第17話 1453年 陥落(脚本)
〇荒野の城壁
やがて一人の男が現れる。
フランゼスだ。
フランゼス「お前達、どういうことだ! 何故門が開いている!?」
まずい、弁明しなくては・・・
フランゼス「さてはお前達、トルコの内通者だな!」
しかしフランゼスは肩を落とすだけだった。
フランゼス「せっかく陛下へ報せが入ったのだが・・・陛下はどこを見てもお見えになられないのだ・・・お逃げになられたのだろう」
どうやら剣を向ける気力もないらしい。
フランゼス「俺は陛下に尽くしてきたのに。 ミハイル、お前を尊敬していたのに。 残念でしょうがねぇ・・・」
フランゼス「陛下のためなら、お前のためならこの命を投げ出したのに。 俺はどこまでもお前と共にトルコと戦いたかった」
ミハイル「フランゼス・・・」
やがて門が開いている事で兵が集まり、騒ぎになる。
やれ、内通者を捕まえろだの、ミハイルを殺せだの。
仮面の男「静まれっ!!!」
ここに来て仮面の男が口を開く。
その空気すら震える声に、一部の兵は気圧されて武器を落とした。
そして男は仮面を外す。
その顔を見てミハイルとフランゼスは大いに驚く。
ミハイル「コンスタンティヌス陛下! 皇帝ともあろうとお方が何故ここに?」
フランゼス「陛下・・・! お見えになられないと思えば・・・!」
そう、仮面の男、彼こそがビザンツ帝国最後の皇帝コンスタンティヌス11世だった。
おそらくコンスタンティヌスはフランゼスの言う通り前回俺たちを尾行していた。
しかし前回は俺たちの存在でミハイルの陰謀が邪魔されたため、尾行する必要がなくなり去ったのだろう。
コンスタンティヌスはたちまち剣を抜き、ミハイルの喉元に突きつける。
コンスタンティヌス「ミハイル、お前が落ち着きを失っていたから尾行していたのだ。 そうしたらきな臭い現場を見かけてな。 お前らしくない強引さだ」
コンスタンティヌス「お前のような考えがあることも当然分かっていた。 しかし最後までビザンツ帝国のために戦う。 これが君主たるものの道だ」
ミハイル「陛下・・・」
コンスタンティヌス「私はこのビザンツ帝国を生きながらえさせることに躍起になっていた。 だが特別に目をかけてきたお前がこうなるとは実に遺憾だ」
ミハイル「・・・私も、形は違えどビザンツ帝国の存続に目が眩み、罪を犯しました。陛下、この首をお刎ねください」
しかしコンスタンティヌスは首を横に振ると剣を収める。
コンスタンティヌス「もうよいのだ。 ここまでビザンツ帝国想いの男がいるのだからな。 私は満足してビザンツ帝国の歴史を終えられる」
ミハイル「陛下、まさか・・・」
話していると門が開いているのが見えたのだろう、潜んでいたトルコの精鋭がこちらに向かっていた。
周囲の兵達は完全に気圧され、逃げ出してしまった。
その様子を見てコンスタンティヌスはため息をつくと向き直る。
コンスタンティヌス「さて、私は行ってくる。 この命を持ってビザンツ帝国の歴史に終止符を打とう」
ミハイル「陛下、私も共に」
コンスタンティヌス「国を、皇帝を売ろうなんて不届きものと戦えるか! その代わりお前達には役目を与える」
ミハイル「陛下・・・役目、とは?」
コンスタンティヌス「この国の、私の最後を後世まで伝えて欲しい。 以上だ」
これは遠回しに生き延びろと言っているのだ。
ミハイルはすぐに真意を察した。
ミハイル「はい、必ずや・・・!」
フランゼス「俺だけでも陛下のお側に・・・」
コンスタンティヌス「ならん。 すまんな、フランゼス。ビザンツ帝国最後の皇帝として無駄な犠牲者は出したくないのだよ」
コンスタンティヌス「故に命じる。 生き延びろ」
フランゼス「・・・はっ!」
そしてコンスタンティヌスは剣を構え、トルコの大軍に向かい突撃する。
コンスタンティヌス「私の首を刎ねるキリスト教徒はいないのかっ!!!」
その気迫にトルコ兵は一瞬怯むも、すぐにコンスタンティヌスは軍勢に飲み込まれ行方が分からなくなった。
ミハイル「陛下の最期、しかと見届けました」
〇海岸の岩場
それから俺達は無我夢中になって逃げた。
トルコ兵は執念深く追ってきたが土地勘に恵まれた二人がいるためなんとか逃げられた。
ミハイル「ここまで来ればヴェネツィア商人に頼みイタリアへ亡命出来るだろう、ご苦労だった」
ミハイル「・・・私はトルコの奴隷として生きる。 それが私が受けるべき罰だ」
フランゼス「・・・俺は去るぜ。 腐ってもトルコの手に落ちたくないからな。 あばよ」
ミハイル「フランゼス! ・・・達者でな」
フランゼスは振り返ることなく、片手を上げて去って行った。
この二人の間には長い別れの挨拶など不要なのだろう。
ミハイルは目元を拭うと懐を漁り、優しい声で言う。
ミハイル「この首飾りをヴェネツィア商人に見せて船に乗せてもらうんだ」
緋翠「ありがとう。あなたも強く生きて」
ミハイル「あぁ。それでは無事を祈る」
それがミハイルとの最後の会話だった。
そしてふと振り返った時、テオドシウス城壁のビザンツ帝国国旗が別の物に変わっていることに気付いた。
さらによく見ると何かが高々と掲げられている。
それがコンスタンティヌス帝の首だと察し、吐き気がしたが堪える。
コンスタンティノープルは・・・陥落した。
鳥居「これで俺達がやるべきことはすべてやったか・・・」
緋翠「・・・えぇ」
鳥居「それじゃ回すぞ。 ダイヤルを」
緋翠「えぇ・・・」
その時、緋翠はまたしても頭を抱えた。
鳥居「緋翠!? 大丈夫か?」
緋翠「え、えぇ。 早く回しましょう」
そして緋翠はダイヤルを回そうとするも、手が震えて上手く回せていない。
鳥居「ダイヤルは俺が回す。 一旦休もう」
〇沖合
俺たちは、念のため船に乗り一晩休むことにした。
ミハイルの言うとおり首飾りを見せたら、すぐに船に乗せて貰えた。
そして船頭で海を眺めている。
どこまでも広い・・・先の見えない海。そこにぽつりと浮かぶ船。まるで俺たちのように・・・
緋翠「ねぇ、私ね、バッドエンドが嫌いなの」
鳥居「好きな人なんているのか?」
しかし緋翠は続ける。
緋翠「私は一度バッドエンドになったの。 そしてバッドエンドの世界からここに来た」
鳥居「・・・言ってることが分からない」
緋翠「私、死んだの」
鳥居「え?」
緋翠「でも私はここにいる。 どうして?」
質問の意図が分からない。
何を言っているのかも。
しかし緋翠は死んだことを確信しているようだった。
緋翠「なんて、聞いても分かるわけないわよね・・・死んでるのに私は生きて、動いてる・・・これがすごく不気味で、気持ち悪くて、怖い」
鳥居「君は何を言っているんだ・・・?」
緋翠「夢を見たと言ったけど違ったの。 あれは記憶。私のと、お父さんのが混ざり合った」
記憶が混ざるなんてあり得ることなのだろうか。
しかし俺は緋翠を信じると決めたんだ。
ならば言う言葉はこれしかない。
鳥居「俺に話してくれないか」
緋翠「えぇ」
そして緋翠はこれまで見た記憶と、先ほど見た記憶を語る・・・
皇帝〜!(泣)
まさに時代の動く1000年に及ぶ歴史ある帝国滅亡を目撃していることに感慨を受けました。