愛猫ミャーに捧げる物語(脚本)
〇平屋の一戸建て
〇平屋の一戸建て
ご主人が亡くなったことはわかった。
だから通夜と葬儀の間、一切、なにも食べずに、ただ三日間ほど物置にこもっていたのだ。
そうしていたら、半透明のご主人があらわれたのだ。
ご主人「食べないと死んでしまうよ。いつか、かならずおまえを迎えにくるからね。だからね、しぶやえきで待っているんだよ」
ハチ公「し・ぶ・や・・・えき・・・」
ご主人はそう話してくれた。だから食べて、毎日、しぶやえきに向かった。
〇田舎駅の改札
あちこちにうつり住んだけど、どこにいてもしぶやえきに行こうとした。
その後、しぶやに戻れたのだ。それからは毎日、しぶやえきに向かった。
ご主人に会いたいからだ。
最初、しぶやえきでは邪魔者にされた。
怖い犬にからまれて、耳を噛みつかれて耳にケガをした。
それでもしぶやえきに向かった。だって、ご主人が迎えにくるといっていたから。
〇西洋風の駅前広場
おばあさん「おやおや、ハチ公ちゃんに、新聞社の人が取材にきてるよ」
それからまもなく、なぜだかわからないが、私は急にみんなからかわいがられるようになった。
〇西洋風の駅前広場
だけど、頭をなでてほしいのはご主人なのだ。
〇空
〇空
そして長い時が流れた。
〇ハチ公前
体が大地に還っていったあと、私にそっくりなものがつくられた。
私はそのなかに入った。
そして、ときおりそこから抜け出て、しぶやえきに向かった。
僧侶(霊能者)「二度ほど、おまえが動かされたことがあってな。そのたびに日本に不幸が襲ったのだよ」
私が戻ってきたら、私そっくりのものに、見知らぬ僧侶がそう話しかけていたのだ。
私はしぶやから離れるのは嫌だったが、ご主人のいたこの国を困らせるつもりはない。
その僧侶は、
僧侶(霊能者)「おまえは上野の西郷さんのツンという犬と対で、狛犬のような存在なのだよ」
と話していた。
ほんとうかどうかはわからないが、私はただこの場所にいて、ご主人を迎えたいだけなのだ。
〇幻想空間
そしてまた長い時が流れた。
〇駅前広場
私はまだなにかを待っていた。
いつのまにか、なにを待っているのかわからなくなっていた。
ときおり雀やほかの鳥たちは私の肩にとまり、しぶやのようすを話してくれる。
神宮前といわれるところには、二百数十体の石仏があるという。
とあるお寺の境内には、ネズミ塚があるという。
なんでも、東京に伝染病が流行して、ネズミが原因だとされて大量に殺された、その慰霊碑(いれいひ)だそうだ。
昔の人は、ネズミのことまで思いやれる心を持っていたようだ。
〇幻想空間
私はもう、なにを待っているのか、なぜここにいるのかさえわからなくなっていた。
〇ハチ公前
そんなある夜。スーツを着た人が、私のまえにあらわれたのだ。
私は思い出した。そうなのだ。私はご主人を出迎えるために、今日までここでご主人を待っていたのだ。
〇散らばる写真
これまでの日々のことが、一瞬にして蘇ってきた。
〇ハチ公前
私は吠えた。吠えた吠えた吠えた。久しぶりに歓喜の鳴き声をあげた。
ご主人は笑みを浮かべて、私の体を抱きしめて、私の頭をなでて語りかけた。
ご主人「ハチ、お疲れさま。遅くなって悪かったね。神さまから、おまえと暮らす許しをいただくのに時間がかかってしまってね」
ご主人「おまえにわかってもらえるかどうかはわからないが、あの世では人間とおまえたちはちがう世界に住んでいるのだよ」
ご主人「だから、あの世の入り口のまえで、神さまはおまえを人間にしてから、私たちのいる世界に入れてくださるんだよ」
ご主人「さあ、ハチ、さあ、一緒に行こう!」
〇空
私はご主人にじゃれつき、尻尾をなんどもふりながら、一緒に天に昇っていった。
〇雲の上
〇幻想2
渋谷の歴史に思いを馳せながら、あぁ、私も吠えて、吠えて、吠えてみたい。渋谷VS上野のイメージが頭の中を駆け巡っています。上質なテイストに感謝。
最後にちゃんと迎えがきてハッピーエンドでよかったです🥲
「ハチ公からしたら確かに撫でられたいのはご主人様からなんだろうなぁ」と、新たな視点を発見できたストーリーでした😌
ハチ公が待ち続けた年月の長さ、そしてちゃんと迎えに来てくれた“ご主人様”との再会に感動してしまいました。ペットも大切な家族ですもんね。
とても温かい気持ちになれました。