ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第5話 2029年 罪(脚本)

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〇研究施設のオフィス
  ──2029年 
  アメリカ、シリコンバレー。
  明るく開放的なオフィス。世界中から精鋭が集う場で孤立している男がいた。
  孤立している理由は、男が24才という異例の若さでチーフの座についていることが大きかった。
  誰より仕事を早く終えた男は、モニターの画面を切り替える。
  男はモニターに映された少女とチャットをする。
  AIの出来を確認しているのだ。
ジャン「おい日本人、さっきからなに遊んでんだ」
「俺のことは気にしないでくれ」
ジャン「ったく、お前はなぁ、協調性が・・・」
  ジャンは悪態をつきつつ席に戻る。
エマ「ジャンったらあなたに妬いてるのよ。 日本から来てあっという間にチーフですもの」
ジャン「聞こえてんぞ!エマ!」
エマ「あらやだ、怖い怖い」
  ふと、男のモニターがエマの目に映る。
エマ「これは、何? 女の子?」
「あぁ、俺の娘をモデルに開発している意思を持ったAIだ。 娘が4才なんでまだ4才児程度の知能しかないが」
エマ「ふーん・・・? ソースコード見せて貰っていい?」
「別に、構わないが・・・」
エマ「・・・なるほどね。ありがとう」
ジャン「お前ら、コーヒー飲むか?」
「悪いな」
エマ「ありがとう」
  そして3人でコーヒーを飲み干す。
エマ「・・・もう、ダイエット中だから砂糖いらないって言ってるのに」
  そんな軽口を吐くと、エマは席に戻った。
  ジャンはその様子を見て、肩をすくめる。
  しかしジャンは真剣味を帯びた表情で語る。
ジャン「あいつ、シングルマザーだったんだが子供が亡くなったらしい。 ああ見えて気の毒な奴なんだ」
  初耳だった。エマは語ることも、そんな素振りを見せることもなかった。
  翌日、エマは仕事を休んだ。
  その翌日もエマが来ることは無かった。
ジャン「おい日本人、エマの奴どうしてるか知らないか?」
  男は首を横に振った。
  強いて言うならジャンが語った内容がなんとなく頭に残っていた。
  それから何日経った頃だろうか、ニュースを見て男は愕然とする。
  なんとエマがFBIに逮捕されたのだ。
  エマは男のAiを模倣し、死んだ子供のAIを作ろうとした。
  しかしそれはエマには制御できず、たちまちウイルスと化した。
  そして暴走したウイルスは政府へのハッキングを試み、エマは逮捕された。
  ただ死んだ子供に会いたかっただけなのに招いた悲劇。
  ジャンは男の胸ぐらを掴む。
ジャン「くそっ! お前が変なこと吹き込んだからこうなったんだぞ!」
「・・・」
ジャン「・・・チッ」
  これがきっかけで男とジャンは関係が悪化し、男は職場で喋る機会をますます失った。
(俺が作ったプログラムはとてつもない危険を孕んだものだった・・・くそ・・・)
  それから男はプラグラムを公表することに慎重になり、人間とAIの平和的共存という道にこだわるようになる。
  その数ヶ月後だった。
エージェント「君かね、シリコンバレーで活躍してる天才日本人とは」
「あんたは?」
エージェント「日本の研究機関の者だ。 現在我が国は優秀な人材の流出に悩んでいてね」
エージェント「そこで世界中で精鋭が集うここで天才がいると聞いてね。 ぜひ君には我が国で先端テクノロジー、そう、AIを研究してほしい」
「設備が恵まれていれば断る理由はない」
エージェント「そうかね、話が早くて助かる」
  男は同時にこうも思っていた。
  このエージェントは信頼しない方がいいと。
  事実その直感は当たっていた。
エージェント「む、電話だ。失礼」
「『プロポーズは上手くいったか?』」
エージェント「ああ、粘るかと思ったが拍子抜けだ」
「『奴の妻と娘・・・あれはもう必要ないだろう』」
エージェント「手荒な真似は避けたかった。 助かったよ」
「・・・」
  男はそれを傍受していた。
  どのみち自分に断るという道はないらしい。
エージェント「すまない、待たせたね」
  エージェントは何食わぬ顔で戻ると、東京行きのチケットを渡す。
  男は礼も言わずそれを受け取る。
エージェント「楽しみだ・・・AI職人と呼ばれる君の活躍が」
「・・・」
ジャン「おい日本人、例のコードだが・・・」
「すまない、ジャン。帰国することになった」
ジャン「なに? 散々迷惑かけておめおめ日本に逃げるだと?」
「・・・すまない」
  男は少ない荷物をまとめる。
  そして、帰宅してしまった。
同僚「くそ、あいつ・・・ プロジェクトはまだ途中なのに・・・」
ジャン「・・・あいつのこと、認めてはいたんだがな・・・ だかあいつは正直眩しくもあった」
  そして男は東京へフライトした。
  それが破滅への道のりだとも知らずに・・・

次のエピソード:第6話 30年 犠牲

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