推しと天使と、革命

底抜ノ海

きみは天使を信じるか?(脚本)

推しと天使と、革命

底抜ノ海

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〇森の中
佐藤彩羽「──」
小林「こちらシャーマン3」
小林「一時の方向、対象を目視で確認。距離三◯」
小林「いつでも撃てます、送れ」
「──こちら、五十嵐」
「発砲は許可しない」
「もし勝手に弾(はじ)いてみろ?」
「その場でお前を絞め殺してやるからな」
「シャーマン3はそのまま、対象に悟られない距離を保て」
「シャーマン1から7もそのままだ、送れ」
小林「──シャーマン3、了解」
佐藤彩羽「──」
佐藤彩羽「──」
小林「──」
小林「──こ、こちらシャーマン3!」
小林「対象、発光の後に消失!」
小林「逃げられました・・・!」

〇テントの中
五十嵐明「──」
五十嵐明「──」

〇空
「やっと、見つけた」
「──今会いにいくからね、あずまくん」

〇広い公園
東圭一「──」
「──さあどうなる、先頭は13番メッセンジャー!」
「外から3番プシューコポンポス、追い上げる!」
「追い上げる、追い上げる、プシューコポンポス!」
東圭一「──」
「逃げ切れるか、メッセンジャー!」
「メッセンジャーか!ポンポスか!」
「追い上げる!追い上げる!しかし──」
「一着は、メッセンジャー!」
「13番メッセンジャー!三冠達成!!」
東圭一「くそ!!」
東圭一「──はぁ」
東圭一「死にたい」
東圭一「ん?」
佐藤彩羽「──」
東圭一「なんですか?」
佐藤彩羽「──それって馬券?」
佐藤彩羽「な、なかなかの不良少年だね?」
東圭一「不良なんかと一緒にしないでくれますか?」
東圭一「彼らは徒党を組みますけど」
東圭一「僕はそんな品性のないこと、しないので」
佐藤彩羽「──」
佐藤彩羽「ま、まあいっか・・・」
佐藤彩羽「ところでわたし、サトウイロハっていうんだけど」
佐藤彩羽「きみの名前は?」
東圭一「名前?」
東圭一「学校に通報でもするつもりですか?」
東圭一「競馬はもう懲りたので、通報してもムダですよ?」
佐藤彩羽「つ、通報なんてしないから!」
東圭一「そう言われましても・・・」
東圭一「僕、基本的に他人を信用しないたちなので」
東圭一「ちなみに、そのおかげで友達0人です」
東圭一「友達0人の不良、聞いたことあります?」
東圭一「ほら、やっぱり僕は不良ではないんですよ」
東圭一「なので通報は不要です」
佐藤彩羽「──」
東圭一「そんな顔しないでください」
東圭一「分かりました、名乗ります」
東圭一「西です」
東圭一「ニシケイジ、と申します」
佐藤彩羽「ぜったい、嘘」
東圭一「鋭いですね、本名はミナミ──」
佐藤彩羽「もういいから!」
佐藤彩羽「あずまけいいち君、でしょ?」
東圭一「──どこでその名前を?」
佐藤彩羽「あのね?」
佐藤彩羽「わたし、天使なの」
佐藤彩羽「あなたを迎えにきました」
東圭一「──」
東圭一「えっと、あなたが天使だという証拠は?」
東圭一「未成年で博打を打つような、いかにも徳の低い人間を迎える理由は?」
東圭一「あ、行先は地獄ですか?なら納得ですが」
東圭一「あと僕、仏教徒なんですけど」
東圭一「そこに天使が迎えに来るって設定、いい加減すぎません?」
東圭一「もう帰っていいですか?」
佐藤彩羽「やっぱり、こうなっちゃうよね・・・」
佐藤彩羽「──」
佐藤彩羽「いいよ、帰っても」
佐藤彩羽「どうせここだと人目につくし、ね?」
東圭一「──バカバカしい」
佐藤彩羽「──」

〇屋上の隅
鮫島「──」
鮫島「こちらシャーマン8、市街地にて対象を発見しました」
鮫島「班長が予告した通りの場所です」
鮫島「なお対象は民間人と接触済み、送れ」
「こちら五十嵐、了解」
「今そちらへ向かっているところだ」
「シャーマン8は監視を続けろ」
「──ただし」
「監視するのは民間人のほうだ」
「いいな?」
鮫島「了解」
鮫島「──」

〇マンションの共用廊下
東圭一「──」
東圭一「──久々に家族以外と会話したなぁ」
東圭一「いや今日は、コンビニの店員とも話したっけか?」
東圭一「ああいうのは果たしてカウントしていいものか──」

〇玄関内
東圭一「──只今帰りましたよー、っと」

〇オタクの部屋
東圭一「さて、配信前に──」
佐藤彩羽「──」
東圭一「──」
東圭一「!!」
佐藤彩羽「きったないねー、あずま君の部屋」
東圭一「──」
佐藤彩羽「自殺志願者の部屋が散らかってるなんてあるあるだけどねー?」
佐藤彩羽「あ、お邪魔してます」
東圭一「──」
東圭一「──」
東圭一「──OK、分かった」
東圭一「どうやってここに忍び込んだのか、気になるところですけど」
東圭一「そこはそれ」
東圭一「信じます」
東圭一「あなたが天使だ、っていうこと」
佐藤彩羽「──へぇ、説得の手間が省けるのは助かるけど?」
東圭一「あらゆることを天秤にかけて考えてみたんですけどね?」
東圭一「あなたに穏便にお引き取り願うには」
東圭一「素直にしたがったほうがいいと判断しまして」
佐藤彩羽「やっぱり信じてないじゃん!」
佐藤彩羽「ほら、この羽とか動くんだよ?」
佐藤彩羽「──ま、これじゃあ飛べないんだけどね?」
佐藤彩羽「代わりに空間転移とかできるよ?」
佐藤彩羽「やってみる?」
東圭一「いえ、結構です」
東圭一「それより自殺志願者がどうの、ってそれどういう意味です?」
佐藤彩羽「きみ、死にたいっていってたでしょ?」
佐藤彩羽「自殺志願者を救済するのがわたしの役目なの」
佐藤彩羽「つまり、きみを助けに来たんだよ?」
東圭一「──なにを言ったとかそんなこと、いちいち覚えてないです」
東圭一「そのときは死にたかったんでしょうけど」
東圭一「今はもう別に、って感じですし」
東圭一「生き甲斐もあるんで」
佐藤彩羽「その生き甲斐って──」
佐藤彩羽「この”あすらいる”っていうヴァーチャルライバーのこと?」

〇仮想空間
明日羅イル「こんにるー!」
明日羅イル「ネット堕天使、イルちゃんだよー!!」

〇オタクの部屋
東圭一「──はい、そうですけど?」
東圭一「今から彼女の生配信があるので、帰ってもらえますか?」
佐藤彩羽「この娘があずまくんの推し、ってわけだ?」
東圭一「推しなんて、ちゃちなもんじゃないです」
東圭一「信徒です」
東圭一「僕は、彼女の信徒です」
東圭一「──僕が競馬なんていう博打を打った理由が分かりますか?」
東圭一「彼女にお布施するためです」
東圭一「まあ、これには失敗してしまったので」
東圭一「地道に勉強し、名門大学から高給企業へ就職」
東圭一「そこで稼いだ金で、お布施する」
東圭一「という人生プランに路線変更しようかと思っていますが」
佐藤彩羽「──こつこつアルバイトする、とかじゃないんだ?」
東圭一「バイトで稼いだお金は、すべて競馬で溶かしました」
東圭一「あるいは生涯年収で考えると、バイトするより勉強した方が経済的でしょう?」
佐藤彩羽「推しは推せる時に推せ、っていう人もいるけど──?」
東圭一「明日羅イルに引退とか、そういう心配は無用です」
東圭一「彼女は、ぜったいに僕を裏切らないので」
佐藤彩羽「──」
東圭一「──まあ、とにかくですね」
東圭一「明日羅イルがいる、この日常を邪魔されないことだけが」
東圭一「僕の望みなんですよ」
東圭一「──仮に、あなたが僕を迎えに来たというのが本当だとして」
東圭一「どこに連れていくんですか?」
東圭一「天国ですか?」
東圭一「明日羅イルのいない天国なんて、」
東圭一「僕にとっては地獄も同然です」
東圭一「断固、拒否します」
東圭一「──僕はもう、明日羅イルしか信じない」
東圭一「そう、心に決めているので」
佐藤彩羽「──」
佐藤彩羽「あずま君は本当に──それで、幸せなの?」
東圭一「──馬鹿にしてます?」
佐藤彩羽「馬鹿にはしてないけど」
佐藤彩羽「──あずま君、それってさ」
佐藤彩羽「生身の人間を信じるのが怖くて、」
佐藤彩羽「逃げ──」
「けいいちー?」
「悪いんだけど牛乳買ってきてくれないかしらー?」
東圭一「──」
佐藤彩羽「──」
佐藤彩羽「──ま、今日のところは引き上げるよ」
佐藤彩羽「また気が向いたら、あの公園に会いに来てほしいな」
佐藤彩羽「わたしもなにか、話し相手ぐらいにはなれるからさ?」
東圭一「──」
佐藤彩羽「またね、あずま君?」
東圭一「──」
東圭一「──空間転移ってホラ吹きじゃなかったのかよ」
「けいいちーー?」
東圭一「──」

〇空

〇スーパーマーケット
東圭一「──さて」
東圭一「このまま、まっすぐ帰れば配信には間に合うけど」
東圭一「──公園にあれ、忘れてきたんだよな」
五十嵐明「これのことかい?」
東圭一「!」
五十嵐明「いやあ、俺はついてるよ」
五十嵐明「──こんなにも早く、持ち主が見つかるなんてな?」
五十嵐明「ところでひとつ、聞きたいことがあるんだ」
五十嵐明「──君、」
五十嵐明「天使を信じるか?」
  つづく

〇幻想空間
佐藤彩羽「──」
佐藤彩羽「ごめんね?本当は羽根、黒いんだ──」
  次回『天使か、死神か』

コメント

  • シャーマンたちのシリアスな雰囲気と、彩羽と東くんのほのぼのBGMシーンの落差に「何かあるな」とは思いましたが、まさかのラストのワンシーンにゾクッとしました。推しのイルちゃんの羽の色も皮肉ですね。今から驚くべき結末、楽しみです。

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