ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第3話 30年 諍い(脚本)

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〇屋敷の牢屋
ヨシュア「ん、お前ら起きたか。 んじゃ、オレは仕事行ってくる」
緋翠「いえ、悪いから私も手伝うわ」
ヨシュア「そうか? ありがとよ!」

〇中東の街
  しかし軽はずみに手伝おうとしたことを後悔した。
  たとえば彫像を削るにしろ、力加減が分からない。
ヨシュア「なんだ? お前らこんなことも出来ないのか?」
  この時代ではスマホを扱うように当然のことでも、突然スマホを渡されて操作できる人はいないだろう。それと同じだった。
ヨシュア「よし、オレが教えてやる! 肩の力を抜いてやるんだ!」
鳥居「え、こ、こう?」
ヨシュア「違う、力を抜きすぎだ! こう!」
  カツンと気味良い音を立てて石が削れる。
ヨシュア「やれば出来るじゃねぇか! お前をオレの弟子にしてやるぜ!」
  心底嬉しそうに笑うヨシュアを見て、俺たちも釣られて笑う。
  ヨシュアの笑顔は人を惹きつける魅力があった。
  ヨシュアに対しては、対人恐怖症の俺でも不思議とそれほどビクビクすること無く接する事が出来た。
  多少は緊張するが。
女性「私も手伝わせてください」
  それは昨日ヨシュアが布を裂いて助けた女性だった。
ヨシュア「ありがとよ、でも礼なら別の奴にしてやってくれ」
隷属民「俺も手伝わせてください」
  気付くとヨシュアに助けられた、と言う人が両の手指で数え切れないほど集まっていた。
ヨシュア「困ったな・・・よし、それじゃあみんな手伝ってくれ!」
  みな、少しでも恩を返せることを喜び、互いに協力して仕事を手伝った。
  ヨシュアは互いに手を取り合える世界を目指していたが、今この場ではそれが実現していた。
ヨシュア「な?隣の人に優しくすれば、それは結びつきになるんだぜ」
鳥居「確かに凄い慕われっぷりだな、流石俺が見込んだ男だ」
緋翠「鳥居は何もしてないでしょ。 でも空想論を述べているばかりだと思っていたけど・・・この光景は本物ね」
ヨシュア「お前らさりげなくサボろうとしてないか?」
  3人で笑いあう。
  実に平和な一時だった。
  しかし・・・
  そこの貴様!
  着いてこい!
  平和は突如ローマ兵により破られた。
ローマ兵「貴様は何やら怪しい教えをしているという。 ローマ総督ピラトの命により貴様を連行する!」
  そんな、ヨシュアが間違っているだと?
  間違っているのはお前らじゃないか!
ローマ兵「・・・だが同時に貴様は奇蹟を起こすとも言う。 そこでこの盲人の目を開かせられたら見逃してやろう」
  そう言い縄を引き、目を閉ざした者を連れてくる。
  無茶苦茶だ。
  2000年後ですら不可能な芸当をこの場で起こせと迫っている。
  ヨシュアは多くの人を救ってきた。
  それは奇跡として、実態をねじ曲げて勝手に信仰されているようだった。
ローマ兵「どうした! 出来ないというのか!」
  ヨシュアが何も出来ない様を見て民衆は失望を隠さず、罵声を浴びせる。
  「そんな、あなただったら奇蹟をおこせるんじゃなかったのか!」
  「ふざけるな!詐欺師!」
  お門違いの罵声を浴びせる民衆に対して、ヨシュアは静かに語った。
ヨシュア「俺は奇蹟なんて起こせない・・・いつだって無力だったさ」
  喧騒は広がるばかりであった。
  民衆はローマ兵に協力してヨシュアを捕らえようとまでする。
隷属民「そんなことはない!!!」
  しかしヨシュアに助けられた人々が彼を庇った。
隷属民「俺は生まれて初めて人に優しくされた。救われたんだ。 だからこの場は任せて逃げてください」
ローマ兵「なにっ!逃がすな!」
  そしてヨシュアに助けられた人々と、ローマ兵の間で乱闘騒ぎになる。
緋翠「さ、ここは逃げて。 あなたが捕まるなんて惜しいわ」
ヨシュア「すまねぇ、だがオレはローマ兵の奴らに・・・」
緋翠「あなたのその考えはきっと数え切れないほどの人の救いになるわっ! 今ここで無駄死にするような真似してどうするのよ!!」
ヨシュア「・・・そうか。 おまえたちは不思議だ、まるで・・・ いや、言う通りにしよう」

〇怪しい部屋
  そして俺達は隣の村にある隠れ家まで逃げた。
緋翠「それにしてもなんで突然ローマ兵が・・・」
ヨシュア「心当たりはある。 なあ、そこの」
  ガタッと音がした。音を立てた主はドアを開けると、ふらふらと歩み寄ってくる。
緋翠「あなたは、昨日の・・・」
???「幸いなるかな、心貧しき人。天国は彼らのものなればなり。幸いなるかな、泣く人。彼等は慰めらるべければなり・・・」
???「先生(ラビ)はそう仰られましたね。病める者や貧しい者が『神の国』に行き救われる・・・それが先生の考えでしたね」
ヨシュア「その通りだ、ユダ」
緋翠「まさか、あなたがイスカリオテのユダ・・・? と言うことはヨシュアは・・・ いえ、それより本当に・・・」
ユダ「はい‥先生の優しさは現世で苦しみに喘ぐ者に受け入れられる事は難しい・・・人はいつだって約束された安寧を求めるのです・・・」
ユダ「なので私はローマ兵に売り渡しました・・・」
緋翠「何故売るような真似をしたの!?」
ユダ「私は誰より先生のために悩み苦しみました・・・ そして辿り着いたのです。先生は殉教するべきだと・・・」
ヨシュア「オレが死んでも彼らは救われない。 彼らが救われるのは己が精神の安寧を見出した時だ」
ユダ「富める精神を説く貴方は貧しくなっていく一方・・・何故なら民衆の期待を裏切っているのですから・・・」
ユダ「民衆はローマからの解放を望んでいるというのに先生は立ち上がらない・・・」
ユダ「先生もその力もないでしょう・・・それは私がよく分かります・・・弱い民衆に寄り添う・・・先生がしたことはそれに尽きます」
緋翠「どうしてヨシュアが殉教するという話になるの? 話が飛躍しているわ」
ユダ「先生には殉教して頂きますが蘇って頂くのです。私が先生に似た影武者に先生を演じさせ死後蘇った・・・そう演出するのです・・・」
ユダ「信仰とは希望にして絶望・・・私は先生の教えを誰より理想として受け取っていました・・・しかし現実では我々は迫害される・・・」
ユダ「彼らに先生の教えを理解してもらうためには奇跡を起こすしかないのです・・・たとえその過程で私が地獄へ落ちるとしても・・・!」
  場は沈黙する。なんと言えばいいか分からない。
  しかしその静寂は思いもよらない形で破られた。
  鈍い音が響いた。
  緋翠がユダを殴った音だと少し遅れて気付く。
緋翠「信仰と友情は別個でしょ!あなたは自分の考えを受け入れてもらうことから逃げたのよ!」
ユダ「いえ、私は・・・いや、確かに私が求めていたのは贖罪なのかもしれません」
  ユダは過去に何かあったのだろうか?
  一人で納得してしまった。
ユダ「あなたの言う通りかもしれません。私は逃げた、弱いから・・・私は間違っているかもしれない・・・その葛藤に・・・私は・・・」
ヨシュア「・・・ユダ、お前がそこまで苦しんでいるとは思わなかった・・・ すまねえ、これはオレの責任だ」
ユダ「先生・・・先生を何度も恨もうとしました・・・そうすれば楽になれると・・・しかし悪いのは・・・先生ではない・・・」
ユダ「先生・・・私は贖罪という己が心の安寧のためにこうまで道を誤ったのですか・・・?」
ヨシュア「それは分からない。でもオレはな、信じているんだ。いつの時代も人は救われると」
ヨシュア「それはユダ、お前も例外じゃない。お前がオレを愛さなくてもオレはお前を愛する。それじゃあ駄目か?」
ユダ「もはや私に愛される値打ちなど・・・・・・ありません・・・私は先生の死を見届けたら・・・この命を捧げるつもりでした・・・」
ヨシュア「自殺なんてオレが許さねぇ。 ユダ、救われるかは自分次第なんだ」
ユダ「自分で自分を救う・・・人は強くないからそれが出来ないのです・・・」
ヨシュア「あぁ、そうだ。人間は弱い。 だから互いに寄り添う愛が大事なんだ」
ユダ「しかし民衆はあなたを・・・私はあなたを・・・」
ヨシュア「たとえ罵られようとぶたれようと彼らを愛するんだ。ユダ、大事なのはこれからだ。お前はオレにとってかけがえのない仲間だ」
ユダ「全く、先生はどこまでも優しい・・・そう、愚かしいまでに・・・ でも、だからこそ惹かれたのかもしれない・・・」
  どうやらこれで言い争いが終わったようだ。
ユダ「私は先生を殉教させ・・・復活を見届けた後は首を吊って死ぬつもりでした・・・」
ユダ「しかし先生の・・・そしてあなたたちのおかげで私は生きて先生と教えを説きたいと・・・そう思いました」
緋翠「わたしは大したことしてないわよ。 立ち直ったのはユダ、あなたの強さよ」
  緋翠がしたことといえば殴ったこと・・・とは言えなかった。
ヨシュア「ま、お陰でオレはお尋ね者の身になったが新たな地で考えを広めて回るのも悪くないな」
ユダ「も、申し訳ありません、先生。やはりここは私が首を吊るべき・・・いや、私が先生の影武者を・・・?」
ヨシュア「死ぬのは禁止っつったろ! 大丈夫さ、みんなもいつかオレの考えを分かってくれるさ」
ユダ「そうですね・・・私に残されたのは先生への絶対的帰依・・・」
ヨシュア「お前のその視野の狭さはなんとかなんねえかなぁ・・・」
  それから少し語らいながら休み、二人を見送ることになった。
緋翠「ヨシュア、あなたは無力だって言うけど誰より優しく誰より強いわ。 だから大丈夫よ! ユダももう悪さしないでよね!」
ユダ「先生を裏切るような真似はしません。 それが私の生きる道です」
  ユダも迷いが晴れたからか、はつらつとまではいかないまでも声に活気があった。
ヨシュア「オレも上手くやるからさ。だからお前らも・・・! じゃーな!」
  そして二人は新天地へ旅立った。
鳥居「しかし、俺たちもなんとかして元の時代に戻らないとな」
緋翠「またダイヤル回したら戻れるんじゃないかしら? 回してみましょうよ!」
鳥居「なんでそんな乗り気なんだ・・・ まあ確かにダイヤル様に縋るしかないわけだが」
  そして俺は10に合わさるダイヤルの針を9に合わせる。
  カチリッ
  ──俺達の行動が世界に大きな禍根を残したとも知らずに・・・

次のエピソード:第4話 2023年 崩壊

コメント

  • 壮大な伏線だったのですね!お見事!
    愛で救われて欲しいですね。

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