ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第19話 1791年 誤算(脚本)

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〇貴族の応接間
  気が付くと目の前に広がるのは洋室と、金髪の女性。
アントワネット「どこから入ってきたというの! フェルセン!」
  そしてすかさず男がやってくる。
フェルセン「はっ! お前達、着いてこい!」
  そして銃を向けられる。
  俺達は大人しく着いていった。

〇城の客室
  連行先は牢獄ではなく、先ほどより狭い部屋だった。
  なんとなくこの男の部屋かな、と思った。
フェルセン「ふぅ、乱暴な真似をしてすまなかった。 僕はフェルセン。スウェーデンの生まれだがアントワネット様が気がかりでここにいるんだ」
緋翠「随分紳士的ね? わたしたちは自分で言うのもなんだけど怪しいと思うわ」
フェルセン「いや、君たちが何かしらの理由で宮殿に忍び込んだのは察している。 ただ僕の協力者になって欲しいんだ」
緋翠「協力者?」
フェルセン「頼む、これがアントワネット様にして差し上げられる最後のことなんだ」
緋翠「アントワネットって、あのマリーアントワネット?」
フェルセン「いかにも。 陛下には申し訳ないが、その、愛してる」
  そういい顔を赤らめるフェルセン。
  プラトニックな反応だが不倫ではないのか?
緋翠「フェルセン、とりあえず経緯を教えて貰っていい?」
フェルセン「それで協力してくれる可能性が上がるなら喜んで話そう」
  18世紀後半のフランスは貴族である第一身分、聖職者の第二身分、平民の第三身分と3つの身分があった。
  このうち第三身分はフランス人口の98%を占めるに関わらず2%の人々の代わりに税を払い、貧しく惨めな生活をしていた。
  そんな第三身分たる彼らが立ち上がるのがフランス革命である。
  バスティーユ牢獄の襲撃により革命は始まり、主婦が大砲を率いてヴェルサイユ宮殿へパンを求めたヴェルサイユ行進。
  これにより国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットはヴェルサイユ宮殿からテュイルリー宮殿に半ば幽閉されてしまう。
  なお王権の縮小を唱える彼らに痺れを切らしたルイ16世はベルギーへ逃亡しオーストリアの力を借りる事を企てている。
  しかしアントワネットは逃亡の準備にやたら時間がかかっており、このままでは発覚しかねない。
フェルセン「と言うわけで一刻も争えぬ状況だというのにアントワネット様は何故かお逃げにならない」
フェルセン「このままでは最悪の事態も考えられる・・・」
  俺の脳裏に過った最悪の事態は史実、つまり国王ルイ16世とマリー・アントワネットの処刑だった。
  おそらくフェルセンも似たようなビジョンを浮かべているだろう。
緋翠「それで、わたしたちはどう協力すればいいの?」
フェルセン「アジアの交易商を装ってもらいたい。 君が首にかけてる黄金の首飾りは途轍もなく価値が高そうだ」
フェルセン「そのような貴重品を逃亡が完了し、また王権を強大化できた暁には破格の値段で譲ると言ってアントワネット様を説得して欲しい」
  緋翠がかける首飾りは確かに価値ある物だが、たったこれだけでわがまま王妃様が納得するのだろうか。
  穴だらけな作戦に見える。
  そもそも俺たちが交易商というのも相当な無茶だ。
  フェルセンにはよほど余裕がないのだろうか。
緋翠「随分と回り道じゃない? わたしと鳥居が二人でアントワネットさん襲って今すぐ逃亡するように言った方が早いと思うんだけど」
フェルセン「それだとアントワネット様が錯乱し悲鳴をあげ宮殿内の者たちに発覚しかねない。あくまで内密に頼みたい」
緋翠「でも、上手くいくのかしら」
フェルセン「正直僕にも分からない。 ただ、時間が無い。 君たちにお願いする他ないんだ、頼む」
  そう言いフェルセンは膝を折り頭を低くする。
  日本人の感覚で言えば土下座なのだろうか。
緋翠「鳥居、どうする?」
鳥居「関わるべきでないが銃を持ってる。下手したら撃たれかねないな・・・ フェルセンの態度なら大丈夫そうではあるが」
  ひたむきにアントワネットを慕う様に思うところがあったのも事実だが、何より成功率が低いと思って次のように判断した。
  俺たちはあえて受け、わざと失敗し退散すると。
  これならフェルセンも納得いくだろう。
緋翠「えぇ、分かったわ。 受けて立とうじゃない」
フェルセン「本当か! すまない、恩に着る!  これが成功しヴェルサイユ宮殿へ帰れた暁には君たちに礼をさせてもらいたい!」
  フェルセンには多少罪悪感を抱きつつ、アントワネットの元へ再度向かうことになる。

〇貴族の応接間
フェルセン「アントワネット様、失礼致します。先ほどのものはアジアからの交易商ですが迷ってしまったみたいで・・・」
アントワネット「あら、そうでしたの。 でもごめんなさいね、今は非常に勿体無いことだけれどあなたたちの期待に応えるのは難しいわ」
  アントワネットはふんぞり帰った王妃かと思ったが、淑女と呼ぶに相応しい対応だった。
  確かに顔立ちだけでなく佇まいから何に至るまで気品に満ちている。フェルセンもその気位に惚れたのだろう。
アントワネット「ねぇ、フェルセン。私と彼と彼女、3人だけにして貰える?」
フェルセン「かしこまりました」
  そしてフェルセンは退出し、結果の見えた取引が始まる。
緋翠「彼から伺いましたがこれから避難なさるのですよね? それが済み、無事ヴェルサイユ宮殿へ戻れた暁にはご贔屓にして頂ければと」
アントワネット「まあ、フェルセンったらそこまで・・・そうね、試すようで申し訳ないけれどどのような品目を扱っているのかしら?」
緋翠「今お見せできるのはこちらの首飾りです」
  そういいヒスイは黄金の首飾りを懐から出して見せる。
  フェルセンは価値があると言っていたが300年以上前の物だ。
  アントワネットが気にいるほどの価値はないだろう。
  これで俺たちは門前払いを喰らう──はずだった。

次のエピソード:第20話 1791年 絶望

コメント

  • フランス革命編♡
    ベルサイユ好きとしてはたまりません!
    ありがとうございます!

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