ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第13話 2043年 予兆(脚本)

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〇研究開発室
  ──2043年
  明るいが狭い研究所。
  そこにAIの研究に没頭している男がいた。
  彼は歓喜に打ち震えた様子で、珍しく興奮気味に語る。
「出来た。・・・出来たぞ! ──人間の意志を99.9%再現したAIが!」
同僚「やるじゃないか!相棒! ・・・なぁ、俺にも分かりやすく凄さを説明してくれないか?」
「20年前、2023年のAppleのSiriは6歳児程度の知能だった。 だがこれなら理論上は10の100乗歳も成り立つ!」
  10の100乗。これは数式で表すと1e+100。つまり数字で表すのが困難という値である。
  宇宙の原子の数よりも大きいという途方に暮れるような数であり、数学用語でグーゴルと言いGoogleの由来となっている。
  しかし疎い故の鋭さだろう、同僚はこう答えた。
同僚「年齢って高ければいいってもんでもないんじゃないか? それに知能が育つまでに膨大な時間がかかるんだろ?」
  いまいち男の開発の偉大さが分からない同僚は半ば理解を放棄したようで、椅子に座り込み指をパチン、とならす。
  するとたちまち音声を探知した白い人型のロボがコーヒーを注ぎ持ってきた。
  このIoTと呼ばれる音声で物を動かす技術を応用したものは同僚が開発した物であり、彼の非凡ぶりが窺える。
  同僚がコーヒーを受け取り、男に分けると、男は自身の瞳と同色のコーヒーを見つめこう言う。
「だがこれなら近いうちに医者、弁護士、会計士、サラリーマン、公務員、清掃員・・・大半が職を失うだろうな」
  それを聴き同僚は血相を変え、男の胸ぐらを掴む。
同僚「おい、そんなものを作ってどういうつもりだ!」
  しかし男は動じずに宣言する。
「あぁ、公開はしない。AIが支配者になるディストピアだけは避けなければならない」
  その意志を確認し、同僚は即座に手を離し、緊張感の抜けた顔で語る。
同僚「その通りだ。 俺はあんたの才能よりその理念を高く買ってるんだ。 いきなり掴んで、いや、疑って悪かった」
同僚「しかし99.9%なんて中途半端じゃないか、100%には出来ないのか?」
「出来ない。いや、やらない」
  男は即答する。
同僚「0.1%増えただけじゃないか、何が違うんだ?」
「この0.1%に人間の感情・・・自我が詰まってるんだ。 そうだな・・・」
「例えばiPhoneはSafari、写真、ミュージックと言ったアプリがあるから色んなことが出来る」
同僚「そのアプリが0.1%ってわけか・・・」
「そうだ。アプリのないiPhoneは高性能なガラクタに等しい。 だがこれが100%になるとAIそのものに意志が生まれるんだ」
同僚「つまり人間と同じと言うことか・・・ なるほど、確かに問題だ」
  2人はまたしてもAIが人間に取って代わる光景が浮かぶ。
  それに倫理的な問題もある。
  意志を持ったAIは人間と同列に扱うべきなのか?
  下位、あるいは上位に置くとしてまた問題を生むのでは?
「更には言語もC言語では処理が足りない。 A言語、B言語、C言語・・・それに連なる第4の言語、D言語が必要となる」
同僚「なるほど、2つも壁があるわけか・・・」
「いや、予算もだ。 スーパーコンピュータも足りない。 俺たちにそんな余裕もない」
  2人は左遷されてから少額の研究資金しか与えられなかったため、50%から99.9%にするのに10年もかかってしまった。
  言語の壁、倫理の壁、予算の壁。
  以上3つが男が不可能と語る理由であった。
「それより俺たちがすべきはAIの平和的利用を考えることだ。 たとえばAI搭載自動車。人身事故を無くすんだ」
同僚「ようやく俺にも分かる話になってきたぜ。 軍事利用でもされたらそれこそディストピアだからな」
「ああ。 俺にも娘がいるんだが娘だけはそんな世界には住ませられない」
「むしろ娘を幸せにするAIを作るんだ!」
  意気込む男。深く頷く同僚。
  2人が胸に浮かべるのはAIによるユートピアだった。
  そんなやり取りをしている時だった。
同僚「速報か──馬鹿な!!」
  娘の死を告げるニュースが流れたのは。
  コーヒーカップが割れた音が響いた。
  男は信じられず、娘のiPhoneに電話をかけたが出たのは警察だった。
  死因は不明、死体の状況を聞き・・・男は嘔吐した。
  娘が、死んだ・・・
  ここから男は、世界は大きく狂うことになる・・・

〇綺麗な教会
緋翠「はぁっ・・・はぁっ・・・」
鳥居「緋翠!? 大丈夫か?」
緋翠「え、えぇ。大丈夫・・・」
  しかしその顔は明らかに青ざめていた。
  俺達は領主の館で休むことに決めた。

〇後宮の一室
領主「・・・ソフィアは修道院に行くとのことだ。 夫のために強く生きると」
緋翠「・・・そう」
領主「彼にもソフィアにも気の毒な事をした・・・」
  領主は改心した様子ではあったが、ポールは帰ってこない。
鳥居「緋翠、あまり落ち込むな。 ソフィアさんはなんとか助けられたんだ。領主もな」
緋翠「えぇ・・・」
鳥居「おそらく、俺たちが歴史を変えなかったらポールは領主がカール大帝を救った後殺害し、残酷な刑を受けただろう」
鳥居「だがポールは勇敢に戦って死に、領主も改心した。 きっと少しは救われてるさ」
緋翠「・・・そうね」
  緋翠はまだ落ち込んでいるが、ダイヤルは100%になっていた。
鳥居「それじゃあ回すぞ、ダイヤルを」
  俺はダイヤルの針を5から4へ合わせた。 元の時代に帰れると信じて。
  カチリッ
  そして不快なめまいに襲われる。

次のエピソード:第14話 1453年 思いがけぬ勝利

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