ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第14話 1453年 思いがけぬ勝利(脚本)

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〇ヨーロッパの街並み
  ダイヤルを回すことで今度こそ元の世界に戻れる・・・
  その淡い期待は眼前の光景にあっけなく裏切られた。
  広がるのは色取り取りの家々に青い海峡。
  ここは・・・どこだ・・・?
鳥居「くそ、またしても俺達は元の世界に帰れなかったというのか・・・」
緋翠「いえ、現代のどこかかもしれないわよ」
  そうこうしていると金髪碧眼の端整な顔立ちをした男に話しかけられる。
ミハイル「君たちは・・・東洋人? トルコ人では無さそうだが・・・」
緋翠「あの、ここは今何年でどこですか?」
ミハイル「え?1453年、ビザンツ帝国のコンスタンティノープルだが・・・」
  1453年と言えばコンスタンティノープルが陥落し、中世ヨーロッパの時にも出てきた東ローマたるビザンツ帝国が滅ぶ年だ。
  ヨシュアの時代の数百年後、ローマが東西に分裂し、西ローマが476年に滅んだのに対しビザンツ帝国は1000年以上も栄えた。
  しかしイスラム勢力にじわじわと領土を奪われ、更に第4回十字軍では同じキリスト教徒に占領されるなど衰退の激しい国であった。
  やがて1453年、トルコの野心家メフメト2世により滅ぼされる。その現場に立ち会っていることになる。
  そして1000年の歴史を誇るビザンツ帝国は現代でもそうであるようにトルコの領土となる。
ミハイル「今は猫の手も借りたい状況なんだ。 テオドシウス城壁を守るため力を貸して欲しい」
仮面の男「待て、そんな奴らを手伝わせるというのか? こいつらは怪しすぎる!」
ミハイル「落ち着け。 怪しいと言えば君もだ。仮面なんか被ってトルコ人と疑えと言っているような物じゃないか?」
仮面の男「くそっ!」
  そういい仮面の男は壁を殴る。
  俺達に役目を奪われたと思ったのだろうか。
仮面の男「いいか、東洋人。 私の目が黒いうちは悪事をさせんからな!」
  そして俺達はテオドシウス城壁へ向かう。

〇荒野の城壁
  テオドシウス城壁は見るからに堅牢な作りで、破るのはとてもじゃないが難しそうだった。
ミハイル「如何に堅牢な城壁でも、穴はある。 だからその穴が無いか見回りして欲しい」
緋翠「分かったわ」
ミハイル「ありがとう」
仮面の男「おい、見回りは私もか?」
ミハイル「ああ、君にも頼みたい」
仮面の男「・・・まあいい、こいつらはトルコの間者の可能性があるからな。 私も見張ろう」
  一瞬ミハイルの顔が強張ったが、その理由は分からなかった。
ミハイル「すまない。 よろしく頼む」
ミハイル「ああ、東のケルコポルタ門は私が担当するから見なくていいよ」
緋翠「了解!」
  そして見回りが始まる。
仮面の男「・・・おい、手分けしてやろう。 早く終わるしいいだろう」
緋翠「えぇ、別にいいけど・・・」
仮面の男「お前達に頼みがある。 ケルコポルタ門へ向かってくれないか」
緋翠「え? でもケルコポルタ門は見なくていいって・・・」
仮面の男「頼む」
緋翠「・・・分かったわ」
鳥居「まあ見回りで歴史が変わるとは思えないが下手に力を入れたらまた歴史が変わりかねないからな。 手を抜こう」
緋翠「そうね」
  そして俺達は東のケルコポルタ門へ向かう。
ミハイル「む、君たち、ケルコポルタ門は見なくていいと言ったじゃないか。 何故来た?」
  ミハイルは多少苛立ってる様子だった。
  やらなくていいと言われたことをやられた上に、祖国の危機で余裕がないのだろう。
緋翠「仮面を被った人と手分けでやって、余裕が出来たの」
ミハイル「そうか。 いや、すまない、つい苛立って。 ここケルコポルタ門は要衝なんだ、絶対に開けてはならないんだよ」
  そういう割にケルコポルタ門は正門ではなく、小さめな門だった。
  しかしミハイルが重要だと言うのだからそうなのだろう。
ミハイル「一旦拠点に戻ろうか」

〇城壁
フランゼス「なんの用だ! ・・・ってミハイル? まさか捕虜になったか?」
ミハイル「いや、彼らは異国の民だが同胞だ」
フランゼス「そうか、そいつは悪かった! 俺はフランゼス」
  途端に白い歯を覗かせるフランゼス。
緋翠「随分あっさり信じるわね?」
フランゼス「ミハイルがそう言うのだからな。 彼はこの国一の愛国者だ、信じないはずがない」
ミハイル「愛国心なら君も負けてないだろう、この国一勇敢な男よ」
  二人の厚い信頼関係が伝わった。
ミハイル「君たち、今日は助かったよ。 それでまだ頼みがあって悪いんだが、今度は見張りをお願いしたい」
緋翠「えぇ、いいわよ!」

〇城壁
  そして、二人で暗くなるまで見張りをしている時だった。
「トルコ軍だ!!」
  俺達は慌てて見回すも、それらしい軍勢は見当たらなかった。
フランゼス「ガッハッハ、冗談だ。 警戒は怠るなって意味でな」
鳥居(・・・勘弁してくれ)
フランゼス「今日はトルコ兵も攻めて来なさそうだ。 休んでくれ」
  野営して休むことになった。
  フランゼスは慣れた手つきで火をつけるとミハイルが袋から干し肉を取り出し、炙っていく。
  脂がしたたり落ち、両面こんがり焼けたところを頂くと干したことで熟したのか新鮮な肉にはない濃厚な旨味が広がった。
  久々の肉があまりに美味しくがっつくもお代わりはないぞ、と言われ食事のペースを落とした。
ミハイル「こうやって休むことも仕事の一環だからね。 ・・・と失礼、巻き込んでしまった君たちに言うべき言葉じゃないな、すまない」
  神経質なようで細かな気配りも忘れないのがミハイルという男だった。
緋翠「いえ、気にしないで!」
フランゼス「そうだぜ、気にしすぎだミハイル。 今や俺達はビザンツ帝国という同じ船に乗った仲間なんだからな。 な、ボウズ!」
鳥居「え、俺?」
フランゼス「気にするな、がはは!」
  フランゼスは豪快に見えて細かなケアも出来るらしい。
  一見柔軟に見えて固いミハイルと固そうで柔らかいフランゼス。
  相性の良さそうな二人だな、とぼんやり思った。
ミハイル「フランゼス、戦況をどう見る?」
フランゼス「艦隊が山越えしてからトルコの奴らがバカに静かだ。 何か企んでいるのは間違いない」
ミハイル「私もそう思う。 ウルバン砲も壊れたらしい」
フランゼス「だが奴らは・・・スルタンは奇策を用いる。俺達の三重の砦を攻略するつもりだろう」
ミハイル「あぁ。 だがケルコポルタ門だけは開けてはならない」
  2人で何やらついて行けない会話が始まる。
ミハイル「あっ、すまないね。 コンスタンティノープルが持ち直せた暁にはお礼をさせてほしい」
緋翠「いえ、こちらこそ怪しい私たちを受け入れてくれてありがと! あんま力になれないけどね」
  そうだ。
  あまり力を入れてビザンツ帝国を救ってしまったら歴史が変わってしまう。
  歴史は変えるべきではない。それが教訓だ。
ミハイル「そう言えば、仮面を被った男はどこに?」
フランゼス「そいつならさっきまでその辺に・・・ってあれ、いねぇや」
  気付かなかったが近くにいたらしい。
  そしてそろそろ寝るか、という時だった。
  ──トルコ軍だ!!
  今度は冗談ではなく、ほんとうに軍勢が迫っていた。
  その数は暗闇でよく見えないが数千はいるだろうか。
  だが数千?
  この堅牢な城壁を攻めるには心許ない数ではないのか?
フランゼス「くそ! 今日は攻めてこないと思ったが・・・ 全員砲撃用意! 絶対にケルコポルタ門を開けるな!」
ミハイル「私は指揮に当たる! 君たちは戦況を逐一報告してくれ!」
緋翠「分かったわ!」
  トルコの軍勢は砲撃にも怯まず、ケルコポルタ門のすぐ前まで迫っていた。
  しかし門を開けるのに苦戦しているようだった。
  ここに来て疑問を抱く。
  こういうとき、名前は知らないが鐘を突く棒のような、門を開ける兵器があるはず。
  何故それがない?
  それとも石の砲撃であの分厚い門が壊れると思ったのだろうか。
  それで開かない、なんとも間の抜けた話だ。
  やがてトルコ軍は開かない、とわめき続けると退却した。
鳥居「どういうことだ? やけにあっさり退却したが」
緋翠「それに軍勢が少なすぎる気がするのよね・・・ 不思議だわ」
  緋翠も同じ疑問を抱いていたようだ。
ミハイル「君たち、トルコ軍は撤退とのことだ! よくやってくれた・・・!」
  そう言うとミハイルは目を閉じ、拳を握り締める。
  勝利に酔いしれているのだろう。
  だが待て、もしかして勝ってしまったのか?
  いや、局所的な勝利は有り得る。
  恐らくその中の一つだ。
  そう納得した。
ミハイル「今日はよく休んでくれ。 急に無茶を言ってすまなかった」
  その言葉に甘え、今日は休むことにした。

〇後宮の一室
  野営の兵士が殆どの中、それなりに広い部屋を用意してくれたのは厚遇と言うほかなかった。
緋翠「なんだか旅行に来たみたいね」
鳥居「馬鹿言え。 次ダイヤルを回したらどうなるか分からない。 そのための休息だ」
緋翠「そうね。 ・・・ねぇ、私夢を見たの。 夢の中でお父さんがAIを作ってるの」
  緋翠はベッドに仰向けになり、静かに語った。
鳥居「どうしたんだ、突然夢の中の話なんか」
緋翠「聞いて。 それで、夢の中でお父さんの娘が亡くなるの。 それなら私って・・・」
  夢の中の話なんて馬鹿馬鹿しい、そう思ったが気付いてしまった。
  緋翠が青ざめていることに。
鳥居「緋翠、夢は所詮脳が記憶整理の一環で見せる幻だ。 惑わされることはない」
緋翠「そっか、そうよね」
緋翠「・・・本当はね、怖いの。知らないはずのショッキングな映像がフラッシュバックして・・・わたしってなんなんだろうなって」
鳥居「緋翠・・・」
緋翠「私というものも何もわからないまま旅に出たらもっと分からなくなって・・・私って生きてるの? 生きてるなら何のため・・・?」
  どう声をかければいいか分からなかった。
  緋翠は夢と語るが、どこか確信じみた物を感じた。
  慰めようと緋翠の隣に腰掛けたとき・・・
緋翠「・・・なーんて、弱気になってる私を襲おうって魂胆なんでしょ! この!」
  緋翠は手を振りかぶる。
  やばい、これまでのは演技だったのか!
緋翠「なんてね。おやすみ!」
  そう言い、ヒスイはまたもベッドにうずくもり背を向けてしまう。
  俺は情けなくもこう言うしかなかった。
鳥居「お、おやすみ・・・」
  俺は彼女に翻弄されていただけなのか?
  それとも・・・
  しかしその思考は疲労から睡魔に蝕まれ、俺はたちまち眠ってしまった。
  悪夢を見て震えて眠る緋翠に気付かずに。

〇後宮の一室
  寝相の悪い緋翠のお陰で、俺はあまり眠れなかった。
緋翠「おはよう。 どうしたの? 疲れた顔して」
鳥居「君のお陰さ。 それより・・・」
  ダイヤルを見ると、100%になっていた。
鳥居「今回は下手なことをしていないし大丈夫だと信じたいが・・・ 回すぞ」
緋翠「えぇ」
  そしてダイヤルの針を5から4へ合わせる。
  カチリッ
  そして慣れてきた不快感に包まれ、意識が遠のく。

次のエピソード:第15話 2023年 挫折

コメント

  • こちらを読んでから
    あまり歴史に詳しくないので
    コンスタンティノープルについて
    調べてみようと思います。
    ありがとうございます。

  • コンスタンティノープル編楽しみです!

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