エピソード7 彼はそう言う。味は醤油(脚本)
〇渋谷駅前
「恵まれない子供たちに愛の募金をお願いしまーす!」
「・・・・・・」
ボランティア団員「最近」
ボランティア団員「来栖さん、来ませんね」
ボランティア団員「前はあんなに参加していたのに」
ボランティア団体代表「まぁ、ボランティアは強制じゃないからね」
ボランティア団体代表「別に無理してまで来る必要はないんだよ」
ボランティア団員「それはそうかもしれませんけど」
ボランティア団員「もしかしたら、気が変わってしまったんじゃないかなって」
ボランティア団員「もう、こういうことに興味がなくなってしまったんじゃないかなって思っちゃうんです」
ボランティア団体代表「まぁ、そういう人も少なくないからね」
ボランティア団体代表「でも、本人の気持ち次第だからそれは仕方がないことだよ」
ボランティア団員「それはそうなんでしょうけど」
ボランティア団員「やっぱり悲しいですよね」
ボランティア団員「来栖さんも、もう来ないんつもりなんですかね」
常世 零「・・・・・・」
〇木の上
来栖 誠司「ほら、降りておいで」
野良猫「・・・・・・」
来栖 誠司「・・・どうしたの? 降りれなくなったんじゃないの?」
来栖 誠司「じゃあ、降りておいで」
来栖 誠司「大丈夫。ちゃんと受け止めてあげるから」
野良猫「・・・・・・」
来栖 誠司「あ、あれ?」
???「おいで」
佐々波 命「大丈夫。怖くないよ」
猫は、迷いなく彼の胸に飛び込んでいく。
佐々波 命「よしよし、もう平気だね」
佐々波 命「ほら、おいき」
彼が離すと、猫はたちまち駆けて行った
来栖 誠司「すごいですね」
来栖 誠司「俺、なんでか全然ダメだったのに」
佐々波 命「動物は、人の気持ちを敏感に感じ取るから」
来栖 誠司「え?」
佐々波 命「君の不安な心が伝わったんじゃないかな」
来栖 誠司「不安・・・」
佐々波 命「悩みがあるんじゃない?」
〇学食
政孝「あれ?」
政孝「珍しいじゃん、最近めっきり見なかったのに」
来栖 誠司「ああ」
来栖 誠司「まぁ、いろいろとね」
政孝「ふーん。ま、そりゃあるよね」
正孝は当然のように正面に座り、ラーメンを食べ始める
来栖 誠司「こんな暑いのにラーメン?」
政孝「ああ。冷房の効いた中で食べるラーメンって最高だよな」
来栖 誠司「いやまぁ、贅沢な感じはするけどさ」
来栖 誠司「・・・はぁ」
来栖 誠司「・・・・・・」
来栖 誠司「・・・・・・」
政孝「何か悩み?」
来栖 誠司「え?」
政孝「箸、進んでないみたいだし」
来栖 誠司「うーん」
来栖 誠司「まぁ、ちょっと」
政孝「聞くぜ」
来栖 誠司「・・・・・・」
来栖 誠司「ありがとう」
政孝「で、どしたの?」
来栖 誠司「もしさ、今まで信じてきたことがあってさ」
来栖 誠司「もうそれしかないと思って、全力で信じ切っていたんだけど」
来栖 誠司「実は前提から間違っていたらどうする?」
来栖 誠司「ってか、聞いてた?」
政孝「聞いてた聞いてた」
政孝「でも抽象的過ぎて、全然わからん」
政孝「ラーメンで例えてくんない?」
来栖 誠司「ええ?」
来栖 誠司「うーん、そうだなぁ」
来栖 誠司「例えばさ、誰もが舌鼓を打つような至高のラーメンを作りたいとしてさ」
来栖 誠司「日夜、猛特訓を重ねてきたんだけど」
来栖 誠司「実は至高のラーメンを作るには、ラーメンを作ってたら駄目だった、みたいな?」
政孝「じゃあ、何を作ればいいんだ?」
来栖 誠司「え、えーと、パスタとか?」
政孝「なんでパスタ?」
来栖 誠司「同じ麺類のよしみで」
政孝「でも、それじゃあパスタ屋になっちゃわない?」
来栖 誠司「いや、そうかもしんないけどさ」
政孝「でも、それも必要な遠回りなのかもしれないよな」
来栖 誠司「え?」
政孝「だって、至高のラーメンをどうしても作りたいんだろ?」
政孝「ならなるしかないじゃん、パスタ屋」
来栖 誠司「でもさ、それが正解かもわからないんだよ?」
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