ヒステリック・ヒストリー

ラム25

第2話 30年 邂逅(脚本)

ヒステリック・ヒストリー

ラム25

今すぐ読む

ヒステリック・ヒストリー
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇中東の街
鳥居「ここは・・・?」
緋翠「もしかして異世界に来ちゃったのかしら?」
鳥居「さあ・・・周りの人の布切れのような服装や石造りの家を見るにあまり文化が発達してなさそうだが」
  誰かに聞くべきかもしれないが、言語が通じないだろう。
  それに俺は人に話しかけるのが苦手──
緋翠「ねぇあなた、ここはどこ?」
  伝わるわけがない。
  そう思ったが・・・
村人「ここはエルサレム。 ローマの属州だよ」
緋翠「エルサレム・・・?」
鳥居「・・・そうか。ここは古代ローマだ」
  眼前の光景、ローマの属州というキーワードからそう納得するしかなかった。
緋翠「まさか、過去に飛んだと言うの?」
鳥居「信じがたいがな。 まったく、俺は過去になんか来たくもなかったのに」
  起伏のない平穏な毎日が理想だった。
緋翠「どうしてそんなに過去を嫌うの?」
鳥居「・・・過去は振り返りたくないんだ」
ローマ兵「むっ、お前たち見慣れない格好だな。 東の漢の者か?いや、服装が違うな」
ローマ兵「隷属民だな。 まあ我々ローマ市民に税を払うならどうでもいいがな」
鳥居(感じの悪い男だなぁ。 無視しよう)
  しかし緋翠は言い返さずにはいられないようだった。
緋翠「むぅ、なによ! その隷属民とやらのおかげで豊かな生活してるくせに!」
ローマ兵「何言ってるんだ? ローマの平和のために戦う我々に隷属民が尽くすのは当然だろ?」
  古代ローマでは度重なる領土拡大の結果、穀物が不足し、それが重い税として隷属民の負担となっている。
  しかし相手に敵意はないと判断し、俺は緋翠を引きずって退却した。
  こうして俺が歴史の知識を使う、緋翠が周りとコミュニケーションを取るという役割分担がいつの間にか生まれた。
  会話を代わってくれるのは助かる、俺が何より苦手なことだからだ。
緋翠「まったく、隷属民に申し訳ないと思わないのかしら」
鳥居「昔と今じゃ価値観も違う。仕方ないさ」
  その時、割るように女性の声が響いた。
女性「あああ、貴重な布を裂いてまで・・・! ありがとうございます・・・!」
  なんだ、と声の方向へ向くと一人の男が怪我をした子供のために服を裂いて巻いてやったらしかった。
ヨシュア「気にすんなって! 困ってるレディを放っておけないからな」
  その様子を見ていると、枯れ木を思わせる痩躯の男が転ぶ。
  その細い身体は栄養失調なのだろうか。
  先ほどの男は歩み寄り、パンを懐から取り出すと、それを分けてやった。
   細身の男はそれを貪る。
  何度も礼を言う細い男に、男は笑顔で気にするな、と言い去ろうとする。
  その時目が合った。
ヨシュア「ん?この辺じゃ見ねえ顔だな。 どっから来たんだ?」
緋翠「ねえ、なんであなたはそんなに人に優しく出来るの?」
  男は決意を秘めたまなざしで語る。
ヨシュア「オレはな、信じているんだ。 いつの時でもどこの国でも人は救われると」
緋翠「そう、前向きね、あなたは」
ヨシュア「オレの名はヨシュアだ。 俺は思うんだ。人は人だけでなく動物や草花、物のことまで思いやれる素晴らしい生命だ」
ヨシュア「なんて偉大なんだろうとな。 だからその思いやりを同じ宗教、同じ民族、とかでくくらねえで隣の人に当てはめればいいと思うんだ」
  古代ローマにもこんな思想家がいることに驚く。
  しかし彼の夢は2000年経っても叶っていない。
緋翠「そう、前向きね、ヨシュアさんは」
ヨシュア「呼び捨てでいい。 前向き、ね・・・よく言われるぜ! じゃーな!」
鳥居「ヨシュア、か・・・さて、どうする?」
???「お二方」
緋翠「ん?呼んだ?」
???「あの方はあまりにも優しいのです。 そう、お優しい・・・」
緋翠「・・・?」
???「あの方の優しさはあの方までも苦しめる。だから私は・・・」
緋翠「ちょっと待って、あなたは何者なの?」
ヨシュア「そうだ、お前達旅人だろ? 旅の話聞かせてくれよ!」
緋翠「え、えぇ・・・」
  気づくと先ほどの男は消えていた。

〇屋敷の牢屋
ヨシュア「で、お前らどっからきたんだ?」
緋翠「私たちは東の果てから旅してるのよ」
ヨシュア「へぇ、東かぁ! よし、パリサイ派の連中が俺の考え分かってくれたら東に行こう!」
ヨシュア「ほれ、飯食ってけ!」
緋翠「あ、ありが──」
  そう言って出されたのは粗末なパン一個だった。
  しかしヨシュアのお陰で飢えをしのげるのだ、ありがたく頂こうと思った。
ヨシュア「今そのパンを粗末だと思ったろ?」
  見透かされ、ハッとしてヨシュアの方を見ると泣いていた。
ヨシュア「オレもそう思う。 だがな、このパンにすらありつけない奴らがいっぱいいるんだ」
ヨシュア「あいつらはな、産まれた時から飯も満足に食えねえのに、これからも税を払うために我慢して働かなきゃいけないんだ」
  そんな大げさな、とは言えなかった。
  事実今日見た人々は現代日本ではまず見られない貧しい人々だったからだ。
ヨシュア「なんて不平等なんだろうな? 俺は金もなければ力も学識もない・・・ ただあいつらに寄り添ってあげる。それしか出来ないんだ」
緋翠「ヨシュア・・・」
  ヨシュアは目元を拭うと、お得意の笑みを浮かべて明るく振る舞う。
ヨシュア「わりいな、こんな話してよ。 なんなら俺特製スープも出すから堪能していってくれ」
緋翠「いや、いいわよ・・・」
  ヨシュアとの語らい・・・俺は聞いているだけだったが、この時間はとても充実していた。
ヨシュア「そう言うわけで神様は罰ばかり与えるってみんな思ってるがオレの考える神様はもっと優しいんだ」
緋翠「なるほどね、前向きな考えだわ」
ヨシュア「だろ! それに俺はさ、いつか全世界の人々が手を取り合えたらいいなと思う・・・ お前はどう思う?」
鳥居「えっ? 俺? あ、その、いつか叶うんじゃないかなあと・・・」
ヨシュア「そうかそうか。いつか叶うかもしれないんだな・・・」
  そしてヨシュアは眠ってしまった。
  幸せそうに眠る彼を見て、俺達も休むことに決めた。
緋翠「ヨシュア・・・立派な人ね」
鳥居「時の権力者がヨシュアならなぁ・・・まあとりあえずおやすみ」
  そして俺は深い眠りについた。

次のエピソード:第3話 30年 諍い

コメント

  • 鳥居も翡翠もローマに飛ばされたのに、凄く冷静!!特に鳥居が冷静で、凄い…となりました!!でもきっとこういう動じないタイプもいますよね!!私ならおそらく1日くらい「え!?ここどこ!?え!?あれなに!?え!?あの人誰!?え!!』って忙しなくなるタイプなので、凄く魅力的にうつりました!!✨🥺

    ヨシュア!!誰なんでしょう??気になりますね・・・

  • 謎ですがヨシュアめっちゃ良い人ですね!

成分キーワード

ページTOPへ