いつか日の目を見る太郎 2

もりのてるは

悲しみの便所(脚本)

いつか日の目を見る太郎 2

もりのてるは

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〇学校のトイレ
丸木土佐渡「馬鹿は何をやらせても馬鹿だな!!!辞めちまえ!!!」
  午前6時45分。便所。鉄分豊富な血尿に染められた便器に、顔を押し付けられて、怒鳴られる朝。10階建ての3階。
  ポク電公社新入社員の日課。否、もはや強制労働。抗えぬ雑務。給料に1秒も加算されない無駄労働。
  労基、無視。サブロク協定、無視。人間の尊厳、無視。
丸出田メオ「ジゴクへキタダ、オラ、ジゴクヘキタダ・・・」
  全身を震わせながら、ラバーカップを持つ男。丸出田メオ、フィリピンからの外国人労働者。
  本名マルメラ・レテ・ポイ。五人兄弟の長男。下四人、次男・三男・長女・次女の順。家族全員、無知。交尾以外に能無し。
  やることと言えば、物乞いと窃盗。
  極めて貧困。掃き溜めのような人生。逆転を狙い、長男、日本大使館へ逃げ込むも、漢字読めず
  ポク電公社運営の人材斡旋会社、日本大酷使会館に飛び込む。不運。なんたる不運。天さえも嘔吐する不運。
  ポク電公社、フィリピン支部統括部長バンバン・ザイにより、日本へ違法に入国。しかし、国、気づかず。
  必要最低限の衣類と、缶コーヒー三本分の金を渡され、名を変え、住処を与えられ、生きるメオ。
  フィリピンの極貧生活と比べて、遥かに待遇、好。貧すれば鈍する。だが、メオ、それに気づかず。
丸木土佐渡「さぼってんじゃねーぞ、フィリピン小僧!!!」
丸出田メオ「アグググ・・・」

〇歌舞伎町
  眉毛、逆八の字。眼、鬼の如く吊り上がり、髪、ライオンの如き男。罵声と虐待の祭典を繰り広げ、地獄に就職したら、
  間違いなく好成績の男。名を、丸木土佐渡。元は、土建会社の生まれ。丸木土建設の御曹司。血と汗と涙の上で札束を仰ぐ男。
  海外からの違法労働者を雇い、無理やり合法化。建設現場で強制労働させ、ピンハネした金で豪遊。銀座・歌舞伎町・六本木。
  違法な金で合法的に遊ぶ男。
  独身。女を毛嫌い。才ありて女許せず。

〇ホストクラブ
  佐渡、独自の哲学を持つ。女を心の底から憎んでいる。苦心惨憺して作り上げた男の城に、色気のみで鎮座できる女。
  その優位性に、佐渡、我慢できず。佐渡のリトル佐渡、屹立せず。ゆえに、銀座・歌舞伎町・六本木の倶楽部、即刻出禁。
  大枚を叩いて、女を席に呼べば、振るうは暴力、罵詈雑言。女を女と見ず、動物以下の畜生と見る男。
  フェミニストの天敵にして、男からも敬遠される暴力漢。稼いだ金で女を傷つける男。
丸木土佐渡「女は豚以下!!!女は虫以下!!!」
女1「きゃああああああああ!!!!!!」
女2「あばばばばばばば!!!!!!!」

〇拷問部屋
  翻って、佐渡の上司、万歳田山椒、おっぱいの奴隷。おっぱいに隷属。
  山椒のリトル山椒、ピリリと辛いどころかメロメロの甘々で棒立ち。常に屹立。
万歳田山椒「ぶひひ!!わたくしめは、豚以下にござりまする。ぶひひひひ」
山椒の妻(イメージ)「ハムにもならない、加工食品以下のブ汚がっ!!!残飯!!!残飯以下よっ!!!」

〇学校のトイレ
  ゆえに佐渡、許せず。山椒を心の底で蔑んでいる。いずれ山椒の座を奪おうと、佐渡、虎視眈々と狙っている。
  しかし、社内政治、佐渡に上手く働かず、佐渡、新入社員の世話係役。屈辱、おっぱいの奴隷から浴びせられる屈辱。
  歯茎から血が出るほどの悔しさ。怒り収まらず、矛先、新入社員へ。社員の入社2時間前、便所掃除の義務化。
  佐渡、自身のストレス発散のために便所掃除を新入社員に科す。

〇大企業のオフィスビル
作者(もりのてるは)「誰が働きたいと言うのか、こんな会社」

〇学校のトイレ
  しかし、世間、物好き多し。否、働かざるをえない者多し。逃げたくても逃げれぬもの多し。金、稼がざるをえない者多し。
  ここに、丸出田メオ在り。フィリピンで暮らす家族のため、仕送り、多し。薄給なれど、ほぼ仕送り。健気。どこまでも健気。
  踏みつぶされても立ち上がる雑草のごとく健気。ペンペン草も涙するほどのたくましさ。
  冷たい便器に顔をこすろうとも、丸出田メオ、めげず。しかし、歯は折れ、目は窪み、体瘦せ衰えて上手く動かず、
  ラバーカップ、ぷるぷるとか弱く揺れて頼りなく、どうしようもない、人生の、どん底の、涙の、水溜り。
  便所の水とともに、流れず。溜まり続ける哀しみの水溜まり。
丸木土佐渡「ほらほらほらほら!!!さっさと掃除しろ!!!母ちゃんの尻の穴だと思って丁寧に拭け!!!!」
丸木土佐渡「舐めれるほどきれいにするんだよバカヤロー!!!!」
  蹴り、罵声、品のない比喩。佐渡、興奮。
  過度な蹴り、メオへの腹蹴り。
  メオ、空腹もあって気絶寸前
「あ、あの!佐渡係長!ちょっと質問があるんですな!教えてほしいことがあるんですな。聞いてもよろしいでしょうか!」
  声、美しく張りがあって心地良く、音にしてA(ラ)の音。一聴して、人々の気を引き付けるほどの明るい音。
  佐渡、ふっと我に返って興奮が冷め、声のした方を向く。その男、キラキラの目だけが取り柄の男。
  道端に暮らす老人をして、「顔に二つの太陽を持つ男」と言われた男。
  日の当たらぬ、日が出ても光さえ差さぬポク電公社の3階にあって、まばゆいばかりに光を放つ男。
  我らが、快男児。
  いつか日の目を見る太郎。
丸木土佐渡「なんだお前は!やけに目をキラキラさせやがって!!!」
  佐渡、新入社員の名など覚える気なし。買った玩具に名はつけぬ男。
  ゆえに、いつか日の目を見る太郎の名知らず、しかし心の奥底、むずむずと痒く、佐渡、落ち着かず。
いつか日の目を見る太郎「はっ、はいな!下総の国からやって参りました。先週入社したばかりの新人でして、いつか日の目を見る太郎と言います!」
いつか日の目を見る太郎「自己紹介はほどほどに、わたくし、母が幼い頃に知らない男と出ていきまして、粉ミルクで育ちました」
いつか日の目を見る太郎「ですから、その、恥ずかしながら、母の味はミルキーの飴で知った男でございます」
いつか日の目を見る太郎「僅かばかりの小遣いで買ったミルキーの飴を舐めるたびに、ああ母の味とは、ママンの味とはこういうものかと、涙がこぼれました」
いつか日の目を見る太郎「さきほど、佐渡係長は母ちゃんの尻の穴だと思ってと言いました」
いつか日の目を見る太郎「佐渡係長は、母ちゃんの尻の穴を拭いた後、舐めたことがおありでしょうか」
  まっすぐ、どこまでもまっすぐ、雲の切れ間から差す光の如く、言葉、一点の薄暗き気配なく、佐渡の心を突き抜ける。
  まばゆいばかりの眼。不幸人生の、悲しみに溢れた人生の、日陰続きの人生の中で、輝きを失わなかった両目。
  その両目に宿る、太陽の心。本心、何の衒いも無い、本心の言葉を放つ、剥き出しの汚れなき心を持つ男、いつか日の目を見る太郎。
丸木土佐渡「そ、そ、そんなのあるわけねーじゃねぇーかバカヤロウ!!!!!」
  嘘。真っ赤な嘘。血よりも赤い嘘。
  佐渡、たじろぐ。あからさまに動揺する。
  暗い過去、思い出したくない過去、ぶり返す。

〇おしゃれなリビングダイニング
  佐渡、幼き頃。父母ともに優しかった。
  天使の羽に包まれたかのような人生だった。
  丸木土建設も、最初は日本人のみを雇い、健全な会社だった。
  しかし、母が狂った。
  マルチ商法の罠にかかり、丸木土建設の社員を勧誘。
  アムウェイ、プライム共済、スリー・アロー、チューチュー・トレイン。ありとあらゆるマルチ商法に入会。周囲の人間を勧誘。
佐渡の母親「これで、一生金に困らない人生を送れるのよ!!!ねぇ、あなた!!!わかって!!!!わかって頂戴よ!!!!」
  幼心に、佐渡、崩壊していく家庭を見る。
  良き父、母の洗脳を受けて狂った。
  違法に外国人労働者を雇ったのも、母の洗脳によるものだった。
  佐渡、悔しかった。
  佐渡、女が憎かった。
  感情のままに生き、何も考えず、勝手に組織に属し、生活を壊す母が憎かった。
丸木土佐渡(幼少期)「かあちゃん、、、かあちゃん、、、」
佐渡の母親「えいいちろうは、えいいちろうはバイアグラ野郎・・・」
佐渡の父親「一粒三千メートル!!!ひゃははははははははは!!!!!!」
  母、次第に水商売に手を出し始める。
  父を捨て、マルチ商法に洗脳され、ホストに狂って水商売。
  絵に描いたような転落人生。だるま落とし、最初の一振りでだるま転倒。ジェンガ、最初の一ブロックで崩壊。不運、なんたる不運。
  ある日、酔った母、佐渡が眠るベッドに侵入。
佐渡の母親「アムムゥウェイ。グローバルウェイウェイ。ウェイウェヒ、ウヒヒヒヒ」
  佐渡、目を覚ますと目の前には母の尻。
丸木土佐渡(幼少期)「んん、うむむむぅ。。」
佐渡の母親「ウェイウェイウェイウェイ!!!!!!!!」
  あとは、ご想像にお任せ。

〇学校のトイレ
丸木土佐渡「い、いいから、さっさと拭けバカヤロー!!!!」
  振りあげられた手、いつか日の目を見る太郎の頬を打とうと振り上げられた手。
  ぶるぶると震える手、佐渡、情けなき目。
いつか日の目を見る太郎「拭きます。拭きますから、教えてくださいな。母ちゃんの尻の穴というのは、どんな味がするんですか!」
  キラキラの目。どこまでもキラキラの目。生まれて一度も、母からの愛を受けたことのない男。いつか日の目を見る太郎。
  母の愛も、父の愛も知らず、知るはミルキーの飴の味。
  そんな男のまっすぐな目に、佐渡、振りあげた手を下ろせず。佐渡、ゆっくりと後退。がっくりと肩を下ろす。
丸木土佐渡「いい、わかった。お前、自分の席で眠ってろ」
いつか日の目を見る太郎「そうはイカの金玉」
  一度決めたことは、曲げぬ男。日陰生まれ日陰育ちの信念。それもそのはず、生まれながらに貧乏集落。
  たった一人で、四人の老人の人生を支えてきた男。マグロ漁船での生活を乗り越えた男。海水で育った男。
  海よりも広き心を持ち、漆黒の海を両目の太陽で照らす男。
  何年、何十年、何百年と日陰を歩もうとも、たった一回の光に全てをかけた男。
  自ら進んで、苦労のある人生に飛び込んだ男。
  血尿にまみれた便器で溢れた便所に力強く立つ、いつか日の目を見る太郎。
「ボ、ボク、カアチャンノ、シリノアナノアジ、ワカルヨ・・・」
  唐突。あまりにも唐突にか細き声。
  口から血を流しながらも、ふらふらと、いつか日の目を見る太郎の腕を掴み、今にも倒れそうな姿で、言葉をこぼす、チリ毛の男。
いつか日の目を見る太郎「メ、メオ君」
丸出田メオ「タロウクン、ボクハ、シッテル。ボクガ、アトデ、オシエテアゲル」
  大粒の涙を目から零し、メオ、嗚咽。

〇埋立地
  掃きだまりの人生。便所からの脱出を試みた人生。
  紙を買う金すらなく、両親を養う力すらなく、繁殖能力だけに背を押されて、貧しいながらも生きる五人兄弟。
  母は力なくベッドに横たわり、自分の意思と無関係に排泄。およそ、人間の恥じらいなど感じる隙間なく、
  ただただ、母の力無い様子に、うちひしがれる毎日。飢えて、意識も朦朧とし、空腹から母のもとへ近づくメオ。
  否、ポイ。そのときはマルメラ・レテ・ポイ。
  わけもわからず、瘦せ衰えた母の尻に顔を近づける。
メオの母「ごめんね、ごめんね、ポイ・・・」
丸出田メオ「カアチャン、カアチャン・・・」
  そのあとは、想像もしたくない世界。

〇学校のトイレ
丸木土佐渡「ええいっ!!!気持ちが悪い。やめだ!!!お前ら、休め!!!」
  佐渡、全身を襲う寒気を抑えられず、絶叫。ポク電公社3階から、階段を駆け下りる。
丸木土佐渡「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
  雄たけびをあげながら、路上へ飛び出した佐渡。
  タクシーを拾い、行方知れず。
  残された男二人。新入社員の二人。
  顔に二つの太陽を持つ男、いつか日の目を見る太郎。
  掃き溜めの人生から抜け出し、故郷の兄弟を支える男、丸出田メオ。
  この二人に、光差す日はやってくるのか。

コメント

  • 佐渡さんにも悲しい過去があったんですね。
    でも、人をいじめちゃいけませんよね!
    太郎さんはいつもぶれなくてかっこいいです。
    ミルキーって本当にママの味だったんだ!って思いました。笑

  • 太郎さんシリーズ待ってましたよ。なんていうか、毎回、オリジナリティーのある独特な文章で癖になります。太郎さん、また今日もひとり、いやふたり!?救いましたね。純粋さこそが最大の武器になる。読むとがんばって生きるのも悪くないなと励みになります。しかし絶妙にキワドいとこをいきますなぁ(笑)

  • それぞれのキャラクターの名前や生い立ちが面白いです。言葉の表現も良いのやら悪いのやら楽しいです。いつか日の目を見る太郎の将来を見てみたいです。

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