読切(脚本)
〇SHIBUYA109
12月 渋谷
みさき「ねぇ、ちひろ。 あんた最近つき合い悪くない?」
SHIBUYA109での買い物が終わって、友達のみさきが言った。
ちひろ「えっ? どーしたいきなり!」
みさき「いきなりじゃないよ・・・ 最近コスメ見に行くのも、カラオケも断るし」
みさき「どーせ、今買った服もデートで着るんでしょ?」
ちひろ「そ、それは・・・」
実は、最近気になる男の子がいる。
みさきには、まだ話せずにいた。
みさき「・・・否定しないんだね。 久しぶりに誘ってくれて、ちょっと 嬉しかったのに!」
みさき「ちひろのバーカ!! ずっと男と遊んでなよ!」
ちひろ「ちょっと、そんな言い方って・・・」
言いかけたとき、走る彼女の背中はすでに
遠ざかってしまっていた。
〇ハチ公前
次の日
ちひろ(男の人には会うけど、デートじゃないんだよなぁ)
ちひろ(あっ、いた! あの人だ)
ちひろ「こ、こんにちは」
???「あっ、こんにちは! この前話しかけてくれた子だ」
???「今日はどうしたの?」
ちひろ(『お兄さんが気になって会いに来ました』、 なーんて言えないよね・・・)
ちひろ「えーと。暇なんで、買い物に」
ちひろ「お兄さんこそ、待ち合わせですか? この間もずっと待ってたから」
先日、渋谷で姉と買い物をしたとき、朝と夜の二度ハチ公前でこの人を見たのだ。
ずっと誰かを待っているようだった。
その横顔が気になって、つい声をかけてしまった。
???「うん、今日も待ち合わせ。 ・・・といっても、来るかわかんないけど」
ちひろ「わかんないって・・・ 連絡先とか知らないんですか?」
???「知らないんだよね! 信じて待ってる。 必ずここを通るはずだから」
ちひろ(不思議な人、だなぁ。 何か事情でもあるのかな?)
ちひろ「あの・・・どんな人なんですか? そんな、ずっと待っていられる人って」
ちひろ「あっ、すみません。 前に見たときから、気になってて!」
???「大丈夫だよ」
???「そうだね。『とても大切な人』かなぁ」
ちひろ(なんか、フラれた気がするぞ。 告白してないけど!)
そのとき、雫がひやりと頬を濡らした。
〇ハチ公前
ちひろ「わっ、天気雨だ! 冷たいっ」
???「本当だね・・・けっこう強いや」
ちひろ(ええい、勇気を出せ! ちひろっ!)
ちひろ「あのっ、そこにカフェあるんで! 雨宿りに行きましょうっ」
???「えっ、あ・・・ちょっと!」
〇テーブル席
近くのカフェ
???「わぁ・・・俺、初めて来た。 ホットコーヒーにしようかな」
ちひろ「そ、そうなんですか? ・・・私はホットティーで」
つい勢いで誘ってしまった・・・
どうしよう、と思っているうちにドリンクが来た。
???「美味しそう! いただきまーす!」
彼はガッ、と勢いよく──
マグカップに顔をつっ込んだ
ちひろ「へっ? ちょっ!? 手は・・・?」
???「あっ、ごめんね! 忘れてた」
ちひろ(わ、忘れてた・・・? そんなことある!?)
???「あはは。しかも、コーヒーって苦いんだね 初めて飲んだよ」
ちひろ「えっ、初めてなんですか!?」
???「うん。先生が飲んでるのを見て、ずっと飲んでみたくて」
ちひろ「先生?」
???「うん、いつも渋谷の駅前で俺が待ってる人。 大学の教授なんだ」
???「すごく優しい人なんだよ! 会うたびに頭をなでて、褒めてくれるんだ」
ちひろ「そうなんですね・・・」
???「俺、そろそろ行かなきゃ」
???「楽しかった! ありがとう」
ちひろ「はい。また、駅前で!」
〇学園内のベンチ
次の日
ちひろ「・・・ってことがあったんだよ!」
みさき「それってさぁ」
みさき「犬っつーか・・・ハチっぽくね? ちゃんと足生えてた??」
ちひろ「みさきもそう思う?」
ちひろ「私もちょっとそう思った」
みさき「確かめに行く?」
ちひろ「行ってみよっか・・・!」
〇ハチ公前
渋谷駅前
みさき「いないね」
ちひろ「本当だ。どこ行っちゃったんだろ」
今日は待ち合わせの人も少なく、ハチ公の像もさびしそうに見えた。
ちひろ「こんにちは、ハチ公。 ・・・ねぇ、いつもの人知らない?」
『よしよし』と胸のあたりを撫でてあげる。
ちひろ(ハチ、今頃ご主人と天国にいるんじゃないのかなぁ?)
???「こんにちは!」
ちひろ「わっ! びっくりした。 こんにちは」
???「声かけてくれてありがと! お友達?」
みさき「・・・そうです。 この子が、あなたのこと気になってるみたいだったから」
???「そっか。仲良しなんだね」
ちひろ「あの・・・」
勇気を出して、聞いてみる。
ちひろ「お兄さんって、『ハチ』?」
???「・・・どうして?」
ちひろ「ずっとここで先生を待ってるし」
ちひろ「さっきも『声をかけてくれてありがと』って」
???「・・・ふふ。どうだろうね?」
彼はごまかすみたいに、悪戯っぽく笑った。
???「・・・俺、昔からずーっとこの渋谷駅前にいてね。思うんだ」
???「ここにいれば不思議と『自分にとって大切な人』に会えるような気がするって!」
???「だからここには人が集まるのかな? 『大切な人』に会うために」
ちひろ「お兄さん・・・」
???「君たちも、もう会ってるんじゃない? 『大切な人』」
???「ちゃんと、大事にしなよね!」
私たちは顔を見合わせた。
彼の体が、少しずつ透けていく。
景色にハチの像に、溶けていくみたいに。
???「ありがとう! また、たまにで良いから声かけてね」
〇ハチ公前
ちひろ「・・・消え、ちゃった」
みさき「『ハチ』の霊、だったのかなぁ?」
ちひろ「でも、人間だったよ!?」
みさき「たしかに。不思議だわ・・・」
ふと、ため息が漏れた。
ちひろ「振られちゃったよ、私」
みさき「浮気するからだ」
ちひろ「ちょっといいなって思ってたのにー」
みさき「私にしとけ」
ちひろ「ふふ、ありがと。 ・・・ごめんね、みさき」
みさき「ジュースおごって! ・・・遊びに行く?」
ちひろ「うん! 映画とかどう?」
みさき「行く! その前に109寄ろっ」
ちひろ「いいね! イルミネーションも見たい〜」
ちひろ「手、繋ごっか」
みさき「うんっ!」
〇映画館の入場口
〇SHIBUYA109
〇スペイン坂
〇イルミネーションのある通り
〇渋谷のスクランブル交差点
人の集う街、渋谷
もう大切な人には会えましたか?
結びつきの強さは、相対的ではなく、その時々で変わることは、浮気でもなく、大事にしたいなと、改めて思えることが幸せなんだなぁ。感謝。
ハチ公を擬人化するお話はいくつか拝見しましたが、
一緒にお出かけしたりカフェに入る物語はあまり見かけなかったので、「確かにコーヒーとかわからないのかも」と色々と想像できるストーリーでした✨
友情、とっても大切ですね😌
ハチ公がかっこいいお兄さんで驚きました! もし渋谷に行ったら話しかけてしまうかもしれません(笑)
ラストの爽やかな展開も好きです!