ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第12話 800年 ただ起きただけの奇跡(脚本)

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〇綺麗な教会
  なんだ・・・?
  何故領主がまたしても現れたんだ・・・?
  1日ずらしたのに・・・
領主「やはり・・・ソフィア・・・美しい・・・私の物に・・・」
緋翠「ちょっと! 契約したでしょ! 今更邪魔しないでよ!」
  そうだ、こちらには契約書もある。
  領主には早々にご退場願おう。
領主「契約書をよく見たまえ。 交易が完了次第ポールを解放する、となっている」
緋翠「そんな・・・じゃあ結婚は無効よ! 結婚税はまだ払ってないわ!」
領主「結婚税なら昨日預かったろう? 紛れもなく有効だ。 ゆえに初夜権を行使する」
  なんてことだ・・・
  領主の執念を見くびっていた。
  悔しいほどに領主の言い分は筋が通っていた。
  希望に満ちていた式場は途端に絶望に支配された。
緋翠「鳥居、どうすればいい!?」
  くそ、なんとかしてこの状況を打開しなければ・・・!
  でも何をどうすればいい?
  そうだ、みんなの収穫物を分けて貰えば・・・
  いや、農奴を解放するにはとてつもない量が必要になるという、足りないだろう。それに都合よく協力してくれると思えない。
  こうなったら例えば領主より身分が上の者が止めてくれるしか方法はない。
  しかし、それこそ都合が良すぎる。
ポール「待ってください! ソフィアは、僕の幼馴染──」
領主「こいつを鞭打ち30回にしろ!今すぐだ!」
  くそ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ・・・
緋翠「もう、誰でもいい! 誰か助けて!」
  緋翠は叫ぶも誰もが目を逸らす。
  領主は絶対的存在。
  歯向かうことは許されない。
  俺たちは見通しが甘かった・・・これで俺たちが現代に帰ってもポールと領主の間には禍根が残る。
  いつポールが領主を殺すか分からない。次の世界もまたディストピアになるかもしれない・・・
  またやり直せる保証もない。前回は古代ローマに戻れたが一回だけ、そして次はこの中世ヨーロッパの時代に飛ばされた。
  つまり歴史はたった今領主が殺される方向に確定された可能性がある。
  やがて思考も回らなくなり、頭の中を諦めが支配していた。
  その時だった。
  奇跡が起きた。
  馬車が1台やってきて、銀髪の高貴な面構えの男が降りた。
カール「失礼、フランツ君」
  その顔を見て領主はたちまちひれ伏す。
領主「ははっ、陛下!? 何故このような所に!?」
  信じられないことに、カールの戴冠で後の皇帝となるカール1世が現れた。
  思えば今回は前の世界より1日結婚を伸ばしたが、本来この日に来るはずだったのだろう。
カール「今度教皇レオ3世とお会いすることになってな。 話の内容は想像がついてる。 だがまだ大事には出来ない」
カール「そこで秘密裏に護衛を依頼しようと直々に伺ったのだが・・・」
  カールはポールとソフィアをチラリ、と見ると事態を察した。
カール「また初夜権を行使したのか? 穢らわしい。 やはり君ではなくルートヴィヒ君に頼むとするよ、邪魔したね」
領主「そんな、よりによってルートヴィヒになど! 陛下!」
  そして振り返ることなくカールは去ろうとする。領主の面目は丸潰れだった。
領主「くそっ! おい、なに見ている? こいつを鞭打ちにしろと言っただろう!」
  そう言い捨て領主は慌ててカールに着いていき、必死に媚を売っていた。
領主「陛下、陛下の御ためならなんでも致します! ですからルートヴィヒでなくこの私めを・・・」
カール「君は農奴へもたびたび過剰な罰を与えていると聞く。 それさえなければ優秀な騎士だが・・・」
領主「農奴どもの、いや、農奴たちの扱いも改善します。ですから・・・」
カール「・・・仕方ない。君に頼むよ」
領主「ははっ!ありがたき幸せ!」
カール「行動で示して貰う。君には期待してるよ、フランツ君」
  そして領主は振り返り、ばつの悪そうに言う。
領主「・・・鞭打ちは無しだ。 その、これまですまなかった」
  おそらく領主もこれに懲りて今後初夜権を使うこともないだろう。
  カールはその様子を満足気に眺めていた。
緋翠「でもまさかこんな奇跡が起きるなんて・・・」
ポール「ははっ良かったよ。 ぼくは領主さまを殺めてしまおうとも思ったけど咎を刻みたくはないからね」
  そう言い隠し持っていた刃物を捨てるポール。
  ポールが領主を殺さないことでディストピアも回避できた。
  これで俺たちがこの時代でやるべきことは全てやった。
  そして今度こそ式の続きが行われるはずだった。
  まさにその時だった、刺客が現れたのは。
  刺客はカールへ向かい、一直線に襲いかかる。
領主「! 何奴だ!」
  領主は慌てて剣を抜き、刺客と鍔迫り合いになる。
  やがて領主が刺客の剣を弾き飛ばすと、刺客は領主の追撃をかわし、逃走する。
領主「ポール、何をしている!その不届き者を止めろ!」
ポール「は、はい! そこの者、止まれ!」
刺客「!」
  刺客がナイフが落ちている事に気付き、それを拾うのが見えた。
  俺はたまらずに叫ぶ。
鳥居「よせ! ポール!」
  そして刺客とポールはぶつかる。ポールは目を見開くとそのまま血を口から流す。その胸にはナイフが深々と突き立てられていた。
ポール「僕は、死ぬのか・・・」
  しかしポールは刺客の腕を掴む。
  刺客の腕を掴んだまま刺客ごと後ろに倒れる。
  ポールは腕の力を緩めないのか刺客は逃げられずにいた。
刺客「くそ! 離せ死に損ない!」
ポール「ただじゃ、死なねぇ・・・!」
  やがて領主が追い付き、刺客は連行された。
ポール「はは・・・やっと・・・幸せになれると思ったのにな・・・」
緋翠「ポール! しっかりして! ねぇ!」
ソフィア「ポール? 嘘でしょ?」
ポール「ソフィア・・・君だけでも・・・幸せに・・・」
緋翠「ポール!」
  ソフィアは何が起きたのか受け入れられない様子だった。
  ポールの胸に突き立てられたナイフは奇しくも前の世界で領主の胸に突き立てられた物だった。
  それからは領主も罪悪感を抱いたのだろう、ポールの葬儀が行われた。
  葬儀中、ソフィアは終始無表情だった。
  そう、奇跡は起きた。だが起きただけだった。
  ポールは何の因果か、またしても死んだ。
  ダイヤルを見ると100%になっていた。
鳥居「・・・ダイヤルを回すぞ。 次こそ元の時代に帰れるといいんだが・・・」
緋翠「えぇ・・・」
緋翠「うっ!」
  またしても頭を抱える緋翠。
  場面は暗転する・・・

次のエピソード:第13話 2043年 予兆

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