壁の魔王

椰子草 奈那史

我にチョコを捧げよ(脚本)

壁の魔王

椰子草 奈那史

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〇黒
  ここは、暗い
  ここは、寒い
  ここは──

〇黒

〇壁
魔王「・・・」
カレン(キャスト)「おはようございまーす」
カレン(キャスト)「さてと、急いで準備しないとー」
魔王「・・・おい」
カレン(キャスト)「あ、起きてたんですねー」
魔王「小娘、昨日帰るときにエアコンを切り忘れただろう」
カレン(キャスト)「あれ、そうでしたか? ごめんなさーい♥」
魔王「寒くて全然眠れなかったわ!!」
カレン(キャスト)「まさか風邪をひいたとか!?」
魔王「魔王が風邪などひくか!! ただただ寒かっただけだ!!」
カレン(キャスト)「ならよかったですー もし展示中止になったら園長に怒られちゃうところでした」
魔王(こやつ・・・)
カレン(キャスト)「それじゃ、済んだ事は気持ちよく忘れて今日も頑張っていきましょー❤」
魔王「貴様が言うな!!」
「ご来園の皆様、お待たせいたしました 勇者記念公園、ただいまより開園いたします」
カレン(キャスト)「さ、お客様がいらっしゃいますよ 笑顔、笑顔を忘れずに❤」
魔王「誰がするか!」
カップルの男子「あ、ここだ! 『勇者に封じられた壁の魔王』の展示」
カップルの女子「すごーい! 本当に壁から上半身だけ生えてるんだね」
魔王「・・・おい」
魔王「われは恐怖の魔王であるぞ! 有象無象の人間風情が気安く近づくでない!!」
カップルの男子「うわ、コワ」
カップルの女子「なんだか機嫌悪いみたいだよ」
魔王「蝋人形にしてやろうかぁ ああ? 蝋人形にぃ!」
カップルの男子「ええと・・・ 『魔王は時々機嫌が悪くなる時があります。その際は──』」
カップルの男子「『右の魔王用チョコ(1個100円)を与えると直ります』だって?」
カップルの女子「あ、これかな?」
カップルの男子「はい、どうぞ・・・」
魔王「モグ、モグ・・・」
魔王「・・・」
魔王「で、んん?二人付き合ってどのくらいになるのだ?」
カップルの男子「あ、一ヶ月です」
カップルの女子「今日は『付き合って一ヶ月』記念日なんですー」
魔王「おうおう 一番楽しい時期だのう」
「はい!」
カップルの男子「あのー魔王さん 一緒に写真いいですか?」
魔王「おう どれ、こうか?」
カップルの男子「ありがとうございます!」
カップルの女子「ええと よかったらサインも・・・」
カップルの女子「あっ、手が!?」
魔王「支障ない そこのペンをわれの口まで持ってこい」
カップルの女子「こう、ですか?」
カップルの女子「すごい! お上手ですね」
魔王「かれこれ五十年もやっておるからの」
カップルの男子「それじゃ、ありがとうございました」
魔王「うむ これからも仲良くやるのだぞ」
カップルの女子「はい!」
魔王「・・・」
カレン(キャスト)「出だしは順調そうじゃないですか」
魔王「はっ! 付き合いたてのカップルというのは男の財布がゆるいものよ」
魔王「絶好のカモじゃ」
カレン(キャスト)「うーん そうすると次は難敵かもしれませんねー」
魔王「なんじゃ?」
カレン(キャスト)「次は小学校低学年の遠足の団体様です」
魔王「何!? あの金も持たず、うるさく、ただうるさく、ひたすらうるさい子供の団体だと!?」
カレン(キャスト)「はい それでは引き続きよろしくお願いしまーす❤」
魔王「あ、待たんか!」

〇壁
引率の先生「はーい みんなこっちよー」
子供A「うおお スゲェ!」
子供B「ホンモノの魔王だぁ」
子供C「はしゃがないでください 恥ずかしいですよ」
子供A「魔王、火吹いて!」
子供B「目から光線出してよ〜」
子供C「『まおうのはどう』を発動してください」
魔王「吹かぬ!! 出さぬ!! 発動せぬ!!」
引率の先生「コラッ いきなりそんな事をお願いしてはダメでしょ!」
引率の先生「今日は、この『壁の魔王』さんが、特別にみんなの質問に答えてくださるそうでーす!」
魔王(何!? そんな事聞いておらんぞ)
引率の先生「それでは順番に質問してね」
子供A「はい!はい!はい!」
子供A「魔王は、手が使えないって聞いたけど、ご飯や歯磨きはどうやってんの?」
魔王「むっ それは・・・」
カレン(キャスト)「それは代わりに私がお答えしますねー❤」
カレン(キャスト)「お食事はいつもこうして──」
カレン(キャスト)「はい、アーン❤」
カレン(キャスト)「このような感じです」
引率の先生「まぁ、なんて羨まし── いえ、楽しそうな食事なのかしら!」
子供C「次は僕が──」
子供C「魔王の両手と下半身は、壁の向こうの異空間に封印されているそうですが、向こう側の空間はどうなっているのですか?」
魔王「正直、よく分からぬ」
魔王「敢えていえば『無』じゃ 熱くも寒くもない空間に、ただ腰から下をぶら下げているようなものか」
子供C「なるほど!! 虚空間に魔王の力の源の丹田と両手を封じる事で現世界での力の発現を抑えているのか! これは──」
子供B「えー!? ってことは魔王はフル●ンなのお?」
魔王「ふっ、愚問である」
魔王「魔王は穿かぬ!」
子供B「え、それじゃぁ まさかウ●コしても・・・!?」
魔王「ふっ」
魔王「魔王は拭かぬ!」
子供A「スゲェ!」
「魔王は穿かない♫ 魔王は拭かない♪」
引率の先生「コラ! 変な歌を歌わないの!」
引率の先生「まったく・・・困ったものね」
魔王(人間の小童というのは、なぜあれほどウ●コの話が好きなのであるか)
引率の先生「・・・あの、魔王さん」
魔王「なんじゃ」
引率の先生「私も、質問してもいいでしょうか?」
魔王「勝手にせい」
引率の先生「あの・・・」
引率の先生「二十八歳でツインテールはまだアリだと思います?」
魔王「いや知らんわ!」

〇黒

〇壁
赤ちゃん「うー」
お母さん「あらあら ごきげんナナメなの?」
お母さん「魔王さま この子に、『アレ』をよろしくお願いいたします」
魔王「ふむ・・・ゆくぞ しかと聞け」
魔王「なぐ子いねがああっ! わるい子いねがああっ!」
赤ちゃん「・・・」
赤ちゃん「きゃっきゃつ」
お母さん「魔除けのお言葉ありがとうございました こちら、チョコをどうぞ」
魔王「うむ 大儀である (モグモグ)」
お母さん「それでは失礼いたします」
魔王(・・・いろいろと騒がしい日であったが)
魔王(そろそろ閉園の時間であるか・・・)
魔王(む、客がおるのか?)
魔王「・・・」
魔王「・・・貴様、人間ではないな?」
???「おいたわしや、魔王様 このようなお姿となられて──」
魔王「貴様は── ダルモスではないか!?」
ダルモス「お久しゅうございます、魔王様」
魔王「今までどこにおった?」
ダルモス「はっ、 勇者に敗れて以来、魔王軍は散り散りとなり、私も各地に潜伏しておりました」
魔王「それは難儀であった して、ここに何しに来た?」
ダルモス「魔王様が勇者に御身を封印されたと聞き、我々魔王軍の残党は、密かにその解除方法を研究しておりました」
魔王「何!? では、貴様がここに来たということは──」
ダルモス「はい、 長らく時間がかかりましたが、ようやく完成いたしました」
ダルモス「かくなる上は、本日、当園を襲撃して魔王様の封印解除を行う企てを実行する所存でございます」
ダルモス「これまでの魔王様の辛苦を、存分にお晴らし頂きたく──」
魔王「よい」
ダルモス「はっ?」
魔王「お主達の忠節はわかった──」
魔王「だが、その企ては不要じゃ 少なくとも今はな──」
ダルモス「な、なにゆえですか!? 我らはこれ以上魔王様を衆目に晒すなど──」
魔王「訳は言わぬ とにかくその企てはしばし待て」
ダルモス「さ、されど我らの宿願は──」
「おや、まだお客様がいたのかい?」
魔王「ダルモス! 直ぐに立ち去れ!!」
ダルモス「魔王様 このダルモス、人間ごときに遅れはとりませぬ」
ダルモス「合図をすれば付近に潜む仲間も突入する手筈!」
魔王「たわけ!! たとえ『今の彼奴』であっても、お主らでは勝てん!」
ダルモス「わ、わかりました 仰せの通り、今は一度退きます」
園長「おや ここに誰か居たような気がしたが、 お前さん、知らないかい?」
魔王「・・・知らんな」
園長「そうかい 何か胸騒ぎがして、年甲斐もなくこんなモノ持ち出してきたが──」
園長「どうやら取り越し苦労だったかい」
魔王「園長・・・いや、勇者」
園長「『元』だよ」
魔王「小娘はどうした?」
園長「いやぁ、カレンちゃんは 『エステの予約があるから帰りまーす❤』って帰っちゃってさぁ」
園長「だから今日はオイラが世話させてもらうよ」
魔王(あの小娘! こやつに『アーン』させるつもりなのか!?)
「園内の皆様、ただいまの時間を以て勇者記念公園は閉園となります 本日はご来園ありがとうございました」
園長「お、終わったな 魔王、どうだ、たまには一杯やるか?」
魔王「あたりまえのように誘うな!?」
魔王「・・・だが、退屈しのぎにはよかろう」
園長「──ところで、例の件は考えてくれたかい?」
魔王「くどい! 我は魔王ぞ 人間の恩赦にすがるなぞせぬ」
園長「うーん 人間への受肉化儀式を受け入れて、無力化されたら封印を解くという破格の条件なんだけどなぁ」
園長「正直、五十年もそんなとこで人目にさらしとくのも忍びなく思えてきてねぇ」
魔王「はっ! だがよいのか? 我がいなければ、この見すぼらしい公園には客など来ぬぞ!」
園長「痛いとこ突くねぇ」
園長「勇者なんていっても、平和になったら潰しがきかねぇし。 記念公園の園長なんて役職もらって細々やってるけどさぁ」
園長「今やお前さんの方が有名だもんねぇ」
魔王「ふっ! そうであろう!」
魔王「・・・それゆえ、我はなおのことここから去るわけにはいかぬ──」
園長「え、それって」
園長「お前さん、まさかこの公園の存続のために──」
魔王「・・・我は、かつて数百年にわたり魔王として君臨してきた」
魔王「不敗を誇った我を、唯一討ち負かしたのが勇者、貴様だ」
園長「あの頃は若かったからねぇ」
魔王「敗れはしたものの、初めて全力を以て闘える相手がいた事を、我は内心、嬉しくもあった」
魔王「その我を倒した者が、無職となって野垂れ死ぬ様なぞ、見たくはないわ」
魔王「これは我なりの魔王の矜持である」
園長「なんてこったい・・・」
園長「オイラが封じた相手から情けをかけられるとはなあ」
魔王「たわけ! 油断するでないぞ 我が大人しくしているのは貴様が生きているうちじゃ」
魔王「貴様がいなくなった後は、必ずこの封を解き、再び魔王として君臨してくれよう!」
園長「おっかないねぇ これじゃ簡単にはくたばれそうにねぇや」
魔王「そうじゃ! この国の命運は貴様の寿命にかかっておるのだ!!」
魔王「・・・されば、せいぜいこのしょぼくれた、公園の園長として、長生きするがいい」
園長「・・・」
園長「お前さんとは、こんな枷のないところで、いつかじっくりサシで飲んでみたいもんだ」
魔王「気が向いたらな」
園長「──さてと、孫を迎えに行かなきゃなんねぇから、今日は帰るよ」
魔王「かつての勇者が見る影もないの」
園長「じゃあまたな 明日も頼むよ、人気者」
魔王「ふん、チョコの補充を忘れるでないぞ」
魔王「・・・」

〇黒

〇黒
魔王「・・・」
魔王「・・・」
魔王「・・・これは!?」
魔王「彼奴め! エアコンを切り忘れおったな」
  ここは、暗い
  ここは、寒い
  ここは──
魔王「ぬかったわ。こんなことなら、ダルモスを帰すのではなかった!!」
魔王「勇者ー!コラ!戻ってこぬかぁ!」

〇黒

〇壁
カレン(キャスト)「そんな事があったんですかー 大変でしたね❤」
魔王(微塵もそう思っておらんな)
カレン(キャスト)「でも魔王は風邪をひかないんですよね?」
魔王「・・・ひいた」
カレン(キャスト)「えっ?」
魔王「あー風邪引いた! 風邪引いたから今日の展示は中止じゃ 中止!中止!」
カレン(キャスト)「そんなー 困りますよ」
魔王「あー喉が痛いのう 鼻水もズビズビじゃぁ」
カレン(キャスト)「仕方ないですね ナイショで開園前にチョコを二つあげますから機嫌直してくださいよー」
魔王「・・・」
魔王「・・・」
魔王「治った」
カレン(キャスト)「よかったー それじゃ今日も頑張っていきましょう❤」
カレン(キャスト)「今日は小学校の団体様が4校入ってますので」
魔王「あ、待て!? 貴様、それを先に言わんかぁっ!」

〇黒
「ご来園の皆様、お待たせいたしました 勇者記念公園、ただいまより開園いたします」

コメント

  • 実際にあったら是非行ってチョコをあげたい衝動に駆られました。勇者との関係性が微笑ましいですが、勇者が寿命で死んだら…魔王の胸中は複雑ですね…。

  • 壁の向こう側はファンタジー……と、思いきや壁のこちら側もカオスな世界ですね!
    お腹が満たされた魔王様がカップルに優しくなった所にはとても共感出来ます😍
    そして28歳のツインテールは……たぶんまだイケると思う人がこの世界にも何処かできっと居ると信じる心は否定してはいけないな~と思います🤤

  • 最後の魔王と勇者の下りがとても良かったです。園という枠組みで無ければ長編も行けそうな組み合わせを見た気がしました。カレンちゃんの裏設定が地味に気になりますね。

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