ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第6話 30年 犠牲(脚本)

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〇荒廃した街
緋翠「はぁっ、はぁ・・・」
鳥居「緋翠、大丈夫か!?」
緋翠「今のは、なに・・・?」
女性「休んだ方が良さそうね」
  そして女の計らいで、かろうじて休めそうな場所を探して貰い、そこで眠りにつくことになった。
  目を覚まして広がる光景は・・・やはり荒廃した世界。
  夢なら覚めて欲しかった。
緋翠「・・・一つ思い出したというか、確信できることがある。 それはまたダイヤルを回したらローマに飛ぶということ」
  ダイヤルを回して、本当にローマに戻れるのか?
  戻ったとして、俺達がすることは・・・
  俺達が次の世界でするべきことは、ヨシュアとユダを──
  しかし、もしも戻れるなら歴史を正すしかない。
  俺は心を押し殺すように、ダイヤルを9から8に回す。
  カチリッ
  不快なめまいがし、意識が遠のく。

〇中東の街
鳥居「ここは・・・」
  見覚えのある石造りの街並み。
  ここは古代ローマだ。
ローマ兵「む、お前達東の漢の者か? いや、服装が違うな。隷属民か」
  あぁ、そう言えばこんな男もいたな。
ローマ兵「まあ我々ローマ市民に税を払うならどうでもいいがな」
鳥居「そしてこのあとは女性が・・・」
女性「あああ、ありがとうございます・・・! 貴重な布を裂いてまで・・・!」
  そして今となっては懐かしさすら感じる明るい声が響く。
ヨシュア「大したことしてねえよ。 困ってるレディを放っておけないからな」
緋翠「で、このあとは男の人が転んで・・・」
  予測通り、男が転び、ヨシュアがパンを分けてやる。
  それを見ているとヨシュアと目が合った。
ヨシュア「ん?お前達どっから来たんだ?」
緋翠「・・・わたしたちは東の果てから旅してるのよ」
ヨシュア「へー、東かぁ。よし、パリサイ派の連中が俺の考え分かってくれたら東へ行こう!」
  待ち受ける運命も知らずにのんきに語るヨシュア。
ヨシュア「そうだ、お前達旅人だろ? うちにこいよ! 旅の話を聞かせてくれ!」
緋翠「いや、わたしたちは・・・」
ヨシュア「遠慮すんなって!」
  そしてヨシュアは先に向かってしまう。
ユダ「・・・お二方」
緋翠「・・・ユダ」
ユダ「私を・・・知っている・・・? あなたたちは一体・・・」
ヨシュア「おーいお前らまだかー? 置いてっちまうぞ!」
ユダ「!」
  慌てて去るユダ。
  そして俺たちはヨシュアの家に向かう。

〇屋敷の牢屋
  家では、ヨシュアは前回と全く同じことを語った。
ヨシュア「そう言うわけで神様は罰を与えてばかりだとみんな考えてるが俺の考える神様はもっと優しいんだ」
緋翠「・・・前向きな考え方ね」
ヨシュア「だろ! それに俺はいつか全世界の人が手を取り合えたらいいなと思うんだ。 お前はどう思う?」
鳥居「・・・いつか叶うさ、きっと」
ヨシュア「そうかそうか。いつか叶うかもしれないんだな・・・」
  そしてヨシュアは眠ってしまう。
  はずだった。
  俺たちはヨシュアに驚愕させられる。
ヨシュア「・・・なあ、お前たちは時間でも戻してきたのか?」
緋翠「! どうして、そう思うの?」
ヨシュア「その反応、やはり・・・」
ヨシュア「お前たちの受け答え、まるでオレが言うことを知っているかのようだった。 時間を戻してきたってことは未来から来たんだな」
  なんとヨシュアは天才的な勘の良さで俺たちが未来人だと気づいた。
ヨシュア「それにお前たちのその様子‥これからなにか起きるんだな? なあ、どうなるんだ?」
緋翠「えっと・・・」
  緋翠が言い澱んでいたたため、珍しく俺が答えた。
鳥居「ヨシュアは民衆の期待に応えられなかったことで怒りを買い・・・殺される」
緋翠「鳥居!?」
  希望を持たせるために嘘をつくのはヨシュアに失礼だと思った。
  あとから錯乱して逃げないか、と後悔したが・・・
ヨシュア「そうか、俺は死ぬのか・・・」
  ヨシュアは俯いてしまった。
ヨシュア「・・・未来の人々は幸せか?」
  唐突な質問だった。
鳥居「なんとも言えない。そうでない人も多い」
ヨシュア「じゃあ質問を変える。 未来の人々は腹いっぱい飯食えてるか・・・?」
鳥居「・・・国によって程度はあれ、餓死者は未だにいる」
ヨシュア「未来の人々は手を取り合えているか・・・?」
鳥居「グローバル化、いや国を越えた交流は増えたが手を取り合えているとは言えない。 むしろ格差も生んでいる」
ヨシュア「・・・」
  それっきりヨシュアは黙ってしまった。
  ただでさえ死ぬというのに2000年後の世界でも願いが1つも叶っていないのだ。
  俺はヨシュアを傷つけてしまった。
  言わなければよかった。
  そう思ったとき──
ヨシュア「どうやら神様はお怒りらしい! だから俺が神様んとこ行って許してくれって言ってくる」
  ヨシュアはお得意の笑みを浮かべると、今度こそ眠ってしまった。

〇屋敷の牢屋
ヨシュア「じゃ、俺は仕事行ってくる。 おまえたちは寛いでてくれ」
緋翠「いえ、わたしも手伝うわ」
ヨシュア「悪いな、ありがとよ!」

〇中東の街
  そして彫像を削る。
  前回ヨシュアに教わり、少しはサマになったもののまだまだだった。
ヨシュア「ったく、お前に削り方を教えた奴の顔を見てみてえもんだぜ」
鳥居「・・・」
ヨシュア「お前達、どうも身が入ってないな」
緋翠「死ぬのが、怖くないの?」
ヨシュア「ああ、怖い。震えそうだ。 だが俺は知れてよかったと思ってる。 ありがとよ、教えてくれて」
ヨシュア「ちゃんと神様にもお前達の分も許して貰うから安心してくれ」
  どこまでも直向きなヨシュアに胸を打たれ、珍しく俺の方から話しかけようとしたときだった。
  そこの貴様!
  着いてきて貰おうか!
  ローマ兵が迫る時間になってしまった。
  ここから先は前回と一緒だ。
  ヨシュアは奇蹟を起こすよう迫られ、なにも出来ずにいると民衆が罵倒する。
  「そんな、あなたなら奇蹟をおこせるんじゃなかったのか!」
  「ふざけるな!ペテン師!」
ヨシュア「俺は奇蹟なんて起こせない。 いつだって無力だったさ」
隷属民「そんなことない! 俺は初めて人に優しくされた。救われたんだ。 この場は逃げてください」
ローマ兵「貴様!逃がすか!」
  ここまでは前回と一緒だ。
  だがここからは違う。
ヨシュア「すまねえ、俺はローマ兵の奴らにこの場を収めてもらうよう言ってくる」
緋翠「・・・分かったわ」
  そしてヨシュアは瞬く間に捕らわれた。

〇砂漠の基地
  ここから先は語るのも苦しい。
  ヨシュアは裁判の結果、磔刑が言い渡され、その手足に太い杭を打ち込まれ、磔にされた。
  激痛にのたうつことも出来ず、ただヨシュアは懸命に苦痛に耐えていた。
  「ははっざまあみろ!」
  「詐欺師に相応しい末路だ」
  「早くくたばらないかしら」
  その間も民衆はヨシュアを口汚く罵った。
緋翠「見ていられないわ! 早くダイヤルを回しましょう!」
鳥居「駄目だ。見届けなきゃいけない。 死を、確認するまで・・・」
  それからどれほど時間が経っただろうか。
  こちらも気が遠くなるほどの時間が経った頃だった。
ヨシュア「みんなを・・・許して・・・やってくれ・・・」
  そう言いヨシュアは息絶えた。
ユダ「・・・」
  一瞬ユダらしき人物が視界に入ったが、すぐに去ってしまった。
  このあと、ユダも影武者を擁立し、自殺する。
  そう、歴史は正された。
  ヨシュアとユダを犠牲にすることで・・・
鳥居「それじゃあ回すぞ、ダイヤルを」
緋翠「・・・えぇ」
  俺はダイヤルの針を8から7へ回す。
  次こそ元の時代に帰れると信じて。
  カチリッ
  不快なめまいがする。
  しかしそれ以上に心内が不快だった。

次のエピソード:第7話 800年 歓迎

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