指先に魔法はいらない

星月 光

chapter01 絶海の孤島(脚本)

指先に魔法はいらない

星月 光

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〇水中
「すまない・・・ ・・・フィ──」

〇海
「うぅ・・・」
船乗り「だいじょうぶか?」
「ええ・・・」
船乗り「これで最後だぞ」
「ありがとう・・・」
船乗り「サントエレン島まであと少し 安静にしとくんだな」
「大概にしとけよ」
「ダイン家の長男とはいえ あの島に流される重犯罪者だぞ」
「王女様と密通したとかいう・・・」
ピオノノ・ダイン「違う、ボクは・・・!」
ピオノノ・ダイン「うっ」
ピオノノ・ダイン「・・・はぁ」
ピオノノ・ダイン「無実を証明してみせる」
ピオノノ・ダイン「絶対に!」

〇海辺
ピオノノ・ダイン「ありがとうございました」
船乗り「これからどうするんだ?」
ピオノノ・ダイン「・・・魔王を探します」
ピオノノ・ダイン「みなさん、道中お気を付けて」
船乗り「魔王って、まさか ・・・あの魔王?」

〇島の家
ピオノノ・ダイン(暑い・・・ なんでこんなにまぶしいんだ)
ピオノノ・ダイン(魔王はどこにいるんだろう)
ピオノノ・ダイン(まず情報を集めないと)
ピオノノ・ダイン(話しかけづらいな)
ピオノノ・ダイン(でも、そんなこと言ってられない)
ピオノノ・ダイン「あの・・・」
「なにか用ですか?」
ピオノノ・ダイン「──あっ」
ロメオ(ならず者)「お嬢ちゃん この島は初めてだろ?」
サフィ「そうですけど」
ブノワ(ならず者)「俺たちが案内してやるよ」
サフィ「お断りします」
サフィ「そこ、どいてもらえませんか?」
ロメオ(ならず者)「んだと、このガキ!」
サフィ「ひゃっ!」
ロメオ(ならず者)「いい子だから俺たちと遊ぼうぜ~」
サフィ「あなたたちなんかと遊びたくないです!」
サフィ「やめて、離して!」
ピオノノ・ダイン(止めないと!)
ピオノノ・ダイン(剣、没収されたんだった)
ピオノノ・ダイン(誰か・・・)
ピオノノ・ダイン(どうして誰も止めに入らないんだ!?)
ピオノノ・ダイン「・・・そうか」
ピオノノ・ダイン(巻き込まれたくないから 見て見ぬ振りしてるのか)

〇城の廊下
  あいつらと同じ・・・!

〇島の家
「・・・待てっ!」
ピオノノ・ダイン「彼女を離せ!」
ロメオ(ならず者)「なんだ、てめえは」
ピオノノ・ダイン「ボクが相手をする だから彼女に手を出すな!」
ブノワ(ならず者)「ふーん?」
ピオノノ・ダイン「ぅぐ・・・っ!」
ロメオ(ならず者)「じゃ、遊ぼうぜ」
ピオノノ・ダイン「がっ、あ・・・!」
サフィ「やっ、やめてください!」

〇島の家
ピオノノ・ダイン(ここで死ぬのか・・・? 濡れ衣を晴らせないまま・・・)
ピオノノ・ダイン(ならせめて・・・)
ピオノノ・ダイン「に・・・げろ」
サフィ「えっ?」
ピオノノ・ダイン「ボクのことはいい・・・逃げろ!」
サフィ「で・・・でも」
ピオノノ・ダイン「ぐっ・・・!」

〇白
  白い光・・・?
  人形も天国に行けるのかな・・・
「・・・魔王!?」
「逃げろ!」
「お願・・・ 助け・・・」
  ・・・・・・

〇貴族の応接間
クレメント・ダイン「ピオノノよ」
クレメント・ダイン「このたびのこと どう申し開きするつもりだ」
クレメント・ダイン「恐れ多くも王女殿下に横恋慕とは!」
ピオノノ・ダイン「そのような事実はありません!」
ピオノノ・ダイン「わたしは無実で──」
クレメント・ダイン「嫌疑をかけられたこと自体が問題だ!」
クレメント・ダイン「ダイン家の名に泥を塗りおって」
ピオノノ・ダイン「申し訳ありません、父上・・・」
クレメント・ダイン「木偶人形の分際でわたしを父と呼ぶな!」
クレメント・ダイン「500万フロルで欠陥品を掴まされるとは」
ジュリアン・ダイン「お待ちください、父上!」
ピオノノ・ダイン「ジュリアン・・・様」
ジュリアン・ダイン「確かに兄上は魔術を使えません」
ジュリアン・ダイン「ですがダイン家の長男として 剣術や勉学に励んでいらっしゃ・・・」
クレメント・ダイン「それがどうした」
クレメント・ダイン「王家からの信頼は失墜した」
クレメント・ダイン「このままではダイン家の地位が・・・」
ジュリアン・ダイン「父上!」
ピオノノ・ダイン「・・・汚名は必ず雪ぎます」
ピオノノ・ダイン「ダイン家の名誉を貶める真似はしません」
ジュリアン・ダイン「兄上、どうされるのですか?」

〇英国風の部屋
ピオノノ・ダイン「・・・魔王・・・」
ピオノノ・ダイン「・・・はっ!」
サフィ「目を覚ましたんですね!」
ピオノノ・ダイン「さっきの・・・」
「起きましたよー!」
ピオノノ・ダイン(奴らのアジト・・・ じゃなさそうだな)
ピオノノ・ダイン「・・・どこも痛くない?」
ピオノノ・ダイン「貴方は・・・」
アストリッド「身体に異常は?」
ピオノノ・ダイン「いえ、特には・・・?」
アストリッド「そう」
サフィ「この人が治してくれたんです!」
サフィ「指先がキラキラ光って 傷が一瞬で塞がって」
ピオノノ・ダイン「魔術・・・」
ピオノノ・ダイン「では、貴方が魔王!」
アストリッド「他の奴らはそう呼ぶね」
アストリッド「じゃ、帰ってくれない?」
ピオノノ・ダイン「待ってください!」
ピオノノ・ダイン「貴方はこの島で唯一の 魔術師だと聞きました」
ピオノノ・ダイン「ボクに魔術を教えてください!」
アストリッド「帰れ」
ピオノノ・ダイン「帰る場所なんてありません!」
ピオノノ・ダイン「魔術を覚えて冤罪を晴らさないと ・・・ボクは・・・」
サフィ「冤罪・・・?」
アストリッド「・・・なるほど おまえ、スペルロイドか」
アストリッド「罪状は痴情のもつれか性犯罪ってとこ?」
ピオノノ・ダイン「ボクは無罪です!」
アストリッド「女に誘惑された自分こそ被害者だって?」
ピオノノ・ダイン「違います!」
ピオノノ・ダイン「殿下と話したことなんてほとんどない なのにどうして・・・」
アストリッド「ああ、シーラ王女か ベルクラインの王子と結婚するんだっけ」
アストリッド「横恋慕でもしたの?」
ピオノノ・ダイン「違う・・・ボクは!」
サフィ「あのー」
サフィ「スペルロイドってなんですか?」
ピオノノ・ダイン「知らないのか?」
アストリッド「どこの田舎から来たのやら」
サフィ「えっと、わかんないです」
サフィ「あたし、自分の名前しか覚えてなくて」
サフィ「気づいたらここにいたんです」
アストリッド「魔術の行使に特化した人造人間だ」

〇魔法陣2
アストリッド「恋愛感情がある人間は魔術を使えない」
サフィ「どうしてですか?」
アストリッド「神々との誓約とやらのせいだ」
アストリッド「性欲を本能と謳う猿は 神々の奇跡を授けるに値しないってね」
アストリッド「考えてもみなよ」
アストリッド「さっきの連中が魔術を使えたら やっかいなことになるんじゃない?」

〇英国風の部屋
サフィ「えっと・・・?」
アストリッド「簡単に言えば 魔術を使うための人形ってこと」
ピオノノ・ダイン「そのとおりです」
ピオノノ・ダイン「人形のボクが恋をするなんてありえない」
ピオノノ・ダイン「けど・・・」
アストリッド「魔術を使えないせいで証明できない、と」
ピオノノ・ダイン「・・・ええ」
ピオノノ・ダイン「魔術を使えるようになれば ボクが無罪だと客観的に証明できる」
ピオノノ・ダイン「だから貴方の力を貸してください!」
アストリッド「断る」
アストリッド「助けを求めるなら相応の対価を払いなよ」
アストリッド「おまえがスペルロイドって証拠もないし」
ピオノノ・ダイン「ボクは・・・!」
サフィ「あの!」
サフィ「この人は無罪だと思います」
アストリッド「根拠は?」
サフィ「あたしを助けてくれましたから」
サフィ「自分がボロボロになっても 人を助けることができる」
サフィ「そんな人が悪い人なわけないです」
サフィ「──それに」
サフィ「自分が人間じゃないことを 証明しなくちゃいけないなんて」
サフィ「すごくつらいことだと思うんです」
アストリッド「・・・まあいいや」
アストリッド「で?」
アストリッド「魔術を覚えて帰って 無罪判決が下りても」
アストリッド「周りはおまえを色眼鏡で見続けるよ」
ピオノノ・ダイン「・・・わかっています」
アストリッド「じゃあ、なぜ?」
アストリッド「どこへなりと行けば自由になれるのに」
ピオノノ・ダイン「──でも!」
ピオノノ・ダイン「辱められたまま逃げるなんて 絶対にしたくない!」
ピオノノ・ダイン「ここで逃げ出したら ボクは自分を一生許せない」
ピオノノ・ダイン「家のためじゃない! ボクが胸を張って生きるために!」
ピオノノ・ダイン「魔王様! 力を貸してください!」
ピオノノ・ダイン「どうかお願いします!」
アストリッド「アストリッドだ」
ピオノノ・ダイン「えっ」
アストリッド「名前」
サフィ「あたし、サフィです!」
サフィ「あなたは?」
ピオノノ・ダイン「えっと・・・ピオ」
アストリッド「考えてやらないこともない」

〇小さい滝
アストリッド「滝の洞窟にある宝箱を持ってきたらね」

〇英国風の部屋
ピオノノ・ダイン「わかりました」
アストリッド「考えるとは言ったけど 教えるとは言ってないよ」
ピオノノ・ダイン「機会をいただけたこと、感謝します」
サフィ「あたしも行きます!」
ピオノノ・ダイン「気持ちはうれしいけど サフィはここで待っていてくれ」
ピオノノ・ダイン「自分の力でやらないときっと意味がない」
サフィ「・・・はい」
アストリッド「おまえがついて行ったところで せいぜい足を引っ張るだけ」
アストリッド「こいつのためになにかしたいなら メシでも作って待ってれば?」
サフィ「はいっ!」
ピオノノ・ダイン「では行ってきます」
サフィ「いってらっしゃい!」
サフィ「さ、アストリッド! おいしいご飯を作りましょう!」
アストリッド「はあ?」
サフィ「だって記憶がないから うまく作れるかわからないです」
アストリッド「・・・余計なこと言うんじゃなかったか」

〇岩穴の出口
ピオノノ・ダイン「これだな!」
ピオノノ・ダイン「な、なんだ!?」

〇L字キッチン
アストリッド「手際いいじゃん」
サフィ「記憶をなくす前は コックさんだったのかも!」
アストリッド「だったらいいね」
サフィ「アストリッドはスペルロイドですか?」
サフィ「それとも魔術を使える人間?」
アストリッド「さあね」
アストリッド「切り終わった?」
サフィ「あっ、はい・・・」

〇岩穴の出口
ピオノノ・ダイン「こんなのがいるなんて聞いてないぞ!?」
ピオノノ・ダイン「なにか武器は・・・あっ!」
ピオノノ・ダイン「くそっ、剣があれば!」
ピオノノ・ダイン「そんなこと考えてる場合じゃない!」
ピオノノ・ダイン「いくぞッ!」

〇L字キッチン
サフィ「おいしそうにできましたね!」
アストリッド「あとは火を止めて放置・・・」
アストリッド「あ」
アストリッド「悪いけど留守番よろしく」
アストリッド「あいつが戻ったら先に始めてろ」
サフィ「はーい!」

〇岩穴の出口
ピオノノ・ダイン「なんとか倒せたか・・・」
ピオノノ・ダイン「・・・一応、これごと持って行くか」

〇小さい滝

〇島の家
ブノワ(ならず者)「さっきはよくもやってくれたな」
ロメオ(ならず者)「ん?」
ブノワ(ならず者)「それをよこせば見逃してやってもいいぜ」
ピオノノ・ダイン「これだけは渡せない!」
ピオノノ・ダイン「奪うことばかり考えず 真面目に働いたらどうなんだ」
ロメオ(ならず者)「この島じゃ弱肉強食だ」
ピオノノ・ダイン「返せ!」
ブノワ(ならず者)「開かねえぞ?」
ピオノノ・ダイン「くっ!」
ブノワ(ならず者)「テメエ!」
ピオノノ・ダイン(しまった、蓋が!)

〇おしゃれな居間
サフィ「2人とも遅いなあ」
サフィ「ピオが頑張ってるんだから あたしも頑張らなくちゃ」
サフィ「そうだ! デザートも作っちゃお!」
サフィ「喜んでくれるといいなぁ」

〇島の家
ピオノノ・ダイン「安物の・・・壷?」
ブノワ(ならず者)「ふざけやがって!」
ロメオ(ならず者)「ぶっ殺し──」
アストリッド「殺す価値もないから見逃してやってたけど」
アストリッド「そろそろ、潮時かな」
「逃げろー!」
「アストリッド・・・さん・・・」
ピオノノ・ダイン「持ち帰りました・・・」
ピオノノ・ダイン「割られてしまった・・・けど 考え直してくれますか・・・」
アストリッド「おまえ、それどころじゃ・・・」
ピオノノ・ダイン「どうか・・・魔術を・・・」
アストリッド「・・・チッ」

〇おしゃれな居間
サフィ「あっ、おかえ──」
サフィ「──ピオ!?」
アストリッド「こいつを治す おまえも手伝え」
サフィ「はいっ!」
アストリッド(あの箱を開けられたのなら 魔力そのものはあるはず)
アストリッド(でも・・・なぜ魔術が使えない?)
アストリッド(こいつ、もしかして──)

次のエピソード:chapter02 青天の霹靂

コメント

  • とってもステキなお話に胸打たれました!
    魔法と恋愛がリンクしている設定、この先の展開にワクワクしてしまいます😳
    そして、ピオくんの一本気なところ、正体が気になるアストリッドさん、記憶に何か秘められていそうなサフィちゃん、みんな魅力いっぱいですね😊

  • 星月光さんこんにちは!
    こちらのお話とても面白いですね!
    人形が動くのもわくわくするし立ち絵も可愛いくて個性的ですね!恋をすると魔法が使えない世界という設定も面白いですね👍

  • 胸を張って生きるためというのが良いですね! ピオノノの心の強さが光る第一話でした。粗暴な口調と違って実は優しいアストリッドも良い師匠キャラ^^
    恋と魔法の設定が物語の鍵になりそうですが、まだまだ展開が予想できず…続きも楽しみにしています。
    アニメ調に描かれたTNCのキャラも可愛くて、不思議な世界観にぴったりでした!

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