ハチ公の位上げ

南実花

位上げ(脚本)

ハチ公の位上げ

南実花

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〇ハチ公前

〇ハチ公前
ハチ公「我はハチ公なり」
ハチ公「以前、この町の娘を助けた救世主なり」
ハチ公「その娘は最近結婚をして、この町を離れたようだ」
ハチ公「今はすることも無く、ただ呆然とした日を過ごすのみである」
ハチ公「そうでありたかった」
ハチ公「最近、不可思議な娘が現れた」
ハチ公「不可思議という言葉を人間に使うのは違う気がするが」
ハチ公「その言動は不可思議という言葉が」
ハチ公「1番しっくりくるのである」

〇ハチ公前
ハチ公「その娘は深夜 丑三つ時になるとやってくる」
ハチ公「そして必ず私に向かってお教を唱える」
謎のムスメ「仏説摩訶般若波羅蜜多心経」
ハチ公「さて、この娘を不可思議と言わず何という?」
ハチ公「ここ最近毎晩毎晩 丑三つ時」
ハチ公「必ずお教を読みに来る」
謎のムスメ「観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時、」
ハチ公「最初はここらで亡くなった者の供養のためかと思っていた」
ハチ公「また着物を着ていたため、昔を感じさせるものがあり」
ハチ公「懐かしさを感じていた」
ハチ公「だがしばらくすると、私は背中にヒヤリとするものを感じるようになった」
ハチ公「恐らく、この娘への恐怖だろう」
謎のムスメ「照見五藴皆空、度一切苦厄、舎利寺」
ハチ公「しかしこの娘のお教の読み姿は素晴らしかった」
ハチ公「力強い発声」
ハチ公「凛とした姿勢」
ハチ公「何か儚さを感じる顔つき」
ハチ公「その全てが、お教を読まれる身としては心地良かった」
ハチ公「ん?」
ハチ公「心地良かった!?」
ハチ公「私はいつの間にか そう思うようになってしまったのか!?」
ハチ公「確かに昨日あたりから、みぞおち ら辺がゾクゾクする感じはあった」
ハチ公「これは心地良さから来るものなのか?」
謎のムスメ「色不異空、空不異色、色即是空、空即是色」
ハチ公「依然として読み続けるこの娘」
ハチ公「一体何をしようとしているか」

〇ハチ公前
謎のムスメ「私は見ていた」
謎のムスメ「あの夜 このハチ公がとうとう動き出したのを」

〇和室
ミオナ「私はミオナ」
ミオナ「私は小さい頃からお坊さんに憧れていた」
ミオナ「その憧れが今も続き、このお寺で修行させてもらっている」
ミオナ「ここはそのお寺の離れにあたる場所」
ミオナ「ここに住まわしてもらっている」
ミオナ「そんな私がある日渋谷ハチ公前を通った時の話だ」
ミオナ「私は昔から少し霊感があるらしく、」
ミオナ「幽霊や物に入った魂などが見えた」
ミオナ「そんな私がハチ公を見た時」
ミオナ「大変驚いた」
ミオナ「なぜなら、そのハチ公には」
ミオナ「魂が宿っていたからである」
ミオナ「魂が入ったのでは無く」
ミオナ「宿ったのである」
ミオナ「ものに魂が宿るためには、」
ミオナ「相当な人の念が必要なはず」
ミオナ「その念は元の飼い主のものか、」
ミオナ「待ち合わせに使う人々のものか」
ミオナ「いずれにせよ、魂が宿っている」
ミオナ「私はどうにかしたいと思った」
ミオナ「どうにかして動かしたいと」
ミオナ「だって折角魂宿ったのに、動けないとかかわいそうじゃない」
ミオナ「そんなわけで私は毎日を読んで、ハチ公の魂をよりレベルの高いものにしようと考えた」

〇和室
  本当に始めたての頃は、丑三つ時に1人部屋でお経読んでいた
  それを3ヶ月続けた私は気になった
  これはほんとに意味があるのだろうか と
  不安に思った私は真夜中であったが、ハチ公に会いに行った

〇ハチ公前
ミオナ「そして、私は見た」
ハチ公「・・鬼!逃げ・・!」
ミオナ(話そうとしてる!?)
ハチ公「そやつは殺人鬼だから逃げろ!」
  私は努力が報われたような気がした
  安心した
  このまま続けよう
  というか
  目の前で読も

〇ハチ公前
ミオナ(そして今に至るわけです)
ハチ公「なるほどそういうことだったのか」
「??」
ミオナ「え?まさか私の心の声を読んだの? てか話せるようになったの? どうして?」
ハチ公「それは私が聞きたい」
ハチ公「急に頭の中に映像と語り手のようにお主の声が入ってきたのだ!」
ハチ公「一体どうなっておる」
ミオナ「・・・」
ミオナ「それはきっと魂としての位が上がったのですよ」
ハチ公「お主言ってたな 魂が入ったとか何とか」
ミオナ「そうです!」
ミオナ「私はあの夜の1件を見て思ったのです」
ミオナ「折角魂が入ったのに、動けないなんてもったいない」
ハチ公「・・・」
ミオナ「お経を読み続ければ、貴方様の魂の位が上がって」
ミオナ「いずれは動けるようになる!」
ミオナ「そうすれば、あなたが望むようにもっと色んな人を助けれるようになる」
ミオナ「私の目指しているのはそんな未来です」
ハチ公「・・・」
ハチ公「誰が目指していると言った?」
ミオナ「え?」
ハチ公「誰が人助けしたいと言った?」
ミオナ「それはあなたを見て・・・」
ミオナ「貴方様が人を助けれたと分かった瞬間、すごく嬉しそうだったから・・・」
ミオナ「もっと人助けをしたいのかと・・・」
ハチ公「うむ、お主の言う通り あの時は嬉しかった」
ハチ公「1人目を助けれなかっただけに、あの娘を助けれた時は本当に嬉しかった」
ハチ公「でも私はその時 動きたいとは思わなかった」
ミオナ「え・・・」
ハチ公「確かに昔は動きたいとか、ほかの町を見てみたいとか思っていたものだ」
ハチ公「でもな、長年この場所にいると考えが変わっていくものだ」
ハチ公「あぁ、ここでよかった そう思うようになった」
ミオナ「どうして?」
ハチ公「例えば、私がここからいなくなったらどうなる?」
ハチ公「待ち合わせの目印が無くなる」
ミオナ「それは・・・そうだけど」
ハチ公「例えば、私が動けるようになったらどうなる?」
ハチ公「お主が言った通り、もっと人助けできるようになる」
ハチ公「でも私はそれと同時にもっと悪人が増えるのではないかと思う」
ミオナ「なんで?減るんじゃなくて?」
ハチ公「正義に悪は付き物」
ハチ公「ハチ公が人助けをしてることが広まれば」
ハチ公「それに対抗しようとしてくるものが必ず現れる」
ハチ公「そうなればこの渋谷の町が今よりも悪い環境になる」
ハチ公「人々が安心して待ち合わせに使える場所ではなくなってしまう」
ハチ公「そんなことを 私は望んでいない」
ハチ公「それに私は動けないこの身体を気に入っている」
ハチ公「動けないからこそ、見えてくることがある」
ハチ公「楽しいことがある」
ハチ公「これが長年かけて分かったこと」
ハチ公「そしてここからは長年かけて感じた事だ」
ハチ公「それはな 愛されているという事だよ」
ハチ公「毎日挨拶してくる者」
ハチ公「たまに来ては勝手に愚痴を投げかけてくる者」
ハチ公「私の周りを綺麗に掃除してくれる者」
ハチ公「私はそこに愛を感じている」
ハチ公「よって以上の理由で私はこの体を好んでいる」
ハチ公「私はこれで満足なのだ」
ハチ公「動けなくてもいい」
ハチ公「ただじっと ここで人々の流れを見守れるだけで十分なのだ」
ミオナ「・・・」
ミオナ「駄目ですね 私ったら」
ミオナ「昔からこれだ と思ったらなりふり構わず突っ走る癖があるんですよ」
ミオナ「すいませんでした、反省します」
ハチ公「謝ることではない お主はただ人を助けたかっただけだろう?」
ハチ公「その気持ちは大切にするといい」
ミオナ「ありがとうございます」
  こうして娘はもうお経を読まないことを私に宣言して、帰って行った

〇ハチ公前
  そしてしばらくすると、
  魂の位が下がったのか、話せなくなってしまった
ハチ公「あんないい事を言っておいてなんだが」
ハチ公「話すハチ公くらいには なっても良かったな」
  〜Fin〜
  (寂しいぃぃ)

コメント

  • ハチ公だけではなく、実際はすべてのものに意識があって、それらの位が上がれば、すべてのものと意思疎通や会話ができるのかもしれませんね。そんな楽しい想像をかきたてられるような作品でした。

  • 楽しく読ませていただきました。
    魂の位って言うと難しそうですが、お経をやめたら話せなくなったと言うことで、やっぱり効果はあったみたいですね。
    最後のハチ公かわいいです!

  • 最後がよかったです、ハチ公かわいい!
    物には皆、気持ちがあるといいますが、果たして本当のハチ公はどうなんでしょうね、何かを思い考えながら佇んでいるのかもしれないですね。

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