭を抱えていた。こんな時になぜ!?
アントワネット「大変! 体調を崩されて・・・今お部屋を用意しますわ」
どうすればいいんだ・・・緋翠は放っておけない・・・でもこのままだと歴史は変わるかもしれない・・・いや、挽回すればいい。
少ししたら緋翠も回復する。そしたら緋翠に任せてその時取引を無かったことにして貰えばいい。うん、それでいいじゃないか。
ヒスイの容体もよくはない。意識が朦朧としている。これは仕方のない事なんだ。彼女を放っておくことなど出来ない。
〇城の客室
緋翠「う、うん・・・あれ、ここは・・・?」
鳥居「大丈夫だ、緋翠。まだなんとかなる」
緋翠「あ、あぁ、私、なんて時に・・・! ごめんなさい・・・」
鳥居「大丈夫だ、安心してくれ」
心なしか震えていた。余程怖い記憶が戻ったのだろう。それとも・・・もしかして俺は取り返しの付かない事をしたのか?
そこへノックが響く。
フェルセン「失礼する。容態は回復したか?」
緋翠「え、えぇ、大丈夫よ」
フェルセン「ありがとう・・・! 君たちのお陰だ! アントワネット様は納得なさって無事出発された! なんとお礼を言えばいいか・・・」
出発した・・・?
まずい・・・俺はたまらず尋ねる。
鳥居「な、なぁ、今日は何年何月何日だ」
フェルセン「今日は1791年6月18日だが・・・」
今度は俺が青ざめる。
歴史が変わってしまった可能性が非常に・・・高い・・・
フェルセン「君たちばかりに頼るのも悪いと思いアントワネット様に改めて今すぐ一緒に逃げようって説得したんだ」
フェルセン「アントワネット様は何故か酷く迷われたけど最後には僕の手を取ってくれたよ」
フェルセン「アントワネット様が、いや、僕たちが欲しかったのは黄金の首飾りでなくきっかけだったのかもしれないね・・・」
フェルセンが何やら言って去るも耳に入らなかった。
俺は失敗したんだ・・・
緋翠「ねぇ、鳥居。ダイヤルが100%になってる・・・けど」
緋翠にそう言われるも俺はもはやダイヤルを回す気は無かった。
今回は比較的早く100%になったな。
それだけが感想だった。
緋翠「・・・鳥居?」
鳥居「・・・緋翠、ここで暮らそう」
緋翠「え?」
鳥居「歴史は多分・・・ いや、確実に変わった。 この一連の逃亡騒動はヴァレンヌ逃亡事件と言われていてな」
鳥居「王と王妃は逃亡が失敗して捕まり、国民から批判されるようになり反王政派が活気付くんだ」
鳥居「この事件は逃亡が遅れに遅れた事で1791年6月20日に発覚するはずだったんだ」
鳥居「それから王と王妃は処刑され革命はピークになる。これを変えてしまったんだ、どんな世界になるか分かったもんじゃないんだ」
鳥居「おそらくオーストリアの軍隊を借りて革命派は弾圧されるんじゃないかな。 そしたら革命は途中でストップだ。 暗い未来しかない」
緋翠「鳥居、落ち着いて・・・!」
鳥居「いや、落ち着いてる。ダイヤルも残り2しかない。もうディストピアに行ったらどうなるか分からないんだ」
鳥居「だったらディストピアになんて帰らずフェルセンの招待でヴェルサイユ宮殿に住もう」
鳥居「そうすれば何の不自由も不足もない、それ以上の生活がきっと待ってる。 なぁ、そうしよう緋翠」
緋翠「・・・それは出来ない」
鳥居「どうして分かってくれないんだ!? 絶望しかない世界に帰るって言うのか!?」
緋翠「私は使命を思い出したの。 それを果たせるのは鳥居とわたしだけだから。 聞いて、鳥居! 私は──」
鳥居「嫌だ、やめてくれ! 聞きたくない!」
子供みたいに駄々をこねた。恥も外聞もない。とにかく何もかもが嫌だった。ああ言ったがここでの生活ですら嫌だった。
もっと言うと生きているのが嫌だった。
このどこまでも深い、終わりの見えない闇・・・昔もこんな経験があった気がする。
あぁ、思い出した。これは絶望だ・・・
こんなに絶望したのは・・・〝あの時〟以来か・・・