28話「十五年前の真相」(脚本)
〇基地の広場(瓦礫あり)
騎士「死ねぇええええええええ!!!!」
村人「ヒッ!!きゃあああ!!?」
騎士「邪魔だ!!」
そこはかつての平和な村ではなかった。
騎士B「次だ!!いくぞ!!」
西軍と東軍の戦いはより長引き熾烈を極めた。
数多くかの村が戦争に巻き込まれ消滅し、略奪された。
運良く生き残った──否。
運悪く生き残ってしまったたった1人の少年はただ呆然とその地獄を見渡すことしかできない。
つい今朝まで笑って一緒に朝ごはんを食べた両親は目の前で少年を庇って死んだ。
初恋の憧れだった近所のお姉さんは飛んで来た矢に首を貫かれ呼吸が出来なくなり死ぬ直前まで苦しんで死んだ。
「お兄ちゃん!」
少年「・・・」
瓦礫の下敷きになり死体を確認することすらできなくなった妹の無邪気な笑い声が耳から離れない。
少年「俺は・・・」
皮肉にも放心状態の少年を動かしたのはどうしようもない悔しさ悲しみ恐怖だった。
何もかもを奪われた少年は戦争を憎みかの絶望に染まり切った村に誓った。
少年「──俺がこの戦争を終わらせてやる」
〇けもの道
少年「俺にはもうこの命しか無い。だからこの命を持って契約して欲しい」
アバドン・サルース「いいだろう。・・・貴様の寿命と感情を引き換えに力を与えてやる」
少年は唯一残った全てを犠牲に悪魔と契約を結んだ。
〇荒廃した街
騎士B「農民風情が邪魔をするな!!」
騎士B「なっ!!」
〇〇〇〇「・・・」
騎士B「なんだ貴様!!?」
村人「助かったよ!あんたの名は?」
〇〇〇〇「名前・・か・・・」
名前はとうに忘れていた。
たとえ覚えていたとしても名のる気はない。
両親が考えてくれた名をこんな復讐劇に使いたくない。
村人「記憶喪失か?まぁ後からでも思い出したら教えてくれ!」
村人「助けてくれてそうそう笑いが妻を探すのを手伝ってくれないか?この混乱の中はぐれてしまったんだ!!」
〇〇〇〇「了解した」
安全が確保され落ち着いた青年は辺りを見渡し唖然としながらも必死に妻を探した。
彼の心情は痛いほど良くわかるつもりだ。
手を抜くことなく共に彼の妻を探した結果見つけることはできたが・・・
村人「なんだよ・・・これ?」
彼女は瓦礫の下敷きになり下半身が潰れた状態で見つかった。彼は必死にその妻だった肉片に語りかけたが死人が答えるはずもない。
村人「妊婦だったんだ・・・」
〇〇〇〇「・・・」
村人「もうすぐ生まれるって・・・だから子供が生まれたら戦争がない平和な国に行こうって・・・」
村人「なんでこんな・・・神様どうして・・・」
村人「もういっそ俺も死ねば・・・」
〇〇〇〇「それは違う」
村人「あんたに何がわかるんだ!! それだけ強ければあんたは何も失わずに暮らせるんだろ!!」
村人「俺を助けたのもただの偽善で!!」
〇〇〇〇「俺も十年前全てを戦争に奪われた」
村人「ッ!?」
〇〇〇〇「目の前で全てが肉片へと変わっていくなか当時の俺は何もできずただ隠れてやり過ごすことしかできなかった」
〇〇〇〇「だから俺は全てを終わらすために力を手に入れた」
村人「・・・すまない俺は・・・」
〇〇〇〇「先ほどは名前を言えなくてすまなかった。 思えば名のるべき名を考えてはいなかったからな」
〇〇〇〇「今、俺はこう名のると決めた。 俺の名は──」
魔王「「魔王」この世を見放した神に代わり戦争を終わらせるものだ」
村人「・・・魔王」
魔王「だが、私1人では戦争を終わらせることは不可能だ。だから信用できる仲間をこれから集めていこうと思う」
魔王「私に着いて来てはくれないか?」
村人「ああ!!俺もあんたに協力したい!!」
同じ境遇の仲間を集め始め五年の月日がたち──
〇洋館の玄関ホール
不知火 白夜「偵察隊145名編成完結!!」
カリス・マカト「魔術教団930名編成完結!!」
千夜 七矢「抜刀騎士団4500名編成完結!!」
クロ「魔王軍総員5575名編成完結!!」
クロ「準備は整いましたよ。魔王様。 後はあんたの命令次第だ」
魔王「・・・」
魔王「これより進軍を開始する」
魔王「ただし我々の目的「終戦」を忘れることなく行動せよ」
クロ「了解。進軍を開始します」
こうして魔王は自らを世界共通の脅威とすることで世界を統一させた。
〇基地の広場(瓦礫あり)
千夜 七矢「徹底的に潰せ!!」
魔王軍は少数でありながらも数多の戦場で無敗だった。
戦争で全てを失ったことで死を恐れない最恐の戦士と化していたからだ。
ミカ「クッ!!今のタイミングで?!」
千夜 七矢「弱い!!貴様如きが我々の行方を阻むな!!」
西の国と東の国が同盟を結び協力してもなお魔王軍の勢いを止めることはできなかった。
〇洋館の玄関ホール
戦争中の西と東の国の同盟と言う計画の第一段階を達成した魔王は計画の第二段階に移った。
クロ「本当にいいんだな?」
魔王「・・・頼む」
魔王は全ての部下に東軍への降伏するように命令を出した。
捕虜を拷問し処刑する西軍と違い東軍は捕虜の扱いは丁寧だ。
たとえ憎い敵国の軍人であっても東軍なら人権がある。
部下達も新しい人生を送れるだろう。
それらに加えて魔王に脅されていたと言うでっちあげの嘘情報を流せば部下達への世間からの目もある程度は緩和できるはずだ。
クロ「了解」
魔王「世話になったな」
クロ「・・・・・・馬鹿野郎が」
「失礼します」
魔王「来たか。白夜」
不知火 白夜「わざわざ直接伝えたい事とは、極秘の命令ですか?」
魔王「そうだ。 そなたには東軍、西軍の合併編成された「魔王討伐騎士団」に入団し助言、サポートして欲しい」
不知火 白夜「・・・・・・それはつまり俺にあんたを裏切れって言っているのか?」
魔王「そのとおりだ。 戦後そなたは恥知らずの裏切り者と言われるだろう。それでもそなたにこの任務を全うしてもらいたい」
不知火 白夜「・・・・・・」
不知火 白夜「了解」
自身の弱点を知る部下を敵に回した。
これで後は東軍と西軍の合併部隊に敗北し殺されれば二つの国の間に英雄が生まれる。
そうすれば共通の敵ぐいなくなった戦後でも両国の間には絆が残り──
〇洋館の玄関ホール
──平和が訪れるだろう。
〇白
魔王「十五年前に起きた戦争の真相だ」
アレックス・ワトソン「・・・・・・」
魔王「魔王である私は計画通り「魔王討伐騎士団」の一人そなたの娘ミカによって倒され世界から戦争を無くせたと思っていた」
魔王「だが──」
アレックス・ワトソン「戦争は終わっても戦時中の憎しみがきえるわけでわない」
魔王「そうだ。魔王軍の大半は私の命令通り降伏したが、一部は命令を無視して戦い続けて戦死したか生き残ってテロリストになったか」
魔王「結局私はこの世界に平和をもたらすことなんでできなかった。 全て無駄だったんだ」
アレックス・ワトソン「・・・・・・」
魔王「異世界の人よ。そなたには謝罪しても許されないほどの迷惑をかけた」
魔王は深々と頭を下げた。
魔王「本当にすまなかった」
アレックス・ワトソン「あんたが謝ることじゃない。 あの子がこの世界に召喚されたのは魔王軍が結成されるより何年も前の話だ」
魔王「だが──私は!!」
アレックス・ワトソン「あんたはあの子に終戦と言う自由を与えた。それであの子は救われたんだ」
アレックス・ワトソン「それでいいじゃないか」
魔王「・・・」
アレックス・ワトソン「人類ほど無能な生き物はいない。 だが、同時に人類ほど有能な生き物もいない」
アレックス・ワトソン「あんたは今全て無駄だったと言ったな? それは間違いだ。人類は過去から学ぶ生き物だ」
アレックス・ワトソン「あんたは人類に戦争という名の失敗を学ばせた。 だからあんたのやったことは無駄じゃなかったと俺は思う」
魔王「そうか・・・無駄ではなかったのだな」
魔王「異世界の人よ」
少年「ありがとう──」
〇田舎の病院の病室
アレックス・ワトソン「・・・・・・」
アバドン・サルース「目覚めたか。アレックス」
アレックス・ワトソン「後俺は何日残されている?」
アバドン・サルース「持ってあと五時間程度だ」
アレックス・ワトソン「そうか・・・」
残り時間五時間。
せめて最後くらいは父親としてのけじめをつけよう。