蓬莱事変(1)(脚本)
〇黒
『おかあさま・・・』
『どこに行ったの?おかあさま・・・』
「泣くな」
義孝「お前には父がついている」
義孝「何も案ずることはない」
義孝「この俺がお前を立派に育てあげてみせる」
義孝「だからもう・・・泣くな」
『お母様・・・』
『どこに行ったの?お母様・・・』
「どうした?」
実朝「まだ泣いているのかい?」
実朝「いいんだよ」
実朝「泣いていいんだ」
実朝「心の赴くままに」
実朝「その涙・・・たとえば詩にするといい」
実朝「絵に描くといい」
実朝「大丈夫」
実朝「お前と同じ涙を流している若者は数多いる」
実朝「さあ、世界を知るんだ」
実朝「そして籠を壊して自由になるんだ」
実朝「お前の母のように」
『お母様・・・』
『どこに行ったの?』
『どこにいるの?』
『会いたい・・・会いたい・・・』
「お母様・・・お母様・・・お母様!」
〇城の客室
桜子「・・・!」
未来子「どうしたの?」
未来子「悪い夢でも見た?」
桜子「・・・なんでもありません」
根室「・・・ううん」
桜子「起こしてしまいましたか?」
未来子「そんな繊細な人じゃないわ」
未来子「ね」
桜子「・・・」
未来子「ちょっとどいて、倫太郎」
根室「うう~ん」
桜子「え?」
未来子「不安なら慰めてさしあげましょうか?」
未来子「今度は二人だけで・・・」
桜子「不安なんて。別に・・・」
未来子「大丈夫」
未来子「何やったって、大丈夫」
未来子「私達は自由なんだから」
桜子「・・・え?」
桜子「ひっ・・・!」
桜子「ちょ、ちょっと外の空気を吸ってきます」
桜子「ははっ」
未来子「・・・」
未来子「つまんない女」
〇荒廃した市街地
桜子「・・・」
桜子「・・・」
ヒナ「よっ!」
ヒナ「はっ!」
ヒナ「おりゃ!」
ヒナ「うん?」
桜子「・・・こんな道端で練習ですか?」
ヒナ「ここならもし襲われても、大声出せば誰か気付くだろ」
ヒナ「生活の知恵だぜ」
桜子「足はもう大丈夫なんですか?」
ヒナ「ぼちぼちさ」
ヒナ「一座ももうオイラ一人だからな。早く復帰しねえとおまんまの食い上げだ」
桜子「御堂組の代わりに私が支援しましょう」
ヒナ「来栖川家が、だろ」
桜子「私が来栖川家そのものです」
桜子「革命の参加など一時。すぐに平和に歌って踊れる時代が来ます」
桜子「あなたのダンスを河原の乞食芸から貴族の芸能芸術に押し上げてみせます」
桜子「そのためには官憲を打倒せねばならない」
桜子「与えられた自由から、作り出す自由にならねばならない」
ヒナ「相変わらず姫の話は難しいねえ~」
桜子「簡単な話です。貴女も古い時代に虐げられし若き力として共に闘って下さい」
桜子「この蓬莱街で新時代に乗り遅れているのは貴女一人なんですよ」
ヒナ「新時代・・・ねえ。あまり実感ないな」
ヒナ「まあ、そういう時代が来たら呼んどくれ」
桜子「闘いもせずに恩恵だけ受ける」
ヒナ「・・・」
桜子「トラもデンキも、貧民窟の皆がそんな怠惰な人生から覚醒しました」
桜子「貴女だけが間違っている」
桜子「貴女も私と同じ。父の誤った教えに縛られた哀れな古き女なのです」
桜子「目覚めなさい!新しき時代の為に!」
ヒナ「・・・」
ヒナ「・・・寒くねえか?」
桜子「え?」
ヒナ「そんなだらしねえ寝間着のまま外歩くのが新しい時代だってなら。遠慮しとくよ」
桜子「・・・あ」
桜子「い、いえこれは、ちょっと考え事を・・・」
ヒナ「冗談だよ」
ヒナ「お休み。風邪ひくなよ、お姫様」
桜子「・・・」
桜子「・・・へ」
桜子「・・・へ」
桜子「へぶしっ!」
『わはははは!』
『世に名高い自由の女神さまも、一人の時はへぶしときたか~』
桜子「あ、あなた方は・・・!」
アラハタ「我らを差し置き新時代とは。時のながれの速さとは恐ろしいものだな」
サカイ「全くだ。危うく乗り遅れる所だったよ」
サカイ「新生美しきけもの達とやらの闘いにね」
桜子「・・・」
つづく