エピソード8 新人の信心(脚本)
〇公園の入り口
来栖 誠司「はい、どうぞ」
ホームレス「ああ、ありがとう」
ホームレス「・・・・・・」
来栖 誠司「えっと、まだ何か?」
ホームレス「実は一人、足を痛めて動けない奴がいるんだ」
ホームレス「そいつのために、もう一個欲しいんだが・・・」
来栖 誠司「なるほど」
来栖 誠司「そういうことでしたら・・・」
常世 零「ちょっと待ってください」
来栖 誠司「常世?」
常世 零「配給は、一人ひとつまでと決まっております」
常世 零「申し訳ないですけど、お渡しすることはできません」
来栖 誠司「いやいや、話聞いてたならわかるでしょ?」
来栖 誠司「動けない人のため何だって」
常世 零「それでも駄目だ」
常世 零「事情を知らない人から見れば、ルールを破っていると思われかねないし」
常世 零「一人ひとりに説明して回るわけにもいかない」
常世 零「第一、それを真似して虚偽の申告してくる奴も現れるかもしれないだろ」
来栖 誠司「この人が嘘ついてるって言うのか」
常世 零「そうは言ってないだろ」
常世 零「ただ、嘘をついて余分に貰う人が現れたら」
常世 零「平等じゃない。それだけだ」
来栖 誠司「本当に困ってる人に届かない方が、不平等だ」
常世 零「わかった。じゃあ、こうしよう」
常世 零「俺が持っていきます。案内してもらえますか?」
ホームレス「え! え!」
ホームレス「いや、そんなの悪いよ。忙しいみたいだしさ」
常世 零「いえ、こちらのことはお構いなく」
常世 零「なんならその人の状態を次第では、更なる支援もできるかもしれませんし」
常世 零「是非、会わせてください」
ホームレス「あ、あー。そうかい」
ホームレス「ただ、ちょっといきなりだとびっくりするだろうから」
ホームレス「話をつけて来るよ」
おじいさんは、逃げるように去って行った。
来栖 誠司「頭でっかち」
常世 零「賭けてもいいが、あの人帰ってこないぞ」
来栖 誠司「・・・感じ悪いな、お前」
常世 零「何とでも言え。ルールは守られるべきだ」
常世 零「じゃないと、悪知恵を働かせて得しようとする奴も出てくるだろ」
来栖 誠司「そうやって、人を疑ってかかって楽しいか?」
常世 零「楽しいとか、そういう問題じゃない」
ボランティア団体代表「まぁまぁまぁまぁ、落ち着いて」
ボランティア団体代表「来栖くんの気持ちもわかるけど、常世くんの言うことも正しい」
来栖 誠司「それって、俺が間違ってるってことですか?」
ボランティア団体代表「そうじゃないよ」
ボランティア団体代表「それに、僕らは何も正しいことをするために集まってるわけじゃないから」
ボランティア団体代表「そうでしょ?」
来栖 誠司「ほれ、見たことか!」
常世 零「相変わらず、テンション高いな」
ボランティア団員「でも、帰って来てよかったです」
ボランティア団員「来栖さんいないと静かで、却って落ち着かなかったです」
来栖 誠司「あ! ほんと!」
常世 零「一番、騒がしいからな」
来栖 誠司「どういう意味だ、てめぇ」
ボランティア団員「あはは。何にせよ、戻ってきてよかったです」
ボランティア団員「おーい、誰かー。これ運ぶの手伝ってくれー」
「はーい、ただいま!」
「あ・・・」
来栖 誠司「・・・・・・」
常世 零「・・・・・・」
来栖 誠司「俺が先だ!」
常世 零「待て!」
ボランティア団員「相変わらずですねー」
ボランティア団体代表「だね」
佐々波 命「あの、」
ボランティア団員「はい、何でしょう?」
佐々波 命「これは何をやってるんですか?」
ボランティア団員「ホームレスの方のための配給です」
佐々波 命「何のために?」
ボランティア団員「何のって・・・」
ボランティア団体代表「空腹や栄養失調で亡くなる方も少なくないから、」
ボランティア団体代表「そういった方をなくすための支援です」
ボランティア団体代表「もちろん、職を斡旋したりなど」
ボランティア団体代表「もっと直接的な支援なんかも行えたらいいんですけど」
ボランティア団体代表「現状、僕らにできることはこれが精一杯で」
佐々波 命「なるほど」
佐々波 命「それは大事な活動ですね」
佐々波 命「こういったことは頻繁に?」
ボランティア団体代表「はい。不定期ですが」
佐々波 命「もしよければ、僕も参加させてください」
「え!」
佐々波 命「まずかったですか?」
ボランティア団体代表「いえいえ、そんなことありません」
ボランティア団体代表「ただ、まずはお試しでやってみますか?」
佐々波 命「そうですね。それで納得できるなら」
ボランティア団員「じゃあ、私が教えます!」
ボランティア団体代表「お願いね」
〇公園の入り口
来栖 誠司「なぁ、ところでさ」
常世 零「なんだ?」
来栖 誠司「さっき代表が言ってた、俺たちは正しいことをするために集まったわけじゃないって」
来栖 誠司「どういう意味なんだ?」
常世 零「知らないよ。その時に聞けって」
来栖 誠司「いやだって、あの時はお前を言い負かせると思って」
常世 零「・・・呆れた奴だな」
佐々波 命「正しいことが常に人の為とは限らない」
佐々波 命「正論が常に人道的とは限らないようにね」
佐々波 命「そういうことなんじゃないかな」
来栖 誠司「あ、あんたは!」
常世 零「知り合いか?」
来栖 誠司「いや、知り合いっつーか、ちょっとこの前話したというか」
常世 零「歯切れ悪いな」
来栖 誠司「ともかく!」
来栖 誠司「なんで、あんたここに?」
佐々波 命「僕も、ボランティアに参加させてもらおうと思ってね」
常世 零「入るんですか?」
佐々波 命「そのつもりだよ。まずは体験からってことになってるけど」
来栖 誠司「まるで決定事項みたいだな」
佐々波 命「僕はもう心に決めたからね」
常世 零「何がそんな決め手になったんです?」
佐々波 命「命を繋ぐ大事な活動だからさ」
佐々波 命「それ以上に大切なことなんてこの世にはないよ」
常世 零「随分と強く言い切るんですね」
来栖 誠司「ところで、さっきのあれどういう意味ですか?」
佐々波 命「あれ?」
来栖 誠司「正しいことが常に人のためにならない、とか何とか」
佐々波 命「ああ。言葉通りだよ」
佐々波 命「例えば、法律」
佐々波 命「あれは時代を経て変わるものだ」
佐々波 命「知ってるかい? 江戸時代では子供も煙草を吸っていたんだよ」
「え!」
佐々波 命「でも今、子供が吸ってたら懲罰対象だ」
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