ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第16話 1453年 陰謀(脚本)

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〇ヨーロッパの街並み
  ボスフォラス海峡の青い海が俺たちがコンスタンティノープルに帰ってきたことを報せてくれる。
  実に美しい海だ、こんなことさえなければ・・・
ミハイル「君たちは東洋人? トルコ人では無さそうだが・・・ 猫の手も借りたい状況だ、テオドシウス城壁を守るため力を貸して欲しい」
  さっそくミハイルに話しかけられる。
仮面の男「おい、こんな怪しい奴らに任せようと言うのか!」
  そしてもっともマークすべき仮面の男が激高する。
ミハイル「落ち着け。 それに怪しいと言えば君もだ」
仮面の男「くそっ!いいか東洋人、私の目が黒いうちは悪事はさせんからな!」
  そして俺たちはテオドシウス城壁へ向かう。

〇荒野の城壁
仮面の男「なに?私の指示に従うだと?」
  仮面の男の指示に従うことで、信頼を得る。
  そういう作戦だ。
仮面の男「・・・まあいい、私に着いてきて欲しい」
  そして俺たちは仮面の男に着いて行く。
  向かった先はケルコポルタ門。
  ただし出口ではなく入り口、正面から。
  そして仮面の男は門を叩き、音を立てる。
  何かしらの合図だろうか。
  やはり内通者は仮面の男だと思った。
ミハイル「了解した、今門を開ける」
  ミハイルの声がするまでは。
  そして絶対に開けてはならないと言われたケルコポルタ門がいともあっさりと開かれる。
ミハイル「やはり君たちがトルコからの使者だったか。 だが何もこうも堂々と来ることもあるまい、ひやひやしたよ」
緋翠「内通者、だったの?」
ミハイル「君たちはトルコの間者だろう? 私は最善の行動をしているだけじゃないか。 何を驚く?」
緋翠「私たちは間者なんかじゃない! もう一度聞くわ。 ミハイル、あなたが内通者なの?」
  つい敵対心をむき出しにする緋翠。
  ミハイルは一瞬驚いた様子を見せるも、静かに語った。
ミハイル「ほう? まあいい、教えてあげよう。 内通者はこの私さ!」
緋翠「何故祖国を売るような真似を?」
ミハイル「決まっているだろう。 祖国のためだよ」
  話が噛み合わない。
  ミハイルが語る祖国は別の物なのだろうか。
鳥居「まさかトルコのイェニチェリ・・・?」
  イェニチェリはトルコの王たるスルタンの直属の兵士で武力、頭脳、容姿全てが優れたものしかなれず、ミハイルなら合点がいく。
ミハイル「くっ・・・ 私がイェニチェリ・・・? スルタンの犬だと!? 誰より祖国を愛する私が!?」
  何故祖国を売る真似をして愛国者を気取るのか。
  ミハイルは狂人なのか・・・?
緋翠「どうやら訳ありのようね。 話してくれる?」
  ミハイルはため息をつくと、憂いを帯びた表情で語る。
ミハイル「ビザンツ帝国が衰弱した今、西ヨーロッパとの統合がまことしやかに囁かれている。 だがこれだけは実現してはならないのだ・・・」
ミハイル「伝統あるビザンツ帝国の文化、信仰が西ヨーロッパに蹂躙されるなど! そうなるよりはトルコの手に落ち、信仰を維持した方がいい」
ミハイル「・・・そう思ったのだ」
緋翠「でも、トルコの手に落ちたらどうなるか・・・」
ミハイル「彼らは税さえ払えば信仰の自由を保障してくれる。 そして私はビザンツ帝国の伝統を重んじたい」
ミハイル「所詮この世は神の永遠の世界へ到達する為の試練の世界、ならばどうして信仰を維持しないでいられようか」
ミハイル「・・・ビザンツ帝国と西ヨーロッパの文化、信仰にはそれほど違いがあるのだよ」
  ミハイルは狂人などではなく、狂おしいまでの愛国者だった。
ミハイル「君たちに声をかけたのは言うまでもないがトルコからの間者だと思っての事だった。私が鍵をあけたらそれを知らせる、ね・・・」
ミハイル「・・・ただ仮面の男と君たちのどちらが間者か、どちらともか、そうでないのか、それが分からなかった」
  それで見回りという適当な作業をさせ、その隙に鍵を開け、どちらか声をかけてきた方にでも報告する算段だったのだろう。
  ただし前回は俺たちがあまりに早く戻りすぎたため鍵を開ける余裕がなかったのかもしれない。
  つまり俺たちは極めて不透明な存在で、ただケルコポルタ門にいたことでミハイルの判断を誤らせて歴史が変わった事になる。
  前回トルコの軍勢が数千という心細さだったのも内通者がいたからだ。
  それで報告が入らず痺れを切らし、突撃したのだろう。
ミハイル「それで、君たちはこの私をどうする?」
緋翠「どうもしないわ。 もとよりわたしたちは関与する気はないの」
ミハイル「・・・そうか」
ミハイル「・・・陛下には申し訳ないんだ。 あのお方を売るような真似をして・・・フランゼスまで・・・」
緋翠「・・・お互い本当にやりたいことが出来ないのね」
ミハイル「君たちも、か。 なんという巡り合わせだろうね」
  ミハイルは拳を握り、目を閉じる。
  前回は勝利に酔いしれていたのかと思ったがどうやら違ったようだ。
  やがてミハイルは虚空を見上げ、静かに宣告する。
ミハイル「これでコンスタンティノープルは陥落する」

次のエピソード:第17話 1453年 陥落

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