エリシアの戦地(脚本)
〇要塞の回廊
レオナルド「食料の確認を急げ!砦の備蓄は最低限しかないぞ!」
レオナルド「馬は他の部隊から借りてこい!陛下の許可は頂いている!」
エリシア「・・・準備の方はどうだ?」
レオナルド「お疲れ様です、団長殿」
レオナルド「馬や食料は何とかなりますが、兵の数が・・・」
エリシア「他の騎士団や衛兵を搔き集めても1万にも満たんか」
レオナルド「王都を空にする訳には参りませんので」
レオナルド「各領地から兵の派遣を募れば数では対抗できましょうが、開戦までに間に合うかどうか・・・」
エリシア「無茶なことはわかっている、それでもやらねばならん」
エリシア「現状で確認されている敵の数は?」
レオナルド「3万はあるかと」
エリシア「・・・解せんな」
レオナルド「はい、先の戦争で深手を負ったのはバルバス側のはず」
レオナルド「再侵攻のために3万もの兵を残していたなど信じられません」
エリシア「・・・ならば侵攻する為の兵ではないのかもしれんな」
レオナルド「まさか、国の護りを空にして攻め込んでくると?そんなバカな・・・」
エリシア「そうだな、本来ならばありえん話だ」
エリシア「万が一、我が国を落としても周辺国がその隙をつかぬはずがない」
レオナルド「その通りです」
エリシア「ただし、周辺国が同調していれば話は別だろうがな」
レオナルド「周辺国が同盟を組んで我が国を攻めに来ていると仰るのですか?」
エリシア「いや、そこまでではないだろう」
エリシア「せいぜい利害が一致しているから目をつむっている、そんなところか」
レオナルド「利害の一致とは・・・団長殿は何か思い当たる節が?」
エリシア「確か我がビルトニア以外、バルバスの隣接国は全て「魔護神」を信仰していたな」
レオナルド「は、はぁ、そのように記憶していますが・・・」
エリシア「・・・」
レオナルド「団長殿?」
エリシア「陛下に拝謁を賜ってくる、引き続き指揮を頼んだ」
レオナルド「は、はい・・・」
エリシア「アリィ・・・」
〇謁見の間
国王陛下「何と、まさか「まもりがみ」が我が国に・・・しかもアリエイルが・・・」
エリシア「陛下にまで秘匿としていたこと、申し開きのしようもございません」
エリシア「この罪はいかような処罰であっても・・・」
国王陛下「よい、大司教の指示であろう」
国王陛下「アレとは幼き頃より盟友と呼べる間柄、ヤツの考えならば信頼できる」
国王陛下「事実、ここまでは「まもりがみ」の存在を隠し通せていたのだからな」
国王陛下「しかし・・・」
エリシア「はい、すでに仮面の男からバルバスに伝えられているものかと」
国王陛下「今回の侵攻はアリエイルが狙いだと思うか?」
エリシア「あくまで可能性ですが・・・」
国王陛下「それ以外に考えようがない、か」
エリシア「・・・申し訳ございません、私の不手際で・・・」
国王陛下「仮面の男は隠密と諜報能力に特化しているのであろう、アリエイルを護り通せただけ御の字だ」
エリシア「いえ、まだ護り通せたとは言い切れません」
国王陛下「なぜだ?まだ他に潜んでいる者がいると?」
エリシア「霊安室にあるはずの仮面の男の遺体が消えていました」
国王陛下「まさか、生き返ったとでもいうのか・・・」
エリシア「それはまだ断定できませんが・・・」
国王陛下「ふ~む・・・となると、どうするべきか」
国王陛下「我が国としても「魔護神」を誕生させるわけにはいかん」
国王陛下「仮面の男が神出鬼没であったのなら、今後もエリシアがアリエイルの警護につくのが最適であろう」
国王陛下「だが3万の侵攻を1万未満の兵で止めるには、エリシアに前線で指揮を執ってもらわねばならん」
国王陛下「こればかりは、いかに朱凰の副長が優秀でも替えが利かんだろう」
国王陛下「なにしろ兵の士気に関わることだからな」
エリシア「仮面の男の狙いがアリエイルだったと判明した時点で父に連絡済みです」
エリシア「馬を飛ばせば明後日には王都に到着すると思われます」
エリシア「父ならば仮面の男にも対抗できましょう」
国王陛下「おお、英雄ラン・バベルか」
国王陛下「流石エリシア、迅速な対応だな」
エリシア「いえ、アリエイルのことは父に任されていたのに、また父の手を煩わせてしまい情けない限りです」
国王陛下「いや、それで良い」
国王陛下「何を優先すべきか、それがわかっているのかが最も重要だ」
国王陛下「それに、子に頼られて嫌な親など居らんよ」
エリシア「・・・恐縮です」
エリシア「父が到着するまで、アリエイルの護衛には我が騎士団の小隊長をつけます」
国王陛下「うむ、我が近衛兵からも数名配置させよう」
国王陛下「して、エリシア達の出陣は?」
エリシア「本日夕刻には・・・」
国王陛下「そうか・・・武運を祈る、生きて帰るのだぞ」
国王陛下「国のためにも、そして弟のためにもな」
エリシア「・・・はい、ありがとうございます・・・」
〇要塞の回廊
レオナルド「団長殿!出陣の準備が完了いたしました!」
エリシア「うむ、では行くぞ」
レオナルド「はっ!!」
エリシア(アリエイル・・・すぐ戻って来るからね)
〇城の客室
アリエイル「お姉様・・・」
ガロ「だいじょうぶっすよ、アリエイル様」
アリエイル「ガロさん」
ガロ「先の戦争で破壊された国境沿いの城塞は修復済みですし、3倍程度の兵力で突破される程甘くはないっす」
ガロ「なにより団長殿がいるんですから、負けるはずがないっすよ」
アリエイル「・・・はい、そうですね」
アリエイル(そう、お姉様が負けるはずがない)
アリエイル(なのになぜだろう・・・不安で仕方ない・・・)
アリエイル(まるで、もう二度とお姉様に会えないような・・・)
ガロ「・・・どうぞ」
衛兵「失礼します ガロ殿、参謀本部議長殿がお呼びです」
ガロ「自分っすか?」
衛兵「はっ!砦への援軍に関して、朱凰騎士団員のガロ殿に意見を訊きたいと」
ガロ「ん~・・・」
ガロ「わかった・・・ただ自分が離れる間、アリエイル様の護衛を倍にして欲しいと陛下に伝えて欲しいっす」
衛兵「はっ!承知しました!」
ガロ「そういうわけで、少し離れますが護衛は万全にしますので安心して待っててください」
アリエイル「は、はい・・・」
ガロ(援軍か・・・せめて5000人いれば団長殿なら・・・)
〇霧の立ち込める森
エリシア「だいぶ飛ばしたな、そろそろ到着してもいい頃だが・・・」
エリシア「!?」
レオナルド「団長殿!城塞から声が!」
エリシア「もう始まっているか・・・」
エリシア「副長、後続の歩兵部隊は任せる」
エリシア「疲労は度外視、脱落者のないギリギリでついて来い」
レオナルド「御意」
エリシア「残りの騎馬は全て私について来い!」
エリシア「戦いはすでに始まっている!祖国を護る為に死力を尽くせ!」
兵達「おぉおおおおお!!」
エリシア「行くぞ!」
〇アマゾンの森
…「・・・」
…「この場で流れる血など僅かなもの」
…「行こうか、光を闇へ変えるために・・・」
〇荒野の城壁
兵士D「エリシア様!よくぞお越し下さいました!」
エリシア「戦況は?」
兵士D「はっ、敵は重歩兵を先頭に、大盾で身を護りながら牛歩の如く我が領土へ近づいています」
兵士D「弓兵がけん制していますがあまり効果はありません」
エリシア「敵の攻城塔は?」
兵士D「現状確認できる物は2台、左右に分かれて後方から進行中であります」
エリシア「いきなり斬り合いにはならんか・・・しかし黙って傍観しているわけにもいかん」
エリシア「ガロ小隊、グレル小隊は城壁の上へ!残りは門の前で待機しておけ!」
「はっ!」
エリシア「強弓を用意していくれ、できるだけ飛距離のでる物が良い」
兵士D「ははっ!」
エリシア(侵略側が持久戦狙いか?まさか、な・・・)
〇城の客室
ガロ「本格的に始まったみたいっすよ」
アリエイル「ココからわかるのですか?」
ガロ「ええ、嫌なもんで戦場に長くいると聞こえちまうもんなんすよ」
ガロ「離れていても、戦場に響く怒声や慟哭ってやつが・・・」
アリエイル「慟哭・・・」
ガロ「まぁ、そう長くは続かないでしょうけどね」
アリエイル「そうですね、お姉様がいればきっとすぐに勝ってくれますよね」
ガロ「・・・」
アリエイル「・・・ガロさん?」
ラン「失礼する」
アリエイル「お父様!」
ラン「待たせたなアリエイル」
ラン「ガロ殿だったな、アリエイルの護衛ご苦労だった」
ラン「後は俺に任せて、エリシアを助けに行ってやってくれ」
ガロ「・・・」
ラン「ガロ殿?」
ガロ「やれやれ、タイミングの良いことだ・・・」
アリエイル「ガロさん、どうされたのですか?」
ガロ「団長殿を助ける・・・ですか・・・」
ガロ「それはできない相談っすね」
ラン「こ、これは!?」
アリエイル「ん!?い、息が・・・」
ガロ「申し訳ないっすけど、英雄殿と真正面からやり合うつもりは無いんで」
ガロ「もう少し到着が遅ければ、もっとスムーズにできたんですけどね」
ラン「き、貴様!!」
ガロ「やはり戦場を離れるとダメっすね」
ガロ「団長殿ならこの程度のトラップ、きっと気付いていたでしょうに」
ラン「お、おまえは・・・」
ガロ「ここまで「まもりがみ」を育ててくれて感謝する、英雄殿」
ガロ「後は我々に任せてもらおう」
ガロ「さて・・・」
ラン「ま、待て・・・」
ラン「二度もアリエイルを連れ去られたとあっては、俺はエリシアに顔向けできぬ・・・」
ラン「貴様などにアリエイルは・・・息子はやれん!」
ガロ「・・・そうか」
ガロ「ならば、死んでもらう意外に無いなぁ・・・」