改心!水女(脚本)
〇橋の上
乙女咲狂子「さっさと水持ってこいよウスノロ!!!」
午後8時39分。吾妻橋。金のうんこオブジェと、634mのスカイツリー、ビールジョッキ型ビルが見える場所。
寒風吹きすさぶ真冬の吾妻橋。泥臭い隅田川。無機質なライト。真っ赤に染まった吾妻橋。
待機所で、何の動物かも分らぬ、とりあえず高級な動物の毛皮をまとった、美人、鎮座。スタッフの用意した椅子に鎮座。
尻にやさしい椅子に鎮座。
片手には、加熱式タバコ。もう片手にはスマホ。両手酷使。美人、不満げな表情。
不機嫌の権化、阿修羅のごとき不機嫌。不機嫌の国から、不機嫌を広めに来たかのような形相。吐く息さながら、阿修羅の毒霧。
この女、名を乙女咲狂子。
元は売れない役者。
しかし、身一つ、数多の枕営業。枕に次ぐ枕。エアウィーヴ社も想像だにしない強烈な寝心地。床上手。床の蛸女の異名を持つ女。
蛸壺、飲まれた男数知れず。破産、飲まれた男、軒並み破産。性欲とともに全財産を失う男を嘲笑ってのし上がった女。
乙女咲狂子。男を狂わす、魔性の女。
いつか日の目を見る太郎「はっ、はいな!!!ご用意してまいりました!!!!」
張りのある声。その音、A(ラ)の音。ありとあらゆる楽器を持ち寄っても、これほど気持ちの良い音は出せない。不可能。
それほどに美しく心地良いAの音。そしてこれもまた、宇宙の奇跡。顔に二つの太陽を持つ男。
まばゆいばかりのキラキラの目。音変わらず、Killer Killerの目。見る者の影を消し去るほどの輝き。
チワワですら崇めるほどの目。
どん底の中で熟成された輝き。自らの顔に宿す男。
その名は、いつか日の目を見る太郎。
乙女咲狂子「てめぇ、これヨーグリーナじゃねーかよ!!!!味ついてんだよバカタレ!!!!」
不覚。まさかの大失態。狂子に頼まれ水を買いに行ったいつか日の目を見る太郎。
しかし、痛恨のミス。水だと思って買った飲み物。まさかのヨーグリーナ。
役所の職員が色付きの飲み物を飲めば、役所に訪れた客から「ジュース飲んでんじゃねぇ!」と怒鳴られ、
色付きの飲み物、飲むこと出来ず。悩む役所の職員。その悩みを解消しようと、「見た目は水のようでも、
実際はヨーグルト風味」という画期的アイデアによって生み出された飲み物、ヨーグリーナ。
しかし、ここでは完全に裏目。まさかの善意に仕掛けられた罠、発動。
見まがう。誰もが一度は水と見まがう業深き飲み物、ヨーグリーナ。
その業に挟み込まれたいつか日の目を見る太郎。困惑。大困惑。
いつか日の目を見る太郎「へっ!!!???こ、これ、水と違うんですか!!!???」
乙女咲狂子「水も買ってこれねーのかよ!!!このバカタレは!!!!」
いつか日の目を見る太郎「で、で、でも、これ、天然水って書いてありますよ!!!!」
乙女咲狂子「ふざけてんじゃねーぞ!!!!ヨーグリーナって書いてあるじゃねーかバカ!!!」
反論にもならない反論。いつか日の目を見る太郎。後悔。自分の愚かさを後悔。
それもそのはず。水の化学記号も知らぬ男。HもOも知らぬ男。
いつか日の目を見る太郎「わ、わかりました!!!次、買ってきます!!!もう間違えません!!!!」
乙女咲狂子「撮影始まるまでに買ってこなかったら、てめぇ、辞めさせてやるからな!!!!」
ポク電公社入社後、初のミッション。スポンサーとの友好関係構築のため、仲良くしている女優の撮影接待。
広告会社、ポク電公社ならではの仕事。しかし、午後5時以降の仕事、残業。金にならない残業。
すなわち、この時間、この働き、この努力、完全なる無駄。
それでも、めげない。いつか日の目を見る太郎。
〇橋の上
いつか日の目を見る太郎「買ってきました!!!!水です!!!!」
乙女咲狂子「どれどれ、ゴクゴク、ぶほおおおおおおお!!!!!!!!」
噴出。水漏れの配管のごとく、狂子噴出。目玉が飛び出るほどの驚愕。
乙女咲狂子「モモテンじゃねーか!!!!バカヤロー!!!!!!」
またしてもミス。重なる罠。いつか日の目を見る太郎、驚愕。
どうしようもなく驚愕。驚天動地。この世に水はあるのか。
水道の蛇口をひねれば、どこからでも出てくる水。
しかし、いつか日の目を見る太郎。もはや錯乱。
この世のどこにも、水が存在しない気がする。
水とは何か。向こう見ずな水。雨でも降ってくれないかと願う。
嘆願、祈り、天への祈り。どうか、水よ。降って来てくれ。
いつか日の目を見る太郎、絶望。
いつか日の目を見る太郎「わたくしが、買ってきたのは、水じゃ、なかったんですか・・・」
乙女咲狂子「モモテンだバカヤロー!!!桃の天然水って言ってな!!!!桃が入ってんだよクソッタレ!!!!」
桃の天然水。その存在、いつか日の目を見る太郎、知らず。
貧乏集落、過疎の過疎で育った男。桃という漢字、読めず。
天然水、かろうじて理解できるも、桃の字、読めず。
字、分解。
木と兆。これは、木から滴った天然水。兆しとあるから、木から僅かにこぼれた水だと勘違い。
想像力。人並み以上、しかし、あらぬ方向へと暴走。いつか日の目を見る太郎、ホームラン級のミス。
ベーブ・ルースも驚きの、とんでもない三振。大振り、やってきた球、見逃し三振。
いつか日の目を見る太郎「木の兆し、、、さぞ美味い天然水だと思ったのに・・・」
乙女咲狂子「桃って読むんだよバカヤロー!!!!!小学生からやり直してこい!!!!」
乙女咲狂子の怒り、怒髪天を貫く。水、飲めず。地球上に溢れる水、一滴も飲めず。
人生。狂子の人生が水中心。水を軸に回ってきた。思い出される過去。水とは切っても切れぬ過去。
〇山中の滝
生まれた場所、山梨。天に選ばれし、名水の地。山梨。神が不死を願い生み出した名山、富士山の水で育った狂子。
すくすくと、富士の産む美しい水に満たされて、美しく育った狂子。父は母を捨てて消え、女手一つで育てられた狂子。
水。どこへ行っても水だけが狂子の支えだった。
狂子の母「肌に悪影響だから、水以外飲んだらだめよ!」
母の教え、愚直に守り、狂子、味付きの水を毛嫌い。酒も、上善如水しか飲まず。美しき水の酒しか飲まず。
化学記号、H2O、生涯忘れず。
美しき水より生まれ、美しき水により育ち、美しき水とともに育った女。
しかし、貧しさは狂子の人生を狂わせた。
中国の大富豪、突如訪れる。
言葉巧みに狂子の母を騙し、土地、買収。気づけば、美しき水が生まれる土地、奪われて追い出し。
まさかの仕打ち。これが人間の所業か。
中国の大富豪「デテイッチャイナ!、サッサト、イッチャイナ!!!!」
水、見ず知らずの男に奪われる。
狂子、幼心に抵抗するも、殴られる。
無力、どこまでも無力。力なく、流れる涙。美しき水で育った女から、零れ落ちる涙に、混じるは怒り、悲しみ、憤怒の情念。
乙女咲狂子(幼少期)「悔しい・・・悔しい・・・悔しい・・・」
〇森の中の小屋
母、病に倒れ、狂子、天涯孤独。
狂子の母「ごめんね、あなたを一人にして・・・」
乙女咲狂子(幼少期)「嫌だ!!!ママ!!!行かないで!!!!」
乙女咲狂子(幼少期)「うわぁあああああああああ!!!!!!!!!!!」
〇ネオン街
しかし、この身一つ。あるのは、美しき水によって育った体一つ。
乙女咲狂子(上京期)「見てろよ・・・」
武器、これ以外になく、これ以外に、頼るものなく、汚れた都会、東京に上京。
頼るあてもなく、パパ活で飢えをしのぎ、逃れ逃れてやってきた下北沢。
楽園の二文字、見えた劇場に迷い込み、そこで見た演劇に胸を打たれ、即刻、志願。
熱意買われ、入団。それでも、すぐには売れず、もどかしい毎日。
売れない役者同士、傷の舐めあい。
売れない役者2「あたしのやりたいこと、全然わかってくれないんです」
売れない役者1「そんなことないわ、事務所の社長に相談しなさいよ」
売れない役者2「見る目がないんですよ、客に。客はね、人の不幸が見たいから金を出すんです。苦しんでる姿を見たいんですよ」
売れない役者1「そうね、そうよね。わたしたちの努力ってなにも伝わらないのよね」
乙女咲狂子(上京期)((こいつら、きっしょ・・・))
売れない役者2「あたし、やりたいようにやりたいんです。この劇団じゃ無理。不可能。なんであんな馬鹿が売れて、わたしが売れないの・・・」
売れない役者1「だいじょうぶ、だいじょうぶよ。いつか日の目を見る日が来るわ・・・」
売れない役者2「来ない!!!!わたしの努力も、なにも、あいつらはわからない!!!わたしに、無駄な時間を過ごしてる暇なんてないの!!!」
乙女咲狂子(上京期)((だったら早く辞めろよ・・・))
我慢できず、鏡を見れば、体一つ。
乙女咲狂子(上京期)「これだ。わたしには、これしかないんだ・・・」
〇ラブホテルの部屋
演劇の合間、体を売る毎日。
パパ1「きょ、きょうは、八万でいいかな」
乙女咲狂子(上京期)「えー、15がいいなー」
パパ2「じゃ、じゃあ、僕は30出しちゃお」
乙女咲狂子(上京期)「あーん、本当に!?」
パパ1「ぐ、今月、増毛の予定が・・・し、しかたない、わたしは50だそう!」
乙女咲狂子(上京期)「やーん!パパありがとーう!パパたち、だいすきー」
次第に、コツを掴み、男を喜ばせる技、習得。
しかし、渇き、満たされず。
どれだけ水を飲んでも、その渇き、満たされず。
病に倒れた母の、瘦せ衰えた顔、忘れられず、自らを騙し、水を奪った中国人、許せず、
いつかいつかと、復讐の機会を待ち続け、トップ女優となって、必ずや仕返しをすると心に決めて、
芸に魂を売り、男に体を売り、得た金でのしあがった女。
乙女咲狂子。
〇橋の上
翻って貧乏集落、どん詰まりの人生から転がり続けてきた岩。
苔が生える暇も無し、ローリング・ストーン。
そんな男、いつか日の目を見る太郎から与えられ、なぜか、とんでもないミスで、飲んでしまった、
水でない、水のような飲み物。狂子、ヨーグルト成分と桃成分を摂取。
まがい物、体に侵入。吐き気、肌への悪影響、苛立ち、全てを憎む感情、爆発。
乙女咲狂子「もういい!!!!わたし、帰る!!!!!」
椅子から立ち上がる狂子。巨人の一歩。大いなる決意。革命の一歩。
しかし、黒い影、立ちふさがる。
「コレ、アノ、オンセンスイ、ドゾ・・・」
行き止まりの人生から、突き抜けてきた男。チリ毛のフィリピン人。
丸出田メオ。温泉水99。奇跡の、高級な、肌にこれ以上ないほど好影響の水、温泉水99。
なぜ、メオ、温泉水99を用意できたか。
偶然、偶然であった。
本当にたまたま、買った飲み物が、それであった。
銀色っぽいパッケージを見て、メオ、無意識に取っていた。
漢字読めない。味分からない。だが、銀色は高級なイメージ。
ただそれだけ。しかし、奇跡の一本。
狂子、温泉水99を見て、鎮座。
それまでの暴風雨、途端に消滅。
乙女咲狂子(キュンッ・・・)
心臓の奥底。ジャグラー台ですら出せぬキュンの音。GOGOのパープルサイン、点灯。
設定1からの6。確変。天国、これまでにない天国、突入。
狂子、思い直す。
馬鹿な男の二度のミス、抹消。温泉水99、一発逆転の奇跡の水。
目の前、チリ毛の外国人。実りの雨。水なき世界に水をもたらした神。
温泉水99の神。さながらポセイドン。温泉水99の海の支配者。絶対的、温泉水ポセイドン。
ポセイドンからの恵み、一口、飲む狂子。
乙女咲狂子「キュインキュインキュイーン!!!!!」
ジャグラー台、止まらず、出続けるGOGOのサイン。揃い続ける、7、7、7。
あふれ出るドーパミン。止まらない脳汁。震え続ける身体、高速で酸素を運ぶ赤血球。
止まらない、止まらない快楽。全身に水が駆け巡る。身体の60%が水であるにも関わらず、
100%水になったかのような心持ち。泉、温泉水の泉と化す狂子。
止まらず、一気に飲み干す狂子。
乙女咲狂子「ああ、ああん!!!!!ぷ、ぷはぁああん!!!!!!」
空になるペットボトル、満たされる体。温泉水で染まる体。
痺れ、止まらず、ヨーグリーナと桃の天然水に汚された体、痺れ止まらず、さながら、望まぬ行為後の救済。
心の傷、記憶を消すほどの快感。
満たされて狂子、椅子から立ち上がり、仁王立ち。
乙女咲狂子「監督!!!!早くして!!!!もう我慢できないわ!!!!」
〇橋の上
狂子の言葉に、スタッフ驚愕。監督、転倒。驚きのあまり椅子から転落。
脚本の確認、強制終了。画角の調整、強制終了。
原因、狂子。突然の脱衣。段取り無視の、脱衣。
俳優「え、あれ、え、ま、マジ・・・」
くしくも、濡れ場。
水補給後の、撮影シーン、濡れ場。
相手役の俳優、驚愕。
しかし、狂子の蛸壺、突然に俳優のリトル俳優を飲み込み、屹立。
乙女咲狂子「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃあああああ!!!!!!」
俳優「さ、さ、さ、サンディニスタァアアアアアアアアアア!!!!!!!」
監督「Oh,マーベラス・・・」
パンチドランカー、否、リックドランカー。弄ばれて、棒立ち。直立不動。硬化したコクーン。
しかし、リトル俳優、映像に映らない。なぜなら、ピンク映画に非ず。
全世界向けの、よくある映画。日本が舞台の、ありきたりな映画。
ゆえに、リトル俳優、立つ必要なし。しかし、立った。
俳優「ピッピッピー、山口県からきました・・・」
乙女咲狂子「へずりゅううううううっっつっつうつつっつつうつ!!!!!!」
監督「ピッ、ピカ、チウウウウ・・・」
立たなくてもよい棒、立った。
立ったら、やらねば。
俳優「やるなら、やらねば」
監督「撮るなら、撮らねば」
乙女咲狂子「ちゅうかないぱねまぁ~~~~~」
〇橋の上
乙女咲狂子「さいっこうだったわぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
乙女咲狂子。呵呵大笑。天地揺るがす、快感の雄たけび。
監督、茫然自失。普通の映画、崩壊。まさかのMUTEKIに映像提出。
その後、世間を揺るがす、とんでもない作品、FANZAから放出。
奇跡的映像、全人類待望のセクシー映像。画面からも、画面にも、溢れ出るパッション確定の映像。
スタッフ、気絶。俳優、精神病院に入院。前代未聞、狂い咲く美しき椿。しかし、その感動を理解できない男、二人。
いつか日の目を見る太郎「な、なんか、凄い現場だったみたいだね、メオくん・・・」
丸出田メオ「ミズニ、ナガシマショ・・・」
その後、乙女咲狂子、水販売会社を起業。
商品名【財産】。宗教的清涼飲料水【財産】これがバカウレ。死ぬほど売れる。
日本沈没の勢い。信者、殺到。温泉水99を凌駕し、水業界のトップに君臨。
乙女咲狂子、底知れぬバイタリティ。
〇オフィスのフロア
その恩恵を受け、ポク電公社、破格の利益を享受。
万歳田山椒、訳も分からず興奮。
万歳田山椒「おおおお、今月の売り上げは凄まじいな!!!!」
しかし、その原因の発端であるメオ、評価されず、社員の功績、評価せぬ会社、ポク電公社。
大成果を上げるも、日の目を見ない二人。
どうすれば、評価を得ることができるのか。
だが、このときの二人は知らない。
乙女咲狂子への、たった一本の温泉水99が、二人に、日の目を見るきっかけをもたらすことを。
狂子さんも大変な生い立ちだったんですね。
でもだからこそ、水にはこだわりがあって、この時飲んだ水はすごかったんでしょうね。
でも、たしかに無色透明なジュース多いですよね。笑
天然水と書いていても中身に味がついている飲料水は沢山有ります。今回は太郎の活躍が見れませんでした。太郎もたまには失敗をするんですね。
勝手にナレーション読みをしている自分がいます。先が早く読みたいから、早口!で読み進めてしまう。桃という感じをへんとつくりに分解したところ、さすが太郎さん! 彼女の出現でどうかチャンスが来ますように。